22『似て非なるもの』
魔女っぽい女性に連れられて俺が図書室を出ると、辺りは夕闇に包まれていた。
……とは言うものの、俺にもさっぱり訳が分からない。
俺が図書室に入ったのは午前中だったはず。
それから一時間も経っていないはずなのに、辺りは薄暗くなっていた。
とりあえず俺は傍にいる魔女っぽい人に恐る恐る尋ねてみる。
「あの……これは一体どういうことなんでしょうか? そして貴女は……?」
「……時間軸がおかしい、と言っておいたでしょう?」
魔女っぽい人は冷たい目線で俺を一瞥し、軽くため息をつきながら答えてくれた。
黒い仮面の奥から覗く金色の瞳は、じっと俺を見つめている。
そういや、入学式の時に暁先生がこの人のことを玲紀様。
もとい校長先生と呼んでいたような……ってことはこの人が学園で一番偉い人なのか?
やばい……俺はそんな人に叩かれて抱きしめられて柔らかくて温かくて……あれ?
何か違和感があるような……
それに『時間軸がおかしいと言っておいた』って……
俺はスミレ先輩に聞いたはずなんだが。
――と、ここで俺の脳裏に一つの考えが浮かび上がった。この人まさか……
「スミレ先輩……?」
「……鈍感」
気が付くと魔女っぽい人もとい校長先生はその姿を消し、
……俺の目の前にはスミレ先輩が立っていた。
黒い仮面を被り、ブロンドの髪を揺らし、俺より少し身長が低い。
目の前にいたのは間違いなくスミレ先輩なのだが、俺の記憶と合わない『物』が二つ
……紺色の猫耳と細長い尻尾が生えているのだ。
どこかで見たようなそれは揺れたり動いたりしていて、飾りでは無いことは確かである
それにしても意外と似合うな……っていうか問題はそこじゃない。
あの猫耳と尻尾には見覚えがある。ネコメイド先生がテンパった時に出すアレだ。
「あの、スミレ先輩。それってもしかして……」
「……校庭」
「え……」
スミレ先輩は細長い尻尾を揺らしながらスタスタと廊下を歩いていく。
ただでさえ短いスカートが尻尾のせいで持ち上げられて、思わず目をそらしたくなってしまうが、結局のところ気にしている訳にはいかないので、とりあえず俺はスミレ先輩の後を追う。
~
ノワールは流星学園の食堂にいた。
衛兵から逃げたは良いものの、空腹ではあるし、城に帰るわけにもいかない。
そんなわけで流星学園に戻ってきたノワールは、例の如く佐々木さんにカツ丼をおねだりし、生徒たちのざわめきを気にしようともせず、空腹を満たしていた。
「強い力……感じる」
食堂で三杯目のカツ丼をご馳走になっていたノワールは、小さく呟いた。
「どこかな……もしかしたら目標かも」
カツ丼を平らげ、器をまとめてノワールは席を立ち、佐々木さんの元へ食器を返却する。
「ごちそうさまでした」
「あぁお嬢ちゃん……美味かったかい?」
「……美味しかった。また来る」
「また……来るのか? 次来るときは入学手続きをしておいで」
「にゅうがく……?」
「まずはそこからか……いいかい? 入学って言うのは――」
~
「はぁ……ちょっとアンタ! どーいうつもり!?」
「……何がですか?」
校庭の中心にあたる場所に、ユイと暗闇の少女。アサギは居た。
二人はお互いに武器を構えて睨み合って……いない。
少なくともアサギは睨みつけているが、ユイはじっと薄暗い空を見上げている。
禍々しくとがった黒い物を身体に纏わせ、アサギは攻撃を仕掛けるが、
ユイはそれを軽々と回避し、反撃せずじっと様子を伺うばかり。
そんな攻防(?)が数時間続き、いい加減アサギは我慢の限界であった。
「アンタみたいなのが伝説の害魔だなんて……信じられない」
「信じてもらわなくて結構です」
「何よ、反撃も何もしてこないで避けてばっかりじゃない! 弱すぎて話にならないわ」
「当てることもできないくせに……弱いのはどっちですか」
「……っ!」
アサギは言い返すことが出来ず、半ば涙目になりながらもユイに攻撃を仕掛ける。
日が沈み、辺りに暗闇が生まれることでアサギの手駒は増え、その力を増す。
そんなアサギの攻撃は、時が経つにつれ手数も威力も増大されていくのだが……
……それでもユイは軽々と回避し、また空を見上げる。
「いい加減にしてよこのバカ! たまには当たりなさいよッ!」
「そろそろ言い分がめちゃくちゃですね」
「うるさいうるさいっ! アンタなんか大っ嫌いよ!!」
暗闇から生まれた黒い刃が音もなく襲いかかるが、そこにユイはおらず、
いつの間にかアサギの背後に移動したユイは再び空を見上げ、呟く。
「……私も、貴女のような者は好きじゃありません」
「……アンタ、どうしてさっきから空見てんのよ」
「別に理由なんかありません」
「……へぇ?」
勘付いたアサギはにやりと笑みを浮かべ、暗闇に指示を下す。
辺りを包む暗闇はずるずると大きな布のように広がっていき……
アサギとユイが居る空間を包み込んだ。
当然空間の明かりは完全に消え失せ、空を見上げることもできない。
「……!」
完全な暗闇に閉ざされたユイは小太刀を握る。
「……これで空見上げることはできないでしょ?」
どこからかアサギの声が聞こえる。しかし声はすれども姿は見えず。
辺りの様子は微かに見えるが……自然の雑音、匂いすらも感じない。
クスクスと笑う声だけが、ユイの耳に届いていた。




