01『始まり』 5/17改
「――早く起きてください。朝ですよ」
今日も、気持ちよく眠る俺の頬をぺちぺちと叩く奴がいる。
また今日も朝が来たのかと、俺が目を開くと……二つの紅い瞳が俺を覗き込んでいた。
白銀に煌めく髪。雪のように白い肌に良く映える血のような紅い瞳。狼のような耳と尻尾。
……そして幼い体。
俺の胸の上に跨っていたらしい白い毛玉は俺が目覚めたのを確認すると、俺の額にそっと唇を寄せ、光に包まれ純白の小太刀に姿を変えた。
俺は小太刀をベルトに差し込み、寝癖だらけの髪を整える。
ガチャリ。
すると突然ノックも無しに部屋の扉が開け放たれ、一人の少女がひょっこりと顔を覗かせた
「杉原先輩! 朝ですよーッ」
「……うるせぇ」
「先輩、先輩、聞いてくださいよ! メリーさんが会話してくれるようになったんです!」
「いや、もう静かにしろって。毎朝起こしに来なくていいから」
最近、ようやく俺にも後輩が出来た。
古びた携帯を持ってはしゃぎ回る元気な女の子だ。
教室に行けば、優しい先生と個性的な同級生。頼れる先輩も居る。
そして……俺には何より愛しい相棒が居る。
全ての始まりは……そう、去年の春。
あの時から既に、俺の運命は決まっていたのかもしれない。
♦♦♦♦
人と魔物が共存する世界。
そこには魔物を使い魔として使役し
人々の生活に役立てる『テイマー』という職業が存在する。
ある者は頼れる相棒として
ある者は日々の癒しとして
そしてある者は自らの欲を満たすために…
テイマーは強力な魔物と心を通わし、契約を結び、使役する。
契約を結んだ魔物は使い魔となり、契約者の生涯のパートナーとなるのだ。
とある街にはそんなテイマーを養成する目的で作られた専門学校がある。
学校では一人前のテイマーである先生方が優しく厳しく指導してくれるという。
……魔物はたくさんの種類が生息しており、一匹も同じ魔物はいないといわれている。
つまり、使い魔は自分『だけ』の相棒となるのだ。
もちろんカッコイイのもいれば、可愛いのやちょっとアレなのもいるわけで…
そんな自分好みの魔物を我が物にしようと
毎年たくさんの候補生達が『テイマー養成学校』へやってくるのだ。
俺の名は杉原圭一。今年入学する候補生の一人だ。
いま俺は広いグラウンドに整列する黒い群れの中に居る。
「あー……新入生諸君。私は教頭の萩原だ、よろしく頼む」
黒い群れの前でマイクを握る白衣の女性、萩原先生。
の隣には大きな狼が寝そべっている。
あれが先生の使い魔なのだろうか。だとしたら流石は先生としか言えない
「さて、それでは入学試験の説明に移る。
我が校では五教科のテストも面接も行っていない代わりに諸君にはテイマーとして、最低限必要な試験を受けてもらう。
見事試験に合格した者はそのまま入学とする」
新入生たちがざわめく。
五教科のテストがないってことは頭が悪くても大丈夫ということであり、
面接がないってことはあがり症な人も大丈夫ということである。
つまり全員に等しくチャンスが与えられるわけだ
「次に、試験の内容について説明する。
諸君にはこれから野性の魔物が生息する『降魔の森』に行ってもらう。
そして魔物を一匹、使い魔にして帰ってこい。試験はそれだけだ。
手に入れた使い魔は生活を共にするパートナーとなる。よく選んで決めるといい。
だが、魅力的な魔物は当然競争率が高い。覚悟しておけ」
なんだ、簡単な試験じゃないか
「次は注意事項についてだ。聞き逃したら命は無いと思え」
ちょっと待て。今さらっと怖い事言ったぞ。
命にかかわるような試験なのかコレ
「まず、魔物を刺激するような行動は慎め
刺激したらどうなるか…分かってるな?」
「……」
ごくりと、生唾を飲み込む音が聞こえた気がする
「それと、絶対に森の奥へ入ってはいけない。
強力な魔物を狙って森の奥に入る者が毎年いるんだが……
無事に帰れた者はほとんどいない。とにかく危険だ。
森の奥にはAクラスのテイマーでさえ手も足も出ない魔物が生息している。
森には一応数名の教師が配備されているが……森の奥で性的に喰われたという報告もある。
くれぐれも気を付けることだ」
逆に喰ってやんよとか聞こえた気もするが、とりあえずスルー。
ちなみにテイマーは6つの階級に分かれていて、
下から順にE、D、C、B、A、Sとなっている。
当然階級が上がるほど強力な魔物を使役できるようになり
俺を含む新入生たちはEクラス。先生方はほとんどがAクラスだ。
養成学校でノウハウを学び、使い魔と共に社会に貢献すればおのずと階級が上がっていくというシステムらしい。
そんな中でも、Sクラスまで上り詰めたテイマーは五人に満たないという。
Sクラステイマーともなれば、当然超強力な化け物を使い魔として使役し
国を動かすほどの影響力を持つ。
テイマーとして優れている者は、魔物と心を通わす力が極端に高いということであり
結果的に魔物たちからも好かれるようになる。
それすなわち魔物ハーレムを作ることも可能ということなのだ。
もちろん逆ハーレムも然り。
実際に複数の魔物と契約を結ぶ事に成功し、ハーレムを作った先輩達は今でも幸せに暮らしているという。
新入生の大半はそんな偉大なる先駆者たちに憧れて、養成学校に入学するのだ。
改めて考えてみると不純にもほどがある。
……俺も人のことを言えるような立場ではないが。