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俺と使い魔の学園生活っ!  作者: ぷにこ
第一章【学園生活】
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16『紅の文字』



俺は暁先生と先輩方と一緒に長い廊下を歩いていた。

隣を歩くユイは俺の手をぎゅっと握ったまま離そうとしない。


「あー……眠い」


「こら藤野君、式の最中に居眠りなんてしちゃいけませんよ」


「分かってますよセンセー……」


「……」


藤野先輩はさっき女の人だったような気がするが……まぁ細かいことは気にしないでおこう。

今は大きくあくびをしながら気だるそうに歩いている。青髪の男子生徒だ。


「……変な臭いがします」


ユイがぽつりと呟く。


「どうかしましたか? ユイさん」


「気安く名前を呼ばないでください。とりあえず変な臭いがするのです」


「変な臭いと言われましても……」


暁先生はぐるっとまわりを見渡す。特に変わったものがあるようには見えないが……

それにしてもユイは犬っぽいだけあって嗅覚が優れているのだろう。


ふと、俺が側にあった掲示板に目線を向けると、変な紙が貼ってあるのが見えた。


正方形の小さな紙に血のような赤い朱墨で眼のような模様が描かれている。

その瞳にあたる部分には、『視』の文字が書いてあった。


なんだろう、嫌な感じがする。まるで見られているような……


「暁先生、これ……」


「何かありましたか? 杉原君……」


暁先生は紙を見た瞬間、ハッと目を見開いた。


「離れてください杉原君!」


「え―――」



暁先生は俺を押しのけるように前に出ると、流れる様な所作で正拳突きを繰り出した。

思わず目を閉じる轟音と共に掲示板が壁ごと崩壊する。



掲示板に張ってあった紙が、ひらひらと宙を舞う。

コンクリートの粉塵が辺りに立ちこめ、暁先生はゆっくりと振り返った。


青かった瞳は真っ赤に染まり、尻尾が荒々しく逆立っている


「……怪我はありませんか? 皆さん……」


「だ、大丈夫、です。それよりどうしたんですかいきなり」


「片づけ大変そうだなー……眠気も吹っ飛んだわ」


「……」


暁先生は軽くため息をつき、乱れた髪を手櫛で整える。

赤く染まった瞳は徐々に青紫色に変わっていった。


「別になんでもありませんよ……さ、体育館へ急ぎましょう」


暁先生は踵を返し、廊下を歩き始める。


ユイはいつの間にか俺の腰回りを抱きしめ震えている。

犬耳はぺったりと寝て、尻尾は縮こまっている辺り……驚き怯えているのだろう。


なんだかんだで置いて行かれるわけにはいかないので、

俺はユイを抱き上げ暁先生の後を追う。






「消されちゃった……」


流星学園の屋上で、小さくつぶやく少女が一人。

翼を持つ朱眼の姫君、ノワールは空を眺めつつぼんやりと考える。


「(……ターゲットは、武器。今の人たちの中に武器は居なかった、かも。

どこにいるんだろ……『神威』?……だったかな)」


ノワールはどこからか筆を取り出し、真っ赤な舌でぺろりと舐めた。

すると、筆は紅色を帯びて怪しく輝き始める。


紅く光る筆を手に、ノワールは自前の紙に慣れた手つきでさらさらと文字を描く。


―――『剣』


書き上げると同時に紙はその形を失い、音もなく巨大なつるぎへと姿を変える。

紅色に淡く光る剣を握り、ノワールは立ち上がろうとするが……


「……重い。大きくし過ぎた、かも」


ノワールは剣を後ろに持ち直し、そのまま引きずって屋上を後にした。







めちゃくちゃ広い体育館。ざっくりいうとそんな感じ。

バスケットコートが4つ作れそうな広さの空間に、ユイと俺は立っていた。


辺りには沢山の生徒、大小様々の使い魔、そして教師が入り交え、あっという間に俺とユイは暁先生と先輩方からはぐれてしまった。どうやら学科ごとに並ぶ場所が決まっているらしいが、どこがどの学科なのかさっぱり分からない。


ユイは沢山の匂いに混乱し、くるくると目を回しぐったりとしている。

ぶっちゃけユイの嗅覚を頼りに暁先生を探そうとしたのだが、この様子じゃ無理だな。


辺りをよく見てみると俺と同じようにはぐれた人が何人かいる。


そんな雑踏の中、黒髪を赤いリボンで束ねオロオロしている女子が一人。

……桜だ。


桜はあの時の使い魔と一緒だ。心なしか大きくなっているような……


俺が声を掛けようとすると、急に手を掴まれてしまった。


「こら君! 獣人科はこっちだよ」


「え? いや俺は獣人科じゃ……」


「何言ってんの。ほらその子も疲れちゃってるでしょ! 早く休ませてあげないと」


「いやだから違いますって、俺は――」


―――ぼふっ


「……?」


振り切って去ろうとした俺の視界が、急に真っ暗になる。

……何だ? 不思議な匂いがする。


それになんだか、柔らかくて温かい

手を動かしてみると、むにゅむにゅとした幸せな感触が手のひらから伝わってくる。


何か良いなこの感触……





「…………いつまで揉んでいるつもり?」


「……え?」



不意に、頭上から声が聞こえた。


……艶やかで色っぽい、深みのある女性の声だ。



恐る恐る見上げてみると……

魔女帽子の下から覗く金色の瞳が、冷ややかに俺を見つめていた。


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