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俺と使い魔の学園生活っ!  作者: ぷにこ
第一章【学園生活】
17/114

14『朝の陽光は出会いと共に』

「―――ユイ! 早く起きろ」


「……」


ユイは紅い眼を開き、ぼんやりと俺を見つめる。

それからそっと白い手を伸ばし、俺の腰周りを縋り付くように抱きしめてきた。

密着してほんのり柔らかい感触が伝わってくるが、いちいち気にしてられん。


「おい……寝ぼけてるのか? 早く目を覚ましてくれよ」


「や……ぁ……」


俺はかるく引きはがそうとしてみるも、ユイは嫌々と首を横に振り、

より一層強く抱きしめてくる。


その様子はまるで、離れたくないと言っているようだった。


出来ることなら抱きしめ返してやりたい。

……けど、もうすぐ学科ごとに点呼取る時間だ。初日から遅刻は流石にまずい


それに教室の場所も知らないし、

場所によってはさらに時間がかかってしまうかもしれない。


学園見取り図は廊下の途中にあったような気もするが……

とにかくもたもたしている暇はないのだ。


……仕方ない。


「ほら、行くぞユイ」


俺は冷たいユイの体を軽く抱き上げてみる。うん、やっぱり軽い

みるみる俺の体温が奪われていくが、この際どうでもいい。


ユイは恥ずかしがる様子もなく、俺の首筋に手を回し大人しくしている。


きわどい部分に触れないよう気を付けつつ、俺は部屋の扉を開けた。


「(廊下、あったかいな……いや、部屋が寒かったのか)」


部屋の外に出ると、眼前には左右に広がる果てしない廊下。

右を見ても左を見ても突き当りが見えない。


……長すぎるだろオイ。



床にはきちんと絨毯が敷いてあり、窓からは柔らかな日差しが射している。

壁にも綺麗な装飾が成されていて、一体どこの名門かと叫びたくなってしまう。


廊下には指定の制服を着た沢山の男女が行き来していた。

皆個性的な使い魔を連れている……まぁ当然だが。


よく見ると、皆胸に綺麗なバッジを付けている。

校章のようだが、それぞれが違うデザインというのはどういうことなんだろうか



「おはよう、可愛い使い魔だね」


「え? あぁ、おはようございます」


急に先輩らしき女子生徒が挨拶してくれた。きれいな黒髪を青いリボンで束ねた美人だ。


女子生徒はユイを一撫でしてすぐ去ってしまったので一瞬の事ではあったが、その豊かな胸元には『山背 楓』と刻まれたネームプレートと、『D』の文字をあしらったバッジが付いているのが見えた。


……山背って、どこかで聞いたような……気のせいか?

それにしてもあの人……『使い魔を連れていなかった』 どういうことだ


相変わらず謎だらけだなこの学園は。



「今の人、嫌な臭いがしました……」


「……?」



ユイが俺の首筋を強く抱きしめる。ちょっと苦しい。

見てみると獣耳はぺったりと寝て、尻尾は縮こまっていた。


心なしかユイの周りに冷たい何かが渦巻いているような気がする……


俺はユイを軽くなだめつつ、長い廊下を歩く。

確かどこかに見取り図があったような気がするんだが……いかんせん見当たらない。


すると、廊下の先から萩原先生がスタスタとこちらへ歩いてくるのが見えた。


ややくすんだ灰色の髪を靡かせ白衣を纏い、黒い仮面を被っている。

目元を覆うくらいの小さな仮面だ。どことなく不思議な気配を感じる。


……何だあの仮面。


とりあえず挨拶しておくか……


「おはようございます、萩原先生」


「む、杉原か。丁度いい……こっちへ来い」


「……え?」





俺はなぜか萩原先生に連れられ、長い廊下を進む。

そして15分ほどで『特殊魔物科』と書かれた教室にたどり着いた。


「お前はここで待ってろ」


それだけ言うと萩原先生は教室の中へ入っていった。

……ここって、もしかしなくても特殊科の教室だよな? 案内してくれたんだろうか。



(暁先生、連れてきました)


(はい、ご苦労様です。それじゃ席についてくださいね)


(……)


(ほら藤野君、新入生が来ましたよ。起きてください)


(Zzz……)


(狸寝入りは許しませんよ? 藤野君)


(Zzz……)


(……スミレさん、アレを)


(はい)








……教室の中から爆音が聞こえた気がする。気のせいだと思いたい。

さらに暁先生らしき怒声が廊下にまで響いてくる。


一体なんだってんだ?




「お待たせしました。杉原君、中へどうぞ?」


「……はい」


暁先生が教室から半分ほど体を出して、微笑みつつ手招きしている。

……笑顔が怖い。



恐る恐る教室に足を踏み入れてみると


黒い仮面を被り、ピシッと姿勢を正して座る金髪の少女と、消しとんだ机と焦げた床が目に入った。

そしてその後方には砕けた壁とがれきに埋もれる白い服。



……思わず俺は呆然と立ち尽くしてしまった。っていうか萩原先生はどこへ行った。


「さて、まずは自己紹介から始めましょうか」


「いやいやいや、それよりなんですかこの状況は」


「それじゃスミレさん、お願いします」


暁先生がそう言うと、金髪の少女がこくりと頷いた。

……俺への説明は二の次らしい。


「二年……灸蓮寺、スミレ……です。 よろしく」


「あ、杉原圭一です。よろしくお願いします」


「……」


スミレと名乗る先輩はぺこりとお辞儀し、席に着いた。

ユイはどうやら警戒しているらしく、何も話そうとしない。


「杉原君も好きな席についてください。どうせがら空きですから」


「あぁ……はい」


俺はユイを降ろし、適当な席に着く。


「それで、あれは……?」


とりあえずがれきの方を指差し、尋ねてみる。


「あぁ、彼は三年生の藤野浩二君です。仲良くしてあげてくださいね」


「仲良くっていうか……あれ死んでるんじゃ……」


「大丈夫ですよぅ、死人は死にませんから♪」


「死人……っ!?」


暁先生はにこにこしながら、がれきを指差して見せる。

見てみると、がれきの上に女の人が座ってひらひらと手を振っていた。


……あれ?


「……さぁ杉原君、これが貴方のテイマー証です。

色んな意味で大事なものですので、無くさないようにしてくださいね」


暁先生が一枚のiCカードを差し出してきた


表には『S』の文字をあしらった豪奢な紋章が描かれていて

裏面にはさまざまな情報と共に俺の名前が刻まれている


「テイマー証……?」


「えぇ、貴方の生徒手帳みたいなものです。くれぐれも大事にしてくださいよ?

……それと、これをどうぞ」


続いて暁先生は銀色のバッジをくれた。カードと同じ紋章が描いてある綺麗なバッジである。


「それは校章です。学科ごとにデザインが違うんですよ

中々凝ったつくりになってるでしょう? ちゃんと胸につけてくださいね」


「まぁ、確かに凝ってますけど……」



そういえば、スミレ先輩の胸元にも同じバッジが付いている。


それにしても、スミレ先輩も中々きょにゅ……おっといかんいかん。

ダメだ……胸元を見るとつい膨らみの方に目が行ってしまう。


かといって下を見ればスカートも短いし……全く目のやり場に困る制服だ。

今頃は桜もこの制服を着ているんだろうか……って何考えてんだ俺は。


高校生にあたる歳なんだし、それなりに発育良いのが普通のはずなのに、

どうしてもユイと比べてしまう……流石に失礼だよなぁ。




「……もうすぐ入学式が始まります。心の準備はよろしいですか?」



俺の思考をぶった切るように、暁先生は微笑んだ。


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