仲良しになりたいと思っていたのですよ
読んでいただきありがとうございます。
少し長めです。
「ミリア、ついに婚約者様と、会うことが出来るのね~。はぁ~うらやましい」
「そうね、良い方だといいのだけれど、手紙の返事もあまり頂けなかったし、私のことはあまり好みのタイプじゃないのかもしれないわ……。」
「一度あなたを見たら、ブレイク様 一目惚れしちゃうんじゃない?そのサラサラのプラチナブロンドの髪に、綺麗なヘーゼル色の瞳。 才色兼備なうえに剣術も一流、惚れないわけないわ」
マドリンが、からかう様に私の頬を突く。
「もう。マドリンだって燃えるような赤い髪に、エバーグリーンの瞳で容姿端麗、あなたが留学すると決めて、泣いている男子生徒は沢山いたわよ」
「それなら、ミリアのファンだって同じよ~」
私はルリット王国、ラミレス辺境家のミリア。
リノロン王国での留学を終えて、学生生活最後の1年は、自国の学院で過ごすことになり、現在帰国の途についている。
となりで元気に話し続けているのは、私の従妹で、リノロン王国大公家の三女、マドリン・ザビニ大公令嬢。
マドリンのお父様と、私のお母様は兄妹だ。
その縁もあって、私は隣国の貴族院に留学をした。
そのまま卒業でも良かったのだけれど……お母様に、最後の1年は婚約者と一緒に、学院に通うようにお叱りを受け現在に至る。
ヒル侯爵家の強い希望で、私とブレイク様の婚約は整ったけれど、夏休みに帰省しても、都合がつかないと会っていただけず、婚約してから今まで、一度もお会いしたことが無い。
お忙しいのか……まあ人生は長いもの、一生を共に歩むのですから、徐々に仲良くなればいいわね。
「マドリンは、本当に私とルリット王国の、学院に通うことにしてよかったの?」
「もちろんよ、ミリアと居るのは楽しいし、何よりルリット王国にいたら、ルファス叔父様やリアム兄さまに、鍛えてもらえるでしょ~」
「叔父様は、マドリンと離れると、悲しんであんなに泣いてたのに、お父様やお兄さまとの訓練を、優先されたと聞いたら国同士の問題になりそうね」
「お父様に、子離れして欲しいのもあって、ミリアについてきたんだから、そんなことさせないわ!するなら親子の縁を切ってやる」
マドリンは、馬車の中でガッツポーズ。
「はは。最後の学院生活も楽しくなりそうね」
✿ ✿ ✿
「マドリン、本当にその騎士服で行くの?」
転入初日、部屋から出て来たマドリンに、私は驚いた。
「もちろん、制服でも騎士服でもいいと、書いてあったわ」
「そうだし、抜群に似合ってるけど……。」
マドリンは、背が高くスタイルもいい。
「さあ行きましょ~」
学院には馬車で、15分ほどの距離。
「ねえ。門の前に誰か立ってるわよ!もしかしてブレイク様かしら」
「んー。いただいた姿絵には、プラチナブロンドと書いてあったけど、あの髪色はハニーブロンドじゃない?」
「うーん。姿絵なんて、当てにならないものよ」
門前に馬車を停めると、待っていた青年がニコニコしながら扉を開けた。
「やあ二人とも、久しぶりだね」
はにかんだ笑顔を見て思い出す。
「「ルイス!!」」
ルイスは、ビアス侯爵家の嫡男。
お父様であるビアス侯爵は、第一騎士団長を務めている。
ルリット王国の第一騎士団長になるためには、ラミレス辺境伯の指導を受け、認められることが条件とされており、騎士団長候補は、1年間ラミレス辺境伯で修業する習わしがある。
ビアス騎士団長様が、当家に修行に来た時、10歳の息子にも手習いをとルイスを連れて来た。
同い年だった私達は、一緒に訓練を受けて寝食を共にし、あの頃……私が恐れていたラミレス辺境伯夫人の厳しいマナー講座にも、付き合ってくれた心強い同士で、実は私の初恋だ……。
マドリンもラミラス辺境伯に来た時、よく一緒に遊んだ。
「ルイス、大きくなったわね~」
「お前達もだろ、マドリンなんて、俺と背がほとんど一緒じゃないか!」
「モー。私だって大きくなったわよ!そんなに変わらないじゃない……。」
言ってみたものの……二人より私は、頭ひとつ小さい。
「むー。」
私の頬が膨れる。
「私達が大きいのよ、ミリアだって女の子の中では、大きな方でしょ~」
「それに二人とも綺麗になったな、泥んこじゃないし」
「立派な淑女なんだからね!泥んこなわけないでしょ」
マドリンとじゃれ合う、ルイスの笑顔を見てなんだかほっとした。
私……ブレイク様に会うかと、緊張しているのかも。
「ところで、ルイスも騎士服なのね」
「ああ俺も一応 放課後は騎士クラブに入ってるからな、この方が動きやすいし」
カランカラ~ン。カランカラ~ン。
昼休みのチャイムが鳴る。
今日、転入する私達は、午後からオリエンテーションを受けるため、昼休みの時間に合わせて登校した。
「さあ。淑女のお二人を校舎に案内する栄誉を私に」
ルイスが恭しく礼をして、手を差し出す。
「「それでは騎士様、お願いします」」
私とマドリンは、同時にルイスの手を取った。
✿ ✿ ✿
ルイスに案内されて、校舎を進む。
教室から生徒たちが、私達を見つけて騒ぎ出す。
「まあ。ルイス様よ~今日も素敵ね」
「あの美女二人は誰だ?初めて見るな」
「おひとりは騎士服よ、ラミレス辺境伯令嬢様じゃない!隣国に留学されていた」
「じゃあお隣は留学してこられた、ザビニ大公令嬢!かわいいお方ね~」
「俺ファンクラブ作ろうかな!わー私も入りたい。是非優美なお二人を応援したいわ」
マドリンが、クスクスと笑い出す。
「ミリアが、リノロン王国の貴族学院に来た日のことを、思い出したわ~。今日みたいにみんながざわざわして、あっという間にファンクラブができたじゃない」
「マドリンだって、幼少期からの熱烈なファンクラブがあったじゃない」
「そうね、あのクラブは、もう習慣自然みたいなものよ、ミリアへの熱意とは違うわ」
「二人とも、ファンクラブなんてあったのかよ!」
「そうよ~ミリアは、モテるんだから」
マドリンが、ルイスの胸を肘で突く。
「なんだよ~」
またじゃれ合う二人を見て、お似合いだなと思った瞬間、私の心に石が落ちて来た。
ん~。私は落ちて来た石を投げ捨て、マドリンの手を取る。
なんだろ少しもやもやした。
「ほら、早くいかなきゃ、先生がお待ちなんでしょ」
急かす私を見て、マドリンが開いた手をあきれた、と言った感じで挙げる。
「もーミリアは鈍いのよ~ルイス!」
「ははは。変わらないな~」
賑やかに話しながら教員室に着くと、担任のホワイト先生が笑顔で出迎えてくれた。
「二人とも今日からよろしくね、二人は私が担当するSクラスだ、Sクラスは高位貴族で、成績優秀者のみが学びを共にするクラスで。今年は、第二王子のフェリックス殿下も、在籍されている。ふたりの転入をみんな歓迎するよ」
「「こちらこそよろしくお願いします」」
「それでは、教室に案内しよう」
先生について、Sクラスに足を踏み入れる。
教室の中には15名の生徒、見回して……ブレイク様らしき人は……いない?
「今日からこの学院で学ぶことになった、マドリン令嬢とミリア令嬢だ、みなさん切磋琢磨し、良い学友となる様に」
ホワイト先生が、私達に視線を向ける。
マドリンが、一歩前に出る。
「リノロン王国から参りました。ザビニ大公家のマドリンと申します、1年と言う限られた期間ではありますが、皆様と良い時間を過ごしたいと思いますので、よろしくお願いいたします」
パチパチと拍手が起こる中、目にもとまらぬ勢いで、男子生徒が一人マドリンの前に進み出た。
「お会いできることを、楽しみにしておりました、私はルリット王国第二王子、フェニックス。どうかニックとお呼びください」
…………。
「ねえ。フェニックス様は、マドリンのこと好きなの?」
隣に並ぶルイスに、小声で尋ねる。
「半年前、リノロン王国の夜会に出た時、マドリンを見て一目惚れらしい……」
「あら♪」
でもルイスも、マドリンのことを……。
ルイスを見上げると、優しく笑う暖かな瞳とぶつかった。
「さあ。ミリアの番だよ」
ルイスに促され、私も一歩前に出る。
「リノロン王国での二年間の留学を終えて、戻ってまいりました。ラミレス辺境伯のミリアです。学生生活最後の一年を、皆さんと過ごすことが出来、嬉しく思います。どうぞよろしくお願いします」
私がカーテシーすると、ルイスが私の肩に手を置いた。
「ミリアは辺境育ちで、そのままリノロン王国に留学したから、ルリット王国での知り合いも少ない、俺の大事な幼馴染なんだよろしく頼む」
ルイスが頭を下げると、大きな拍手。
「はいはい。」
ホワイト先生が手を叩く。
「今日、二人はオリエンテーションを受けて帰るので、明日からよろしくね。ルイス君、二人を事務室に案内してくれるかい?」
「はい。ホワイト先生」
ルイスの目配せを受けて、教室を出ると、マドリンの手をずっと握ったままの、フェニックス殿下もついてきた。
「あら。殿下も、案内していただけるのですか?」
マドリンが、フェニックス殿下を少し見上げて首をかしげる。
「はい。と言いたいところですが、教室でホワイト先生が睨んでいますので、放課後お茶にお誘いしたいしたいのですが、お時間はいただけますでしょうか?」
マドリンが、私に目線を映す。
「もちろん、ミリア嬢も一緒に」
「じゃあフェニックス殿下、俺も参加します」
「ああ。もちろんだ。オリエンテージョンが終わったら、控室に案内する様に言っておく」
約束を取り付けると、フェニックス殿下は、優雅に手を振り教室に戻って行った。
「フェニックス殿下は、以前夜会でお見掛けしたけど、初めてお話ししたわ。王子なのに背が高くてとてもがっちりした方ね♪」
「マドリンて、がっちりした人が好きだったの?」
「ええ!できれば♪ルファス叔父様くらい、がっちりした方が好き!」
「そうなの……今までそんなこと話さなかったじゃない」
マドリンが、大きなため息をついた。
「小さい頃ルファス叔父様みたいに、筋肉ムキムキの人がいいと話していたのを、お父様が聞いてね、その後泣くし凹むし仕事にならなくて、お母様に、ムキムキ好き発言は禁止されていたのよ。ほらお父様はひょろひょろでしょ……でもここなら解禁してもいいわね♪」
「そうなのね……」
私はルイスが心配になり、隣に立つ彼を見上げた。
んー。ニコニコしてて表情が読めない。
「ミリアは、どんな人がタイプなの~♪」
マドリンの言葉に、ルイスを見ていた私は、真っ赤になって固まった。
「あら~♪」
からかうマドリンが、私を覗き込む。
「もう!私にはお父様が決めた、婚約者がいるのよ!」
ルイスが困ったような顔で、ガシガシと頭を掻いた。
「なあ。ミリアその……婚約者なんだが……」
「はいはい。オリエンテーションを、始めますよ~こちらに」
廊下の端から、私達を呼ぶ声がして、振り返ると事務員が、大きく手を振っている。
「すみません。今行きます」
「じゃあ。俺は教室に戻るよ」
ルイスは、小さなため息をついて教室に戻って行った。
急いで事務室に入り、オリエンテーションを受ける。
あっという間に、事務員さんからの説明は終わった。
私とマドリンが部屋から出ると、騎士様が廊下で待っている。
ん。学生ではない本物の騎士様?
「ザビニ大公令嬢マドリン様と、ラミレス辺境伯令嬢のミリア様。私は、フェニックス殿下の護衛を務めております。ハリス伯爵家のサイラスと申します。殿下はあと一時間ほど授業がありますので、先にご令嬢方を、サロンにご案内する様に申し付かってまいりました」
「丁寧にありがとうございます。学院にサロンがあるのですか?」
「はい、王家と公爵家の子息子女が、入学された際に使用する控室の様なものです、現在学院に在籍する対象者はフェニックス殿下だけでが……。」
サイラス様が、向かいに見える校舎を気にしている。
「サイラス様も、何か気配を感じますか?」
「ええ。お二人が、事務室から出てきてからずっと」
マドリンが、扇子をバット広げて口元を隠す。
「あちら……。」
そう言って向けた視線の先には、遠くて顔は見えないけれど、渡り廊下の隅で、こちらを見ている男子生徒と、その腕にがっしりと掴まり、彼を見上げる女子生徒の姿。
「ルリット王国の貴族学院は、どうなっているの?婚約者や恋人だと言っても、ここは小さな社交界よ、家のお母様に見つかったら、ただでは済まないわよ」
私が驚いていると、プリプリ怒るとマドリンが、彼らに背を向けた。
「リノロンでは考えられないわね、それに今は、授業中のはずでしょ……。」
なぜか、サイラス様が頭を下げる。
「お恥ずかしい限りで……。」
「まあいいわ、サロンに行きましょう」
サロンに着くと、そこは素敵なお部屋だった。
お茶ができるダイニングに、庭園もあり、奥には仮眠室や調理室、侍女たちの控室などなど、かなり広い。
「わあ。素敵なお部屋ね」
「ここで住めそうよね、リノロンの学院にも作ればよかったわ」
侍女達が手際よくお茶を準備した、テーブルに案内される。
「こちらは、フェニックス殿下おすすめのハーブティーです」
侍女に進められて飲んだハーブティーは、すっきりして飲みやすい。
「こんなすっきりしたハーブティー、始めていただくわ」
「殿下は、良く公務の時に飲んでいらっしゃいます」
「まあ。眠気覚ましや、リフレッシュしたいときにいいわね、譲っていただけないから」
「もちろんお譲りしますし、いつでも飲みに来てください。マドリン嬢」
お茶の話題をしていると、ドアの方から声がした。
フェニックス殿下とルイスが、テーブルの横に並ぶ。
「まあ。ニック様、嬉しいです」
ニコニコほほ笑むマドリンの隣に、フェニックス殿下が座る。
「事務からの話は、早く終わったんだね」
ニコニコほほ笑むルイスが、私の隣に座る。
「ええ。半時ほど前に……。」
「どうした?」
ルイスが近距離で、私を覗き込む。
急なルイスのアップに、ドキドキしていると、マドリンが先ほどの話を始めた。
「なんだかね、事務室の前で、サイラス様とご挨拶をしていたら、向かいの棟から私達を見ている人が居たの、遠くてお顔は分からなかったけれど、男子生徒の腕に、女子生徒がべったりと張り付いていたわ……リノロンでは、学院内とはいえ恋人や婚約者でも、人前ではあのようなことはしないから、ミリアも私も、びっくりしてしまって」
「お二人を驚かせてしまい申し訳ない、Sクラスの生徒たちは、そのような無作法なことは無いが、学院内は自由に伸び伸びと分け隔てなく、といった伝統があり、これには当然基本的なルールや、節度を守ってのことなのだが、はき違えたものが居たようだ、こちらで少し対応しておくよ」
「まあ。さすがニック様ですわ」
フェニックス殿下は、マドリンに褒められてうれしそう。
かわいらしいお方なのね。
「ところで私も、お二人のことを、名前で呼んでもいいだろうか?」
「「もちろんです」」
私とマドリンの声が重なり、おかしくてみんなで笑った。
そのあとは、おすすめのカフェの話や観劇の話、ルリット王都での、おすすめスポットなどいろんな話をした。
✿ ✿ ✿
その夜は、タウンハウスでマドリンと、フェニックス殿下の話で盛り上がった。
やはりマドリンも、フェニックス殿下を気に入ったみたい。
「でもルイスは、マドリンが好きなんじゃないかしら?」
私がそう言うと、マドリンはカラカラと笑い出した。
「もう。本当にミリアは自分のことは、にぶにぶなんだから~」
「ん?違うの?」
「ルイスは、昔から他に好きな人が居るわよ」
「えーだれだれ!教えて!」
「ダメ~。本人から聞いてください!それよりブレイク様、Sクラスにはいなかったわね、どうするの?」
「学院に行けば、お会いできると思っていたのだけれど、顔合わせも兼ねたお茶会への誘いも、やっぱり都合が悪いと、返事をしてきたみたいだし」
「いくら婚約は家同士の契約とはいえ、まったく会うこともできない相手なんて、やめた方がいいんじゃない?」
「そうね、さすがにリノロンに居た時は、離れているし仕方ないと思っていたけれど……リアムお兄様を通じて、お父様達に相談してみるわ」
ラミレス辺境伯の嫡男である、リアムお兄様は、私の転入に合わせ、近衛騎士団の研修を受けることになり、タウンハウスで私達と暮らしている。
✿ ✿ ✿
それからの学院生活は、Sクラスの皆さんにとてもやさしくしてもらい、勉強もリノロン貴族院の方が進んでいたのか、ついていけずに困ることも無く、穏やかに過ぎていった。
ただ……相変わらず、ブレイク様には何度手紙を出しても、Aクラスを覗きに行っても、会うことが出来ず、私は次の長期休暇に辺境伯に戻り、お父様に婚約の白紙を申しでることに決めた。
会いたくもないほど嫌いなら、ブレイク様から断ればいいのに!
最近は、少しだけブレイク様のことを考えると、イライラする。
「どうしたの?そんな顔して」
いつの間にか、眉間に皺が寄っていたみたいで、マドリンが心配そうに私をのぞき込む。
「ああ。ごめん。ブレイク様のことを考えていたら……」
「決心したんでしょ!前に進みましょう。さあ美味しいランチが待ってるわよ~」
サロンへの渡り廊下に進むと、中庭の方から、女子生徒が私達に向かってかけてくる。
そして「痛い、やめてください」と叫びながら転んだ。
学院の中では、フェニックス殿下が、マドリンを守るため護衛を増やしており、その女子生徒も直ぐに騎士様に確保され、教員室に連れて行かれた。
「あの子、時々見るわよね」
「そうね、この間は噴水に落ちてた」
「変わった子ね」
サロンに着くと、既にフェニックス殿下とルイスが待っていた。
「マディー、ここに座って」
今日のランチは、サロンの中庭にあるガゼホ。
小さなガゼホは、ヴォールマウントチェアになっていて、二人掛けくらいの広さの椅子が二つ。
ていうか!愛称で呼ばれてる。
ちらりとマドリンを見ると、にっこり笑ってウインク。
むむむ。いつの間に!今夜聞かなくちゃ。
四人でランチをしながら、話題は明後日の交流会の話に。
学院では長期休暇を前に、社交を学ぶことを目的にした、交流パーティーが開かれる。
どうやら婚約者のいる人は、同伴して参加するらしいが……。
「ミリア、明後日の交流会はどうするの?」
「うーん。マドリンは、フェニックス殿下と参加するのでしょ?私は……お兄様は仕事で来られないし、一人で参加するのも気が引けるから、欠席にするわ」
私の返事を聞いて、フェニックス殿下が身を乗り出す。
「エスコートなら一人紹介できる者がいるぞ」
「誰ですか?もしかしてサミュエル様?」
「いや学生だ、隣に座っている」
ん?
「ルイス!」
「ああ。俺で良ければ、エスコートするぞ」
「ええ。他にお相手がいないの?ルイスはモテるでしょ」
「いないから誘ってるんだ!」
「そうなの……」
なんだか、ほっとしたけど。
「私は一応まだ婚約者が居るのだけれど、ルイスと参加してもいいのかしら?」
マドリンがいきなり、テーブルを両手で叩く。
「何言ってるのミリア!大体婚約者としての役目も果たさず、ドレスも送らない!そんな屑に遠慮すること無いわ!何なら交流会の場で、婚約破棄を叩きつけてやればいいのよ!」
フェニックス殿下が、マドリンの背中をポンポンする。
「マドリン怒ってくれてありがとう。でも婚約は白紙にするし、私はちゃんと手続きを踏んできれいにしたいわ」
そう言って顔を上げると、三人が私に手を差し出した。
「「「私達・俺達が力になる」」」
「みんなありがとう。私この学院に来てよ良かったわ」
改めて、ルイスに向き合う。
「ルイス、本当に一緒に来てくれるの?」
「もちろん喜んで」
「わあ。良かったミリア♪ドレスはどうする?」
「んー。家から、送ってもらうには間に合わないし……。」
「ミリア!良ければ今日家に来ないか?姉さんがミリアに会いたがってるし、送りたいものがあるらしい。ド ドレスも姉さんに相談するのはどうかな?」
「マリア様が、ビアス侯爵家にいらっしゃるの?」
「ああ、二人目ができたんだ、その報告と祝いにサンチェス公爵と一緒にね」
「そうなの、それなら私は、伺わない方がいいんじゃない?ご家族のお祝いなのに……」
「いや父上も、大きくなったミリアと会いたいと言っているし、母上にも連れてくる様にと、きつく言われているんだ」
大きな身振り手振りで、ルイスが早口でしゃべる姿に思わず笑ってしまう。
「はは。わかった。是非お邪魔させていただきます。手土産を持って行きたいし、マリア様のお祝いもお持ちしたいから、行く前にお買い物をしてもいいかしら?」
「もちろん!買い物も付き合う」
✿ ✿ ✿
放課後ルイスと一緒に、商店街に行き、手土産のケーキと妊娠中にいいと市場のおばさまに進められた、ビタミンたっぷりの果実、マリア様とサンチェス公爵にお揃いの靴下と、3歳になるオリバー君に絵本、叔父様にハンカチと、おばさまに日傘を買ってビアス侯爵家に向かった。
買い物は、なんだかルイスとデートしてるみたいで楽しい。
実はルイスにも、交流会の時にポケットに入れるスカーフを買った。
若草色と空色の色違いで、私のスカーフは、当日髪に編み込もうと思う。
これくらい、お揃いでもいいよね。
ビアス侯爵家に着くと、私は大歓迎を受けた。
「まあまあ。ミリアちゃん大きくなって~。」
「久しぶりねミリア、綺麗になったじゃない学院はどう?」
「ミリア、素敵なレディーになったね」
「みんな、そんなに一気に話しかけたら、ミリアが困るだろ!」
みなさんの勢いに押される私を、ルイスが庇う。
「かー様。ルーの好きなミーちゃん?」
パタパタと、オリバー君が走ってくる。
「…………。」
ルイスが、慌ててオリバー君を抱き上げる。
「オリバー!お兄ちゃんとあっちで遊ぼう!」
「いや!ミーちゃんとあそぶ~」
バタバタと暴れるオリバー君を抱えて、ルイスが部屋を出る。
「あらあらまあまあ。ミリアちゃん、私とマリアからプレゼントがあるの、夕食にはもう少し時間がかかるから先に見て頂戴」
私は、叔母様とマリア様に連れられて、ドレスルームに入る。
そこには濃紺をベースに、薄い青と若草色の差し色が入ったタキシードとドレス。
お二人に、そっと抱きしめられる。
「ミリアは私の娘同然よ、交流会で着てもらいたいと思って、マリアと準備したの」
「ちょっと濃紺は、若い二人には……と思ったけど、ビアス侯爵家の色なのよ、母が譲らなくてね~」
「叔母様、マリア様……。」
瞳を、うるうるさせる私の頬を、マリア様が引っ張る。
「もう、かわいいんだから」
「ドレス、ありがとうございます。凄く嬉しいです」
私は改めて、お二人に深く頭を下げる。
「ねえミリア、明日は家に泊って、身支度も手伝わせてくれない?」
「そんなに甘えてよろしいのですか?」
「もちろんよ」
私は、鞄からスカーフを取り出した。
「あの、これ……交流会でせめてそろえて身に着けたいと思って、買ったんです」
「まあまあ。お互いの瞳の色ね」
「はい」
(これはうちの子にも脈があるかっもしれないわね)(ルイスに頑張らせないと!)
お二人は、私を挟んで見つめ合い、大きく肯いた。
「奥様、食事の準備が整いました、皆さんダイニングにお揃いです」
「まあ、もう準備ができたの!さあ二人とも行きましょう」
✿ ✿ ✿
交流会当日。
私は、ビアス侯爵家の侍女の皆さんに、ピカピカに整えられて、ルイスと馬車に乗り会場に向う。
交流会の会場は、学院の大広間で入場も退場も自由。
私とルイスは、少し遅れて会場に足を踏み入れた。
「マドリンが、先に来ているはずだけど」
ルイスと会場を見回すと、中央にフェニックス殿下と並び立つマドリン。
シルバーの布地に金糸で刺繍が施された、お揃いの素敵なタキシードとドレス。
殿下は赤のスカーフ。マドリンは青の髪飾り。
「マドリン綺麗ね~。あら!向かい合っている方々がいるわ」
「あれが、ブレイクだよ」
「まあ、あれがブレイク様なの!お隣にいる女性は、よく私達の周りで転んだり、噴水に落ちていた子よ」
「あれは、クーパー子爵のリコ令嬢だ……。」
私達が近づくと、リコ嬢が声を上げた。
「フェニックス殿下!騙されないでください。ミリア様は、私にいつも嫌がらせをする、酷い人なんです」
「君は、何を言っているんだい?」
フェニックス殿下もマドリンも、不可思議な生き物を見る様に、二人を見つめている。
「ミリア、私が茶会に応じないからと、リコに嫌がらせの数々をしたそうだな!」
マドリンが、パチンと手を叩き笑い出した。
「あーあなたよく私達の周りで、転んだり噴水に落ちたりしてた子ね。思い出したわ」
「ミリア様!私がわざとやったって言うんですか?酷い!教科書や制服も破られたのに!」
あまりに突飛な出来事に、会場にいたすべての人の頭の上に?が浮かぶ。
「ヒル侯爵令息、クーパー子爵令嬢、君たちが話している意味が、全く理解できないのだが、わけのわからない言動で、交流会の場を乱すのは辞めてくれないか」
リコ嬢が、さらに大きな声で泣き叫ぶ。
「フェニックス殿下がかわいそう、きっとミリア様に、媚薬を盛られているんだわ~酷い酷い」
「酷いのはどっちよ、だいたい不貞をはたらいているのは、ずっと前からヒル公爵令息とクーパー子爵令嬢じゃない」
「そうだ、お前たちのおかげで、学院の品位を疑われているんだぞ」
「社交界ではもう有名な話よ、ラミレス辺境伯が良く黙っていると」
「ミリア様はなにも悪くないわ、ましてマドリン様は関係ないじゃない」
あまりの言動に、最初はあっけにとられていた、周りの生徒たちが騒ぎ出した。
「周りの人間がいろいろ言わないでくれ、これは私達の問題だ!」
ブレイク様が、大声を上げた。
ザワザワしていた会場が静まる。
「ミリアよく聞け、人を虐めるような人間と俺は結婚しない、だいたい婚約者の俺がいながら王子殿下と一緒に入場するなど!私の婚約者には相応しくない、婚約破棄だ!」
ブレイク様は、叫びながらマドリンに手を伸ばす。
一歩足を踏み出した瞬間!四方八方から騎士や影、熱烈ファンクラブ員が飛び出して、あっという間に、ブレイク様とリコ嬢は押さえつけられた。
折り重なる人の山から、二人とも顔だけが出ている。
フェニックス殿下は、大きくため息をついた。
「もしかして、二人ともマディーのことを、ミリアだと思っているのか?」
殿下の言葉に会場が騒めく。
「だって、ラミレス辺境伯令嬢よ!いつも騎士服を着ていた、その女がミリア様でしょ!」
リコ嬢の発言に、ざわめきが大きくなる。
「救いようがありませんわね」
「本当に貴族ですの?」
あまりの状況に居た堪れず、床に伏しているブレイク様の前に立つ。
「お初にお眼にかかります。私はラミレス辺境伯が娘ミリアと申します。ブレイク様とは、婚約してから二年半、ご縁が無かったようで一度も会うことはありませんでした。このような場ではなく、長期休暇に帰省した際に、お父様に申し出て、ブレイク様との婚約は、白紙にするつもりでいましたが、先ほど宣言された婚約破棄、この場でお受けいたします。」
私がカーテシーをすると、ブレイク様の眼が大きく見開かれ、突然起き上がろうと暴れ出す。
「はあ~。ミリア。なんと美しい。私の婚約者はミリアだ!誤解があってすまない、ミリア助けてくれ!」
伸びるブレイク様の手を、私はバシリと扇子で叩き落す。
「授業をさぼり、不貞をしていた方などお断りです」
私の周囲を守る様に、ルイスやSクラスの仲間たちが、ブレイク様との間に壁を作る。
同時にホールの入口が騒がしくなり、騎士団とお父様が入ってきた。
ビアス騎士団長が指示を出す。
「第二王子殿下と隣国ザビニ大公令嬢への、暴言と暴行未遂だ、罪人を連れて行け、サイラス!報告を」
騎士達に引きずられながら、二人が叫ぶ。
「ミリア、助けてくれ」
「ブレイク!なんでミリアなのよ!私と結婚してくれると言ったじゃない」
私は、フェニックス殿下とマドリンに向き直る。
「フェニックス殿下、マドリン。今回は私のことでご迷惑をお掛けしてしまい。申し訳ありませんでした」
深謝する私の肩に、フェニックス殿下がそっと手を置く。
「ミリアは何も悪くない、悪いのはヒル侯爵令息とクーパー子爵令嬢だ、それに私もこの国の王子として、生徒会長として風紀の乱れを、正しきれていなかったすまない」
「せっかくミリアが傷つかないように、ニックもルイスもファンクラブの皆も頑張ったのに、台無しにしたのはあいつらと!問題の根源、ルファス叔父様!」
「あー悪かったよ、ヒル侯爵は真面目でいい奴なんだ、まさか息子の教育が、あれほどまでに、できていないとは……。」
お父様が、申し訳なさそうに頭を掻いた。
「ルファス叔父様は、かわいい娘の嫁入り先を、調べもしなかったのですか?近くにもっといい嫁入り先があるでしょうに!」
「ああ。辺境伯としての驕りがあったな、俺を騙し軽んじるものなどいないと思っていた」
お父様は、私の前に立ち手を取った。
「ミリア、本当にすまなかった。これからはちゃんと、周りの意見もお前の話も聞くようにする」
「はい。お父様。おかげでと言いますか、私はここで大切な仲間と出会うことが出来たんです」
私はみんなを見回す。
「みんな。助けてくれてありがとうございます」
ホールいっぱいに、盛大な拍手が起こる。
「ハプニングがありましたが、改めて交流会を始めましょう」
フェニックス殿下の声をきっかけに、演奏が始まる。
ずっと隣に立ち、背中を支えてくれたルイスの手が差し出される。
「ミリア、俺と踊っていただけますか?」
「もちろん」
私達は、同時に一歩踏み出した。
✿ ✿ ✿
交流会の後、長期休暇に入り、私とマドリンは各々の家に一度帰ることになった。
今日は、マドリンとの別れを惜しむフェニックス殿下が、お茶会をしようと2人で王宮に招かれた。
「いいわね~。ミリアは片道2日で着くけど、私なんてその倍かかるのよ、帰るのやめようかな~。」
「ザビニの叔父様が、悲しむわよ」
「会いたいならお父様がくればいいのよね!私はミリアと、ラミレス辺境伯に一緒に居て、そこにお父様がくればいいわね」
マドリンは良いことを思いついたと、ニコニコ顔。
「それにしても、フェニックス殿下遅いわね」
私は、きれいなバラが咲き誇る庭園を見回した。
騎士と侍女に庭園に案内され、お茶をしながら待っているが、殿下はなかなか現れない。
「あら。バラの固まりが向かって来るわよ」
マドリンが指さす方を見ると、真っ赤なバラの大きな花束と、白バラの大きな花束が、私達に近づいて来る。
赤いバラはマドリンの前、白いバラは私の前で跪く。
赤いバラの後ろから、フェニックス殿下がひょっこり顔を出して、大きな声が響く。
「リノロン王国の夜会で、マディーに一目惚れしました。学院で一緒に過ごし、さらにあなたが好きになりました。僕と結婚してください」
「ニックちょっと待ってね、ミリアと一緒に返事をするわ」
マドリンが、私の方を向いてほほ笑んだ。
すると白いバラの後ろから、ルイスが顔をだす。
「ミリア!10歳の時、初めて会った瞬間からずっと好きです!俺と結婚してください」
私は、マドリンを見てからルイスをまっすぐ見つめる。
「せーの」
マドリンの合図で、私達はフェニックス殿下とルイスに飛び込んだ。
「「はい。喜んで!」」
~ 終わり ~
ラミレス辺境伯家は基本みんな脳筋です。
ブレイクとリコは友達もいないので、最初の誤解を解かないまま、マドリンがミリアだと思い込んでいました。
学院に入ってからは、ミリアが屑な婚約者に傷つけられない様に、みんなで守っておりました。
(*^-^*) 書いているうちにいろいろ書きたい場面や人物が出てきて長くなってしました。
本当はもう少しか書きたい。




