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第2.2章:ささやかなプロジェクト

第2.2章:ささやかなプロジェクト

数日前――


田所直哉は、一つのクラウドファンディングを静かに公開した。

資金目標は控えめ。内輪の研究会程度の予算。

構想自体が常識外れで、大学や研究機関からの支援は一切なかった。


ページの冒頭には、こう書かれていた。


「この宇宙は、ゼロ次元から展開された“情報”の重なりによって構成されている。

我々は今、宇宙の源との“対話”を試みる。」


ネットでは“オカルトまがい”と冷笑され、科学者の間でも黙殺されていた。


だが、翌日――風向きが変わった。


どこかの匿名掲示板で、このプロジェクトが話題になったのだ。

「これはマジで面白い」「読み物として最高にクレイジー」「賛否はともかく、ワクワクする」

――そういう空気が広がり始めた。


さらに数日後。

量子論と情報理論を専門とする若手研究者が、こんなツイートをした。


「田所博士がこんなことを始めたのか…正直、理論の根幹は理解不能だけど、

数式の構造は無視できない。俺たちが“気づかないようにしてきた部分”を突いてる」


そして、奇跡のように支援が広がり始めた。

支援者は“研究費を出す投資家”ではなく、“未来に賭けてみたい人間たち”だった。

科学者、哲学者、起業家、芸術家、引きこもり、そして学生――。

一見バラバラな人々が、画面の向こうから熱を送ってきた。

そして、佐々木陽平もその一人だった。


数日後、すべては一夜にして変わる。


――東京上空、未確認の巨大物体出現。

世界は騒然となり、田所博士の理論は突如脚光を浴びる。


「ゼロ次元からの呼び声……まさか、本当に?」


SNSでは彼の名前がトレンド入りし、ニュース番組が連日取り上げる。

一笑に付されていた理論は、一転して“唯一の手がかり”として扱われ始める。



そして――政府は動いた。


首相官邸、官房長官の指示で「モノリス対策会議」が設立され、

国内外の理論物理学者、宇宙論者、AI開発者が緊急招集された。


国連やCERN、NASAの代表も出席するオンライン国際シンポジウム。

そこに招かれた一人が、田所直哉だった。


「皆さん、このような機会をいただき感謝します。

 私は長年、ゼロ次元の情報場に関する理論――通称『シン・オオハタ予想』を研究してきました。

 今回のモノリス出現は、それが物理的に干渉してきた最初の兆候だと考えています。」


初老の科学者の語りに、オンライン会場はざわついた。

“ゼロ次元”“情報場”“対話可能な宇宙”――常識からはかけ離れすぎていた。


シン・オオハタ予想プロジェクトで検出された、あの謎の“情報パターン”は、

瞬く間に極秘裏で国内外の著名な物理学者たちへ共有された。


東京大学、京都大学、理化学研究所、さらにはスイスのCERN、アメリカのMIT――。

名だたる理論物理学者たちが集まった緊急オンライン会議は、深夜にも関わらず、異様な熱気に包まれる。


画面越しに、白髪の老教授が顔を紅潮させて叫ぶ。


「こんな馬鹿な話があるかッ! 相対性理論にも量子力学にも…いや、“ひも理論”ですら説明がつかんぞ!」

「時空そのものの“裏側”に、情報コードが走っているだと? まるで宇宙がプログラムされているみたいじゃないか…!」

「このデータが本物なら、私たちの理論体系は崩壊する!」


次々と飛び交う怒号と困惑。

中には興奮のあまり、深夜にも関わらず研究室で飛び跳ねる若手研究者の姿もあった。


「これ…まさか、シン・オオハタ予想ってやつか?」

「都市伝説だと思っていたが……この数式、ヤバい。本物だ」


誰かが呟いた。「宇宙の“根本的な理解”を間違っていたのかもしれん……」


「荒唐無稽だ!」

「証拠はあるのか?」

「ただの偶然だろう!」


だが、その中で一人、二人と異を唱える声が上がる。


「彼の理論に一致する周波数パターンが、実際に観測された」

「少なくとも我々の従来理論では説明できない現象が起きている」


数は多くなかった。

だが確かに――“響いた”者たちがいた。



政府は、決断を迫られていた。


無視するには現象が大きすぎ、

放置するには世界の注目が集まりすぎていた。


風間官房長官は閣僚会議でこう述べた。


「我が国は、科学的可能性を排除しない。

 よって“シン・オオハタ予想計画”に対し、限定的ながら国家支援を行う」


こうして、田所博士の小さな挑戦は国家プロジェクトへと昇格した。


彼の元には、シンポジウムで共鳴した数人の科学者が名乗りを上げる。

量子物理学者・黒川亮、天文学者・白石美月、AIエンジニア・神谷悠介――

そして、実は、共鳴者レゾナンサー候補として呼ばれた青年、佐々木陽平。



陽平が研究施設に到着したのは、モノリス出現から五日後の夜だった。


真田智子に導かれ、彼は静かに地下へと降りていく。

エレベーターの奥で、ふと呟いた。


「最初は小さなクラファンだったんやろ?

それとプロジェクトは極秘やったはずやろ?……なんでこんなことに」


真田は少し微笑んで言った。


「世界が“目を逸らしてきた声”を、田所博士は聴いたのかもしれませんね」


地下の扉が開いた瞬間、陽平は確かに感じた。


何かが――始まっている。


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