第2.1章:田所との接触
20XX年 東京上空 物体は既に浮かんでいた・・・
2章:選ばれし観測者
~世界が動く、その始点となれ~
第2.1章:田所との接触
東京行きの新幹線に揺られながら、佐々木陽平はスマートフォンの画面を何度も見返していた。
「田所直哉様より返信があります」
そう表示されたメッセージの中には、短く、だが力強い言葉が綴られていた。
「君のような者を待っていた。
すぐに東京へ来てほしい。」
それは、胸の奥で眠っていた“何か”が確かに反応するような言葉だった。
メールの返信があった後、佐々木は恐る恐る田所博士に電話した内容を思い出していた。
「突然メールをしてしまい、失礼しました…」佐々木が萎縮しながら切り出す。「いえ、メールいただいて正直驚きましたが、とても嬉しかった。
オオハタ予想に真剣な関心を持っておられる方と直接お話しできる機会など滅多にありませんから。」
田所博士の声は思ったより穏やかで親しみやすかった。
佐々木は少し安心して、勇気を出して本題に踏み込んだ。
「実は私は最近までオオハタ予想の事も存じ上げず、科学には素人同然です。ただ、昨日本当に偶然に『宇宙は情報ではないか』と思い立って…それで調べていくうちに大畑博士と先生のことを知りました。」
田所は興味深そうに、「宇宙は情報ではないか、と直感された、と。」と問い返した。
佐々木は恥ずかしさからか頬が熱くなるのを感じつつも同意した。
「お笑いになるかもしれませんが…ええ、なんの根拠もない直感です。けれど、不思議と確信めいた感覚があったんです。」
「いいえ、笑ったりしません。実は…佐々木さんのような一般の方からそういった直感のメールをいただいたのは初めてですが、私自身、長年同じ問いに取り憑かれてきました。」
「大畑先生のおかげです。私が大学院生だった頃、指導教官としてお世話になった。」田所博士の声はどこか懐かしそうだ。
田所博士によれば、大畑洋一博士はかつて日本の理論物理学界で知られた存在だったという。特に情報理論と物理の融合に関心を持ち、「宇宙=情報」の大胆な仮説を唱えた先駆者だった。しかし当時は時期尚早だったのか、その仮説は世間からも学会からも真剣には受け入れられなかった。大畑博士は失意のまま数年前に他界したが、田所博士は師の残したノートや数式を託されていた。
「オオハタ予想とは、簡単に言えば**『宇宙に存在するすべての事象は、究極的には情報の作用として説明できる』**という仮説です。」田所博士は丁寧に言葉を選びながら説明した。
「物質もエネルギーも、深いレベルではビット――0と1の情報に還元できるのではないか、と。」まさにホイーラーのIt from Bitと同じ発想だ、と佐々木は胸の内で驚く。
「先生はその仮説を今も研究されているんですか?」思わず前のめりに尋ねると、田所は小声で続けた。「ええ。ただし公には極秘でね。シン・オオハタ予想プロジェクトとして数名の同志と研究を進めています。」
佐々木は喉が渇くのを感じ、水を一口飲んだ。極秘プロジェクト――自分が大それたことに首を突っ込んでしまったのだと実感する。
「なぜ極秘に?」率直な疑問が口をついた。田所は思わず、周囲に人がいないのを確かめ、
「仮にオオハタ予想が正しかった場合、影響が計り知れないからです」と声を潜めた。
「科学界の常識を覆す理論ですし、下手に騒がれればデマや陰謀論も飛び交って混乱するでしょう。政府も事態を慎重に見極めており、公式な研究としては認めていません。ただ、一部理解のある官僚や研究者が私的に協力してくれています。」事態は佐々木が思っていた以上に深刻で重大らしい。だが奇妙なことに、佐々木の胸には恐れよりも強い高揚感が湧いていた。自分が今、世界を揺るがすかもしれない仮説の最前線に関わろうとしている――そう思うと、長年味わったことのない生き生きとした感情が込み上げてきたのだ。
「佐々木さん。」田所博士が声色を変えて言った。
。「正直に申し上げて、あなたのような一般の方をこの計画に巻き込むことには迷いもあります。しかし…あなたが抱いた直感は貴重です。数学や物理の専門家ではないあなただからこそ見える視点もあるかもしれない。」田所博士の声に熱を帯びる。「もしよろしければ、プロジェクトに参加してみませんか? といっても研究そのものをお願いするわけではありません。観察者として、時には我々のアイデアに意見をいただく程度で構いません。何より、これは私個人の願いですが…世間とこの計画を繋ぐ懸け橋になっていただきたいのです。」
唐突な誘いだった。佐々木は驚き、言葉を失う。「私でお役に立てるでしょうか…」戸惑う彼に、田所は力強く頷いた。「もちろんです。」一瞬の沈黙。佐々木は自分の鼓動がさらに速まるのを感じていた。引き受ければ、平凡だった日常には戻れないかもしれない。それでも――。「…よろしくお願いいたします。」気がつくと言葉が口をついて出ていた。田所博士の満足げな声が響き、「ありがとうございます。では早速ですが…」とこれからの流れについて説明が始まった。




