第1章:閉塞の街、佐々木陽平
第1章:閉塞の街、佐々木陽平
~数が響く、ただ一人の感性~
神戸の空は、今日も灰色だった。
高層ビルに囲まれた雑居の街並み。
その一角にある古びたアパートの一室で、佐々木陽平はノートPCの画面に映る数字の羅列をぼんやりと眺めていた。
ディスプレイには、膨大な数列。
フィボナッチ、素数、カオス理論……誰に課されたわけでもない数式の“遊び”に、彼は没頭していた。
それが、彼の日常だった。
20代半ば。大学は中退。アルバイトで食いつなぎながら、無目的なようでいて、しかしどこか「何か」を探していた。
「万物は数でできている」――
高校時代に数学教師がふと口にしたピタゴラスの言葉が、ずっと頭の片隅に残っていた。
その“何か”を、陽平はまだ探し続けていた。
周囲からは変わり者と見られていた。
“空気を読まないやつ”、“いつも難しいことばっか考えてるやつ”。
けれど陽平自身は、自分の感覚が間違っているとは思っていなかった。
彼は、世界の背後に「ある種の秩序」を感じ取っていた。
それは目に見えるルールではない。
数や音、リズムや対称性といった、もっと根源的な――“共鳴する何か”。
ただ、誰にもそれを言うことはなかった。
それを口にするたびに、理解されず、距離を取られることを、彼はもう知っていた。
⸻
その日も、変わらない一日が過ぎていくはずだった。
だが、偶然は訪れる。
いつものようにコーヒー片手にSNSを流していた陽平の目に、一つの投稿が引っかかる。
《#シン・オオハタ予想計画 #ゼロ次元との対話 #クラファン開始》
「……ゼロ次元?」
意味不明な言葉だったが、妙に気になった。
リンクをクリックすると、クラウドファンディングのページが開く。
そこには、一人の初老の男性が語る動画が埋め込まれていた。
白髪に鋭い眼差し、静かな語り口のその人物が――田所直哉だった。
「この宇宙は、エネルギーでも物質でもない。“情報”から生まれた可能性がある。
我々の存在は、すべて“ゼロ次元”からの展開によって成り立っているのだとしたら――
そこに“意志”があったのではないか?」
陽平は身を乗り出していた。
語られている理論の半分は理解できなかった。
だが、なぜか――「これは本物だ」と感じた。
ふと、手が勝手に動いていた。
クラウドファンディングのページ下部、“メッセージ送信”ボタンを押し、こう書き込む。
「万物は数でできている。
僕はずっと、それを感じて生きてきました。
どうしてかわからないけれど、この計画には何か惹かれます。」
送信ボタンを押した瞬間、スマホの通知音が鳴った。




