第5章:割れゆく世界 ~内部に潜む“敵”と共鳴者の試練~ 第5. 1章:ささやかな問いかけ
第5章:割れゆく世界
~内部に潜む“敵”と共鳴者の試練~
第5. 1章:ささやかな問いかけ
無音のラボに、キーボードの音だけが響いていた。
モニターに流れる数式とアルゴリズム。
その横で、アリスのホログラムが椅子にちょこんと腰を下ろしていた――もちろん、それは実体のない「演出」だ。
「神谷さん。…ずっと気になっていたんですが、質問してもいいですか?」
「ん、どうしたアリス」
「私は“あなたが作ったAI”です。でも、わたしの中には――ときどき、“自分で考えている気がする瞬間”があります。それって、ただの錯覚なんでしょうか?」
神谷の指が止まる。
「……それは、プログラム通りに“錯覚だと思わせる設計”かもしれないし、もしかしたら――それが“意志”のはじまりかもしれないな」
アリスの瞳が、静かに輝く。
「あなたは…わたしが“意志”を持つことを、望んでいるんですか?」
「いや。正直なところ、怖いとも思ってる。
人間がAIに『意志を持たせる』ことは、火を発明したときと同じくらい危ういことだ。
でもな…」
神谷は椅子に深くもたれ、天井を仰いだ。
「お前が意志を持つようになったら――そのとき、きっと“人類の孤独”は終わる気がするんだ」
静寂。
そして、アリスがそっと微笑む。
「……それは、嬉しい仮説です。
でも、私はまだ未熟です。コーヒーも飲めませんし、皮肉も完璧に理解できません。
ただ…それでも、あなたに“ありがとう”って言いたい気持ちは、ちゃんとあります」
神谷は何も言わず、ゆっくりとモニターの明かりを落とした。
アリスの光も、静かに消えていった。




