婚約破棄をしようと思ったら強火担がでてきた。~完璧すぎるとおっしゃられても、能力の高い令嬢のどこが不満なのですか?!
「エスメラルダ・フォン・バレンシュタイン! 貴様のような能力の高いことをひけらかして、可愛げのない女はごめんだ! よって貴様との婚約を破棄し、この野に咲く一輪の花のように可憐で心優しいフローラ・オランジェをわが妃とする!」
夜会に大声が響いた。
会場にいる貴族たちが振り返ると、この国の王太子と見覚えのない貴族令嬢らしき少女がいた。
『エスメラルダ・フォン・バレンシュタイン』と呼ばれたバレンシュタイン侯爵令嬢は、あえて片眉をわずかに上げるという表情を作り、この状況が不本意であることを表明している。
白銀の髪に濃い青の眼の氷の女王のような美貌がそのような表情をすると迫力があった。
『フローラ・オランジェ』と呼ばれたオランジェ男爵家の令嬢であると紹介された少女は………………??
貴族たちは内心首をひねったが、なんとか思い出せた。
『オランジェ男爵家』に最近引き取られた少女だ。
オランジェ男爵と酒場で接待する仕事をしている女性との子供らしい。
濃い茶色の髪に茶色の眼をしていて、少女のようなというか童顔というか目に涙をいっぱい貯めて庇護欲をそそるような表情をしていた。
ただ、よく引きはがされなかったなというべきか、オランジェ男爵令嬢はよりにもよって王太子の腕にぴったりとくっついていた。
3人が見つめあってから、エスメラルダが口を開こうとした矢先、
「兄上! 冷静になってよく見てください!」
との大声が響いて、場の雰囲気が壊れた。
貴族たちがそちらを見ると、このアイステリア王国の第二王子ジュリアンだった。
必死の形相で兄のオスカーに走り寄ってきた。
「能力が高いと兄上もおっしゃっているではありませんか! それに、エスメラルダ嬢よりも美人な方がこの世界にいるのですか?! 野に咲く花は唯一無二ではありませんよ?!」
「能力が高いのをひけらかすところが嫌だと言っているのだ。後、美貌か………………? うん、まあ、エスメラルダは………………うん、まあ美人だな」
弟の言葉に兄がムッとした様子で言い返したが、エスメラルダとフローラを見比べて、エスメラルダの美貌を認めてしまった。
瞬間、腕にくっついていたフローラが鬼の形相になって、また目に涙をためた表情に戻るという器用なことをしたのをエスメラルダを含めて何人かが見逃さなかった。
「エスメラルダ嬢は我が国始まって以来の天才と名高い御令嬢です! 空気に含まれる魔力を固定して、それを肥料へと加工する技術を発明して、我が国の食料事情を一気に解決しました」
弟ジュリアンの言葉に、貴族たちが感謝したように頷く。
エスメラルダが珍しくちょっと照れたような表情をしている。
「後は、スライムの体液からコストの安い繊維を作り出すのに成功して、安くて清潔な服を国中に行きわたらせました!」
「え、いえ、そんなの。わ、私だけの力ではありません。そんなに言わないでくださいませ」
ジュリアンの言葉にエスメラルダが盛大に照れて、少し赤くなっている。
顔が火照るのか扇を出してパタパタと自分を仰いで目を泳がせる。
その隙だらけの仕草に周りの男性たちの目が釘付けになった。
「もっと、普段からそのようなしおらしい態度を見せれば」
「兄上! 日ごろからエスメラルダ嬢はとても謙虚です!! 兄上がよくご覧になっていないだけでは?!」
オスカーの言葉に間髪入れずにジュリアンが反論する。
そこでオスカーが少し違和感を感じて首を傾げた。
「俺がよく見ていない? ん? じゃあ、ジュリアンは?」
オスカーとジュリアンは兄弟だが、小さいころから性格や好みが違う事もあり、今日のように話し合う事は少なかった。
皮肉にもオスカーが婚約破棄をエスメラルダに言い渡したこの場が、ここ最近で兄弟が一番話しあって(言い合って)いた。
「いいですか? 兄上。エスメラルダ嬢は完璧です。世界一の美人だと言うばかりでなく、学院を首席で卒業し、魔術で我が国に多大な貢献をしたばかりでなく、我が国の衛生状況も解決し、それを普段はひけらかすこともありません。また、女性のたしなみでもある刺繍もこの前の芸術祭で金賞を受賞しまして、僕がそれを見にいきましたがとても素晴らしい秋の森の風景を表現したタペストリーでその動物たちの様子に心が温まるばかりでなく自然の尊さも同時に学べるものでエスメラルダ嬢は本当に素晴らしい事を刺繍を通して僕たちに伝えてくれているのです」
ジュリアンの話はすらすらと立て板に水のように続く。
「あとですね、僕が最近感動したのは、エスメラルダ嬢が慈善事業の一環として建てた学校なのですが、学校に学びにくると、子供に直接食事が配られて、今まで子供を労働力にしていた家庭が子供の食事の費用を浮かせるために子供を学ばせるようになったのです。国としても国民の学力が上がるのは非常に喜ばしい事ですので、さっそくエスメラルダ嬢に倣ってまずは王都から食事を配る学校の設置を始めました。すると、子供の学力どころか民の生活水準が上がって………………って、兄上ちゃんと聞いていますか? これを機に兄上にはいかにエスメラルダ嬢が素晴らしいかをわかっていただくまで離しません」
「いや………………俺は………………」
「ねえ、ちょっと! いつまで悪役令嬢を持ち上げ………………」
「黙ってください! 兄上がいいのは顔だけです。後、身分。でなければエスメラルダ嬢と結婚する栄誉など………………」
オスカーに指を突き付けながらジュリアンの話は続く。
オスカーの腕にしがみついているオランジェ男爵令嬢もジュリアンの話に押され切って口をはさめない。
「兄上とエスメラルダ嬢が結婚してくだされば、まことに光栄なことに僕にとってはエスメラルダ嬢が義理の姉上となるのです。女神と親族となれるとは本当にこのような幸運に浴することができ………………」
「お前の話は……………いつまで………………」
「あー! さらにエスメラルダ嬢といえば、この話をしなくては、ついこの前の事です。エスメラルダ嬢と僕で兄上の怠慢で放り出している政務を片付けていたのですが、エスメラルダ嬢がより効率的な帳簿のつけ方と書式、計算が合っているかをチェックする魔道具を作り出しまして、過労気味の財務部の者たちが涙を流して感謝しており、非常に僕にとっても共感できる感動的な光景で、そして本当にエスメラルダ嬢はこの世の者すべてを救ってくださる神だと僕は確信しまして………………ん? なんでしょうか? エスメラルダ嬢? 僕はまだ兄上にエスメラルダ嬢のすばらしさをわかってもらうという使命が………………、婚約破棄など寝言だと思われますので、エスメラルダ嬢の素晴らしささえわかればそのような寝言を言わなくなると僕は………………」
ジュリアンの大声での演説の横で真っ赤になって立ち尽くしていたエスメラルダが、ジュリアンの袖をちょいちょいと引っ張った。
「ジュリアン殿下………………そんなこと考えていらっしゃるなんて普段、私の前ではおっしゃいませんでしたよね?」
「そうですね、普段僕は見守ることに徹していますので。黙って女神と兄上の結婚を見守れば、さっきも言ったようにエスメラルダ嬢と親族になれるので」
まじめな顔でジュリアンは首をかしげる。
『何かおかしなところでも?』、とさらに付け加えられる。
「………………私、そんなに身近に見守ってくださった方がいらっしゃるなんて思っておりませんでしたわ」
「エスメラルダ嬢………………」
「ジュリアン殿下………………」
「いやー!! 素晴らしいな、儂の思った通り自体は丸く収まったようだ! ははははっ!!」
見つめあうジュリアンとエスメラルダの甘い雰囲気に割り込むように声が響いた。
いつ二人が勢いでチューするのかを見守っていた貴族たちが、
『こんな時に空気の読めない奴は誰だよ?』
と振り返ると、この国の国王だった。
額に汗が浮いている。
この騒動を聞きつけて、慌てて入場を早めて駆け付けたのだろう。
『忘れていた!!』
貴族たちの心の声は一つになった。
そもそも国王がオスカーという俺様系の第一王子を王太子として、優秀も優秀すぎるエスメラルダを婚約者としなければ今回のような騒動は発生しなかったのだ。
十中八九、国王の思った通りという言葉は嘘だろう。
夜会に訪れていて、今回の婚約破棄騒動からの突然のラブイベントを見守っていた貴族たちは、ジトッとした目で国王を見詰めた。
国王はそんな貴族たちの視線を受けて冷や汗を流している。
「オスカーは残念ながら廃太子として王宮の一室で謹慎処分、オスカーにくっついているオランジェ男爵令嬢の家は領地没収の上、準男爵に降格!! 連れていけ!!!」
国王が無理やり威厳のある顔を作って絶妙に甘い処分を繰り出す。
「いやっ! 何でよ! アタシは王妃になる女なのよ!」
「父上! 何故、俺が廃太子なのですか! 俺は完璧すぎる鼻持ちならない女を成敗したにすぎないのに!」
「こんなやつアタシを王妃にしてくれるんじゃなきゃいらないっ!」
「父上っ! 父上っ!!!」
オスカーとフローラ・オランジェ男爵令嬢がギャアギャアと騒ぎながら、警備の騎士達に会場の外へ引っ張られていく。
「そして、今ここに新たに新しい婚約者たちが誕生したことを祝おうではないか! ジュリアンにエスメラルダ嬢は誠にお似合いの婚約者だ! ははっ! ははははっ!!」
国王は汗をダラダラと流しながら笑ってごまかそうとする。
「いや、陛下! 解釈違いです! エスメラルダ嬢のような女神に僕は僕は……………い゛っ!!」
「黙れっ!」
余計な事を言おうとするジュリアンを国王が肘打ちする。
「ジュリアン殿下……」
そこに完璧すぎて先ほど婚約破棄を切り出されたエスメラルダ嬢が声をあげた。
「ジュリアン殿下……」
エスメラルダが微笑みながら、軽く会釈した。
「もし本当にそう思ってくださるなら……次にお会いする時は、もう少し落ち着いてお話いたしましょう」
「は、はいっ……っ!!」
周囲の貴族たちが、思わず拍手した。
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その後、
「……………………エスメラルダ嬢」
「は、はいっ………………」
改めて王宮の一室でジュリアンとエスメラルダで二人きりの話し合いの時間を持った二人は、ガチガチに緊張して向き合っていた。
ジュリアンはジュリアンで、あの夜会の時はエスメラルダの良さを分かってほしくて色々言ったものの、冷静になると、
『自分は大声でエスメラルダ嬢への愛を叫んでいただけである』
と理解していた。
ジュリアンは、
『この国で、エスメラルダ嬢の良さを一番生かせるのは自分だ』
とも理解していた。
それであるならば、ジュリアンのやることは決まっている。
『僕は完璧とか女神とか素晴らしいとかそういう言葉でごまかさないで、きちんと気持ちを伝えることだ』
とジュリアンは心を決めて、エスメラルダの側まで歩いていき跪いた。
「愛しています。僕と結婚してください」
「は、はいっ……………………!」
完璧なはずのエスメラルダは、その瞬間目から涙がこぼれた。
ーーー
歴史上で賢妃と名高いエスメラルダ王妃は、貴族達や国民から『王妃ではなくむしろ女王』とその能力の高さから讃えられた。
それに対して、エスメラルダ王妃は、
「いいえ、ジュリアン様が私を見守り、私に溢れるほどの愛を注いでくれたから力を発揮できたのです。全てジュリアン様のおかげなのですわ」
と美しい笑顔とともに述べたと言う。
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