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Shutter:9 もんどり作戦

「もう少し下りますか〜」


またハンドルを握り、ミューの指示通り10分ほどゆっくり下っていく。


すると、そこそこ広い池が現れた。


車の窓を開け、付近の様子を伺う。


「ミュー、きれいだね。ここなら大きな魚が居そうだけど、深いから網では捕れないね〜」


「そうだにゃ。網は無理そうだにゃ。釣りならどうにゃ?」


「釣りは待つのが苦手なんだよなぁ〜。気が短いから」


……あ、でも「アレ」ならいけるかも!?


付近にある大ぶりな木とつるを山盛りに集め、頭に「アレ」をイメージする。


「錬金!」


大きな声で唱えると、目の前が白く光る。


光りが消えると、細長くて、節に返しがある「もんどり」が、8個ほど出現した。


「コレよコレ。ウナギとか捕るときにつかうやつ」


先程上流で捕ったカニを具現化する。


動いていない……。

まるで冷凍されているような様子だ。


まぁいいかとそのまま石で叩き割り、粉々にしていく。


「凶悪だにゃ……。見てられにゃい」


ミューはゆっくりと後ずさると、「探索してくるにゃ」とどこかに行ってしまった。


少し粘り気がある団子状にし、もんどりの中にポイッと入れた。


もんどりについているヒモを大きな石に固定し、池に沈めていく。


あとはこのまま数時間放置するだけだ。


黙々と作業を続けていると、辺りを巡回してきたミューが戻ってきた。


「人が住んでいてもおかしくないような場所だにゃ。でも気配がないにゃ」


「そなの? 村とかありそうなのに。……あ! もしかして暴れ川とか?」


「かもしれないにゃ。雨が降ると流されるかもしれないにゃ」


……あー。

元の世界の地元もそんな歴史があった。


川がすぐに氾濫するため、近年になって整備されるまで人が住み着けなかったとか。


「それじゃあもう少し下ったところに集落があるかもね」


「そうだにゃ。川の水から少し離れたところにありそうにゃ」


人のいる場所に近づいてきた予感がする。


でもちょっとその前に腹ごしらえ。


もんどりを待つ間は、新しく発見した植物や動物の写真を撮ったり、付近にある竹のようなものを水筒に加工して水を確保したり。


目の前の事に集中していると、あっという間に日が暮れかけていた。


「じゃ、そろそろ上げようか。どのくらい入ってるかな〜」


まずは一つ、もんどりを引き上げると、そこには手のひらくらいの大きさの魚が入っていた。


とりあえずインスタントカメラで写真を撮る。


「ゴイね〜。川魚くさいかもだけど、身は多そうね〜」


絞めるのは面倒なのでそのままリュックに詰めようとすると、ミューが横から掻っ攫う。


「ミューなにするの!?」


「このままアイテムボックス入りはもったいないにゃ。適切にさばくにゃ」


そう言うとミューはバシッとゴイの頭を叩き、気絶させる。


しゃきっと爪を出し、平らな石の上に置くと、その鋭利なもので器用に尾から頭まで身を割いていった。


「うわぁ。カニを潰すよりこっちのが見てられないやぁ」


「そうかにゃ? 食べるのに必要な加工なら、ミューはむしろ前向きに取り組むにゃ」


頭を取り、内蔵を取り出していく。


ミューのふわっふわな白い毛が、見るも悲惨な状態になっていた。


身をすき、皮を剥いでいくと、冊の状態になる。


「このくらいすれば美味しく食べられるにゃ。コンロと鍋を出すにゃ」


「はいはい」


水を煮沸した際にリズが使用していたのを見て、ミューは操作を覚えていたようだ。


後ろ脚でふんばり、前脚で器用にコンロをつける、鍋の上に身を置いた。


「リズ、悲報にゃ。ひっくり返すものと皿がないにゃ」


まるで絶望したかのような顔でこちらを見て、コンロの火を止める。


リズはそれを見て「ぐふふ」と笑うと、「ちょっと待ってて」とまた竹のようなダケという植物を伐採した。


小さめのヘラのようなものを作り、ミューに渡すと、納得したようにコンロの火をつける。


その間に節の両サイドを切り、縦に割った皿のようなものを2つ作った。


ついでに簡単な箸も作っておく。


「火が通ったにゃ」


リズが皿を渡すと、ミューが綺麗に盛ってくれる。


一つは大盛り、もう一つは三口分ほど。


「ミューも食べるの? 大気中の魔力を食べるから、おなかが空かないんじゃなかったっけ?」


「美味しいものは別にゃ。肉や魚は大好物にゃ」


自分も猫舌だが、ミューも同じようで、よく冷ましてから口をつける。


「いただきます」


少し藻臭いが、食べれないことはない。


黙々と目の前のものを平らげると、何だか血が通った気がした。


一息つき、鍋を洗おうかと腰を上げると、そういえばとミューの惨状を思い出す。


「ミュー、そのままだと車に乗せないよ。洗おう」


「嫌だにゃミューは水が嫌いにゃ」


問答無用で暴れる持ち上げ、ゆっくり池に漬けると、シュンと毛が縮まる。


ミューを落とさないように支えながら汚れを落としていくと、どうにか許容範囲の臭いに落ち着いた。


「さてどう乾かそうか……」


濡れたままだと風邪をひくし、車に乗せたくない。


……焚き火だ!


陸地にミューを下ろし、枯れ枝と枯れ葉を集める。


カセットコンロで枯れ葉に着火して、細い枝をくべていった。


少しずつ枝を太くして、焚き火を大きくしていく。


そこそこのサイズになる頃には、辺りは真っ暗になっていた。


「今日はここでキャンプだねぇ。あったかい」


ミューを膝にのせ、毛を漉きながら暖をとる。


少しずつモフモフさを取り戻していく感触が手に伝わり、幸せな気分になった。

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