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Shutter:4 車とチョコレートとカメラ

「起きるのだにゃ!」


……

耳元からうるさい声がする。


ペシペシ

「この寝坊助、起きるのだにゃ!!」


おでこを肉球で圧迫するように叩かれ、ようやく目が覚めた。


「っえ?ふぁ〜おはよう〜

 ええー!すごーい!!木!木!土!木ー!!」


目覚めたらそこは、一面広葉樹で埋め尽くされた、田舎の山に似た森の中だった。


ふと横に目をやると、白い長毛のネコが、ふさふさとした大きなしっぽをぱんっ、と地面に打ち付けている。


「やっと目が覚めたかにゃ、李寿々」


見覚えのある青い目は、もしかして……!


「女神様の従魔!?」

「一応そういうことになってるにゃ。わらわのことはミューと呼ぶにゃ。リズ」


自分の名前を紹介するついでに、私の名前を略しやがったな……!

ってか、そうか。私はこれから、この世界で生きていくんだ。

魔法の世界って、自分の真名まなを知られると、魂を抜かれるってなんかのラノベで見た気がするし。


「りょうかい、ミュー。ミューは女神さまと雰囲気が違うね」


ミューはポンコツ女神と違い、落ち着いていて、気品がある。

少しジトっとした目と小柄な体格は、ご愛嬌なのかな。

首には豪華な装飾を身に着けていて、その中心には大きな虹色の石が輝いていた。


「ミューはあの無能と違って、かしこいのにゃ」


ドヤァ、という文字が背後に見えそうなくらい胸を張ったミューが可愛くて、思わず持ち上げて抱きしめてしまった。


イヤそうな表情をしたミューが、鼻先をツンと私の背後に向ける。

今更過ぎるが、背後に大きな「なにか」があることに気づいた。


クマか、イノシシか……。

何かの獣だったら怖いな……、と思いながら振り向く。


するとそこには、見覚えのある深い緑、バックエンブレムに輝くステッカー。

元の世界でお迎えから3年、苦楽を共にしてきた愛車がドスンと鎮座していた。


「ハ〇ラーだ! なんで!?」

「無能女神からのおまけにゃ。移動手段も、寝るところもないと、さすがにかわいそうかとおもったようにゃ」

何もない、サンドボックスゲームのような「オノからの出発」と思っていた私には、嬉しい誤算だった。


「がそりん? とかいうのは不要にゃ。ミューの力でなんとかなるにゃ」


なんと……!? 燃料いらずだと……!

遠くまで走らせたかったけど、ガソリン代とETC代を考えるとなかなか遠出ができなかった私にとっては、最高の環境ではないか……!


「ミュー意外とすごいんだね。ってかドアあかない」


「意外はよけいにゃ。ミューはすごいんだにゃ」


ミューは鼻を鳴らすと、もふもふと毛におおわれた胸元から、水色のスマートキーを取り出した。


「リズは一応女だから、用心するに越したことはないにゃ」


「一応は余計っ」


スマートキーをいつものようにバッグに入れようとする。

しかし、いつも斜め掛けしているショルダーバッグがそこにはない。


「あれ? バッグは……?」


「車に新しいバッグが積んであるにゃ。これも無能女神の加護がついてるにゃ」


ミューの視線に従い、車のロックを解除し、後部座席を覗く。シンプルで青い、見慣れたカメラリュックがぽつんと転がっていた。


「なんだ、ご加護ってなにもないじゃん。これただの私の商売道具だよ」


「とりあえず開けてみるにゃ」


リュックの大きなポケットを開くと、いつものように仕切りがない。愛機の一眼レフもない。


ただ漆黒がぐるぐると渦巻く空間が広がっているだけ。


「私の〇百万が……」

喪失感にポカンとしていると、ミューに「とりあえず手を入れてみろ」と小さな体でジェスチャーされる。

意を決して漆黒に右手を突っ込んでみると、目の前に半透明のステータスが表示された。


『カバンのなか』という枠の中には、【カセットコンロ×1】【片手鍋×1】【チョコレート×999】と記載がある。


おそるおそる【チョコレート】という項目を左手でタッチしてみると、幼い頃からよく口にしている、銀紙に包まれた板チョコが目の前に落ちてきた。


「おおっ! チョコが具現化した!!」


「もとの世界でリズの好物だったようだにゃ? 無能が一生懸命リズのことを調べて用意していたのにゃ」


「さっすが! でも残り998……。有限か……」


少しの間ならチョコで生きていけそうだが、毎日毎食だとさすがに飽きる。

食料の確保は最優先だな……。


今後はどうしていこうかと考えていると、ミューに足をちょんちょん、とつつかれる。


「リズ、まず全体ステータスを表示してみるにゃ」


「全体ステータス? どう表示すればいいの?」


「右手をシャッ、と斜め下に振り下ろすのにゃ」


言われたように右手を振り下ろしてみると、先ほどリュックの中に手を突っ込んだ時とは比べ物にならないくらいのステータスウインドウが、一度にズラリと表示された。


いちばん左上に表示された、固有ステータスをタッチし、拡大して表示する。


-----

名前:リズ

レベル:28

職業:フォトグラファー


体力:40

魔力:18

攻撃力:38

防御力:9

素早さ:20

器用さ:18

知能:15

運:12

-----

体力が他の項目よりも高いのは、激務の毎日を過ごしていたからなのかな?


普段RPGゲームでキャラクターを育成する時と同じように、攻撃力に特化しているのはなんだか面白い。


右上にある縮小ボタンを押し、固有ステータスを元の大きさに戻す。

今度はひとつ下にある、スキルステータスを拡大表示した。


-----

スキル:

【カメラ Lv1】

【アルバム】

【火属性 Lv1】


-----


【カメラ Lv1】をタッチすると、右手にひやりとした小さな箱のようなものが具現化する。


「写ル〇です……?」


小学校の修学旅行で使用した覚えのある、あの有名なインスタントカメラがそこにあった。


「リズ、写真を撮ることによって経験値がもらえ、スキルレベルが上がっていくにゃ。スキルレベルが上がると、もっと良いカメラが使えるようになるにゃ」


「そういうことね、りょうかい」


まずはフィルムをしっかり巻き、ミューにカメラを向けて、シャッターボタンを押す。


ーーカシャッ


独特のシャッター音が響く。


それと同時に、スキルステータスの【アルバム】の文字色が変化した。


【アルバム】をタッチすると、5×5マスの四角がズラリ並ぶ。

その左上を見ると、先ほど撮影した、すました顔をしたミューの画像が表示された。


「へえー、これは便利だね。これって共有とかできるの?」


「他の者とステータスを通して画像を共有することは今はできないにゃ。もしかしたら今後はできるかもしれないにゃ」


「そっかぁ。それじゃあ、他の人には見せられないってことね」


「空間に投映はできるにゃ。試しに画像をタッチして、詳細を開くにゃ」


ミューの画像をタッチすると、画像の下に【守護神:ミュー】と概要が表示される。

画像の右に【検索】【投映】【設定】とコマンドがあるため、【投映】をタッチする。

すると空間にA3用紙ほどのタブレットが具現化され、先ほどの写真が表示された。


「すごー! これなら写真を見られるね」


今度は【検索】ボタンを押すと、ミューを撮った写真の背景に写りこんだ木や草に、注釈がつく。


「カサゴダケ……たべられない、ミドリ草……キズ薬の材料……、便利ねこれ」


食べられる、食べられないを識別できそうだ。

とりあえずそれがわかるだけでも、今の私には大きなアドバンテージだ。


右上の×を押し、タブレットを消すと、アルバムの画面に戻る。


もう一度フィルムを巻き、ファインダーをのぞくと、右上にバーが表示されていることに気づいた。


「ミュー、これがカメラの経験値?」


「そうだにゃ。珍しいものを撮ると、そのぶんたくさんの経験値がもらえるにゃ」


「へー。」


幼い頃から大好きなゲームみたいで、ちょっと楽しいな。


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