Shutter:2 道中
〜♪〜♪♪〜♪
大好きなアイドルグループのアルバムを、カーオーディオから流し、口ずさみながらハンドルを握る。
そういえば、来月はそのアイドルグループのコンサートがある。
そろそろ準備を始めなければ。
うちわを新調しようか……。
推しぬいの衣装をどうしようか……。
推しに会いに行ったり、グッズを買ったりするために、私は仕事をしていると言っても過言ではない。
今は国民的男性アイドルグループの青担当をメインで推しているが、私の琴線に触れれば男女関係なく幅広く追っている。
なんたって娘。から始まり、青春をイケメンを養成しているあの事務所に捧げた筋金入りだ。
そんなドルオタ=年齢くらいで生きている私は、佐伯李寿々(さえきりすず)。
28歳で、フォトグラファーをしている。
フォトグラファーというと、会社に所属して、雑誌や広告などの撮影をしたり、モデルを撮影する印象が強い。
私の場合は専門学校を卒業後、結婚式や七五三などを中心に撮影する写真館で5年ほど修行をし、独立した。
今はフリーランスで、お客様の幸せな瞬間を写真として残すため、日々精進している。
お気に入りの音楽を聴きながら、運転すること約2時間。
険しい峠道を登っていく。
お客様と取り決めた、集合場所の駐車場まであと少しだ。
「ん〜? この辺はめっちゃ雨降ったんかな? すごく道路が濡れてるやん……。これ、上まで登れるんか…?」
反射する路面に不安を感じながら、慎重に運転を続ける。
2つ目のヘアピンカーブを曲がったその瞬間ーー。
「あぶないっ!!!」
前方から倒れた木々の混じった、茶色い土の壁が押し寄せてくる。
ギギギー、ガシャン。
全体重をのせてブレーキを踏んだが、間に合わなかったようだ。
体がバラバラになるような衝撃が走る。
意識はあっという間に遠のき、暗い暗い闇に呑み込まれた。