Shutter:1 日常
「それでは、撮りますね〜! いち、にの、はいっ!」
これは、ある日いきなり異世界にとばされたフォトグラファーの物語である。
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テレレテレレテレレレン〜♪
X〇eria独特のアラーム音が、まだ日が昇っていない暗い部屋にこだまする。
「あ〜まだ眠い……、あと5分……」
今日はいつもより3時間も早くアラームをセットしている。
なぜなら、少し変わった撮影依頼が入ったためだ。
約1ヶ月前――SNSにある1通のDMが届いた。
栗色に染めたボブの髪に、ノースフェイスのバケットハットを被り、カメラ背を向け、ソフトクリームを片手に持ったアイコンの女性からだ。
「いつも素敵な写真を拝見しています! ずっと撮ってほしいと思っていたのですが、機会がなく……。 もうすぐ結婚するため、前撮りの写真をお願いしたいです!」
激務の合間を縫って、定期的に更新しているSNSのフォロワーのようだ。
「ご連絡いただきありがとうございます。前撮りの撮影ですね。ご希望の日付、場所、撮影内容を教えて頂けますでしょうか?」
返信返信……、っと。
「日付は5月の2週目の土日でお願いします! 場所は〇〇山の頂上で、日の出と一緒に撮影してほしいです! 撮影内容はウエディングドレスを着て撮りたいです!」
山の頂上でウ、ウエディングドレス!?
確かあの山は標高800mくらいあったはずだぞ……!?
よくよく話を聞いていくと、依頼してくれたカップルは山登りが趣味で、出会いも大学の山岳サークルとのこと。
結婚式に山登り仲間をたくさん招待するため、自分達らしい写真を使って、ウェルカムスペースを飾りたいそうだ。
私は元々田舎の山育ち。
あの辺りの山なら、幼い頃に何度も登った。
滅多にない面白い依頼のうえ、私には持って来いの撮影だと思い、ふたつ返事でOKした。
作戦としてはこうだ。
・日が昇る前に、頂上にいちばん近い駐車場まで車で乗り付ける。
・ウエディングドレスはシンプルなものを選び、コンパクトに畳んで、リュックに入れて背負う。
・空が白んでいるうちに頂上まで登り、着替えて日の出を待つ。
その面白そうな撮影が――、今日。
夜型人間のため、朝はめっぽう弱いが、スマホのスヌーズを止めて布団から出る。
いつも通り寝起きはテンションが低い。
あったかいコーヒーを入れ、カフェインを摂取すると、わくわくした気分になってきた。
支度をさっさと済ませ、自慢の愛車に機材を積む。
エンジンをかけ、フットブレーキを解除すると、鼻歌を歌いながら集合場所へと向かった。