『火の王、サラマンドラ』
レンナは熟慮した上で、大地の王に申し出た。
「……それでは私に残された時間はあまりないようです。宇宙の九月が過ぎて、天弧に移行してからでは、水の精霊界が入り込む余地はありません。まだ地の精霊界の裁可が及ぶうちに、事を運ぶ必要があります」
大地の王は頷いた。
「それが望ましいであろう。だが、それでも火の王の容認が必要ではある。ここはそれだけ火の精霊界の経路に近い」
「ですが、火の王は移行前の休眠中では。どのように認可をいただいたらよいでしょうか?」
「心配には及ばぬ……来てくだされた」
「えっ?」
すると突然、レンナの左側に猛火が立ち昇った。
その炎が割れた中から現れたのは、巨大な体躯をくねらせた火竜——火の王だった。
「先ほどからわしを呼んでおったのは、おまえか」
頭上から怖じ気たくなるような声が降ってきた。
実際には声ではなく、テレパスなのだが。
レンナはあまりの迫力と燃え盛る炎にたじろいだ。
すると、大地の王がレンナの右肩を頭で前に押し出した。
我に返って、礼を取る。
「初めてお目にかかります、火の王様。私は万世の魔女と申します。この霊長砂漠の天地の気の乱れを収めるよう、万世の占術師に仰せつかりました。火の王様に置かれましては、どうぞ勘気をお解きくださいますよう、お願い申し上げます」
火の王は冷たく燃える紅玉の瞳で、レンナを見据えた。
「知らぬのか? 砂漠とは我らが源、ビナーが止むなく燃やし尽くした場だということを。この地は治める者もなく、人の負のエネルギーが荒れ狂うに任せ、天地の恵みが流入しなくなった。人の王に救う手立てがないのなら、精霊界が介入する。故にこの砂漠はわしの裁可にある。そうであろう? 地の王よ」
火の王が大地の王に話しかけた。大地の王は凛とした声で云った。
「紛うことなき約定でしたね、火の王……。しかしながら、人の王とも天の運行を考慮した上でのやむなき決断だった。万世の占術師が施した陣から半世紀。次代を担う者が新たな陣を作るためにやってきたのであれば、耳を傾けるのが筋というものでしょう」
「ほう……それで貴殿はこの地に介入できないものかと、探りに参ったということですかな」
「失敬な。私はこの地に水と風を呼ぶのであれば、あなたの容認が必要だと、助言に参っただけです」
「水と風だと?! 我らがビナーの御燈に水をかけると申すか!!」
ゴオッと空気が渦巻いて、天地に炎が走った。
大地の王はレンナを守って、緑の結界で炎を跳ね返した。
大地の王がレンナに云った。
「火の王に搦め手は通用しない。私のように正面からぶつからなければ道は拓けない。全身全霊で火の王を説得しなさい」
レンナは火の王の勘気に圧倒されながらも、大地の王に神妙に頷くと、数歩前に出た。
「火の王様。私は決してあなたの御力の証を損ねたり致しません。どうか話をお聞き届けください」
すると火の王は、レンナに顔を近づけた。
「ほう……では聞こう。この地に水と風を呼んでなんとする」




