其の五 目標達成の後
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
……と言うか文句はペンギンに言って下さい。
傷が癒え始めた頃、俺達はもう一度あの大型の変異体と戦った場所へ向かった。
何時もよりレトが俺の体に密着している。傷はもう癒えたから大丈夫だと言うのに。
まあ、心配になる気持ちも分からない訳では無い。戦う度俺の体は壊れてしまう。その度にレトの血を啜るのもあまり良いことでは無いのだろう。結局治ったとしても俺の体が傷付いたことには変わり無いのだから。
「……貴方が……傷付く必要は無いと……言うのに……」
そんな言葉をか細い声で、レトは呟いた。
数日を賭けてようやくそこに辿り着いた。
「いやー往復するとつまらないな。新鮮味が全く無い」
フィリップがそう言った。相変わらず雪は降り続ける。
大型の変異体の死体が未だに残っている。それも数日の白い雪で殆ど埋まってしまったが。
俺達はその先へ向かった。
すると、レトはその場で雪を掻き分け土の地面を露出させた。
指先を噛み千切り、その血を地面に垂らした。
すると、僅かにその地面が盛り上がった。そこから地面を突き破るように、植物のような物が生えた。
人の背よりも成長したその植物は、葉も付いていない枯れ木に見えた。ただこの雪景色に相応しい無垢銀色に輝いていた。
俺とレトはその枯木に触れた。
「"無垢金色は彼の瞳に""無垢銀色は彼女の瞳に""鬱世を共に""雪の景色に頬を染める"」
「……"無垢金色は彼の瞳に"…………"無垢銀色は彼女の瞳に"……"鬱世を共に"……"雪の景色に頬を染める"」
すると、その木の色に無垢金色が混じった。そのまま勢い良く成長をして、やがて形を変えていった。
まるで花の蕾のような形に変わり、その蕾がゆっくりと開いた。
咲かせた無垢金色と無垢銀色の花の中に、一つだけ、燃え盛る火の丸い塊があった。その火の塊をレトは両手で掬った。
花はまた枯れ木へと変わった。
レトは両手に火の塊を持っているが、全く熱がる様子も無く、それでいてその火の塊を俺に手渡した。
俺はそれを飲み込んだ。どうにもまだ慣れない。
黒い鎖を出し、その鎖を木に巻き付けた。黒い鎖の奥から、僅かな炎が吹き出した。小さく微細で矮小な炎だった。
その炎が僅かに木を焼いた。それと同時にその木は焼け爛れたような様相に変わった。
「これで二つ目。雪が溶ければ良いが」
「そこまで劇的な変化にはならないだろう。結局は見付けなければならない」
「源泉だろ? 分かってる」
フラマはその先の未来を見詰めているのだろうか。俺はまだ分からないことが多いが。
……この木を見ていると、相変わらず不思議な気分になる。レトもそうなのだろうか。
この先へ進みたいが、あまり得策では無いだろう。もう少し物資を集めてからするべきことだ。フラマもそれを知っているのか即座に撤退を勧めていた。
そして、また数日賭けてメルトスノウへ帰った。
本当に長かった。もーそれはそれは、長かった。メルトスノウに完備されている暖炉に当たりながらそんなことを思っていた。この暖炉も魔法技術らしい。科学技術だとどうしても木材を必要とする為あまり多様したく無いらしい。
「あーさぶさぶ。全く何でこんなに雪が降るんだ」
「それを解決する為に、俺達は動いているんだ」
外での仕事に帰って来たフィリップが俺と同じ様に暖炉に当たりながらそう言った。
「ったく、生まれた時からずっとこれだ。毎日毎日雪が降る。たまーに晴れるがそれも一瞬。嫌になる」
「だろうな」
「どうだ。何か思い出せたか?」
「全く。レトとの関係が一番気になるんだが……」
「恋人にしては、まあ態度がおかしいしな。どっかの王様だったりするのかもな。ナナシは」
「まさか」
俺はそこまで大層な人では無いはずだ。まあ、まず人間かどうかも怪しいのだが。
「雪って言うのは嫌なもんだ。当たり前の様に人が変わってしまう」
「……その口振りだと、親しい人が変異したみたいに聞こえるな」
「……まぁな。ちょっと色々あったんだ。あの時は俺もガキだった。雪の怖さもまだ良く分からないまま、あいつを連れて……。……変異体になっちまった。多分、俺が一番最初に殺した変異体はあいつだ」
「……そうか。そう考えると、記憶を失っている俺はまだマシなのかもな。大切な人が変異体になってても、今の俺なら気付かず殺せる」
「成程……そう言う考え方があるのか。血も涙もねぇな」
「そんな物を、棄ててしまうのがこの世界だろう?」
「はっ……言えてるな」
フィリップは辛そうに、しかし確かに笑っていた。
俺は、この雪を溶かす。それはもう決意したことだ。分かっている。
俺にはそれが出来る。それをすることが出来る。それなら、結局やらなければいけないことだ。
……どれだけ傷付いても。
「そう言えば、読み書きは出来る様になったのか?」
「……」
「おい。何か答えろよ」
「……まあ、うん。あれだ。あはは」
「ちゃんと勉強しろよ」
「分かってる分かってる」
面倒……じゃ無くて、今は休憩中だ。そんな難しいことを頭に入れたく無い。
……それにしても、あの銃とか言う物を使う女性。あの女性が気になる。
確か、「……この世界を、救いたいだけ。その為に今まで現状維持をして来た。たった、それだけ」と言っていたはず。あの大型の変異体を倒さないことが世界を救う為の現状維持だとするなら、何か引っ掛かる。
現状維持をする必要が失くなったからこそ、あの変異体を倒して貰おうとした。それなら一応あの態度にも説明は付くんだが……。
それだと、初対面の時に俺達を殺そうとした行動の理由が分からない。
あの時はまだ確信が無かった……。そして俺とレトを見付けてそれが断言出来た……とか。
まずあの女性一人で世界をどうこう出来るとは思えない。だとするとやはり大人数での計画があるのかも知れない。
……あー駄目だ。こう言う考え事はフラマの方が向いている。俺の頭はあまり出来が良い訳では無い。
俺はそのまま、何をするでも無くメルトスノウの中をぶらぶらと歩き回っていた。
あまりすることが無い。やるべきことは全て終わらせ、それでいて時間が余っているのだ。何処かの手伝いに足を運んでも良いが、大体の仕事は素人同然。
それなら……ああ、そうだ。訓練でもするか。一人だが。
そうと決めた足取りは少しだけ軽くなった。
そこにあった木剣を片手に、木で出来た人形相手に打ち込む。それを何度も繰り返す。むしろ俺はそれしか知らない。
人型である以上、変異体との戦闘では意味が無い様にも思えるが、そこはまあ仕方無い。
「……ああ、ここにおられたのですか…………」
見ると、そこにはレトがいた。持っていた布で俺の汗を拭い始めた。
「こんなに……寒い日でも……ここまで汗をかくのは…………少し心配になる程の……運動量ですね……。……何処か体に……違和感は……無いでしょうか……。貴方の体は……まだ分からないことが……多いのですから……。……何が……貴方の体を傷付けるのか……分からないのですから…………」
顔の汗を拭われながらレトのゆっくりとした声を聞いていた。ゆっくり過ぎて眠くなる。むしろ安らぎさえも感じる。
つい愛おしさで、レトの頬を撫でた。レトは少しだけ驚いた様に僅かに瞼を動かしていたが、頬を撫でる手を握ってくれた。
「……どうされました……? ……喜ばしいことでは……あるのですが……」
「……ああ、済まない。少しな……」
「そうですか……。貴方なら…………こんな……私の体で良ければ……気が済むまで……触れて下さい……」
「じゃあお言葉に甘えて」
レトの頬を親指と中指を広げて両方の頬を押した。
もちもちとしている。とてももちもちとしている。ただどれだけ頬を押してもレトの表情は変わらない。指で口角を上げてみても、また何時もの無表情の人形の様な顔に戻ってしまった。
指を離してみると、レトは口角を上げようと表情筋を動かしていた。何だか変な顔になってしまっている。
最終的には自分の指で口角を上げていた。
「……ふふふ……。……駄目ですね。私はどうにも……笑うことが出来ません……。……それの真似事は……恐らく出来ると思うのですが…………」
……愛おしく感じる理由が良く分かった気がする。
「……ああ……そうでした……。……エイミーさんが……呼んでいます……。力仕事をして欲しいと……」
「分かった。行って来る」
ようやくやることが出来た。
俺は早足で鍛冶場に行くと、やはり熱い。いるだけで汗をかいてしまう。
「おー! 来たねナナシ!」
エイミーは上着を脱いでおり、上半身は胸を隠しているだけの服装になっていた。ここならその服装も納得出来てしまう。
それ位は熱い。もう汗が浮かんで来た。
「どーせ暇だと思うからね! 燃料を中に延々と入れ続けるだけで良いからさ!」
「分かった」
エイミーの指示通りに、溶鉱炉の中にスコップで掬った燃料を入れ続けた。巨大な溶鉱炉だ。科学技術だけでは無く魔法技術も組み込んでいると聞いているが、どんな原理なのかは未だに分からない。
と、言うか、今でに読み書きも出来ない俺が魔法技術と言う小難しい原理を理解出来るはずが無い。
その隣で、上着を腰に巻いているフィリップも手伝っている。
「よぉナナシ。お前も手伝いか」
「お前もかフィリップ」
「これから大変だぜ。何せ俺は力任せの雑用を任せられるからな。俺と同じ位の筋力を持ってるお前も同じ扱いになっちまう」
「何もしないよりかは良いさ」
「そんな精神性なら、まあ楽しめるか」
すると、後ろからエイミーの叫び声が聞こえた。
「そこの手伝い二人! ペース上げて!!」
「「了解!!」」
熱を発する溶鉱炉の近くにいる所為で、訓練以上の汗をかき始めた。それを腕で拭いながら、上着をフィリップと同じ様に腰に巻いて燃料をどんどん入れ続けた。
数時間程入れていると、流石に腰と腕に痛みが出始めた。
……腹減った。
「エイミー! 燃料尽きそうだぞ!」
「適当に持って来い!」
「だークッソ!! ナナシ! 俺の分も頼んだ!!」
何とか腕の痛みを紛らわしながら、燃料を入れる動きを止めずにフィリップに向けた恨み言を頭の中で反復させた。
やがてフィリップが燃料が大量に詰められている箱を運んで来た。そしてまた俺と一緒に燃料を入れ始めた。
「許さんぞフィリップ」
「どうしたナナシ!?」
「許さんぞフィリップ」
「いや本当にそれに関しては謝るが、仕方無かっただろ」
「もう俺の腕はパンッパンなんだ。このままだとはち切れるぞ」
「こんなに酷い日は中々無いから安心してくれ」
「最初に最悪の日を引いたのか俺は……」
「……まあ、どんまいだな!!」
「許さんぞフィリップ」
「俺にキレるなよ!?」
ようやく終わった頃には、もう夜だった。余程巨大な物を作っていたのだろうか。
汗を洗い流し、どうにか自室へ戻ると、レトがもうベットに寝転んでいた。
「……あぁ……戻り……ましたか……」
「……済まないレト。腹減った」
「……分かりました……」
レトは仰向けで、首の包帯を解いた。
「どうぞ……ご自由に。レトは……貴方だけの物ですから……」
ベットに乗り、レトの首筋に牙を突き立てた。肌を噛み破り、そのまま血を啜った。
レトを強く抱き締め、その牙をより突き立てた。血を、甘美な血を、更に溢れさせ、溢れた血を全て啜った。やがて、レトは俺の背中を優しく擦った。
「……ああ……嬉しい……。……貴方が……私を求めている……。……ああ……もっと……啜って下さい……。……私は……貴方を愛しています……もっと……ああ……もっと」
何時もより、レトの声が少しだけ高く聞こえる。
抱き締めて密着しているレトは、俺の耳元で囁いた。
「貴方の……好きな様に……貴方の……自由に……貴方の……御心のままに……私を……使って下さい…………」
レトがそう囁いていると、ナナシは何時の間にかレトの首筋に噛み付きながら目を瞑っていた。
寝息を立てながら、レトに体を寄せていた。
「……もう、眠ってしまわれたのですね……」
レトは御主人様をそのベットに寝かし、その体に抱き着いた。
「……お疲れの様ですね……。……御休みなさいませ……」
レトはナナシの手を愛おしそうに、握り締めた。
「……私の、愛しの御主人様。…………レトは……一生……貴方を御慕い致します……」
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
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