其の四 調査開始 四
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
……と言うか文句はペンギンに言って下さい。
「あれ「That「Che「Dass」
大型の変異体は無数の口からそう呟いていた。そして俺達に向けて剣を振り下ろした。
レトを抱え、それを避けた。巻き上がった雪で見え辛いが、フラマとフィリップはそれぞれ自分で考え行動していた。
変異体のもう一対の腕が、強く手を叩いた。その音が響くと、ホワイトアウトした視界の雪が一瞬で晴れた。今は僅かな雪が降り積もるだけ。
見れば、振り下ろされた剣の刃の上に走っているフラマとフィリップの姿が見えた。
フィリップは大鎚をその手で振り回しながらフラマよりも速く走っていた。そのまま剣を握っている巨大な手を、そこから先の腕を走っていた。
大型の変異体はその腕を高く上げた。フィリップはそのまま落下をしながら変異体の頭部を狙っていた。
「これがどれだけ効くかなぁ!!」
大鎚の打撃部分から炎が吹き出し、落下中の体を横に回しながらその巨大な頭部に叩き込んだ。
低い衝撃音は確かに聞こえた。だが、それはどうにも効いている様には見えない。むしろ叩いた衝撃の多くが腕を伝ってフィリップの方へ流れている。
フラマを見ると、挙げられた腕に槍の刃を突き刺し何とか落下せずにいた。変異体の腕を降ろすと同時にフラマは槍を引き抜き、その頭部に向けて走り出した。
肩にまで走り、高く跳躍した。その複眼の一つに槍を突き刺した。確かに眼球は簡単に傷付けられたが、それだけでは大した物にはなっていない。
そのまま落下していたフラマを、下で待機していたフィリップに受け止められた。
「肌が硬い。傷は付けられるが、難しいだろうな」
「やっぱりか。あいつを倒さずに目的を遂行することは出来そうか?」
「……恐らく、無理だ。あの複眼はもう私達を見ている」
「だよなー」
大型の変異体は剣を持っていない一対の腕で手を叩いた。その直後に、大型の変異体の頭上から人の大きさを越えている氷の塊が無数に作り上げられた。
それが降る雪の様に、落ち続けた。俺達はその大型の変異体の隣にあるビルの中に避難した。
「どうするんだあれ! 魔法技術を使って来る変異体がいるとは聞いたことがあるが、あれは規格外過ぎるだろ!」
廃墟になっているビルの砕けた壁の穴から大型の変異体を見詰めながらフィリップが叫んだ。
「……さて、一旦退散するか、それとも――」
「ああ!? んな情けないことが出来るか!! 俺達の目的はあの時大型の変異体を見付けた時と同じじゃねぇだろ!!」
「……分かった。……分かってるが、それでもあれは難しい。現状の戦力で戦えると思うか?」
「それは――確かにそうだが……。クッソ……」
フラマの冷静な判断に、フィリップは顔を顰めていた。その怒りをどうにか解消しようと、その壁を殴り付けた。その壁は拳の形に砕けた。
こんな所でその怪力っぷりを見せ付けられても困る。
すると、俺が抱えていたレトが声を出した。
「……私は……貴方に言われれば……戦いもしますが……」
「危険だから辞めて欲しい」
「そうでは無く……貴方の命令でなければ……私は動けないの…………です」
「……つまり?」
「……私は……貴方を守りたいのです……。……だからこそ……私は……――」
「分かった。少し試してみてくれ」
すると、レトは俺に抱えられたまま顔を耳元に近付けた。
「失礼……致します…………」
その顔を下げて、俺の首筋に噛み付いた。
少しだけ痛みがあったが、あまり苦痛は無い。むしろ……まあ、うん。
レトは慣れていないのか、何度も俺に噛み付いていた。レトには俺の様な鋭い牙が無いからこそ仕方の無いことではあるが。
「申し訳御座いません…………! 何度も……貴方の……体に傷を付けてしまい……!」
少しだけ感情が込められていたその声は、何処か苦しそうだった。
何度も同じ部分に噛み付いて、ようやく噛み千切れた肌から少しだけ溢れた血を舐めていた。
噛み傷から血が溢れなくなった頃、レトはその口を離した。
俺の腕から降りて、首筋辺りの包帯を解いた。俺はその首筋に噛み付いた。僅かに血を啜り、俺の首筋の酷い噛み跡が治った。
「……貴方の体に……傷を…………付ける訳にはいかないと……言うのに……」
レトは俺の首を手で撫でながら、辛そうな顔をしていた。何故か、少しだけ涙を浮かべていた。
「それで、どうやってレトが戦える様になるんだ?」
「後は……貴方の言葉さえあれば……」
「……じゃあ……俺の為に戦って欲しい」
「分かりました……。……それでは『始めます』」
レトの髪は黒く染まり始めた。純白は漆黒に染まり、やがてその体から少しずつ白い冷気が溢れ始めた。呼吸の為の息さえも、白くなっていた。
『……ふぅー……。……行きましょう。……あの獣を……哀れな灰へと変えましょう…………』
「……らしいぞ。フラマ、フィリップ、行けるか?」
フラマは立ち上がり、フィリップは活気溢れる表情で大鎚を肩に担いだ。
俺は壁が崩れている場所から外に飛び出した。ビルの上だからか中々に高いが、まあ問題は無い。
変異体よりも高い場所から、左腕から鎖を伸ばし、その腕を横に振った。
変異体の首に鎖を巻き付けた。鎖の長さは自由だ。長く伸ばすことも短くすることも可能。鎖の先が変異体の首にあるのなら、短くすれば高機動で近付ける。
左腕をただ真っ直ぐ伸ばしながら、背負っていた剣を右手で引き抜き鞘を地面に落とした。
左腕を後ろに引くと、鎖は短くなり勢い良く俺の体は変異体の首に向かった。
その勢いのまま片刃の剣を変異体の巨大で太い首に突き刺した。変異体と言えど生物。その首筋には相当重要な血管が集まっているのだろう。それにここまで巨大なのだ。血圧も高い。
生暖かく赤く美味しそうな血がそこから吹き出した。その圧力に俺の体は吹き飛ばされた。血が俺の口の中に入ったが、それを余すこと無く飲み干した。
鎖の全長を長くし、出来る限り衝撃を受けない距離まで飛ばされた後に鎖を伸ばすのを辞めた。後ろへ吹き飛ぶ衝撃は一斉に俺の左腕を千切ろうとした。
左肩から先の体は未だに後ろへ向かっている所為で、肩が引き千切れそうな程の痛みがあった。
まだ左腕は動く。匠に動かし、変異体の首に巻き付いている鎖を外し、今度はその合掌をしている腕に鎖を巻き付けた。
左腕を後ろに引き、鎖を短くして距離を勢い良く詰めた。そして右腕を上に掲げ、そのまま片刃の剣を眼前に迫った屈強な腕に向けて振り下ろした。
その一瞬、闘争心が膨れ上がり、乾きが内部に広がってしまった。体の血は湧き上がり、肉体は闘争心の増大により躍動を強めていく。
集中力はただ俺の中の闘争心を湧き上げるだけ。ただ、それだけ。
その変異体の腕は、簡単に一刀両断に出来た。
両断された巨大な腕に足を乗せ、それを足場にして更に上へ跳躍した。
見ると、フィリップが落下と同時に大鎚を振り被り、変異体の巨大な剣を砕いていた。フラマは俺が首に付けた傷に槍を突き刺し、その傷を更に広げていた。
そのフラマに向けて、まだ残っていた手がフラマを襲ったが、その指の隙間からフラマが逃げたことを確認した。
レトが、変異体の頭上の空中でその体を静止させていた。何故飛んでいるのかは、良く分からないが。
レトの背から綺麗な蝶の羽根が生えていた。その周りの白い小さな蝶が飛び回っていた。
すると、レトは右腕を高く掲げた。それと同時に、変異体が魔法技術で作り上げた氷が砕け散った。
突然レトの体の周りに、砕けた氷の破片が集まった。それは徐々に再構築されまた新しい形に変わった。その形は、蛇の様だった。
氷で作られた巨大な蛇は、空を覆い生きているかの様に動き回った。空中を這い回る様に動き、その後蛇はただの氷像に変わり、大型の変異体に向けて落下した。
そのまま直撃し、変異体は体勢を崩して此方に頭を落とした。
変異体の首へ俺は走った。そのまま高く跳躍し、俺はそこに向けて剣を振るった。
ふと、何かが違和感を覚えた。いや、違和感を感じなかったことが違和感だ。
剣を持っている右手がしっくりとしている。ふと視線を後ろに向けると、そこには俺が持っていたはずの剣が飛んでいた。
そして視線を戻すと、俺が手に持っているのは、黒鉄の輝きを僅かに発するその片刃の直剣だった。それを、振るっていた。
炎はこの辺りの雪を全て溶かす程に燃え上がった。それは変異体の全てを焦がそうとした。
抑えることは出来ない。俺の全てがそれを望んでいた。辺りの氷を、雪を、全て溶かし尽くし、その雪の被害者である彼の体を全て燃やし尽くした。
変異体は、哀れな灰に変わった。
その直後に、止め処無い疲労感が襲って来た。無意識的な集中力が突然切れてしまい、それと同時に渇望が溢れた。
左腕が何故か熱くなっていた。何とか保っている意識で見てみると、肌が破けその中の筋肉が千切れている左腕があった。何時もより酷い。
そのまま体から力が抜けていった。あの時と同じだ。もう少しで死ぬと良く分かるあの感覚。
やばい……本当にやばい……意識がやばい……。
俺の視界に白い髪が見えたと同時に、俺の意識は消えてしまった――。
――……誰かに体を揺さぶられた。それのお陰で目が覚めた。
……腹減った。その内の渇望が、何処までも広がっている。
「……レ…………ト」
「お、ようやく起きたか。おーい! レトー! お前の御主人様が呼んでるぞー!!」
フィリップの煩い声が聞こえる。
……体が動かない。視界がぼやけている所為でここが何処なのか分かり辛い。
ただ、分かることは、何度か見たことがある天井だ。そんなことを思っていると、俺の視界の中に白色と銀色の輝きが見えた。
「声は……聞こえますか……?」
「……ん……」
「良かった……です。…………意識はしっかり……している様ですね……」
「……こ…………」
「……貴方が……気絶している内に…………メルトスノウへ……帰ったのです……。……数日程気絶していたのを……貴方は分からないでしょうが……。ああ……まだ体中が痛みますよね……」
レトはそのまま手首を噛み千切り、そこから溢れた血を俺の口に入れた。
俺の肌はあまり噛み千切れなかったと言うのに、自分の肌だと噛み千切ることは容易いらしい。俺の肌が頑丈なのかレトが傷付きやすいのか。
渇望を血で満たし、体中の傷が癒えていく感覚。
少しだけ言葉が話せる様になっただろうか。
「……あの木は……」
「貴方が……気を失ったので……まだです」
「……そうか……。……今すぐ…………いや……まだ無理か……」
「……はい。…………貴方は……もう二度とここまで……傷付く……必要も無いと言うのに…………」
「……それでも……まあ、このままにするのも……嫌だからな」
何とか腕を動かした。左腕にはまだ激痛が走っている所為で動かない。右腕を何とか持ち上げると、レトはその先の手を自分の肌理細やかな頬に当てた。
そのまま頭を動かし俺の手に擦り寄っていた。ただ、やはり無表情。少しだけ嬉しそうだが。……おお、凄い。もうレトの感情が表情で分かる様になって来た。
「……少し……指先が冷たいですね……」
「そうか……? ……まあ、そうなのかもな……」
……ああ……温かい。
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
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