其の二十六 帰宅
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
……と言うか文句はペンギンに言って下さい。
その日は、寝苦しい日だった。
俺のベッドに姉妹達が寝ているからじゃ無い。それはもう慣れた。ただ、不思議と、寝付けなかった。
何かを不安に感じている。俺は、ずっと何かを……。
ジークのことだろうか。それとも……ナツヒのことだろうか。
恐らくその何方も。俺は動かせる様になって来た腕で、隣ですやすやと寝ているモシュネの頭を撫でながらそう思った。
結局の所、俺はどうしたいのだろう。
俺は、雪を溶かしたいのだろうか。眠れない夜とは、何時もはしないことばかりを考えてしまう。
俺は、雪を溶かしたいのだろうか。俺は、何の為に雪を溶かそうとしているのだろうか。
はっきり言ってしまえば、俺の一番大切な物は、聖母達だ。この姉妹達だ。それとジークと、ナツヒ。ナツヒはまだ実感が湧かないが……。
言ってしまえば、その為ならもうここメルトスノウは必要無い。勿論生活水準は下がりそうだが、このまま訳も分からないまま歩いても……。
少なくとも、生きることに苦労はしなさそうだ。俺達は変異しない。外で自由に生きられる。
セレネを見付けてルミエールも見付ければ、もう……。
すると、誰かが部屋の扉を開けた。ひんやりと冷たい空気が流れ込むと、扉の向こうから、誰かが顔を覗いた。
顔を出したのは、ジークだった。ジークは俺が起きていることを知ると、すぐに薄ら笑いを貼り付けこちらに歩み寄った。
ひそひそと、耳打ちする声量でジークは言った。
「ただいま、ナナシ君」
「……お帰り、ジーク」
「いやー大変だったよ。ごめんね、訳も言えないまま、勝手に何処かへ行ったりして」
「必要なことだったんだろ? ならもう責めない」
「……ありがとう、ナナシ君。本当に……」
ジークは珍しく、暗い表情を浮かべていた。
一体何があったのだろうか。それを聞いても、多分ジークは答えてくれない。
「ねえ、ナナシ君」
「ん、何だ」
「歩ける?」
「いや、無理だ」
「じゃあさ、僕が連れて行くから、外に出よう。少し、話したいこともあるんだ」
「まあ、別に良いが……」
ジークは隣のモシュネを起こさない様に俺の体を抱き上げ、車椅子に乗せてそれを押して外に出た。
外の景色は、まあ……やはりと言うか。至って代わり映えの無い、白い雪景色。
ただ、冷たく、そして恐ろしく、それでいて神秘的。時として恐ろしさは美しさになるのだと、肌で実感出来る。
人間は、こんな場所に出るだけですぐに変異して自我を失う。
何とも……可哀想な生物だ。
「ねえ、ナナシ君」
「何だジーク」
「……君は、雪を溶かしたいのかい?」
「……まあ、多分な」
「多分……そっか」
ジークは車椅子を押しながら、遠い目で何処か別の場所を見詰めていた。
「それが、例え何もかもを犠牲にしても?」
「……俺は……どうしたいんだろうな。最近、俺の中の何かが変わっていってる……いや、戻っていってるのを感じるんだ。それを不思議とも思わない自分もいる。……まあ、そうだろうな。それが本当の、俺だったはずだから」
ジークは何も言わない。ただ静かに俺の言葉を続きを待っていた。
何を考えているか分からない奴だが、今なら、少しだけ、分かる気がする。
ジークは人形だった。命の無い人形。俺はテミスに命を与える方法を聞いた。魔法技術なら可能だと、微かに信じていたからだ。
テミスは知らなかった。しかしモシュネが少しだけ、記憶を引き出してくれた。方法は知った。何故そんなことが出来るのかをモシュネに頼んで引き出して貰おうと思ったが、激しい頭痛を感じて断念した。
あそこで無理矢理引き出せばきっと前みたいに……。
「人の顔を見るだけで、少しだけ……辛くなる時がある。理由なんて分からないが、ただ無性に……何処か苛立っている自分がいる」
「……そっか。……うん、そっか」
ジークは厚い雲に包まれた空を見詰めながら、降り積もる雪を摘んだ。
「なら、君は一体何故、人を助けようとしているんだい? 少なくともあの時君は確かに、誰かを助ける為に蝗害に抗った」
「……さあ……何で、だろうな」
「今の君は、人を恨んでいる君と、人に救われた君がいると僕は思っている。君は何方を選ぶんだい?」
「……俺は、そうだな……。……今は、人を救いたい。俺が何もしなかったから、あいつ等が生きられないのなら……俺は……」
「……つまり君は、責任感で人を救おうとしているのかい?」
「違うとも言えないな」
ジークは摘んだ雪を落とし、俺の視線の先に足を運んだ。
「じゃあ、何でまだ、人の仲間をしているんだい? いや、僕は良いけどさ」
「……さぁ、何でだろうな」
「実を言うとね、僕は驚いてたんだよ。君が人と仲良くしてるのはね。別に前の君が人と仲良くしてなかった訳じゃ無いけどさ」
「それでもお前は俺の傍にいるな」
「……うーん、まあ、君の隣は嫌いじゃ無い」
ジークは俺の脚を撫でながら、顔をずいと俺の顔に近付けた。
「ナナシ君、君は一体、どうしたいんだい? 記憶を取り戻したいから共に行動しているのか、責任を感じているから共に行動しているのか、それともただの気分?」
「……分からない」
「分からない、分からない、分からないことだらけ。君は何時だってそうだ」
俺の脚を撫でるジークの手が、俺の体を昇って胸に触れた。
「僕は知りたいんだ。君がこれから、どうするのか。そろそろ気付いているはずだよ。君は過去、どうやってその命を維持していたのか。聖母達は食事の必要も無く、どれだけ傷付いても時間が経てば完璧に治る。けど君は違う。君は傷付いても治りはするが、消耗が激しく血液を必要とする。ただの動物だと駄目だ、人の血が必要。だが聖母達はその性質上、傷を開けて血を与えてもすぐに塞がる。仕方無くメルトスノウは輸血用の血を君に与えている」
俺の心臓の鼓動を感じる様に、ジークは両手で俺の胸に触れていた。
「今よりも力に溢れていた過去の君は、今よりも消耗が激しい。ただ生きているだけで相当な血液が必要となり、一日中ちまちまと聖母達の血を啜る訳にもいかない。さあ、どうしたと思う?」
「……喰ってたんだろ?」
「聖母達は君にとって万能だ。だがその血液は栄養価は人間の十分の一程度。そろそろ聖母の血を啜るだけでは満足出来なくなって来るころだろう。それなら人間を殺して一気に血を摂取した方が効率が良い。……この事実を知っているのは、今は少ない、だが何れ人は察するはずさ。フラマ君はもう、なんて可能性もある」
「……それでも、大勢からちょっとずつ血を別けて貰えば、何とか出来る」
「それは君の都合だ。人の都合じゃ無い。人がそれを受け入れ、君をコミュニティの中に入れるとでも?」
「……分からない」
ジークは静かに、悲しそうに笑い、顔を更に近付けた。
「さあ、君は人を救うかい? 君は結局人では無い。君は結局人喰らいのバケモノだ。君は人と共に歩むことは……出来ないだろう。何時か疎まれる。何時か蔑まれる。何時か……君は人の社会から排斥される」
「……まるで、そうだったかの様に語るんだな」
ジークは息を飲み込み、薄ら笑いを貼り付けた。
「君は、どうするんだい? ナナシ君」
「……それでも……多分、俺と一緒に笑ってくれた人達を、信じたいんだ。だから救いたい。俺の為にも、あいつ等を、救いたい。この雪を、溶かして……またああやって、皆で外をマスク無しで走り回って……まあ、一緒に、歩きたい」
「……そうか。成程」
すると、ジークは俺の頭に両腕を回し、ただ優しく抱き締めた。
「……うん、分かった。君がそこまで言うのなら、仕方が無い。僕も、人を救おう」
「今まで人を救おうとは思わなかったのか?」
「いや、どうだろうね。君にああ言ったのに、僕も分からない。人を愛したい君と同じ様に、僕も……人を、愛したいのかもね。許すことなんて出来ないよ……」
その言葉に、俺は引っ掛かった。
「……許す?」
「あぁ……だって、この雪は――」
ジークは、やはり静かに、言っていた。
「人が何度も間違いを犯したから、今も尚降り続けているんだから」
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
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