其の二十四 蝗害 三
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
……と言うか文句はペンギンに言って下さい。
数時間前、まだ日の出が登るには速過ぎる時間。ナナシ達は、順調にその変異体を倒し、そして銀色の羽根を採取していた。
テミスとナナシが、フラマとフィリップを持ち上げて、一体ずつ殺し回る。元人間だと言っても、もう彼等は自分の為にそれを狩る精神を育て上げてしまっている。
全ては順調だった。大群と言えど、フラマとフィリップは最前線で変異体を殺し回るメルトスノウの一員。並大抵の変異体には殺されるはずも無いのだ。
しかし、問題が起こったのは、変異体を二十体程殺した時だった。
そろそろゲッセマネへ帰還しようとした直後、ナナシは嫌な気配を背筋で感じた。
「……どうした?」
「……いや……。……大丈夫だ、フィリップ」
「そうか? 風邪でも引いたか?」
「いや、大丈夫だ。変異体が襲って来る前にさっさと離れるぞ」
「ああ、そうだな。これくらいあればまあ、大丈夫だろう」
その時だった。地面は大きく揺れ、蠢く何かの鼓動の様な地鳴りを耳に入れた。
二つの足で立つことも困難で、咄嗟に両手を地面に付いてしまった。テミスは咄嗟にナナシの体をその長身で覆い隠した。
二分程の時間が経つと、その揺れと地鳴りはぴたりと不気味に止まった。
「……地震……だとしたら心配だが……。余震なら更に強い揺れが来るかも知れない」
フラマの懸念は確かだと思い、すぐに変異体の体の一部を運びながら移動しようと始めた。しかし、もう一度、ナナシの背筋に嫌な気配を察知した。
その様子に敏感に気付いたテミスは、ナナシの手を掴んだ。
「……どうしたテミス」
「……いえ、何だか、おかしな様子でしたので」
「……今度こそ、勘違いじゃ無さそうだ。……フラマ、フィリップ。何か来る。武器は構えたままにしておいてくれ」
その言葉の直後、月光を反射する銀色の光が夜空の全てを照らした。
蝗害、それは五つ目の音色。それは終末の一つ。そして、額に神の刻印を持たない物を襲う。
そして、獣を見定めそれを食い殺す。主人に代わり、その王を食い殺す。
その変異体は、夜空を覆い隠す程の巨体を持ち、突如として現れた。形こそ周りに飛び交う変異体と大差は無いが、異質にも胴体から腕が数百の数伸びていた。その全てが右腕であり、全てが蠢き、全てが何かを手繰り寄せていた。
そして首の辺りにある多くの触手を蠢かせ、そしてその先にある感覚器官で、ナナシを見付けた。
その巨体は、素早く彼に突進した。
「テミス! 二人を!!」
ナナシは理解している。その変異体の複眼は、自分にだけ向いていることを。
テミスは彼の言葉を確実に熟す。それが愛に答えることだと理解しているからだ。その両手でフラマとフィリップの体を掴み、白い翼を大きく動かし、夜空を素早く駆けた。
直後には、周辺の建造物を薙ぎ倒しながらそれはナナシに向けて突撃をした。地を駆け、回避も出来ないままナナシはその巨体に激突してしまった。
そのまま変異体は上へ上へと飛び立つと、ナナシは両手から発した爆発でその変異体から離れた。
「何なんだあれ……!! 何処から現れた……!?」
その疑問を解消する前に、巨大な変異体はその右腕を全て黒い翼を広げたナナシに向けた。その右手の五指の間の全てに赤い光が灯ると、そこから無数に枝分かれする光線が放たれた。
その赤い光線はナナシの黒い翼を何の弊害も無しに貫き、そして彼を撃ち落とした。そのまま彼は黒い羽根を散らしながら、地面へ落ちて行った。
その際に両足の骨が砕け、頭部を強く打ち付けた。ナナシは意識を失い、蝗に似た変異体がナナシの傍に群がっていた。
その砕かれた左の脚を食い千切り、その片方の眼球を器用に刳り貫いた時に、ようやく彼は意識を取り戻した。
ナナシは右手に熱を集中させ、周囲に爆発を巻き起こした。変異体は一網打尽に出来たが、件の巨大な変異体は未だに空を飛び、ナナシを見下していた。
「……見下すな。お前が俺を見下すな……」
巨大な変異体は、ナナシを見詰め続ける。撒き散らしている黒い灰をより多く、夜空を覆い隠す程に散らすと、その全てを一点に圧縮した。
それはあっという間に赤熱し、鉄さえも溶かす高温を発した。その塊が更に小さく圧縮されたかと思えば、直後に周囲を溶かす爆熱へと変わった。
爆熱が降り続ける雪で冷えれば、巨大な変異体は地面へと降り立った。今度こそ獣の王を殺したと思い、その死骸を喰らわんとしたからだ。
しかし、どうだろうか。獣の王は立ち上がり、その大型の変異体の頭部に焼け焦げ罅割れた右腕を押し付けた。
「一回死ねッ!!」
右腕から発せられた更に巨大な爆熱は、彼の右腕ごと変異体の頭部を吹き飛ばした。肉片すらも蒸発させ、その熱を吸い込み彼の喉は焼け爛れた。
爆熱が収まると同時に、遠く離れていたテミスは白い翼を羽撃かせ、何よりも速くナナシの下へ飛んだ。そのままの勢いでナナシの体をフラマとフィリップと同じ様に掴み上げ、そのまま空高く飛び上がった。
全速力でゲッセマネの方向へ飛んだ。その最中、フラマは確かに見た。
吹き飛ばされた巨大な変異体の頭部に、一般的な蝗に似た変異体が群がり始めた。すると、その肉体が溶け合い、一つの塊になったかと思えば、その肉塊は失われた頭部に変わった。
その複眼を動かし、空を飛んでいるテミスの方へ向いたが、諦めたのかその場で口惜しく蠢いているだけだった――。
――サラはすぐにナナシの診察へを移行した。
本来ナナシには治療は必要無い。だが、先程からテミスが血を与えても充分に飲めていない様子を見たのだ。
今にも崩れそうな程に酷い火傷痕が刻まれた体を触り、ナナシの顔を上げ、その喉奥を持っていたライトで照らしながら覗いた。
「……喉が焼けて爛れている。気管が塞がっているな。血が中々飲めない訳だ。……テミス、一応言っておくが、これから彼の体を傷付けることになる。だが、彼を救う為だと理解してくれ」
「分かっております……。……どうか、宜しくお願いします……!」
サラは携帯しているメスを煮沸消毒をし、手袋を付け、その喉の奥にメスを入れた。ナナシの体は本能的にその異物を吐き出そうとえずいていたが、それでもサラは爛れた皮膚を切り分けた。
広がった気管を確認すると、サラはすぐに離れた。テミスがナナシの口に血を流すと、彼の傷は僅かに治り始めた。
「……ぇ…………」
「……気付きましたか? 大丈夫です。もうここはゲッセマネです。もう、傷付ける不躾な者はおりません」
「……あ……て…………ぇ……」
「……もう、声を出さないで下さい。喉が裂けてしまいます」
ナナシは、その痛みの所為なのか、また気を失った。
だが、テミスは心から安堵した。彼が生きている。心臓を動かし、そして肺を動かす。それだけで世界の全てが輝いて見える程の喜びなのだ。
「……さて、何があった」
サラの視線は、少々の火傷を負っているフラマとフィリップに向けた。
「……大型の変異体が突如として現れた。……私達に目もくれずにナナシを襲ったことを考えるに、ただの変異体では無さそうだ」
「大型の変異体? 早々発見されないはずだ。何せ初発見の大型がナナシが殺したあれだからな」
「ああ、そのはずだ。……我々が発見した変異体よりも、より巨大な変異体だ。それが夜空に突然現れた」
「……まあ、こう言う考え事はフラマの方が向いている。あたしが口出しをする話題では無いだろう。……だが、友人が傷付く姿はあまり見たく無かったとだけ言っておこう。八つ当たりをして済まなかった」
「謝罪をするなら初めから聞かなければ良いと私は思うのだが」
躊躇無くサラの蹴りがフラマの顔面に飛び込んだ。
「そう言う所が嫌われる要因だ。反省しろ」
「……分かっている」
すると、突然ジークリンデがこの診療所に入り込み、そのままナナシに飛び付いた。
「ナナシくぅーん!! ああどうしたんだいこんな酷い怪我を負って……」
「ジークリンデ、最愛の人から今すぐに離れろ」
「あ、ごめんごめん。つい感情が先立ってしまったよ……」
遅れてレトがやって来ると、ナナシの体に無理をさせない程度にその体に触り、優しく撫でた。
「……ああ……鼓動を感じる……。……良かった……」
その後に、エルマーが僅かな護衛を引き連れてナナシが安置されている場所へ赴いた。
「やあ、フラマ君。君がここにいるとは思わなかったが……ふむ、色々あったようだな」
「……ええ、陛下、伝えなければならないことがあります。……ゲッセマネから西方、大型の変異体を発見」
「それがゲッセマネへやって来る可能性は?」
「……その可能性はあり得ると思われます」
エルマーは僅かな思考を見せると、そのまま近くにいた護衛と僅かな会話を交わした。直後にその護衛は走り出した。
その間も、フラマは熟考を続けた。
何故、どうやってあの変異体は現れた? あの時に感じた違和感の一つに、ナナシだけを狙っていることが挙げられる。
変異体の行動理由は未だに分からないことが多い。だが人間を優先的に襲うことは分かっている。ならば私達を狙ってもおかしくは無いはずだ。
……初めから目的はナナシ? だとすると……。
「……陛下、ほぼ確実に、我々が目撃した大型の変異体が、ここ、ゲッセマネへ到来する可能性があります」
「……理由を聞こうか」
「大型の変異体は我々に目もくれずナナシだけを殺そうと動いている様に見えました。あの変異体の目的がナナシだとするのなら、あれはここへやって来る可能性が相当あると思われます」
「……何故、ナナシ君を狙う?」
「……分かりません。分かりませんが、恐らく彼の、そして七人の聖母の秘密に迫る事柄だと思われます」
フラマの優秀な頭脳は、少しずつ答えへと迫っていった。
「ここゲッセマネは、毎年決まった時期に全く同じ形をしている変異体が到来します。しかし、今考えるとどうにも不可解なことです。人間が変異する際のメカニズムは不明ですが、変異した際の姿は、血縁者であれば非常に酷似することは解明されています。親、それよりも兄弟、双子であれば瓜二つでしょう。しかし、毎年ゲッセマネへ襲来する変異体は全て、同じ姿形。前々から疑問に思っていました」
「それが何故ナナシ君の秘密に迫ると?」
「……あれは、本質的には、変異体では無い可能性があります。それこそ、ただの生物である可能性も。しかし、私が思うに、雪が降り、世界が滅亡した直後に現れたあれは、雪を降らせた何者かの意思により生み出されたと思っています」
エルマーは表情を一切変えずに、黙ってフラマの仮説を聞いていた。
「ナナシは、そして七人の聖母は、この雪を止められると思われます。そしてこの雪は、何処か人為的に見えます。この雪を降らせる人知を超えた何者かは、唯一雪を溶かせる可能性のある彼等を目の敵にしている。もしそうだとするなら、奇妙にも殆どの大型の変異体が銀色の木の周辺に鎮座している理由が分かります。あの変異体は雪を溶かさない様に、近付かない様にしているのでしょう」
フラマの雄弁に語る口は一切止まらなかった。
「そうだとすると、ナナシを狙う理由も分かります。……ですが、分からないのが、恐らくナナシの妹、ナツヒが一時的ではありますが雪を止めることが出来ることです。……まあ、これに関しては、少しずつ解明して行きましょう」
「……成程、分かった。見事な研究だ。やはりメルトスノウの司令官は君で良かった」
「……一つ、お聞きしても良いでしょうか」
「何だね?」
「……陛下は、何処までこの雪のことを知っておられますか」
フラマのその問い掛けに、エルマーは少々の沈黙を返した。しかし、次には口を開き言葉として答えた。
「いや、何も知らないな」
「……そうですか。まあ、当然ですが。知っておられるのなら、我々メルトスノウは不要なはずですので」
「……それでは、私は大型の変異体の襲来に備えることにしよう。鉄扉の外に兵を置くのは難しいな……さて、どうした物か」
そう言いながら、エルマーは僅かな護衛と共に診療所を後にした。
去った姿を確認すると、フラマは確信めいた表情を浮かべながら一言だけ呟いた。
「やはり陛下は何かを知っておられる様だ」
その発言に、フィリップは目を見開いた。
「あの小難しい会話の中でどうやったらそんな結論になるんだ!?」
「陛下と何度か会話をしている。ある程度のパターンは把握しているつもりだ。先程の応答は、そのパターンから少々外れている」
「……お前、凄いな、色々と」
「何時もの陛下ならば、あの問い掛けには恐らくこう答える。『雪を吸えば人は変異し、この雪が止むことは無い。そして九十年以上前に降り始た。それと、君が先程言った仮説のことなら』と」
「……言ってそうだなあの人」
「陛下は問い掛けに正確に答える。知っていることを全て答える。それが言えないことでは無いのならな」
「……ちょっと待て、つまり陛下は、色々知っておきながらメルトスノウなんて組織を作ろうとしたんだよ!? おかしいだろどう考えても!? もし陛下が雪の真相を知ってるなら、俺達がいる意味がねぇ!!」
「だからこそおかしい。あの問は私にとっては予想内だったが、その問によって謎は深まってしまうのは予想外だった」
……陛下は、何を考えている? そして何処まで、知っておられるのだ? そして何故それを、我々雪を溶かす為の組織へ言わないのか……?
フラマの謎は、より深まった。
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
いいねや評価をお願いします……ペンギンの自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……




