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ホロビタセカイデバケモノノタビ  作者: ウラエヴスト=ナルギウ(のペンギン)
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其の二十四 蝗害 二

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


……と言うか文句はペンギンに言って下さい。

 ジークリンデは酒を売り配っていた。


 少しばかり遠くから、大きな歓声と称賛の声が聞こえた。それと同時に、久方振りに感じた懐かしい魔力もあった。


 ジークリンデはその歓声から逃げる様に、彼女はゲッセマネを守る自然の岩の屋根の上を歩いていた。百年近く止むことの無い雪が積もり、そして固まり、強固な地面へと変わっていた。


「……おーさっぶ。全く、まさかエルマー君まで来るなんて」

「戦友に対して酷い扱いじゃ無いか。ジークリンデ」


 ジークリンデは背後からのその声を聞いて、露骨に嫌な表情を浮かべた。直後に薄ら笑いを浮かべ振り返った。


「戦友ね、確かにそうだ。久し振りだね、エルマー君」


 国王陛下エルマー。彼は下にいる民を置いて、昔の友との邂逅を果たしたのだ。


「……何故、ここにいるのか。私の前からいなくなってから、もう数十年。今まで何処に行っていた」

「勿論、獣の王を探す為に」

「……見付けたようだな。……いや、まさか、私も生きているとは思わなかったが」

「……一つ、警告をしておこう」


 ジークリンデは瞳を無垢銀色に輝かせながら、その瞳孔をエルマーに向けた。


「僕は八人目だ。八人目になった。もし、君が今も彼を犠牲にすると言うのなら、僕は君の敵になる。分かっているかい?」


 エルマーは雪を吸わない為の黒いマスクを外し、寒さを凌ぐ上着の中に手を入れた。その手を抜き出すと、ぬらりとその身を超える巨剣が現れた。


「私も彼を犠牲にしたい訳では無い。出来れば、もう一度呑み交わしたい物だ。だが、この世界がそれを許さない。それを理解してくれ」

「僕はそれを否定する。世界がそれを拒んでも、もう二度と、彼を失わない」

「……もう使命は無い。それに意味は無く、その生命にも意味は無い。ならばせめて犠牲になるのが、最も――」


 エルマーは唇を噛み締めながら、その言葉をしっかりと意識に刻んだ。


「……最も、尊き使い方だろう」


 ジークリンデは一歩を踏み締めた。直後に彼女の手はエルマーの顔に触れた。


 直後にその一掴みの空間は真っ赤に爆ぜ、エルマーのその体を押し倒した。直後には、エルマーの両足は思い切り突き上げられ、ジークリンデの腹部に直撃した。


 一瞬の内に互いが交差し、そして視線を交わした。


 振り向きざまにエルマーは剣を振るうと、ジークリンデはその巨剣の上に体を置いていた。


 片方の目を金色に、そして片方の目を銀色に輝かせながら、彼女はエルマーに両手を向けた。直後に宝石の様な輝きが発せられ、それがエルマーの体を貫いた。


 すると、エルマーの両の瞳が金色に輝いた。直後には、ジークリンデの首は切断されていた。


 世界からも認識されぬ程に素早いその一撃は、その足下の固まった雪に罅を走らせた。しかし、ジークリンデは切り飛ばされた首を掴み、その首の断面に置いた。


 その傷はあっと言う間に治り、そして繋がった。


 即座にジークリンデはその両腕をエルマーに向けると、ある言葉を口ずさんだ。


「"紐を解く手(ユースヴァフェン)"」


 そのまま両手を閉じ、何かを引っ張る様に腕を引くと、手の向こうにいるエルマーの胴体の中心が、まるで解ける様に消失した。


 エルマーは決して怯まない。むしろその臓物を零しながらも果敢に進み始め、高く跳躍した。


 その巨剣が彼の瞳の様に金色に輝くと、思い切りそれを振り下ろそうとした。


 しかし、その直前に、エルマーの腕が両断された。その剣が固まった雪に突き刺さり、それをジークリンデは素手で触れた。


 すると、その金属は一瞬で錆びてしまい、そのまま塵となって消えてしまった。


 エルマーがそのまま地面に落ちたが、ジークリンデはそれを逃す程甘くは無い。


 その傷が塞がる前に、彼女は連撃を繰り出していた。数多の炎、数多の冷気、多くの質量、渦を起こす風、そして■□■□。


 その全てを彼女は操っている。その全てが、世界の王となった彼の体を傷付ける。


 ジークリンデは、エルマーを地に伏せさせた。


「……ああ、戦友よ。……星の光に魅入られた者よ。それは全て、世界の為にはならないぞ」

「そんな世界はいらない」

「……世界の為に、私と共に戦ったでは無いか。その世界を、滅ぼすつもりか」


 エルマーは再度立ち上がった。その傷には薄く脆い皮膚で塞がれ、出血は辛うじて止まっていると言う所だ。


「……ようやく成し遂げた悲願では無いか! 私と、そして獣の王と、そして貴様の!! その悲願を成し遂げてようやく本懐を遂げたこの世界を!! もう一度地獄に変えようと言うのか!!」

「それが必要ならそうするしか無い。……もう、僕は変わってしまった。君と共に刃を向けたジークリンデはもういない。無命の僕は、もういない」

「……ああ、そうか。いや……一目見た時から分かっていた。……ああ、そうだ、分かっていたんだ」


 感情では無く、合理的に、あらゆる全てを押し殺す。心も、戦友も、自身さえも。それが王の責務であり、それが屍の上に出来上がった安寧の土地と理解する彼の責任でもある。


「この世界の雪を溶かす。それが我等の責務であり責任だ。それを拒んだのは聖母だけだ。彼は、自らの犠牲を受け入れたと言うのに」

「ああ、そうだね。僕は無関心だった。今思えば馬鹿なことをしていたさ」

「分かっている、分かっているさ。だが、もう時間が無いのだ。その時は刻一刻と迫っている。少しずつ、変異は人の体に蓄積し、そして子へとそれは受け継がれている。分かっているのか? 次の次の世代には、最早人の形をしていない子供達が溢れ返るだろう」


 ジークリンデはそれでも薄ら笑いを浮かべていた。決して崩さずに、エルマーの言葉に答えた。


「世界は終わらない。終わるのは人間だけさ。そして、君は死なないだろう?」

「……私は、子を持ってしまった。……あの子が、何時か誰かと出会い、そして子を産むのだとしたら……。……子供達に、地獄を見せる訳にはいかないのだ。……最も簡単で、最も単純で、最も合理的で、最も犠牲が少ない方法だ。むしろ、これ以外の選択肢は存在しないとも言える。七つの封印はもう全て解かれたのだ。契約の箱が天から時折顔を覗かせるのを見たことがあるだろう」

「それでも駄目だ。僕も認めない。僕は八人目になったんだ」


 ジークリンデの首はまたもや一瞬で切断された。エルマーの姿はジークリンデの背に遠くにあり、その巨剣を完全に治った両腕で振り払っていた。


「……分かってくれ。戦友よ、私の心を分かってくれ。君まで、失いたくは無いのだ」

「独り善がりもここまで来ると実に酷い」


 切断されたジークリンデの首はたったそれだけで声を出していた。


 空気を取り込む肺に繋がっていないにも関わらず、その首は喋り続ける。


 ジークリンデは両腕で自分の首を抱えると、そのままエルマーの方に向けた。


「君の意見も理解は出来る。それが最も良い選択肢なのも理解する。前の僕はあくまで無関心、そして無干渉だった。……だが、もう使命は果たされた。もう、彼は戦わなくて良いんだ。誰かの為に命を賭けなくても良いんだ。それが続くのなら、僕は雪を止めない方を選ぶ」

「……彼は、ああ、彼は、獣の王は、私の恩人だ。私は凡人だった。ただ親の金で私服を肥やす脛齧りであった。……彼は……。……私を、王にしてくれた。……ああ、分かっている。君の心も、良く理解している。むしろ共感もしている。……それでもだ。大人になってくれ、ジークリンデよ」

「……成程、何も、変わっていない様だ。その意地っ張りな所も、その力尽くで物事を無理矢理進める傲慢さも、何も変わっていない」


 ジークリンデは自身の首に頭を乗せると、まるで神に祈る様に両手を合わせた。


「戦友を殺したくは無いんだ。エルマー君、ここで立ち去るのなら、この場での出来事は全て不問にしよう」

「こちらが言うべき言葉だ。ジークリンデよ、ここで立ち去るのなら、この場での出来事は全て不問にする」

「「……やっぱりこうなるか」」


 二つの剣は勢い良く交わった。一つは金色の光に包まれた巨剣、一つは銀色の剣、それは大きな衝撃を発した直後に、両者の姿は世界から消え去った。


 あまりにも素早く、両者は世界から存在を消したのだ。二人が確かにそこにいると証明するには、その場に響く金属同士を打ち付ける音を聞けば分かるだろう。


 二人の姿が世界に現れたのは、その二本の剣が互いの胸中を貫いた時だった。


 互いに血を吐きながらも、確かに目の前にいる戦友を睨んでいた。


「難儀だね、死なないなんて」

「……死なないだけだ。殺すことなど容易だろう?」


 ジークリンデが握っている銀の剣は、テミスの物と非常に酷似していた。その剣はエルマーの肉に千の茨として枝分かれし、より深く肉を削ぎ落とした。


 そのまま引き抜けば、臓物ごと肉を引き摺り出し皮膚を刳り貫いた。それでもエルマーは動き続ける。


 エルマーは右手を大きく開き、天に掲げた。その五指の間に無垢金色の輝きが集まると、それをジークリンデの胸に押し付けた。


 彼の五指と、彼女の胸の空間の間、そこが強く爆ぜた。その金色の焔は彼女の上半身を吹き飛ばし、エルマーの右腕を消し飛ばした。


 残った下半身をエルマーは蹴り飛ばしたが、倒れたそれから背骨が真っ直ぐ伸び始めた。


 肋骨、そして頭蓋骨、その内側に臓物が再生すると同時に、出来上がった口でジークリンデは語り始めた。


「七つの音色を、君は止めようともしない。それを止めることが最も犠牲の少ない方法だと言うのに」

「犠牲が少ないだと? 前の戦いで何人死んだと思っている。前の戦いでどれだけの数は犠牲になったと思っている」

「それで保守を決め込み自分から動かなくなったのかい? 何とも哀れだ」

「分かっていないのは貴様だ! ジークリンデ!!」


 エルマーは上着を脱ぎ捨てた。


「どれだけあの戦いで死んだ! どれだけあの戦いで、名前すらも忘れ去られ、世界から消されてしまった者がいると思っている!! 生き残った戦友は僅か、僅かだった……。……何十人もいたはずだ。だが、その殆どを思い出せない……。……せめて、せめてもう、誰も忘れないまま、この戦いを終わらせたいのだ」


 エルマーの姿が雪に隠れた。世界が彼の姿を隠した。それだけ彼の姿は、実に――。


 彼は二つの両腕を伸ばし、自身に降り掛かる雪を振り払った。


 一つの両手で指を組み、もう一つの両手でも指を組みながらそれを下に向けた。


 ジークリンデの体は完全に再生した。しかしその姿は、人間から遠く離れていた。


 その四つの両腕と、一つの瞳にある四つの虹彩。虹彩の一つは金色に、一つは銀色に、一つは赤色に、一つは黒色に染まっていた。


 しかしその四つの虹彩は一つの瞳である。瞳孔は一つしか無い。


 一番上の手を合わせ、その下の手を逆に合わせ、その下の手で指を組み、その下の手で逆に指を組んだ。


 ジークリンデの長い髪は、白と黒が入り交じっている異質な色に変わっていた。それを靡かせ、自身の内に眠る力を総動員させた。


「獣の王の使命は終わった! しかしその反逆の罪は永劫に終わらない!! 分かっているのか!!」

「それでも僕は、彼と共にいることを選んだ」

「その選択が世界の為では無いと言っているのだ!!」


 両者が全ての腕を相手に向け、その間の空間を掴む様に力を込めた。


 その複数の手の間の空間が大きく歪み、強大な力が溢れ出した。それは全て一点に収束し、その中心点は煌々と輝き始めた。


 その手が離れる直後、白い雪に混じって白い羽根が舞い降りた。


 すると、ジークリンデの背後で誰かが叫んだ。その声は、レトの物だった。


「ジークリンデ様……!!」


 その声に、両者はつい腕を降ろした。


 ゆっくりで、しかし彼女にしては珍しいはっきりとした言葉に、ジークリンデは拍子抜けした。


「……何だいレト君。今の状況を見ても僕に話し掛けるのかい?」

「それよりも……重要なことなので……! ……その戦いは……何を発端に……始まったかも分かりませんが…………!! それでも……!!」


 ジークリンデは、嫌な予感が外に晒された胸の奥に沈んでいた。レトの混乱、胸中に広がる嫌な予感、そして自然と浮かんだ彼の顔。


「……御主人様が――」


 ジークリンデはすぐに走り出した。その腕を、レトは掴んだ。


「ジークリンデ様……まず服を……」

「……あ、うわほんとだ。上だけ裸だ」


 ジークリンデの両腕は元に戻っていた――。


 ――ナナシは、息を続けていた。


 むしろそれしか出来ていない。横隔膜を動かし、肺を動かし、何とか命を繋ぐ。その腕は損壊が酷く、右腕は殆ど炭化し、肘から先は失っていた。残っている部分も少し触るだけでぼろぼろと崩れてしまっている。


 左腕さえも酷い火傷の痕が目立ち、今にも崩れそうな程に罅割れていた。


 両足の骨は人間ならば再起不能な程に骨が砕けており、そして左の太腿には肉が食い千切られた様な傷跡が残っている。


 胸から顔にかけての傷はより酷く、打撲と裂傷、そして自らの火に焼かれた痕が残っている。


 その一つしか残っていない眼球を動かし、隣にいるテミスに視線を向けていた。


 喉さえも焼け爛れ、言葉さえも発せないが、言葉を交わさずとも二人は通じ合っている。


「……大丈夫、大丈夫で御座います。テミスはここにおります」


 これ以上自らの主を傷めない様に、触れることも出来ない。触れてしまえば、その体は脆く崩れるか、酷く痛めてしまうだろう。


 テミスは自身の腕を切り落とし、その切り落とした腕から出る血を、何とか開いているナナシの口の中に注いでいた。


 やがて、彼の呼吸は少しずつ弱まり始めた。テミスの焦燥はより強まった。


「嫌……嫌だ……また……」

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


いいねや評価をお願いします……ペンギンの自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

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