其の二十三 鍛錬
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
……と言うか文句はペンギンに言って下さい。
『やっほ、おにぃ』
……誰だお前。いや待て、覚えてる。ナツヒだな?
『おー流石。何処まで思い出せる?』
ルミエールがいて、七人の聖母の名前と、性格。それにジークリンデの少しだけのことと、お前の名前。
『ふーん、ぜーんぜんだねぇ』
「ぜーんぜんか」
「うん、まあ、取り敢えずここに座ってよ」
ここは夜の星が輝く満点の夜空の下、そしてそれの上。白く丸い机と白い椅子。机の上に広げられている、えーと、何だったっけこのお菓子の名前。まあ兎に角、囲碁の石みたいな形をしているお菓子と、お茶で満たされた白いポットと、白いカップ。
白さの上には微細な金と銀の装飾は、見ていると何故か口角が緩んでしまう。
俺は座っていた。向かいにはナツヒが座っていた。俺とそっくりの黒い髪に、こちらを覗く銀色の瞳。ああ、彼女が、俺の妹だと言うのも良く分かる。
「似てるな」
「おにぃに? まあ妹だし」
星に照らされるナツヒの姿は、何処か神秘的で、そして何処か恐ろしい。レト達とは違う銀色の光は、飲み込まれそうな程に奥が深くて恐ろしい。
「私は、おにぃと一緒が良かった」
ナツヒはお菓子を頬張りながら呟いた。その一言だけで、周りの星々は戰いて逃げ出してしまい、空気は僅かに流れて行った。
「ずっと、ずっと、その使命さえも投げ出して、何処か、家族皆でひっそりと。旅でもしようか。終わりの無いずっと続いて行く、自由な旅」
ナツヒは笑顔を浮かべたままだ。だがジークリンデみたいに不愉快には感じない。さっぱりとした清々しい笑顔だ。
ああ、今のジークリンデの笑顔は綺麗で美しかったな。
「……使命を果たされた私達は、本当はおにぃを探す必要は無かったんだけどね。けど、私は、おにぃを探した。何でか分かる?」
「……何と無く」
「うん、多分一緒。家族だから。……もう全ては終わった。使命は果たされた。だからおにぃがくたばっても何も、誰も困らない。私達以外は」
……ナツヒは俺を見付けてくれた。そうだろ?
『……うん、そうだね』
……まあ、また会おう。すぐに会えるさ。だからさっさと目を覚まして欲しい。
『分かってる。でももう少し休ませて。そうだね……おにぃの焔が、皆に広まったら起きようかな』
俺の体は勢い良く下へ堕ちていった。
ああ、思い出した。あれマカロンだ――。
――目覚めると同時に、俺の視界はくらりと回っていた。
壊れた機械と同じ様に何度か叩くと、視界はすぐに戻った。……滅茶苦茶腹減った。
この渇望も、何だか久し振りだ。最近は小腹が空いたら必ず誰かがいたから酷い空腹を感じることが久々だ。
俺の横には離れるつもりが無さそうなリュノが抱き着いていた。恐らくまだ眠っている。
テミスはそそくさと体に白く長い包帯を巻いている。最後に目隠しを巻くと、俺と顔を合わせた。
「お早う御座います最愛の人よ」
「……おはよう」
「……次に言うことを当ててみましょう」
「「目隠し無い方が良いぞ」」
「……こわっ」
「愛の成せる技です」
テミスは腕を伸ばし、俺の頬を撫で始めた。何やら神妙な目で……目は見えないが、神妙な顔立ちで俺にずいっと顔を近付けた。
「最愛の人よ、まだ器の罅が治っていない様です。恐らく魔法技術の習得の影響でしょう」
「……そう言えば、モシュネが力に耐えられないとかうんぬんかんぬん」
「ええ、恐らくそれです。最近では器の罅が我等聖母の影響で多少なりとも修復されているのでしょうが、やはりまだ足りない様です」
テミスはリュノの頬を何度か叩いて無理矢理起こした。
「リュノ、血を飲んで下さい」
「……姉様の被虐趣味に付き合うつもりは御座いませんが……?」
「違います最愛の人のです。どうやら力が溢れかけている様です」
「……ああ、成程……」
「後でスティも呼ばなくては……」
リュノは寝惚けたまま俺の首筋に噛み付いた。苦しそうなうめき声が聞こえたが、ようやく出血した噛み跡を舐めながらリュノは呟いていた。
「申し訳御座いません……消えます……消えて償います……」
「……後で満足行くまで血を啜らせれば許す」
「そんなことで許さないで下さい」
「何だお前厚かましいな」
リュノが俺の血を舐め取っても、倦怠感と渇望が終わらない。テミスはそれに気付いたのか、スティを呼びに行った。
その間に、仕返しとばかりにリュノの首筋に噛み付いた。逃げようとしても絶対に離さない。
「あぅぅ……」
スティがやって来たと思えば、やはりと言うか、裸だった。もう彼女達の裸体にも慣れてしまっている俺がいる。
「……嫉妬の念を持っても、仕方が無いことは理解しておりますが、やはり難しいですね」
「また次の時にな。それともレトに相談するか?」
「いえ、お気遣い感謝します。……さて、事情は聞いております。ああ、そのままで大丈夫で御座います」
リュノの首筋にもう一度噛み付き血を啜り、裸のスティが俺の素肌に噛み付いて傷を付けて血を舐める。……状況だけ見れば、相当アレだな……。
どうせサラとアルバートが来て、アルバートが叫ぶんだ。もう分かるんだ。
予想通りアルバートは叫んだが、無事検査は終わった。ようやく一日は始まった。
やはり今朝二人に力を抜いて貰ったからか、何時もより体が軽い。鍛錬場でそれがより実感出来る。
魔法技術の鍛錬、同時に肉体の鍛錬。並列に二つを熟す。多分出来るだろう。テミスに言われた基礎と同時に、黒い翼を広げて、そこら辺にいたジークを背負って運動をする。
翼を広げている影響で、上着が着れない。着たまま翼を出すと服が破れて使い物にならなくなる。
やれば案外どうとでもなる。問題は、共に鍛錬しているフィリップと、背中にいるジークの発汗が酷いことになっていることだろうか。
「あっつ! 燃える! 僕の体が燃える!」
「色々言いたいことはあるがナナシ! せめて外でやれ!」
ジークが俺の背で暴れながら魔法技術で水を俺に掛けているが、すぐに音を立てて蒸発する。その分この辺りの湿度が上がって蒸し暑くなる。
「……一旦止めるか」
黒い翼を大きく羽撃かせると、それは黄金の焔を纏って燃え始めた。それは黒い灰となり、やがて俺の背から焼失してしまった。
「ふぅ、戻るのに時間が掛かるな」
この翼は、正直良く分からない。まあ使えるなら使おうか。
「なあジーク、魔法技術で氷を出すとか、そう言うの出来ないのか」
「無理だよ流石に。そう言うのは僕の管轄外だ。ああでも、彼女達なら可能か」
「彼女達って言うのは……聖母のことか」
「そうそう。彼女達が氷を出した姿を見たことが無いかい?」
「無い……よな?」
俺はフィリップと視線を交わすと、彼は僅かに考える素振りを見せた。
「いや、見たことがある。モシュネの氷だな。と言うかレトも大型の変異体と戦った時に見ただろ」
あ、そう言えば、そうかも。記憶がすっぽりと抜け落ちてた。
「……レトでも呼ぶか」
そう呟けば、どう言う原理かは一切分からないがレトがやって来る。ほら、走ってやって来た。
「……呼びましたか?」
「呼んだ呼んだ。氷の魔法技術が使えるとか」
「……ああ……恐らく……出来ると……思いますが……。……ええ、今すぐにと言うのなら……作りましょうか……?」
「じゃあ頼んだ」
レトが床に触れると、瞬きの間に凍り付いた。これはこれで色々問題がありそうだ。
「レト、ここの気温を下げることは?」
「可能です……少々大変ですが……」
「……それは俺が背負っても持続出来るか?」
「ええ……むしろもうやってますので……少々、本当に微量だけ……苦労が増えると……言うだけ……ですから……」
「なら丁度良いか。ジーク、交代だ」
ジークは俺の背中から降りると、床に寝転んで四肢を動かして滑り始めた。こいつ本当に自由だな……。
もう自由に扱える様になった黄金の焔の熱を背中に集め、それをまるで渦の様に纏める。編み物ってやったことあるか? 俺は知識としてしか知らないが、イメージとしてはきっとあれに近い。
複数の熱を一本の糸として、それを編み込む。それはやがて体を纏ってそれは俺の体を包む。
それは、翼となる。翼の形となり広がる。それは羽根を散らす。そして燃える。大きく羽撃かせると、黄金の焔は散って、漆黒の翼が現れる。
「ふぅ……これやるだけで疲れるんだよな。レト、背中に」
レトを背負って、また運動を始めた。
魔法技術は純粋に戦術の幅が広がる。身体能力も鍛えればそれはそれはもう、一人で大型の変異体をぼっこぼこに出来る位には強くなれるかも知れない。
実際何処まで威力が出るのか、こんな所で試せば大問題になるから出来ない。今度少し遠くの山の方まで行って試してみようか。
すると、背負っていたレトの手が、俺の胸部辺りを撫でていることに気付いた。
「……なあレト」
「……嫌……でしたでしょうか……?」
「いや、まあ、特に問題は無いんだが、ちょっと擽ったい」
「ああ……そうでしたか……。……やはり、貴方の……こう……分かります……? 愛している人の体の……胸の筋肉の……膨らみを触りたい感覚……」
「……胸の膨らみしか触ったことが無いんだが」
「……確かに。……テミス様は……筋肉はありますが……その上に脂肪が……ありますからね……」
レトは手を腹部にまで伸ばした。
「……ああ……汗の匂い……頭の中がぐちゃぐちゃに……溶かされます……」
「……なあレト」
「……何でしょうか」
「いや、人の趣味にとやかく言うつもりは無いが……御主人様の筋肉触って汗の匂い嗅ぐのはちょっとぉ……」
「テミス様は被虐……スティは露出……モシュネは……何でしょう?」
「モシュネは貢ぐと言うか……ほら、分かるだろ? 必要とされたがっている感じ」
「ああ……確かにモシュネには……そう言う所がありますね……。……リュノはどうでしょうか……?」
「リュノは……うーん、これと言って――あ、あったあった。リュノは接吻が好きなんだよ。繋がってる時もずーっとしてたし。そしてレトが」
「筋肉匂い好き……ですが」
「……御主人様は君達聖母の性癖が心配です」
「リュノの……髪の匂いを嗅いでいる……貴方が言うのですね……?」
「じゃあ俺とレトは似た者同士ってことで」
「……似た者同士……ですか。……成程、後で私の匂いも嗅いで貰いましょう……ああ……特訓の後でも……」
背中にいるレトは、僅かに笑っている様に感じた。まあ見えないから分からないんだが、多分笑っている。
「そう言えば……この黒い翼はどうやって……?」
「知らん。魔法技術を研鑽してたら勝手に生えた」
「勝手に……? ……勝手に翼が生えるとは……?」
「そんなこと言ったらレトだって勝手に蝶の翼が生えただろ」
「……あれは……何でしょうね……?」
レトでも分からないのはまあ知ってる。結局分からないことだらけな俺達だ。何時か分かると良いんだが、それも遠くにありそうだ。一歩ずつ前進はしているはずなんだがな……。
「……なあナナシ」
「何だフィリップ。手合わせの時間か?」
「ああ、だが……何と言うか。イチャイチャしたいなら後にするか?」
「いや、大丈夫だ」
無表情ながら嫌そうに首を振るレトを背中から降ろしたが、必死に腕にしがみついている。ずっと猫みたいだなと思っていたが、こう見ると犬に近い何かも感じる。
ジークに頼んで離して貰うと、やっぱりレトは暴れていたが、取り敢えず無視して木剣を手に持った。
「……お前その状態で戦うのか?」
「魔法技術も使いたいからな」
「ああ、そうかい。死なない程度に、全力で来いよ?」
「分かってる分かってる。と言う訳で――」
俺は木剣を両手で握り、左腕に鎖を巻いた。そして黄金の焔と熱が木剣に移ると、それを我流で構えた。
「お前鎖からしか魔力が排出出来ないんじゃ無かったのか?」
「黄金の焔は魔力じゃ無いらしい。原子の魔力とでも言うべき力らしいからな」
フィリップは首を傾げていたが、まあ馬鹿なフィリップのことだ。知らなかったのだろう。
フィリップは息を整えると、木剣を構えたまま一歩踏み出した。同時に、二つの剣は動いた。
打ち合った木剣は二人の眼前で互いを押し合って静止した。木剣を境に俺とフィリップの視線は交わされた。彼は笑みを浮かべている。
黄金の焔が大きく吹き上がると、フィリップは一歩だけ後退りした。勿論一瞬の隙を見逃す俺じゃ無い。その恐怖によって引き起こされた無意識的な一瞬だろうと、フィリップの言う通り死なない程度の全力をぶつける。
一気に彼の木剣を押し返し、脇腹を狙って横一直線に振るった。だがフィリップはその強靭な脚力を駆使して瞬きの間にその木剣の軌道よりも高く跳躍した。
そのまま力強く振り下ろされた、落下の威力が加わった剣は、俺の頭頂部を思い切り叩き付けたはずだった。
彼の木剣は、俺の黒い翼に阻まれていた。
その羽根の向こう。俺は上半身を捻り、剣を後ろに下げていた。上半身の捻りをそのまま推進力にして、素早く放たれた突きは黒い羽根を影にフィリップの喉元に向かった。
それよりも先に、フィリップの利き手が伸びて、その突きの軌道を下方へ導いた。俺の突きは彼の胸部の中心に刺さった。
クッソ、肋の隙間なら良かったのに、胸骨の場所だ。そこまでの傷じゃ無い。
その隙に、俺の右足が彼の足に払われた。一瞬だけでも体勢が崩れるのだ。すぐに立て直しても、もう遅い。彼は体を回し切って回転と遠心力が加わった剣先を、俺の頭部に直撃させる直前だった。
フィリップの剣を握る手の首、それを僅かに俺の手で上へ押し上げながら、俺は僅かにしゃがんだ。頭上で勢い良く風を切る音が響いて肝が冷える。
右手でフィリップの手を捻り、左手を腹部に向けた。左手には黒い熱が溜まり、そして、魔力が放たれる。
放たれた魔力は黒い熱と焔となり、爆音を響かせた。黒い煙と似合わない白煙に包み込まれたフィリップは、火傷の一つも負っていない。
「バケモノよりも化け物してるなフィリップ!」
「バケモノに言われたく無いなァナナシィ!!」
二人の、死なない程度の全力の戦いはまだまだ続いていた――。
――フラマは頭を抱えていた。
いや、彼はずっと頭を抱えているのだが、今は少し違う理由で頭を抱えている。
ナナシによって発生したバプテスマ、それの影響で起こった夏日。その被害は甚大であり、碌な準備も出来なかった為か、多くの物資や食料に尋常な被害が襲った。
勿論この責任全部をフラマ一人で請け負ったのだが、結果的に伸し掛かった重責に頭を悩ませていた。
「……このままでは遠方調査の為の物資が……ただでさえ人数が増えて大変だと言うのに……! ……このままでは予算が大幅に……陛下もこれに関しては援助してくれないだろうな……そう言う所はやけに抜けていない所がある」
そこでフラマは考えた。
「……やはり、稼ぐしか無いか。時期としても丁度良い。今から準備すれば、まだ間に合うはず……問題は出場資格を何とかすることか……」
フラマがそう決心すると同時に、エイミーが鍛冶道具で彼の頭を叩き始めた。
「なーに深刻そうな顔をしてるの司令官殿」
「……予算不足だ」
「……鍛冶場の予算は減らさないで、お願い」
「それに関しては大丈夫だ。目処が立っている」
「お、本当?」
「本当だ。あれに出て貰う」
「あれって……あれ?」
「あれだ、あれ」
どれだ。
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
いいねや評価をお願いします……ペンギンの自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……




