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ホロビタセカイデバケモノノタビ  作者: ウラエヴスト=ナルギウ(のペンギン)
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其の二十一 夏日

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


……と言うか文句はペンギンに言って下さい。

「……最近本当に体が休まらない……」

「一体何が原因なのでしょうね……」

「お前達の所為だが?」

「まさか。最愛の人が求めた物を提示し、そして捧げただけです」

「……にしては、相当……?」

「……気の所為です」

「いや俺が付けた噛み跡――」

「気の所為です」

「……ああ、そうか。気の所為か。そうか俺の気の所為か……昨晩のあれは」

「ええ、つまり昨晩のあれは――九割九分九厘私の趣味が入っていますが本心ではありませんので」

「それ殆ど全部お前の趣味じゃ無いか? と言うか主人として色々心配だぞお前の趣味」

「ようやく王としての自覚が出て来た様ですね」

「絶妙に、話を取り替えられている気が……?」


 俺はテミスの首筋にまだ残っている赤い噛み痕を指でなぞった。その赤い痕はすぐに消え去り、何事も無かったと言い張っている。


「痕が消えるのは名残惜しいな」

「私としても残しておきたいのですが、まあこれは仕方がありません。折角付けて貰ったのに申し訳御座いません」


 テミスは黒い布を頭に巻き、目を隠した。あの綺麗な銀色の瞳を見れなくなるのは残念だが、恥ずかしがり屋なテミスのことだ。こうでもしないと俺と目を合わせられないのだろう。


「……さて、最愛の人よ。朝早くではありますが、昨日の魔法技術の感覚は覚えておられるでしょうか」

「朝練習ってことか」

「はい。毎日少しでも続けることが重要なのです。……あの世界で魔法技術の習得の為に一度か二度盛大に爆破してしまいましたので、今回は基礎の魔力操作だけにして下さい」

「……何か、ごめん」

「謝らなくとも大丈夫です。両者大した傷も付いていなかったので」


 両手を合わせ、あの時と同じ感覚を引き出す。自然と黒い鎖が巻き付き、そして手の中に宿る黄金の焔。


 大きくするでも無く、ずっと一定の大きさに保つ。小さくすることもしてはならない。テミス曰く一瞬の内に大出力の火力を生み出すことよりも、ずっと同じ大きさ、最大でも無く最小でも無い大きさを一定に保つことが難しいらしい。


 とは言っても、相当な集中力を費やせば特段難しい訳では無い。そう言えば、フィリップが言うにはモシュネも魔法技術を扱えるらしい。あれが魔法技術かと言われればまだ分からないが。


 テミスのあの何処かから取り出した天秤も魔法技術だろうか。


 すると、何やら煩い足音が聞こえて来た。プライバシーを守る気も無い扉の開け方をしたのは、どうやらフラマの様だ。


 フラマは俺の姿を珍しく焦った表情で見ると、苦い顔を浮かべた。


「……急激な魔力の向上を確認して来てみれば……人騒がせなことをしないでくれ、ナナシ」

「大丈夫大丈夫、もしかしたら大爆発が起こるけど」

「それが起こらない様に私が来たんだ。君はまだ未知であり、何が起こるか分からないと言うことを自覚してくれ。異常は即座に察知しなくては重大な障害が起こる可能性もあるんだ」

「これに関しては大丈夫だ。最悪この部屋が失くなるだけだ」

「……まあ、なら良い」


 不服そうではあるが、フラマは納得したらしい。


「……ああ、ナナシ。物資が揃い次第、また調査へと赴く。次は何時かは分からないが……まあ、心の準備だけはしておいてくれ」

「ずっと言いたかったんだが、何でそんなに動いてくれるんだ?」

「それしか道が無いからだ。人間と言うのは、虫と同じ様に明るい方へ導かれる。今の君達は我々人類の、道の先を照らしてくれる炎だ。少なくとも私はそう思っている」


 すると、開かれたままの扉の外から、サラとアルバートがこちらを覗いていた。


「……話は終わったか? 定期検査を始めたいのだが」

「司令官、ナナシさんに何か異常がありましたか?」


 ……腹減った。


 一日は始まった。ようやく暑苦しい気温は過ぎ去り涼しい風が吹き込んで来た。それは明日か明後日には、また人にだけ蝕む雪が降ることを意味する。


 それとも、これから先、一切雪が降らないのだろうか。……ジークリンデが言った俺の妹、そいつがこれ以上雪を降らさない判断をしてくれれば……まあ、きっと無理だよなぁ。


「……無理だよな。また雪が降る」

「……あのぉ……」


 外をリュノと一緒に歩き、久し振りだと錯覚する冷たい風を感じていた。


「……その、何と言うか。恐れ多くて……その……手が……」


 繋いでいるリュノの手に彼女の手汗が溜まっているのを感じる。何だかこれも愛おしく感じる。


「……ぁぁ……きゅぅぅ……」

「ジークリンデが何処にいるか知らないか?」

「……さぁ……あぁ……」

「あいつからは色々聞いておきたいことがまだあるんだよ。全部一気に聞かなかった俺も悪いが……」

「……彼女は、少々いけ好かない性格ですので、あたしとしては、旦那様と関わらないで欲しいと言うのが、正直な感想です……」

「一応は俺の親友だ」

「あ、あぁ……! ちがっ、違うのです……! あたしは……! あ、あぁ……旦那様……!!」


 リュノは俺の足下に縋り付きながら、繋いでいた手を決して離さない様に力強く握りながら、震えた声と潤んだ瞳の上目遣いで懇願していた。


「捨てないで下さい捨てないで下さい捨てないで下さい!! あぁ……辞めて下さい、捨てないで……捨てないで下さい……あ、あたし、旦那様の為に……体も命も……! ああ……それだと姉様達と同じ……! ……あぁ……嫌だ……捨てないで下さい……。捨てないで下さい捨てないで下さい捨てないで下さい……!!」


 すると、俺の背中に誰かが抱き着いた。その肩に顔を乗せて、縋り付いているリュノを見ていた。


 彼女は俺の耳元で、全く変わらない声量で喋り始めた。


「あーあ、女の子を泣かせてる。何をしたんだいナナシ君」

「丁度お前を探してたんだジークリンデ」

「丁度私も君を探してたんだナナシ君」

「……少し待ってくれ。リュノを慰めるから。慰めながらでも良いか?」

「問題は無いよ。一切問題は。急いでは欲しいけど」


 木陰で泣き喚いて抱き着いているリュノの頭を撫でながら、未だに呟いている彼女を慰めた。


「捨てないから安心しろ。旦那様はずっとリュノの傍にいるから」

「……どうせあたしは旦那様の周りを群がり気分を害する蛾です……。……ああ……けれど……捨てないで下さい……ああでも……やっぱり死にます……雪に埋もれてひっそりと死にます……もう旦那様の気分を害すること無くひっそりと一人で死にます……」

「だから捨てないって。実際ジークリンデが凄いムカついてぶっちゃけいけ好かない性格なのは俺も思ってるし、正直な話親友を辞めたい」


 隣にいるジークリンデが俺の腕をぽかぽかと叩いているが、特に気にしないでおこう。


「……で、何でジークリンデは俺を探してたんだ」

「煩い煩い! 親友じゃ無い君にはもう教えてあげない!」

「はいはい親友、親友だ。俺とジークリンデは」

「……まあ良いや。朗報だナナシ君。ナツヒ君が来たんだ!!」

「誰だそれ」

「ああ、それも忘れてしまったのかい。君の妹だ。むしろナナシ君はそのことを聞きに僕のことを探していたのだから、本当に丁度良かっただろう?」


 ……こいつは相変わらずだ。俺の心情を見据えた発言を繰り返す。類まれなる洞察力と推理力での推察では無い。確実に、そして明らかに、俺の中を覗き、一歩回って発言しているとしか思えないのだ。


 先程の発言も、確信があって断言していた。そう言う所がどうしても不愉快に思ってしまう。


「……で、そいつは何処に?」

「ああ、熱中症で倒れて、今にも死にそうだよ」

「それを早く言え!! 何処にいる!! リュノ! サラを呼んで来い!!」


 ジークリンデの呑気な案内に腸が煮えくり返るが、今はどうでも良い。


 ナツヒがいるのは、メルトスノウから見える山の中腹らしい。だが今は溶けた雪が水となって地盤が緩んでいて危険だ。


 フラマから土砂崩れの危険があり、立ち入りが禁止されている。だが今はそんなことを言っている暇は無い。


 見ず知らずの他人……では無いのだろうが、俺の記憶には一切残っていない妹。だが妹だ。それだけで良い。それだけで助ける理由になる。


 緩んだ地面に足を取られ、一歩ずつ、しかし素早く進んだ。どう言う訳かジークリンデは青空の下で悠々と飛んでいる。比喩では無く、本当に彼女の体は飛んでいるのだ。


「おいジークリンデ! 飛べるなら助けて欲しいんだが!!」

「駄目だよナナシ君。僕が関わっちゃ。何れ分かるさ。僕が、僕達が何をしようとしてるのか。彼女を救うのは君しかいない。僕じゃ無い。僕はあくまで、自分の目的の為に」


 ……やっぱりこいつ、永久に親友を放棄した方が良さそうだ。


 すると、土臭く、何だか酸っぱい臭いが鼻腔を擽った。何時読んだかは忘れたが、確かこれは――。


「土砂崩れの前兆か……!!」


 山からまるで唸っていると思う程の重底な山鳴りまで聞こえる。もう時間は無い。


 こんなに青天なのに、こんなに晴天なのに、似合わない焦燥感が俺の体中に広がる。こんなに焦る必要があるのか?


 いや、さっき決めただろ。妹だ。俺の、たった一人しかいないはずの、妹なんだ。


 ジークリンデの後を追い掛けると、彼女は突然指差した。言葉を交わさずとも、状況で分かる。その先に、妹がいる。


 自分でも信じられない程の脚力が引き出された。泥濘んだ地面も力強く踏み締められた。姿も思い出せない妹なのに、こんなに必死になって腕を振って、足を踏み込んで、走られた。


 ようやく見付けた、たった一つの倒れている人影。短いスカートに、雪が降る世界にしては短い袖。きっと彼女が、ああ、彼女が――。


「ナツヒ!!」


 駆け寄ってナツヒの体を抱えた。脈もあれば息もしている。意識が薄らいでいるが、まだ無事だ。全身が痙攣しており、手足が震え、体が異常な程暑い。


 典型的な熱中症の症状だ。しかも相当に酷い状態。今すぐ降ろさないと本当に、不味い……!!


 より一層酷い山鳴りが響いたと思うと、突然地震の様な揺れが起こった。その揺れの震源地、つまり山頂の方を向くと、より最悪な事態を自覚した。


 土砂崩れだ。今まで見たことが無く、文献での記述からの想像でしか無いのだが、土の津波とは正しくあれのことなのだろう。


 木と岩と泥濘んだ土が一緒に、俺達に向かって流れ込んで来る。


 背を向けて、ナツヒを背負って俺は走り出した。勿論全速力だ。だが、襲い掛かって来る土流の足の方が幾らか速く、俺の足に小石をぶつけた。


 止まるな! 止まれば妹が死ぬ! 俺は無事でもこいつが死ぬ!!


 ジークリンデは薄ら笑いを浮かべながら、俺達を見下すだけだ。決して助けようともしない。


 土流が俺の膝の高さにまで来た時、一気に背後から今までで一番の重量を感じた。土石流が、俺の背にやって来たのだ。


 ナツヒを背から胸に、そして俺はその場に蹲った。


 瞬間、体に伸し掛かる重い、岩と土の土流。痛みも苦痛も、俺は感じる。暗闇が怖いとも、俺は感じる。この泥濘んだ土とその臭いを不快にも感じる。


 だから、だからこそ、溢れ出た思い。いいや、何度も思ったことがある。だが、今は多分、妹の分までこう思っている。


「……死にたくない――」


 ――ジークリンデは土砂崩れに押し潰されたナナシとナツヒの場所を見下していた。


「……まさか、本当に押し潰されてしまったのかい? 君が?」


 ジークリンデの薄ら笑いは崩れていた。心底不思議そうな表情を浮かべながら、未だに動かないその場を見詰めていた。


「ナナシ君? ……ほ、本当に? いや……まさか、そんな訳が――」


 すると、また山鳴りが聞こえた。だが、賢いジークリンデはすぐに気付いた。山鳴りでは無い。まるで何か地下で繰り返す爆発の様な衝撃と音だ。


 同時に、ジークリンデの額に熱風が吹き込んだ。夏日の熱風に近いそれは、僅かな魔力を帯びている。


 そして、黄金の爆発が起こったのだ。それは、名の無いバケモノが身に付けた原初の力。彼が身に付けた力。


 土砂崩れの場から、黄金の爆発の中からナナシが這い上がった。その腕にはナツヒを抱えており、彼には傷の一つも付いていない。


 黄金の焔は左腕の黒い鎖から吹き出しており、彼の髪の毛先から黒い炎がちらついていた。


「もう二度と、こんなことはごめんだ……! クッソ、口に土が入った……!!」

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


いいねや評価をお願いします……ペンギンの自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

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