其の十九 夏日 一
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
……と言うか文句はペンギンに言って下さい。
「……なあ、モシュネ」
「……なんですか……? ……あぁ……御主人様……」
朝。どうやら雪が辞めば太陽の光が照らされて目を覚ます生活も送れる様だが、そんなに強い太陽の光を一度も拝んだことは無い。
そんな薄暗い朝に、目を覚ました。モシュネは既に起きているが、抱き締める力が強過ぎて起き上がれない。
「……ああ……モシュネは今、胸がいっぱいなのです。昨晩からずっと……御主人様の愛が、御主人様がモシュネを使い、モシュネを……あぁ……欣快の記憶が、頭の中に、何度も、駆け巡って……想起する度に、下腹部辺りに熱が……あぁ……」
モシュネの顔は僅かに綻んでいた。何時もは無表情なのに、今の彼女は微笑んでいた。凍った表情筋が溶ける程に、モシュネの頭の中には歓喜が溢れているのだろう。
「……御主人様、不躾な問だとは承知ですが……モシュネを、私を、愛しておりますか……?」
「ああ、勿論」
……自分でも違和感を覚える程の、心情の変化。勿論この感情が嘘だとは言えない。俺が彼女達を愛しているのは正真正銘の事実であり、嘘偽りの無い事実である。
だからこそ感じる違和感。いや、ずっと前から愛していたのは間違い無い。だがそれはこう言う愛情では無かったと、思う。いやどうだろうか。自分でも分からない。
……まあ、良いか。彼女達も俺を愛して、俺も彼女達を心から愛している。それで良いじゃないか。何も、問題は無い。
……それにしても、何だか今日は暑いな……?
「ほら、起きるぞ。もう朝だ」
「……もう少し、こうやって愛し合いましょう……?」
「駄目だ」
……やっぱり暑いな。ああ、そう言えばフラマが、今日は夏日になるとか何とか……。その所為か?
駄目だ。本当に暑い。外の寒気さの所為で、どれだけ室内を温めてもひんやりと涼しい温度で維持されるメルトスノウ内がこんなに暑いなんて……。
それに、サラが来ない。何やら廊下も騒がしい。
腹が減っているが、どうしても気になる。モシュネの血を啜る前に、廊下を覗いてみた。同時に湿気と熱気が俺の自室に入り込んだ。慣れていない体は即座に危険信号を発し、汗がぶわっと吹き出した。
「あっっっっっっっつ!? あっつ!?」
「まさか此処までとは……。それだけ御主人様の力が強大と言うこと。流石です」
「こればっかりは自慢出来ない! むしろ自分を恨む! どんだけ暑いんだよ! 最悪死人が出る暑さだぞ!!」
「……そうですね。モシュネを抱き締めてみて下さい。冷たいはずです」
言われるがまま抱き締めてみると、ひんやりと冷たい。
「……本当に冷たい。ああ、そう言えば体温が常に一定だったな」
「ええ、数値にすると、35.9らしいです。平均体温より低いらしいのですが」
「成程……本当にお前等って万能だなぁ……」
外だと此奴等を暖かく感じるのは、その分相当寒いってことだろうなぁ……。
まあ、今日の外は、湿気と熱気が混じり合う地獄の様な気質だが。……更に言うなら、それは俺の所為だ。……いや、フラマが悪い! 命令したフラマに全責任がある! うん、そうだ!
責任転嫁は済ませた。モシュネの今は冷たく感じる肌に牙を突き立てた。本来ほんのり温かいはずの血が、今日だけは雪を溶かした冷水に感じた。
……うーん、だけどレトはこんなに冷たく無かった気が……? 姉妹達で体温が違うのだろうか。
腹を満たした後は、モシュネを前にだらし無く抱き着きながら歩いた。こうした方がモシュネの体温をより感じれる。一つだけ問題があるとすれば、悪目立ちすることだろうか。
それに関しては今更だから実質的に何も問題は無い。一つ思えば、意外にもモシュネの力が強くて俺の体が若干引き摺られている。いや、殆ど体重を任せているからモシュネが俺の体を引き摺りながら平然と前に歩いていると言って良いだろう。
仕方無い。暑いのだ。暑すぎて力が入らない。歩くのも怠いのだ。
ああ、汗がベタつく。喉も渇くし力も入らない。今日は最悪な一日の一つに数えよう。
すると、向こうから半裸になってやって来る男性が見えた。俺の友人の一人である"ドミニク"である。
ドミニクは水筒に口を付け、水をがぶ飲みしながら額の汗を拭っていた。
「あっちぃ……おーモシュネちゃ――の後ろにナナシィィッッ!! 貴様ッッ!!」
こんな暑い中、全力で汗を散らしながら走って来るドミニクに、モシュネは露骨に嫌悪感を示していた。
「もう許さねェ! ぶっ殺してやるッ!」
「……お前元気だなぁ」
「んな訳あるか。この暑さに皆バテちまってるよ。僕もそうだ。その所為で倒れた奴も居る。今日サラさん来なかっただろ? 暑さの所為で倒れちまった奴等を優先して来れないんだと」
「ああ、道理で」
「……お前の所為だってな。一発殴らせろ」
「俺の所為じゃ無いもん、フラマの命令だもん。だからナナシ悪く無いもん」
「実験の為とは聞いてるが、事前に警告してくれよな。食料も腐りそうだから頑張って地下に輸送中だ。地下はまだ涼しいし。……って言っても、お前は食わなくても平気だったな」
「此奴等が居るからな」
俺はそう言ってモシュネの白い頭を撫でた。ドミニクはその様子に、大層嫉妬している様だ。モテたいのは分かるが……まあ、うん。アレだ。
「……あぁクッソ暑くて気力が出ない。……お前も汗凄いな」
「だからモシュネに引っ付いてる。此奴の肌雪みたいに冷たい」
「へぇー……さ――」
「触らせねぇぞ?」
「ああそうかい! 暑さでくたばっちまえー!!」
そう言ってドミニクは走り去った。何だったんだ彼奴。
しっかし、本当に暑い。妙に煩い奴の所為で更に暑くなった気がする。
「何ですかあの失礼で不愉快で劣等で不快な男は」
「酷い言われようだな……何も間違って無いけど」
俺も何故親しくなったのかは分からない。只、話してるとフラマとかフィリップとかと同じ位楽しいんだよな。何でだろ。
外に出てみると、雪は全て溶け、変わりに湿気に変わってしまっている。それでも変わらず曇り空なのだから、あのバプテスマは根本的な解決にはならないのだと分かる。
外ではフラマが居た。何やら土を熱心に集めている。
「凍っていたからこそ無理だったが……今なら……」
「よおフラマ。何してるんだ」
「……ああ、ナナシか。……どうしたその……何だ?」
「モシュネが冷たいんだ」
「ああ、そうか……。……雪の下の地面は凍っていてな。今なら気温が26℃。充分採取出来る程に溶けたはずだ」
土の採取か。最近読んだ本でも、土の中には相当な微生物が蔓延っていると記述があった。知識を付けるのは良いことだ。それだけ見える範囲が広がる。
「……実は、陛下に呼ばれている」
「何かあったのか」
「これだ。何せ事前通告無しにやって、異常気象を齎したんだ。慈悲深い陛下でも流石に許してはくれないらしい。まあ、そうだろうな。もう十七人倒れている。責任を負わなければ」
「慈悲深い……ねぇ。俺はそう思わないが。ああ、俺は行かないぞ?」
「問題無い。君の扱いは、基本的に実験体。実験体が何かしらの不祥事を犯した場合、その責任は管理者に行く。君は変わらず彼女達とイチャイチャしていれば良い」
「嫌味か貴様」
「まさか。事実を羅列したまでだ。事実の羅列は科学者の基本だ」
フラマは微笑みながら、また土の採取に取り組んだ。
さて、今日は何をしようか。とは言っても……うーん、こんな状況だとやる気も起きない。このままモシュネに甘えてだらけ切った一日を過ごそうか。
モシュネも嫌がらないし、むしろ喜んでいるし、嫌がらないだろう。今のこの異質な状況がそれを証明している。つまり! 誰も俺を責め立てない! ならサボっても良いだろ!
すると、向こうから今度はリュノが駆け寄って来た。何時もの羊の様な髪の毛が、今日は熱と湿気の所為かしなしなになっている。勿体無い。
「ああ、見付けましたよモシュネ。少し手伝ってはくれませんか?」
「見て分かりませんか? 今最重要事項を熟している最中です」
「あぅ……で、でも旦那様の為でもあるので……」
「……何をするのですか」
「旦那様の魔力総量? とやらが増大している原因を探る為に、何時も傍に居る姉妹達が、旦那様が日常で触れる機会があって魔力総量が増大する何かを見付けて欲しい、と言う、そこに居る人からの頼みです……どうにも見付からず……」
そう言いながらリュノはフラマを指差した。それに気付いたのか、今度はフラマが語り始めた。なら最初からモシュネに話せよ。とは口が避けても言えない。言ったら良い顔はされないだろう。
「ナナシは関わらない方が良い。これ以上魔力総量を増やせば、後に大きな問題となる可能性がある。ナナシにだけ反応する何かがあるのなら、それから離れた方が良い。その理由からナナシは待機しててくれ。まあ、普通の生活はしても良いが」
「最初から言えよ」
あ、言ってしまった。
「……本当はテミスとスティとレトに頼んだ。リュノはまだ此処に来て短い。モシュネは君と寝ていた。わざわざ入るのも失礼だ。そう言う理由からナナシには言わなかった。理解したか?」
フラマは捲し立てる様に言葉の羅列を俺に投げ付けた。……若干怒っている様にも感じるが、気の所為だろうか。
「そう言う理由でしたら、良いでしょう。御主人様、一度離れますが、宜しいでしょうか」
「ああ、大丈夫だ。もう充分体も冷えたしな」
それでもまたすぐに暑くなるんだろうが……別に良いか。
モシュネから腕を離すと、すぐにリュノと共に何処かへ行ってしまった。さて、本当に暇になった。
……何処か、涼しい場所でも見付けるか? 地下室……は辞めておこう。近付けば手伝えって言われそうだ。
ああ、そう言えば最近ジークリンデと顔を合わせないな。何やってんだ彼奴。探してみるか。
だが、聞いてみても、ジークリンデを見たと言う人は居なかった。むしろ昨日から見ていないのだと言う。つまりメルトスノウ内に居ない?
まあこんな夏日だ。外に出たくなる気持ちも分かる。それに、雪が降らないお陰か、全員マスクを外している。外での開放感は今までとは段違いだろう。
それ以上のデメリットとして、こんな暑さがあるのだが。
いや、違う。昨日から見ていないと言っていた。つまり? 結局何処に居るんだ彼奴。
仕方無く自室に戻ると、俺のベッドでジークリンデが足をばたばたとさせながら寝転んでいた。
「……おい」
「お、やあやあナナシ君。何だか久し振りだね。そうでも無いかな?」
「二日か三日だ。何処に行ってたんだ?」
「うーん、言って良いものか、何と言うか」
「……親友だろ?」
すると、ジークリンデは一瞬だけぎょっとした様な顔ぶりをすると、にんまりと薄ら笑いを貼り付けた。
「そうだね。僕達は親友だ。なら、言っても良いかな? 僕の目的の為に動いてた。色々あったからね」
「その色々って言うのは?」
「それは教えられないなぁ」
ジークリンデの目的は良く分からない。自由だとか何とか。
「……目的は、自由か?」
「ああ、勿論。いや、果たしてそれを自由と言うのかはまだ分からない。一番適して、一番不一致な言葉が、自由だったからね。僕は自由を目指している」
「……何かに支配されているのか?」
「いいや、僕達は自由だ。だがまだ不自由だ。彼と彼女はまだ僕達を見下している。まあ、僕達の姿が見えているのか、僕達の声が聞こえているのか、それは分からないけどね」
ジークリンデは俺の瞳をじっと見詰めながらそう言っていた。哀愁とか、そう言う悲哀の感情は一切感じない。単に彼女は、淡々と思っている言葉を発しているだけなのだと分かった。
「……まあ、実はもう最低限の土台は出来てるんだ。後は全て運任せ、そしてより確実な物にする為に、君に頼みたいことがあるんだ」
「それは、雪を溶かすことに繋がるのか?」
「ああ、勿論。いや、むしろそれをして貰わないと困る。僕の目的の為には、君達に旅を続けて貰わないと困るんだ。頼みたいことはたった一つ」
ジークリンデは薄ら笑いを貼り付けた。
「七つの銀の王冠を被り、その穢れた聖火を掲げてくれ。どうやっても良い。誰を殺しても良い。誰を救っても良い。壊しても作っても、愛しても恨んでも、始めたり終わらせたり、ただ、一つだけ約束してくれ。最も正しく、面白い選択をしてくれ」
……此奴の言っている意味は、今でもさっぱりだ。むしろ気でも狂ったか? いや、それは初対面の時からだったな。
ジークリンデは俺の過去を知っている。そして俺の何かを知っている。彼女が目指すそれは、記憶を失う前の俺を蘇らせる為の画策なのか、将又記憶を失った俺を都合良く、甘い言葉で操ろうとしているのか。それさえも分からない。
だが、何故だろう。不愉快に思っていた彼女を、今はとても親しく思っている。
「……今、俺は何個の冠を持っている」
ふと思い付いた言葉をそのまま吐き出した。自分でも驚く位に、すんなりと違和感無く発せられた不自然な言葉。
「五つ。本当は現時点で四つのはずだった。どうやら僕でも予想外の出来事が起こっている様だ。特に、テミス君。彼女はルミエール君と共に居るはずだ。にも関わらず、今は君と共に居る。それ相応の理由があるはずだが、テミス君も記憶を失っている様だ」
「お前は覚えてるんだろ? ジークリンデ」
「勿論」
「……お前の所為って可能性は?」
「……ははーん。成程。結論から言おう。可能ではある。やりようによっては可能だ。むしろ成功確率100%。ナナシ君にはそれが出来ないが、彼女達なら可能だ。だが信じてくれ。僕がそれをする理由は無い。勿論信じられないのは分かっている。でも、僕と君は、親友だ」
可能、か。まだ分からないことが多い。いや殆ど分からない。何も分からない。
……ジークリンデ。お前は何者だ。俺の敵か? それとも味方か? 何で、そんなに俺達のことを知っているんだ?
「……まあ、良いだろう。つまり、セレネを見付けてルミエールを見付ければ良いってことだな」
「おー流石。大正解だよ。まあ、山あり谷あり、時折海あり。何が起こるのかは分からないけどまあ……今は自由に過ごそうか。折角のあっつい日なんだし」
「……暇潰しに、遊んでやっても良いぞ」
「本当? じゃあ水鉄砲でもしようか!」
ジークリンデはにっこりと笑った。
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
いいねや評価をお願いします……ペンギンの自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……




