其の十六 大洋
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
……と言うか文句はペンギンに言って下さい
ナナシは未だに眠っていた。
時間は闇が襲い掛かり魔物が蔓延る夜。暗闇の中でも、雪は白く、仄かに月光を反射し輝いていた。
「……我等が主よ。もう二日で御座います。そろそろ体も癒えたはず。何故まだ眠って居られるのですか」
彼はスティの膝の上に頭を乗せ、静かに眠っていた。そんな彼の頬を愛おしそうに、しかし寂しそうに撫でながら、スティは顔を近付けた。
「主よ。私の膝では不服で御座いますか?」
「……い…………や……。……そう言う訳じゃ……無いんだけどな…………」
ナナシは薄っすらと瞼を開いていた。その奥から輝く金色の瞳は、確かな美しさがあった。
「……レト……レトを呼んで欲しい……。……血が飲みたい……」
「私では不服ですか?」
「……美味しい血を啜りたい……」
そんなことを言っていれば、俺の横に何時の間にかレトがいた。
「……お早う御座います」
「……どれ位寝てた……?」
「凡そ……二日です……。……あの木の場所は……もう特定しています……今からでも……動けるでしょう……」
「……取り敢えず……血……」
レトは包帯を解き、首筋の素肌を露出させた。首筋を俺の近付け、何とか口を大きく開け牙を突き立てた。
……力が入らない。レトの素肌を破ることが難しい。何度も何度も噛み付いて、ようやく彼女の肌から温かい血が垂れ始めた。
必死にそれを啜ると、渇望が満たされていく。ああ、温かい。体の中が暖かくなっていく。
……啜るのも、疲れた。レトから口を離し、もう一度スティの膝に頭を乗せた。
「……あーもうこれ以上動けない。……テミスはいるか? あの木を咲かせに行こうと思ったんだが」
「……まだ休んで…………おられた方が……」
「大丈夫だ。意識はしっかりしてるからな。テミスに運んで貰う。彼奴の役割だ」
……役割? まあ良いか。
すると、スティの膝で寝ていた俺をジークリンデが起こした。
「やあやあ僕の親友ナナシ君。気分はどうだい?」
「最悪」
「これから動くんだって? もう少し休んでた方が良いと思うよー?」
「一日でも早く、雪を溶かさないといけないからな」
「ふーん。この雪なんて、溶かさない方が良くない? だって君は変異体になんてならないんだよ?」
「……俺は、人と関わり過ぎた。知ってるか? 空気って美味しいんだ。外の空気は格別だ。フラマとフィリップ、それにサラにもエイミーにも、その味を知って欲しいって、思ってしまったんだ」
ジークリンデは詰まらなさそうに唇を突き出すと、興味を失ったかの様にエイミーにちょっかいを掛けに行った。
フラマの簡単な診察と検査を受け、体が極限まで弱っているだけと言った。それが大きな問題だとも言っていた。まあどうせテミスに運んで貰うつもりだ。問題無し。
テミスに背負われ、ホワイトアウトした中を共に進んでいた。冷たい空気が更に俺の体から熱を奪って行く。
「……ここです」
そう言ってテミスは足を止めた。
すると、レトはその場で雪を掻き分け土の地面を露出させた。
指先を噛み千切り、その血を地面に垂らした。
すると、僅かにその地面が盛り上がった。そこから地面を突き破るように、植物のような物が生えた。
人の背よりも成長したその植物は、葉も付いていない枯れ木に見えた。ただこの雪景色に相応しい無垢銀色に輝いていた。
俺とレトはその枯木に触れた。
「"無垢金色は彼の瞳に""無垢銀色は彼女の瞳に""鬱世を共に""雪の景色に頬を染める"」
「……"無垢金色は彼の瞳に"…………"無垢銀色は彼女の瞳に"……"鬱世を共に"……"雪の景色に頬を染める"」
すると、その木の色に無垢金色が混じった。そのまま勢い良く成長をして、やがて形を変えていった。
まるで花の蕾のような形に変わり、その蕾がゆっくりと開いた。
咲かせた無垢金色と無垢銀色の花の中に、一つだけ、燃え盛る火の丸い塊があった。その火の塊をレトは両手で掬った。
花はまた枯れ木へと変わった。
レトは両手に火の塊を持っているが、全く熱がる様子も無く、それでいてその火の塊を俺に手渡した。
俺はそれを飲み込んだ。どうにもまだ慣れない。
黒い鎖を出し、その鎖を木に巻き付けた。黒い鎖の奥から、僅かな炎が吹き出した。小さく微細で矮小な炎だった。
その炎が僅かに木を焼いた。それと同時にその木は焼け爛れたような様相に変わった。
これで三つ目。……だったよな? ルミエールに、きっと一歩近付いたはずだ。後二つ。後二つだ。もう少しで会える。
……だが、何故だろう。胸騒ぎがする。……きっと、気の所為だ。
今回の調査は、どうやら長い物になる様だ。フラマは七人の聖母がどうやってあの木にやって来るのかその目で見たいらしい。
俺も気になることではある。
「本当にやって来るのか?」
「来るはずだ」
「いや、そうじゃ無くてな。見られたら来ないとかそう言う可能性は無いか?」
「童話の中の妖精では無いんだぞ」
「お前にしては珍しく分かり易い例えだな」
俺は室内で体を休ませていた。筋肉痛にも近い酷い痛みが俺の体中を駆け巡っている。それと同時に、外の冷気に晒され、弱った体の毒となる。
レトとモシュネが俺の体に抱き着き、何とか体の熱が奪われずに済んでいる。
そんな俺を、エイミーとジークリンデは弄って来る。
「不便な体だねぇ。全力で戦ったらすぐに体が壊れるなんて」
「か弱い子だから優しくしろ」
「少なくともフィリップ位は強いけど? それに私の剣使わなかったね?」
「……そうだったのか? ぜんっぜん記憶に無い」
「そーそー。なーんか黒い直剣使ってた。……ああ! あれが報告にあった剣か!」
……極限の集中状態に至った時に、無意識的に出す……って所か。今の所その極限の集中状態が自分の意思で出来ていないってことが大問題だが……。
俺は何時だって全力で戦っているつもりだ。極限の集中状態に一度入り込めば、それ以上の力が発揮出来るなら、俺が意識せずに自身の力の限界を理解していると言うことだ。そしてそれは、少しずつ引き出せる様になった。つまり、俺の力が増している感覚がある。
前よりも筋肉の動きが、前よりも空気の動きが、前よりも虫の匂いが、前よりも小鳥の囀りが、前よりも些細な風味の違いが理解出来る様になって行くことを身を染みて理解出来る。
「……何なんだろうな、この、力は」
「それ、ナナシが疑問に思う?」
「自分自身だからだ。訳分からない力だし、全力を出せば傷付く。実際一回死に掛けた。自分の力なのに傷付くってどう言うことだ」
「……まあ、確かに」
その間、ジークリンデは俺の頬を抓っていた。
「……さて、そろそろ怒って良いか? ジークリンデ」
「怒るならエイミーに怒ってよ」
「お前が悪いのに?」
「まあまあ、もう少しだけ。ね?」
「……痛くしないで欲しいんだが……」
「善処するよ」
……問題は此奴だ。何か出て来たと思ったら、俺と七人の聖母のことを知っていて、しかも目的不明。挙句の果てには俺の親友になるとか言う訳の分からない契約まで交わして来た。
此奴は本当に何なんだ。何が目的だ。そして何より、髪色と瞳色が変わったあの姿。何処かで見覚えが……。
そんなことを思っていると、モシュネが俺の耳元に息を吹き掛けた。
「ひゃあぁぁぁ!? ああぁ!? ああ……あぁ!?」
「……」
「何か言え!?」
「……申し訳御座いません」
「何であんなことをしたんだ……」
「……」
「何か言え!?」
「……申し訳御座いません」
「同じことを繰り返すなよ!?」
「……何だか、貴方様が私達に構ってくれておられないと思ってしまっただけで御座います。ええ、別にそれがどうと言う訳では御座いませんが」
「……まあ、それは済まない……で良いのか? と言うか勝手に関わって来るのは此奴等何だが」
モシュネは更に俺と密着した。……暖かいから良いが。
それから、凡そ数日後。
フラマは依然として枯木の前に座り込み、辺りを見渡し、七人の聖母の内の一人が来るのを待っていた。
そんなフラマに、外で野生動物を狩っていたフィリップが手を振っていた。
「おーいフラマー! でかい鼠がいたぞー!! それに狸もー!!」
「……お前……」
フラマは顔を顰めながらフィリップが右手で振り回している鼠の死体を凝視していた。
「何だよ。鼠は嫌いか?」
「不衛生だ」
「今更だろ」
「それはそうだが、鼠は何を食っているか分からない。食うとしても炭になるまでしっかり焼いておけ」
「分かってる。ここで腹壊したら終わりだからな」
フィリップはそう言いながらその場を後にした。
その直後のことだった。枯木の一本の枝が細く伸びたかと思うと、その先に花が咲いた。
花はすぐに散り、やがて実を結んだ。それは銀色の皮を持つ無花果の様な果実だった。その様子に、フラマは心を奪われていた。
この果実が、とても美しく好奇心が刺激される果実だったのだ。今すぐ食み、その味を確かめたいと言う欲求に支配されてしまうのだ。フラマはゆっくりと、その果実に手を伸ばした。
蛇に唆された訳でも無く、彼はその身を千切ってしまった。そして口に運ぼうとしたその時、その果実は真っ白な手によって止められた。
「何処の誰かは分かりませんが……その身を食すのはお辞め下さい……。……それはやがて終焉を迎える命を持つ者が食むには余りにも強過ぎる毒となりますから」
フラマはそれに視線を向けた。
先程まで、そこにはいなかった女性だ。白い髪は癖があり、羊の毛の様になっていた。その髪が地面にまで伸びていた。
覗かせる銀色の瞳も合わせると、その容姿は七人の聖母の特徴と合致している。そして、服の役割を全身に巻いている包帯に任せているのも同じだった。
その女性はフラマの手にある銀色の実を取ると、自分の口に運んだ。果汁さえも零さずに喰い終わると、彼女はその場に座り込んだ。
雪が降り積もる地面の上に座り込み、神に祈る様に手を組み顔を下げた。
拾っていた硝子片を手に取り、その硝子片の鋭い部分を包帯の上から首筋に突き刺した。痛みに顔を顰めることもせずに、その顔に表情は宿っていなかった。
その首筋から吹き出す鮮血を、もう片手で受け止めた。吹き出す勢いが弱まり、首筋から下に向かって垂れる血さえも両手で受け止め、手で作った皿一杯に、血を溜めた。
その血を、少しずつ地面に落とした。全て落とし、赤い果実を握り潰した様な真っ赤な果汁に染まった手を、また祈る様に指を組んだ。
その全ては、レトとモシュネが行った祈りの所作と酷似している。
「……君は、誰だ」
「……あたし……ですか? あたしに話し掛けています? ……"リュノ"、と申します。……おかしなことを聞きますね……」
「何処から来た。つい先程まで何処にもいなかったはずだが」
「……さあ。何処から、来たのでしょうか。あたしには……何も分かりません。……役立たずで済みません……」
フラマは若干の怒りを滲ませたが、深い息と共にそれを吐き出し、すぐにナナシを呼んだ。
ナナシは体がまだ完全に回復していない所為か、覚束無い足取りだったが、リュノと名乗った女性の姿を見るとその脚を無理矢理速く動かし駆け寄った。
それにリュノも気付いたのか、彼女は頭を深く下げ隠れた両目から涙を溢していた。
「あぁ……王よ……主よ……そして、旦那様……! 良くぞ……あぁ……」
リュノは気弱な声を出しながらナナシの足元に縋り付くと、彼の体はまだ完全に癒えていないからか、そのまま弱々しく雪の上に倒れてしまった。
「……さっぶ!!」
「あぁ……済みません済みません済みません……!! 嬉しさの余りつい……!!」
「……取り敢えず、久し振りだな、リュノ」
確か……七女。一番下の妹だった、はず。何と無く思い出したことだが、多分合っている。
七人の聖母のことばかり思い出して自分のことを全く思い出せない。本当にどうなってるんだ俺の頭は。
脚に縋り付いていたリュノは少しずつ俺の体の上に這って来た。俺の頬に触れながら、ぴくりとも変えない表情を向けながら、しかしその奥にある愛おしさがちらりと見える。
「……旦那様。他の姉妹達の気配も感じます。今は誰がいるのですか?」
「上からテミス、スティ、モシュネ、レトだ」
「ああ……セレナはまだなのですか」
「まだだ。場所は分かってるが……。……何か顔近い気が……?」
リュノの顔は更に近付く。
「……旦那様」
「……何だ?」
「……もう少しで、唇が重なってしまいます」
「そうだな。出来れば離れて欲しいんだが。ほら、そこにいるフラマがすっごい冷たい顔で俺を見てる。すっごい気不味いから、な?」
リュノの吐息が顔の肌を擽っていた。それも少しずつ近付いて来る。
「あのーリュノー?」
「押し返せば良いのでは……?」
……あーもう駄目だ。このまま受け入れた方が色々良い気がする。
黒い空から落ちる雪が俺の素肌にぴとりと落ちると、リュノは表情を変えずに顔を真赤にしながら俺の体から横に転がり積もっている雪の上で転がり回った。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ……あぁ…………むーりーでーすー……! 久し振りだから勇気を出してアプローチしてみても……! うわー……!! どうせもう姉妹達の誰かとやってますし……最初があたしなら良かったのに……」
そのままリュノは白い毛むくじゃらの塊になってしまった。こうなったらリュノは面倒臭いんだよな……。……ん? ……何で俺はそれを知っている? ……まあ、良いか。
「ほら、リュノ。そろそろ立って欲しいんだが」
「……このままリュノは毛むくじゃらのまま雪に埋もれます……旦那様の邪魔にならない所で眠ります……」
ほら面倒臭い。
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
いいねや評価をお願いします……ペンギンの自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……




