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ホロビタセカイデバケモノノタビ  作者: ウラエヴスト=ナルギウ(のペンギン)
27/51

其の十五 第三調査開始 五

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


……と言うか文句はペンギンに言って下さい。

「……おい」

「何だいナナシ君。この僕に惚れてしまった?」


 ジークリンデが当たり前の様な顔で、雪の上を走る橇の上に俺達と共に乗っていた。


「何でお前がいるんだ」

「やーだーやーだー僕も連れて行ってー!!」

「子供みたいに駄々捏ねるな」

「じゃー分かった。ここで飛び降りて一生さよならばいばいしてやる」

「どーぞどーぞお好きな様に」

「良いだね? 僕が居なくなったら絶対にルミエールに出会えないけど」


 ……ジークリンデはにやにやと笑いながらそう言った。


「……どう言う意味だ」

「さー? どう言う意味だろうねー?」

「……まずだ、色々教えて欲しい。こっちだとまだ分からないことが多いのに思い出したのは七人の聖母のこと位だ。お前が俺の何かを知っているなら、教えて欲しい」

「……僕は君の味方。それで良いじゃないか。少なくとも僕はそれで充分だと思っているよ」


 ……ああ、此奴もだ。此奴も俺から過去を隠そうとしている。


 不愉快だ。今すぐテミスに命令を下せば、此奴の首はすぐに切り飛ばされると言うのに、此奴はずっと軽口を叩く。


 非常に不愉快だ。いっそ――。……俺は、何を考えている……。


 ……記憶が戻ったからだろうか。どうにも最近物騒な考えが頭を過る。不愉快に思うことが多くなって来ている気がする。


「おー何だ何だ怖い顔しちゃって。おりゃおりゃおりゃ」


 そう言いながらジークリンデは俺の左腕辺りを指で突付いていた。


「おりゃおりゃおりゃ。おりゃおりゃおりゃ」


 すると、そのジークリンデの手首をレトが掴んだ。


「……ジークリンデ様、あまり……この方に触れることは……避けて下さると……」

「ああ、ごめんごめん。確かに獣の王様に安易に触れるのは恐れ多いからねぇ」


 ……また獣の王……。


 そんなに俺は偉そうな肩書なんて持ってるとは思えないんがな……。何処かの王なら確かにレト達が従う理由も作れるんだが……。


 少なからず、獣の王なら獣がいるはずだ。七人の聖母……では無いよな。獣じゃ無い。


 獣と表される何者かが何人かいると考えた方が自然だ。民衆とか。


 考えるより聞いた方が早いのは確かだが……ジークリンデは絶対に教えないだろうからなぁ……出会ってからまだ一日だが、此奴の性格は大体分かっている。


 楽観的で基本的に無気力。それでいて誂い好きで悪戯好き。こんな所だろうか。


 彼女は決して答えを教えない。その答えこそが、俺が追い求める物の一つなのに。


 フラマは恐らく、答えを知っている可能性があるからこそ協力関係を築いて行きたいとでも思っているんだろうな。フィリップは……何も考えて無いだろうな。馬鹿だから。エイミーは、恐らく親しく思っているのだろう。今も仲睦まじく談笑をしている。


「なあナナシ」


 フィリップが俺に耳打ちをした。


「本当にあのジークリンデとか言う嬢ちゃんのこと、思い出せないのか?」

「……全く。ただ、すっごい苛付く」

「ちょっとウザいのは認めるが、そんなにか?」

「……彼奴を見てると不愉快だ。俺の心を引っ掻いてるみたいに、記憶が刺激される度に言われも無い怒りが湧き上がる」

「……どうしたナナシ、お前、何か変だぞ?」

「……ああ、分かってる。分かってるさ……」


 ……少しずつ、実感が湧いて来る。俺はナナシ。全てを忘れ全てを取り戻そうと何をすれば良いかも分からず藻掻いている哀れな、何も知らないまま世界に放り出された赤子の様な存在。


 そして、今の俺はナナシと、獣の王の狭間に立っている自覚がある。


 獣の王は、全てを持っている過去の俺。名前さえも分からずに目的さえもナナシは持っていないが、取り戻さなければならないと言う漠然とした目標が、孤独感と共にやって来る。


 俺の本質は、獣の王であった頃の俺なのだろう。だが、これ以上俺が変わるのが恐ろしい気持ちもある。


 おかしな話だ。理解している。獣の王が、俺が取り戻すべき過去だ。それを俺は、心の何処かで恐れている。


 今の俺から、変わりたく無い。だが俺が取り戻さなければならない過去を知る度に、俺は獣の王に戻る。


「……怖いんだ。俺が、俺じゃ失くなるみたいで」

「……過去を取り戻すのが、怖いのか?」

「……そうじゃ無い。いや、そうなのかも知れないが……違うんだ。そうじゃ無いんだ。……いいや、違う。俺は過去を取り戻したい。だが……ああ、済まない。俺は何を言っているんだろうな……?」


 すると、フィリップは優しく微笑みかけた。何時もの豪快さは何処へやら。


「そこまで深く考えなくても大丈夫だと思うぜ? 例えナナシが元に戻ったとしても、お前の本質は変わらないはずだ。今のナナシも、過去のお前も同じお前だ。根っこの部分は同じじゃ無いとおかしいだろ?」

「……そう……なのか?」

「多分な。今のお前は枝を切られた大木だ。もう一度枝を生やそうと陽の光を浴びてる最中だ。枝の形は変わるかも知れないが、根っこと、ああ、後幹も変わらない。安心しろ。どんなお前でも、優しく、強く、他人の為に傷付く勇気を持ってる。バケモノにはならないさ」


 こんな馬鹿だが、偶には良いことを言うな。


「……ありがとう。フィリップ」


 彼の言葉に、漠然と湧き出る不安感と自分の精神に蝕まれる過去の俺への恐怖が若干薄れた……気がする。


 レト達はどう思うだろうか。いや、案外どうとも思わないか。彼女達の言葉は簡単に予想出来る。どうせ全員「何が変わっても永遠の愛と忠誠を誓います」とか、言葉を変えて似通ったことを言うのだろう。


 俺はレトを抱き寄せながらそんなことを考えていた。


「……あの……」

「どうしたレト?」

「……最近……貴方との距離感が近付いた気が……するのですが……」

「嫌だったか?」

「いえ……そう言う訳では無いのですが……むしろ心が躍り……悦びを噛み締めます……」

「じゃあ良いだろ?」

「……はい…………」


 レトは俺から顔を素っ気無く逸らした。


「レト」

「……何でしょうか……」

「顔を背けないで欲しい」

「……本当に……貴方は……狡い人ですね……モシュネが言った通りです…………」

「そうか? まあそうかも知れないが」


 レトの表情は紅潮していた。相変わらず無愛想で無表情だが、歓喜の色が良く分かる。それに恥ずかしさもだろうか。


 ……頬がもちもちしてるな。


 取り敢えず両手でレトの頬に触れてみた。そのまま抓って伸ばしてみた。


 案外伸びるらしい。相変わらず無表情だが、焦りと困惑が見える。


「あ、あの…………」

「……ん」

「何か……言って下さい……無言で私の頬を……引っ張らないで下さい……あばばば……」

「……あれだな。えーと、あれだ。餅だ。そうだそうだ。餅だ。餅の感触に似てるんだ」


 時間を忘れてレトの頬をずっと揉んでいた。もう諦めたのかレトから僅かに感じられた抵抗は無くなった――。


 ――数日後。ジークリンデの同行にも慣れた頃、俺が眠っている間の調査でフラマとレトが辿り着いた場所にようやく到着した。


 ここからは橇を降りて移動する。


「ここまで二体、大型の変異体を発見した。何方もあの銀色の樹皮を持つ枯木の近隣で、ホワイトアウトが発生している地域だ。つまり、この近隣に大型の変異体がいる可能性がある」


 確かにそうだと納得した。


 まるであの枯木を守る様に、大型の変異体が傍にいる。戦闘は決して免れないと思った方が良いだろう。


 ……そして、それと同じ様に必ず、誰かがいる。


 今回の場合は、銃を背負った男性だ。


 男性は雪の上に座り込みながら座禅を組んでいた。目を見開き、俺達を一瞥した。


 俺の方に視線が動くと、息を深く吐いて言葉を出した。


「ようやく来たか。金を瞳に持つ者よ」


 すると、ジークリンデがその男性に話し掛けた。


「久し振りだねぇ。ちょっと痩せた?」

「……ジークリンデ……!?」


 男性は目を見開き、背負っていた銃を両手に構え銃口をジークリンデに向けた。


「何故ここにいるジークリンデ! 貴様達の行動を黙認する代わりに我々の目的の邪魔をしないことが契約のはずだ!」

「ああ、それね。安心して。僕達は君達の目的に邪魔をする気は無い。むしろ協力する為にこの人達と共に行動してるんだから」

「……何だと? 何故今更になってそんな考えになった」

「事情が変わったんだよ。それに、あの方の頼みだ」

「……訳が分からない」

「それが正常だよ。むしろ分かる方がおかしい」


 その男性は軽蔑した様な目付きでジークリンデを睨み付けながら銃口を降ろした。


「……この先へ、進むと良い。我等の役目も、ようやく終わりを迎えるのだろう。ようやく星辰が正しき位置に揃い王が再臨する」


 その男性は素早い身の熟しで走り去ってしまった。


 もう少し色々聞きたいことはあったが、仕方無い。


 もう少しで手が届きそうなんだ。自分で、掴み取りたい。俺が何者なのか。俺は何なのか。そして、ルミエールは何故俺の前から消えたのか。何処に、いるのか。


 全部、全部取り戻さなければならない。余すこと無く全て、取り戻す。その答えが、どれだけ恐ろしく最悪で、不愉快な物だとしても。


 雪の勢いが強くなって来た。あの時と同じだ。


 吹雪き、視界が全て真っ白に染められる。それが、ホワイトアウト。互いの姿を確認することも困難で、一歩進み度に強い抵抗感を感じる。


 進んでいると、エイミーの顔色が悪くなっている。元々鍛冶職をやっているからか体力その物はあるが、こう言う酷い雪の寒さに耐えられる程の免疫は付いていないのだろう。


 すると、レトが自分のコートを脱ぎ捨てエイミーの体に巻き付けた。


「……ああ、ありがとうレトちゃん……」

「……一度室内で休むのは……どうでしょうか……」

「……賛成」


 エイミーの体調の変化を敏感に感じ取っているのか、フィリップも似た様なことを言った。


 俺達はフラマに従う。フラマの判断は基本的には正しいはずだからだ。


「……分かった。一度休もう」


 そして、道を逸れ元々民家だっただろう建造物に入り込み、そこで暖を取った。


 やはり俺の力は便利だ。火打ち石が無くとも何処でも火が付けられる。


 そこら辺の木で出来た家財をフィリップが破壊し、それで出来た木の板やら木片やらを燃やした火にエイミーは当たっていた。


「……ふぃー……暖かい」


 ジークリンデはそんなエイミーに抱き着いてがたがたと震えていた。


「雪が降って無かった時代が恋しいよぉー!」


 そんな弱音を吐いていた。


 俺はと言うと、フラマとフィリップとちょっとした作戦会議にも満たない雑談を交わしていた。


「この先に大型の変異体がいるのはほぼ確定だが……どうだ、ナナシ」

「歩けば歩く程嫌な予感が強まる。胸騒ぎがする。もう近いはずだ」

「……そうか。今回も大丈夫だと信じたいが、警戒することを忘れるな。どんな変異体が現れるのか分からないんだ」

「分かってるさ」


 すると、フィリップが声を出した。


「なあ、早く済ませないと不味いんじゃ無いか? ナナシやレト達は問題無いだろうが、エイミーが心配だ。ここに向かってる最中も度々軽い風邪引いてただろ」

「国王陛下が何を考えているのか分からない以上、言う通りにするしか無い。何か考えあっての命令だろう」

「だからってよぉ……愛しの愛娘をわざわざこんな危険な調査に連れて来なくても良かっただろ? はっきり言って俺達にとっても邪魔になる」

「……ああ、そうだな」

「多分それはエイミー自身も分かってるはずだ。次の調査に連れて行くのは辞めようぜ」

「……国王の命令だ」

「……あぁはいはい! じゃあ帰ったら直談判する!」

「好きにしろ」


 そう言ってフィリップは建造物の中の物色を始めた。


「……どうだナナシ、あれから戻った記憶はあるか?」

「全くだ」

「……何かに、恐れている様だが」

「……やっぱりバレるか」

「戦いに恐れているのか?」

「……多分、それもある」


 俺はエイミーが打ってくれた剣の鞘を撫でながら言葉を続けた。


「俺の戦いって言うのは基本的に、必ず体が傷付く。幾ら血を啜れば治るとは言え、痛みはある。分かるか? 腕が食い殺された感触や、引き千切られた感触が。体中に痛みが走って何度も俺の体を叩き付けて壊そうとして来る苦痛が。……出来ればもう二度と、剣を握りたくも無ければ、戦うことも避けたい。ただ安らかに、レト達と旅がしたい。……それが出来れば、どれだけ良いのかって、何度も思う」

「……なら、何故剣を握り、私達と共に戦ってくれるんだ」

「全てを取り戻す為には、お前達が必要だ。それに雪を溶かせるのは俺達だけ。そうだろ? 今何とか生き残っている人間達に暖かく優しい陽の光を浴びさせたい」

「記憶を取り戻す目的はどうした」

「勿論忘れてない。と言うか俺が戦う理由はそれが一番大きい。……七人の聖母に出会う時、僅かに記憶を隠す紙みたいな物が一枚ずつ剥がれていっている気がするんだ。モシュネに出会った時も、スティに出会った時も、テミスに出会った時も。そして、レトが俺の傍にいた頃も。……何よりも、俺のこのルミエールに対する感情を知りたい。……なあフラマ、この感情は何だ?」


 俺は胸に手を置いて語り掛けた。


「ルミエールの全てが思い出せないのに、俺は彼女の名前を聞くだけで胸が高鳴る。これは何だ?」

「……私が一生知ることの無い感情だろう」

「そうなのか?」

「……どうだ? 決心は付いたか?」

「ああ、充分だ。悪魔だろうが変異体だろうが全員掛かって来い!」

「なら安心だ。エイミーの体力が回復すれば、また出発する。それまでしっかり休んでおく様に」

「分かってるさ」


 丁度良い場所を探して、そこに寝転がった。


「……さて、レートー?」


 呼び掛けると、俺の横に寝転んだレトが現れた。


「おお、流石」

「……お呼びでしょうか……?」

「そうそう。仮眠するから抱き枕になって欲しいなと」

「ああ……そうでしたか……」


 レトは両腕を広げ俺を抱き締めた。


 やっぱりだ。柔らかく、温かい。眠くなる。


 この安らぎに身を任せよう。この白い視界の先にいるであろう脅威を、今は忘れて、眠ってしまおう。


「…………私の、愛しの御主人様……。……もう眠ってしまわれましたか……?」


 返事は無い。


「……テミス様が……スティが……モシュネが……居ますが……何故……私を……?」


 レトは彼の頭を撫でながらそう聞いた。


 だが、返事は無い。


「……勘違いしますよ……?」

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


いいねや評価をお願いします……ペンギンの自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

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