其の十五 第三調査開始 四
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
……と言うか文句はペンギンに言って下さい。
「そうは思わないか? テミス」
「ええ、同じ思いです」
ナナシの瞳が、無垢金色に輝いた。
血を吐き出しながら、彼は笑みを浮かべた。それは、人間とは程遠い悪魔の様な笑みだった。
「テミス、あいつを殺せ」
『……ええ、了承しました。最愛の人よ』
テミスの髪は黒色に染まり、瞳は無垢銀色に輝いた。
彼女の背から、体を巻いている包帯を破り素肌を隠している服を破り、白く大きな二対の翼が広げられた。
大きく羽撃けば、橇は大きく揺れた。
ふわりとテミスの足が橇から離れると、彼女はその場で剣を横に振るった。
すると、襲い掛かって来た魚達の頭部が全て切り落とされた。彼女の刃に触れてもいないのに、勝手に、切り落とされたのだ。
テミスの翼は更に大きく動き、彼女の体を上へ上へ吹き飛ばした。
目にも止まらぬ速さで、彼女は巨大な魚の背にまで飛んでいた。
巨大な魚の背の突起物に銀色の剣を突き刺すと、そのまま背に足を置いた。
低くしゃがみながら剣を振り下ろし、その四枚の内の二枚の翼で自分の体を隠し、二枚の翼を大きく広げた。
広げられた二枚の翼には、銀色の瞳孔を持つ多くの眼球がぎょろぎょろと虫の大群の様に蠢いていた。眼球の数は、百は越えているだろう。二百を更に越え、三百近くだろうか。
『"罰則""飛行能力消失"』
その一言と同時に、巨大な魚は空から徐々に落下を始めた。
赤い瘴気さえも銀の剣で斬り裂きながら、巨大な魚の背を走っていた。
巨大な魚の背中の真ん中辺りに剣を突き刺し、そのまま更に走った。ナナシよりも速く軽い身の熟しでその巨体を背骨に沿って切り裂いた。
赤黒い血が地上に向けて雨の様に吹き出し、その白い翼を狂気の赤色に染めた。
頭部にまで走ると、剣を振り上げ、左手を下に向けた。
拳を力強く握り締め、思い切り殴り付けた。
そのまま魚の頭に剣を再度突き刺し、何度も薙ぎ払った。
やがてはその頭部は切り落とされ、テミスはそのまま地面に向かって巨大な魚の体と共に落下を始めた。
広がっている二枚の翼を羽撃かせ、遠くへ走っている橇を見詰めそこに向かって飛翔をしていた。
追い掛けている変異体の前にテミスは降り立つと、左手に天秤を掲げた。
『"罰則""断首""断頭""心臓麻痺""四肢欠損""生命停止""死亡"』
広げている二枚の白い翼にある無数の眼球がそれぞれの変異体に視線を向けると、変異体達の首が瞬きの間に切り落とされ、頭部が無数に切り刻まれ、突然動きを止めたかと思えば、四肢が切り裂かれ、溢れ出た血が地面に流れると、彼等は死に絶えた。
上に浮いている巨大な魚の死体は徐々に高度を下げている。素早くその場から走り出し、ナナシ達のいる橇に自前の脚力だけで追い付き乗り込んだ。
間一髪橇は巨大な魚の死体に押し潰されることは無かったが、先程までの焦燥が残り香として漂っているのか、フィリップは未だに荒い呼吸のまま緊張感を解せずにいた。
そんな中ナナシは、スティの首筋に牙を突き立てながら血を啜り、体の傷を治していた。
「最愛の人よ」
「んん、なんは」
「私は、最愛の人の御役に立てたでしょうか」
「もひろん」
「……その、何と言うか、この様なことを申すのも大変烏滸がましいことだとは理解しているのですが、もし、出来ればで宜しいので、拒否をする権利さえも貴方にあるので、一つだけ懇願をしたいのですが……」
「ああ、いいふぉ」
ナナシはスティから口を離した。スティは僅かに寂し気な感情を浮かべたが、ナナシに抱き寄せられたかそんなことを忘れて、彼の胸に頬を擦り付けていた。
テミスの羽が少しずつ小さくなり、真っ黒の髪が純白に戻ると、言葉を続けた。
「……その、頭を……」
「頭を?」
「……あの、撫でて、下さいますと、嬉しいと……思います……。……いえ、決してこれは強制している訳では無く、出来ればの話ですので」
……可愛いなこいつ。
手を伸ばし、テミスの頬を撫でると、小さく「んぅ……」と吐息を漏らしていた。
「あの……早く……」
テミスの顔が徐々に紅潮を始めていた。彼女の向く銀色の瞳の奥にきらきらと輝いている物欲しそうな色が見え隠れしている。
テミスは我慢出来なくなってしまったのか、俺の手首を力強く掴んだ。
「……焦らすのがお好きな様で」
「目隠し取ったら考えてやろう」
「……どうやら、相当記憶が戻って居られる様ですね。良い傾向です。このままなら、全てを取り戻すのもそう遠く無いでしょう」
テミスはそう言いながら無理矢理俺の手を自分の頭の上に動かした。
指だけでも横に撫でる様に動かすと、テミスは満足気に息を漏らしていた――。
「――いやーまさかあれが一瞬で倒されるなんてねぇ。予想外だったよ」
「まさかまさか、君なら予想が出来ていたのだろう?」
「まさかまさかまさか、予想は出来なかったよ」
黒い髪に黒い瞳を持つ女性から始まった会話は、あまり弾まなかった。
会話をしている黒い髪に金色の瞳を持つ男性は薄ら笑いを貼り付けながらも、何処かつまらなさそうな吐息を漏らしていた。
この二人は、人間が変異体に成ってしまう雪を遮る為のマスクを着けていなかった。
二人は、雪が降る世界に何重にも聳え立つ、嘗てはビルと呼ばれた崩れかけの摩天楼の上から地上を見下しながら会話を続けた。
「それで、あれは誰? さっき魔物を倒したあのケルビムは」
女性が男性にそう問い掛けた。
「テミス、七人の聖母の次女さ」
「……え? でも次女って長女と一緒に彼処にいるでしょ? 何でここに?」
男性は薄ら笑いを貼り付けながら、遠くを眺めた。
「……分からない。だが、あの姿は確かにテミス君だ。恐らく■■■君の命令を受け、戦闘を開始したのだろう」
「……また、あの方が妙なことをしてるのかな?」
「それは分からないが……まあ、恐らくそうだろう。しかし、あの方の行動は全て僕達の目的に尽力してくれていることは確かだ」
男性の金色の瞳の中には、獰猛な獣が肉を貪る様な貪欲さが渦巻いていた。
冷えた世界に吐き出した白い息に混じらせながら、彼は自らの貪欲さの理由を吐き出した。
「全ては自由の為に」
「はいはい。じゆーじゆー」
「君はそうでは無いのかい?」
「まーそうなんだけどさぁー。だって狡いし」
「僕達は自由だ。その感情さえも誰かに強制された奴隷の嘆きでは無く、確かな意思を持ち自由を掲げる人間の言葉であると、胸を張って言える日が来る様に、僕達は自由を掲げるんだ」
「……そうだね、"ジギスムント"」
「頑張って欲しいね"ジークリンデ"。予定通りに」
「ちょっとは巫山戯ても?」
ジークリンデと呼ばれた女性はくすりと笑いながらジギスムントと呼んだ男性に聞いた。
「……まあ、自由にやってくれて構わないよ。ただし、目的は果たしてくれ」
「りょーかい。じゃー行って来る」
ジークリンデはビルの上から両腕を広げ、くるりと体を軽やかに回して背中を前時代の産物であるコンクリートの床も無い空中に向けた。
「次に会う時はきっと、私達が自由になった頃」
「何時になるだろうね。その時は」
「さー?」
ジークリンデはそのまま足を後ろに一歩踏み込んだ。
地面となる降り積もる白い雪が足下から遠い遠い真下にあり、自然と風を切る音と共に、ジークリンデは落下した。
風に体を殴られながら、彼女は薄ら笑いを貼り付け、愉快そうにけらけらと笑い声を出しながら叫んだ。
「僕達は自由だ――」
――日が沈み、暗闇が襲い掛かり、降り積もった雪の白ささえも目立たなくなった頃、俺達は野営の準備を済ませフラマとフィリップとエイミーの為の食事の準備をしていた。
本当に人間と言うのは不便な生態をしている。いや、この場合便利な生態をしているのは俺の方だろう。
彼等との違いをしみじみと感じながら、薪を俺の左腕の鎖に巻き付け火を付けた。
すると、何時の間にかふらりと勝手に外に出ていたエイミーが帰って来た。
そのエイミーは、一人の女性を肩に担いでいた。
「……拾って来た」
「元の場所に帰しなさい」
「いや、流石に見捨てられないよ。確かにマスクも付けてないしもうすぐ変異体になるかもだけど、まだ助かる可能性があるなら救いたい」
フラマに目配せすると、ため息混じりに運んで来た物資を漁り始めた。
「エイミー、女性の脈を測ってくれ。フィリップはマスクを渡せ。まだ一時間程度なら助かるかも知れない」
その言葉が放たれると同時に、エイミーが担いでいる女性がいきなり腕を動かした。
「……あー……済まない済まない。僕は大丈夫。少し失敗しちゃってね……少しの間気絶していただけ何だ……」
そんな腑抜けた声が聞こえると、今度は大きな腹の虫の音が鳴った。
「……何か、食べさせて」
そう言い残し、女性はまたぐったりと腕を降ろした。
な、何なんだこいつ……!? 色々厚かましい様に思うのは俺だけか……!?
そのまま女性はマスクも付けずにがつがつと、パンを貪り挽き肉を焼いただけの物をフライパンを傾けて口に流し込んでいた。
「あッー!! 美味しい! 僕は生きているッ!! あっはっはっはっはッ!!」
フラマも若干引いている。
「……あー。そこの君、マスクは……?」
「んーはっきり言っちゃうと、いらない。そこの金色の男と七人の聖母達と一緒の理由でね」
その言葉の直後に、テミスは剣を握った。
そこから発せられた警戒心は、俺に向けられた物でも無かったと言うのに、俺の体を萎縮させるには十分だった。
だが、女性はテミスを全く見ずにパンを頬張り続ける。
俺と同じ位か、少し高いぐらいの身長だろうか。小柄な体に黒い髪に黒い瞳、全身が真っ黒な服装、そして何よりも、この記憶に若干の刺激を与える腑抜けた声色。
テミスの警戒心に感化されたのか、フィリップさえも武器の柄を握り締めた。
だが、この緊張感を全く理解していないと言うのか、それとも完全に無視しているのか。ただ女性は食事を続ける。
そしてパンを食べ終えた頃に、女性が口を開いた。
「ねね、僕のこと気になる?」
テミスの警戒は依然として高まっている。
初対面の癖に妙に近い距離感で話す彼女には、やはり変な既視感がある。ああ、あれだ。エイミーに似てるんだ。
「いや、別に」
「そうかそうか気になるかー。やっぱり僕はべっぴんさんだからねぇ……」
「俺の話を聞く気も無いなお前」
「一応あるけど聞くだけ無駄って思ってる」
「一発殴ってやろうかこいつ……!」
こいつと話してるとどうしてか、心が騒いで怒りが湧いて来る。
すると、堪忍袋の緒が切れたテミスが走り出し、剣を抜き女性に振り下ろした。
その銀色の刃は、女性の素肌に触れる直前にぴたりと静止した。テミスが直前で刃を止めたからでは無い。テミスは未だに、両手に力を込めている。
「テミス君、いきなり剣を振り下ろすのは、色々不味いんじゃ無いのぉー?」
「何故知っている……! 我々のことも……!」
「……さあ? 何でだろうねぇー?」
「答えろ! お前は何故ここに来た! お前は誰だ!!」
女性はにっこりと笑いながら、その剣に撫でる様に触れた。
「僕はジークリンデ。君達七人の聖母と、何より獣の王の親愛なる味方さ」
確信することが一つ。こいつは、俺の過去を知っている人物だと。
獣の王、夢の中でルミエールが言っていた俺の正体……で、合っているだろうか。それと同じ単語を使い、何より七人の聖母に対しての正確な知識を持っているかの様な口振り。
だからだろう。この失った記憶の中に刺激を与えているのは。
ジークリンデは意地悪そうに笑うと、テミスの剣を指で弾いた。
「ほら、これ仕舞って。ワタシテキジャナイヨォ」
「……それを証明出来る物は?」
「彼は無垢金色に輝き、彼女は無垢銀色に輝いた。黒と黒からは白と白が産まれ、白と白からは黒と黒が産まれた。充分?」
「……ええ、充分です。何者かと言う疑問は残りますが」
「失礼な。僕は自由にやってるだけなのに」
「……自由、ですか。……人間の様ですが、本当に汚染を受けないのですか?」
「まあ、色々あってねぇ。大体君達と一緒の理由だけど」
「その記憶は私の中には無いのです」
「あらら。それは残念」
ジークリンデはにやにやと笑いながらフラマの手にあるパンを奪い取り口に入れた。
「まあまあ、まあまあまあ、別に僕が何かする訳じゃ無いんだけどね。答えを教える訳でも、獣の王を口説きに来た訳でも無いし」
「……なら、何でここに来た。ジークリンデ」
ジークリンデは一拍置いて、言葉を吐き出した。
「僕の自由の為、そして獣の王にそれを手伝って貰う為」
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
いいねや評価をお願いします……ペンギンの自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……




