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ホロビタセカイデバケモノノタビ  作者: ウラエヴスト=ナルギウ(のペンギン)
25/51

其の十五 第三調査開始 三

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


……と言うか文句はペンギンに言って下さい。

 ……温かい、と言うより暑い……。


 橇に揺られながら、柔らかく暑苦しい感覚に体の芯からぽかぽかにはなりながらそんなことを思っていた。


 レト、モシュネ、スティ、テミス、四人が俺の体に抱き着いている。何処かの図鑑で見たことがある、蜂が集まって巨大な蜂を熱で殺す、そんな状態に近いと言えば、想像し易いだろうか。


 しかし……テミスも引っ付くとは……。何時も姉妹と俺以外の人がいる時はそんなにべたべた触れて来なかったはず……。


「……スティ」

「はい、何で御座いましょうか我等が主よ」

「……息が出来ない」


 スティの胸に押し付けられている所為で、息が困難だ。


 突き放そうにも左腕はテミスに押さえ付けられ、右腕はモシュネが頬を擦り付け、背中にレトが抱き着いている所為で一向に動けない。


 ああ、そうそう。あの場所から元の道に戻れた。


 どう言う訳か、レトが元の道に戻れる方向を察知出来る様になった。理由は本当に分からないが。


 ……いや、心当たりはある。


 ルミエールの力の一部である桜の木の枝。それはレトが持っている。


 モシュネが、スティが、テミスが、方向を察知出来ないと言うことは、桜の木の枝にそう言う力があると言うことだろう。


 日が昇ってからずっと橇を走らせていると、エイミーの顔色が青くなり始めているのに気付いた。


「大丈夫か?」

「……さぶい……」

「……一人貸そうか?」

「貸して……」

「テミス、頼んだ」


 テミスは心底嫌そうな顔をした。


 だが、エイミーはそんなテミスに抱き着いた。


「……暖かい……」


 一晩橇の上で眠り、また橇を走らせれば、ようやく予定の旅路に戻って来たらしい。


 今日は何時もより雲が薄く、降雪も少しだけだが止んでいる。


 久し振りに浴びた日差しで心を温めながら、橇は更に前へ進んだ。


 ……平和だ。冷たい空気が体を冷やすことだけが残念だが、この空気を暖かくすることが俺の目標の一つだ。


 ……いや、平和過ぎる。何時もならここで変異体の一体か二体、何なら大群で襲って来てもおかしくは無いはず。


「……フラマ」

「分かっている。変異体が少ないことだろう?」

「流石だな。で、何でだ」

「分からない」

「……最近フラマでも分からないことが多いな……」

「むしろ君達が現れてからそんなことが多くなっていったんだ。その反面好奇心さえも多くなっていったがな」


 フラマは微笑を浮かべながら語っていた。


 ただ、やはり何かおかしい。異常事態と言える程では無いが、不自然だ。結果として速く進めるなら、御の字と言えばそうなんだが……。


 それにだ。あの不思議な地域と、ルミエールの力の一部である桜の木の枝。偶然にも、枯木を探し求めて、その最中に、迷い込んだ。これも不自然だ。


 偶然にしてはあり得ない程に確立が低いはずだ。まずレト達の察知の能力が上手く働かない地域と言うのもおかしい。


 ……誰かに見られている。


 何だ? 何でそんなことを、俺は急に思い付いたんだ?


「……フィリップ、誰かいる」

「誰か? 何処だ」

「……それは分からない」

「じゃあ何で誰かいるって言ったんだよ」

「……分からない」

「どうしたナナシ? 様子が変だぞ?」

「……ああ、そうだな……おかしいよな……」


 ……疲れてるのか? まだあの時の疲れが残っていたり?


 それにしては……やっぱりおかしい。


 モシュネは心配しているのか、憂わし気な感情を見せていた。


「大丈夫ですか? 何か様子がおかしい様ですが」

「ああ……そうだよな。何かおかしいよな」

「……血が足りませんでしたか?」

「いや、充分位に飲んだはず。……念の為啜っておくか」


 モシュネは俺の胸に顔を頬を擦り付けながら、包帯を解いていた。


 彼女を抱き寄せながら首筋に牙を突き立てると、モシュネから漏れる吐息が耳元を擽っていた。


「……御主人様……」


 何だか背に抱き着いているレトの締め付ける力が心無しか強くなっているが、気にしては駄目だ。最近は接し方も分かる様になって来た。


 ある程度啜ったが、やはり朝に吸ったからだろう。もう満腹だ。


「どうですか?」

「……いや……やっぱりそう言う疲れとかじゃ無いみたいだ。……少し冷静に考えてみる」


 まず、どうやって俺は誰かに見られていると思ったのか。それが大切だ。


 偶然にしてはあり得ない。そんなことを考えていた。


 ルミエールの桜の木の枝も、レト達の察知が一切出来ない場所に迷い込んだのも、変異体が一切現れないのも、偶然にしてはあり得ない。


 ……ああ、そう言うことか。


 もしだ。もしもの話だ。この全てが、何者かに仕組まれたことだとすれば。


 つまり誰かに見られていると、俺は考えた。ああ、そうだそうだ。ようやく納得出来る答えを導き出せた。


 その考えを口にすれば、フィリップは首を傾げながら信じていない様だったが、フラマは何処か納得した様な表情で遠くを睨んでいた。


「ナナシ、もしそれが仮にも正しいとすれば、相手は誰だと思う」

「……いや、分からない。ただ、何でだろうな。心当たりがある」

「心当たり?」

「最近、良く記憶が頭の中で突っ掛かることが多いんだ。ルミエールのこともそうだ。思い出せる訳でも無く、喉の奥に突っ掛かる」

「……そうか。モシュネ、ナナシの記憶を再度想起させてくれ。重要な記憶の様だ」


 モシュネはフラマの問い掛けに答えなかった。無愛想な無表情を素っ気無く背けているだけだった。


「モシュネ、俺からも頼む」

「嫌です。モシュネの気苦労を無視するのであれば、心置き無く御命令を」

「……お前、最近俺の心の操り方を覚えたよなぁ……」

「まさか。あくまでモシュネは提案しているだけで御座います。ああ、その前に断りの言葉も入れましたね。……あの時の言葉を、再度、言いましょう。モシュネは貴方が感じる苦痛は徹底的に排除したいと考えております。幾ら貴方様の願いと言えど、自ら苦痛に飛び込む様な願いは、あまりしない様に懇願したいのです」

「分かった、分かったから。もう頼まないし、そう言う命令はしない。約束する」

「いえ、好きになさって下さい。あくまでモシュネは貴方様の所有物であり従順なる下僕。貴方様がモシュネの心労も知らずに命令を下すのも、どんなことを思っても、貴方様の自由であり、それを否定することは御座いません」

「いや……本当に……ごめんなさい……」

「何を謝っておられるのですか?」

「……はい」


 俺は何故こんな返事を……?


 ……仕方無い。モシュネに頼むのは辞めておこう。


 すると、レトの声が俺の背後から聞こえた。


「未知の……不明の……ナンシー……。誰も……そこにはいなかった……。きっと誰も……いなくなる……十人の小さな……小さな……兵士達は……」

「どうした急に?」

「……()()()()()()()


 すると、テミスがレトの言葉の続きを答える様に口遊んだ。


「彼は白と黒の王と奴隷の友となりて、彼女は自由意志を掲げる」


 レトとテミスの意図が掴めない言葉は、そのまま俺の頭の中で反響を続けた。


 ……ああ……またこれだ。頭の中で記憶が突っ掛かる。


 意図も、意味も、分からないのに、俺の頭の中で記憶が突っ掛かる。もどかしさと若干の嫌らしさと気色の悪い感触が、俺の中で反響する。まるで、俺を嘲り笑っているかの様なその記憶に、苛立ちさえも覚えた。


 ああ、クソッタレが。


 不快感が脳裏を過る。ずっとだ。ずっと、俺の中で。


 俺の記憶の突っ掛かりは、何時もより強く、そして長く続いた。


 ああ……クソッタレ。


 ……何だ? 何で俺はこんなに苛立っているんだ?


 未だに突っ掛かる記憶の中で重要なことを想起しようとしている様な気がする。だがそれが何なのか、非常に不愉快になる程に思い出せない。いや、そもそもそんな重要なことなのかすら怪しい。


 俺は何故こんなに苛立っている。


 自分の感情さえも理解出来ないまま、俺はモシュネの体を強く抱き締めた。


「あの……」

「……済まない。落ち着くまでこうして欲しい」

「……御自由に」


 歯を食い縛りながら、何とか苛立ちと向き合った。


 今日は本当にどうしたんだ。何時もより記憶に対しての粘着が酷いな。


 ……それ程までに、俺にとって必要と言うことだよな?


「……彼、そして彼女……ねぇ」


 突然のことだった。


 奇妙な焦燥と不快な腐臭が混じり合う空気がつんと俺の肌を掠めた。テミスも同じ物を感じ取ったのか、膝を立て剣の柄を握った。


 ……少しだけ、安心した。


「フラマ、フィリップ、変異体だ。後ろから着いて来ているぞ」

「分かった。このまま全速力で走らせて振り切ろう」

「無理だ」

「……珍しくきっぱりと言うな。何故無理だと?」

「数が多い。感じれる気配だけで、凡そ百二十体だ」


 フラマはそれでも冷静に、しかしフィリップは動揺を隠せていなかった。


「何でお前はそんなに呑気何だナナシ!」

「さあ? 何でだろうな。さっきから俺の様子がおかしいのは自分でも分かってるんだが……今度は妙に落ち着くんだ。危険がすぐそこまで近付いているのにな」


 俺の顔はどうなっているのだろうか。きっと、微笑を浮かべているのだろう。フィリップの引き攣った表情を見れば良く分かる。


 雪に混じり、生物特有の呻き声と此方に向かって走る獣が駆ける足音が聞こえる。


 いや、あれを生物だと言うのも気が引ける。あれは正真正銘の化け物だ。


 積もった雪を掻き分け、降り続ける雪を払い除け、複数の化け物は此方に向けて走っていた。

 首が木の枝の様に細く、顔は腐っている様に爛れていた。

 まるで狼の様に屈強で黒い毛が生えている四肢があり、背中に鉄で出来た杭の様な物が何本も突き刺さっていた。

 その変異体が先頭に、それぞれ形状の違う数十体の変異体が涎を垂らしながら、風を切り全力で駆けていた。


「おいおい! 流石に多過ぎるだろ!? 今までこんなこと無かったぞ!?」

「フィリップ、ナナシの言葉を思い出せ」

「あぁ!?」

「『誰かいる』、そう言っただろう? 恐らくあの変異体は操られているぞ。少なくとも、司令塔となる我々の様な知的生物がいることは確かだ」

「いや……そんなこと不可能だってお前が言ってたんだろ!?」

「何か妙だ。変異体が群れを為して知能を感じさせる動きをすることも、唐突に現れたのも、そして――」


 瞬間、進行方向に変異体が数匹程、横から現れた。


 橇を引く馴鹿は驚いたのか、前足を高く挙げ右方に向けて走り出した。


 その遠心力で橇の壁に体が叩き付けられそうになったが、瞬時に俺の背にいるレトを胸に抱き寄せ彼女たちに怪我は無かった。


「誘導と言う、人間にしか出来ないことをやって退けている。変異体が出来るのは精々後ろから追い掛け、回り込むこと位だ。明らかに人為的な何かが介入している」

「じゃあそいつが黒幕だな!!」

「……恐らくな。そしてもう一つ、先程のレトとテミスの言葉が表す人物が、黒幕だ」

「えーと、何だ?」

「『未知の不明のナンシー。誰もそこにはいなかった。きっと誰もいなくなる。十人の小さな小さな兵士達はただ自由の為に』『彼は白と黒の王と奴隷の友となりて、彼女は自由意志を掲げる』だ。今は分からないが、様子を見る限り、ナナシ達の記憶の奥底に眠っている様だ」


 すると、この橇に大きな影が落ちた。最初こそ何時もの様に雲が太陽を隠したのだと思った。


 だが、すぐに間違いだと気付く。この世界はずっと厚い雲に覆われている。その雲が雪を降らせているのだ。雲の所為で影が落ちているのが当たり前で、それに加え何かの影が落ちたのなら、巨大な何かが、頭上を飛翔していると言うことだ。


 頭上を見上げた。


 あれは、一体何だろうか。変異体? いや、それとは比較にならない程の恐怖が、あれから発せられている。もし、悪魔がいるのなら、きっとあれを指すのだろう。


 あまりに大きい。きっと20mは超えているだろう。

 ぱっと見は、魚に見える。だが尾鰭の向きが違う。それを動かし空を泳いでいた。

 背中には、背骨に沿う様に大きな突起物が四本上に向けて生えていた。その突起物から布の様なものが垂れており、あの巨体を隠していた。

 胸部や腹部には穴の空いた突起物が付いており、そこから赤い瘴気を噴出させていた。

 胴体から無数の触手の様な物が生えており、不気味に蠢いていた。それは餌を求める様に、それは殺戮を楽しむ様に見えた。

 頭は三つ……だろうか。その頭部には目玉等無く、嘴が付いており、鳥類の様な頭蓋骨だった。嘴を開けると、喉の奥から鈍色の瞳を覗かせ、ぎょろりと動かし俺達を見下ろしていた。

 その巨体の周りに一回り小さい魚の様な何かが飛んでいた。その巨体な化け物の胴体に引っ付いていた。

 その小判鮫の様な何かは人間の様な声で「あぁあぁあぁあぁあぁあぁ」と鈍く低い音で叫んでいた。


 乾いた笑みしか出なかった。何処かで読んだことがある。人は余りの恐怖に直面すれば、笑ってしまうと。こんな所で、それが正しいことを知るなんて、誰が思ったのだろうか。


 ああ、俺は怯えている。あれが怖い。とても、とても怖いんだ。


 唇が震える。脂汗が流れる。涙で目が湿っている。奥歯がガチガチと鳴っている。


 何より、この恐怖を紛らわす為に、俺はこの中で一番強いであろうテミスの指を握っている。


「……最愛の人よ、御安心を。何時もで貴方様だけは逃せる準備が出来ておりますので」

「いや全員を助ける準備をしておけよ!?」

「正直に言いましょう。スティ、モシュネ、そしてレト、私もそうですが、基本的に死にません。今、見捨てても後で助ければ大丈夫でしょう」

「フラマとフィリップとエイミーは普通に死ぬんだぞ!?」

「その三人は別に助けずとも良いでしょう?」

「全員! この場にいる全員を助けろ!」


 テミスは心底嫌そうな顔をした。


 こいつ……姉妹達の中だと一番感情豊かだよな……。


 すると、上から魚の様な何かが空を泳ぎながら襲い掛かった。


 テミスが剣を引き抜くと同時にそれは一刀両断にされたが、切りが無い程襲い掛かって来る。


 俺とフィリップも橇の上で交戦したが、一体一体を処理しても空の上に泳いでいる魚の方がまだ多い。切りが無い。


 幾らフィリップでも体力の限界がある。勿論俺もだが、俺は血を啜ればある程度回復出来る。


 だが、この状況で戦える人物が一人でも欠けてしまえば、一気にこの魚群に押し潰されてしまうだろう。


 粘着性が高い赤い血液が煩わしくも思った頃、唐突に俺の手に力が入らなくなった。


 それを狙っていたのか、それともそんな知性も無く甚振る為なのか、一匹の魚が俺に体当たりをして来た。


 捌き切れずに、俺の体は橇に乗せられている物資が入った箱に叩き付けられた。


 テミスが一瞬此方を向いたが、すぐに叫んだ。


「テミスゥ! 気にするな゛ァ! ぞのまま捌き続けろォ!」


 腹部に魚の牙が深々と突き刺さった。


 牙を突き刺すことはあるが、牙を突き刺された経験は余り無い。こんなに痛むのなら、これからは血を啜るのは控えようかとも思ってしまう。


 びちびちと動く尾鰭を掴み上げ、噛み付かれた腹部の肉ごと魚を引き抜き横に投げ飛ばした。


 肉が抉れた。肌の奥にある内臓が大事に仕舞われている場所まで、一気に抉られている。腹部が熱い。不思議と痛みは感じない。


 だが、体は正直だ。視界が掠れている。


 本能で分かる。傷付いてはいけない臓器ごと肉が抉れた。剣を握ることも出来ずに力無く離すと、気を保つことさえも難しい状態に陥った。


 掠れ行く視界の中で、空を見上げた。


 未だに嘲笑いながら俺を見下しているあの魚みたいな化け物。


「……気に食わねぇな。あいつ」

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


いいねや評価をお願いします……ペンギンの自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

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