其の十五 第三調査開始 一
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
……と言うか文句はペンギンに言って下さい。
……重い。
見れば、裸のスティとテミスが俺の上に乗っかっていた。
「……体温は丁度良いんだよなこいつら……」
俺が目覚めてから、大体一週間が経っただろうか。体中の痛みは引いて、体も彼女達の助けが無くても何とか起き上がり、歩ける位にはなった。
それでも、少しでも押されれば簡単にこてんと倒れてしまう弱々しい存在ではあるが。
「スティ」
「……何でしょうか我等が主よ……ふぁぁ……」
欠伸混じりのふにゃふにゃの声が俺の上から聞こえた。
「血を吸わせて欲しい」
「……あぁ……そうでしたね……。……もう朝でしたか……どうぞ御自由に……心置き無く。私はもう少し寝ておりますので……んぅ」
スティの体を抱き寄せ、もう既に露出している首筋に噛み付いた。
溢れ出たさっぱりとした血を啜りながら、自らの奥に潜む渇望を満たした。これが前面に出てしまうと人間を襲うバケモノになってしまう。
充分な程に啜ると、俺はスティの柔らかい肌から牙を離した。
何とか体を動かし上体を起き上がらせ、ベッドから出ようとしたが、思っていた以上にテミスの抱き締める力が強い。
「テミス、起きろ。動けない」
反応は無い。まだ深い眠りの中にいるらしい。
俺は呆れ切った息を小さく吐き出した。
少し時間が経てば、モシュネが駆け足で部屋に入って来た。
「御主人様、御早う御座います。今日からモシュネ達の罰則は消えるのでしょう?」
「ああ、そうだったな。とは言っても四人との添い寝は重いし狭いな……」
「それは後々考えましょう。……さて、貴方様、スティと熱い夜を過ごした様で」
「勝手に脱いだだけだ」
「そうですか。行為は一切していないと」
「していません。一切手を出しておりません」
……最近モシュネの態度が変わって来ている。いや、俺に向けての根本的にある愛は変わっていないが、何かこう……目付きが変わっていると言うか。
「……御主人様」
「どうしたモシュネ」
「いえ、最近、モシュネを求めて下さらないなと思いまして。勿論、それが悪いと言う訳ではありません。モシュネ達は貴方様の為に、貴方様の選択を間違いだとは言いません。ですが――」
モシュネは顔をずいっと近付けると、俺の頬を愛おしそうに撫でた。
「モシュネは、もう必要無いのでしょうか」
モシュネの表情は一切変わっていない。だが、俺には分かる。今にも泣き出しそうなその感情に。
「……申し訳御座いません。この様なことを、吐いてしまって」
「モシュネ」
「何でしょうか」
「血が欲しい。お願い出来るか?」
モシュネは、俺に求められることに悦びを見出している。異常な程に、俺に求められることを求めている。
モシュネは無表情ながらも、嬉しそうだ。表情筋がぴくりと動いている。
すぐに首筋を露出させ、俺はその肌に噛み付いた。
「……気を利かせてしまいましたね。申し訳御座いません」
モシュネの体に腕を回し、抱き締めながら更に牙を奥に突き立てた。
「んん……。そんなにモシュネを求めて下さるのですか?」
俺の背中に、モシュネの腕が回り込んだ。更に体が密着する。モシュネのとろけた様な柔らかく甘い声が囁かれた。
「ああ……御主人様がモシュネの血を啜っている……。どれだけ待ち侘びたか……。……御主人様」
「んー?」
「もっと、もっとモシュネを求めて下さい。全て貴方様に捧げます。全て、全部、モシュネの汎ゆる物を、全て捧げます」
すると、レトが息を切らしながら部屋に入って来た。
「は……速いですモシュネ……」
その直後に、モシュネは次の言葉を口ずさんだ。
「私の中に、子を宿す許可を」
次の瞬間。本当に一瞬だった。俺がレトが入って来たことに気付いた瞬間だった。
空気が冷えた。まるでメルトスノウの外の様にこの部屋の空気が一気に冷えた。
「……モシュネ……」
「何ですかレト。今モシュネは御主人様に必要とされているのです」
「その役目は……私の役目……ですので……」
「それを決めるのは御主人様です。少なくとも、貴方ではありません」
寒い! 部屋の中が寒い!
レトがモシュネの体を俺から引き離す様に腕を引っ張り始めた。
すぐにモシュネの肌から口を離すと、モシュネの体はすぐに俺から離れていった。その代わりにレトがすぐに包帯を解きながら俺に抱き着いた。
「そんなに……私の体には……魅力がありませんか……?」
「そう言うことは一切言ってないんだが……。あのー、離れて欲しいんだが……起きれないから、な?」
「……まず、私は貴方の幸福を……祈っております……。……その考えの一つ一つを……尊重し……優先し……。ですが……それでも私は……嫉妬はするんです……。……このまま、貴方から『離れろ』と……命じられたのなら……私は潔く……離れましょう……」
「じゃあもう少し抱き着いててくれ。結構温かい」
すると、レトが小さくぽつりと囁いた。
「……モシュネだけ……狡い……」
……仕方無い。もうお腹いっぱいだが……。
レトの首筋に牙を突き立てた。柔らかく、そして溢れる血は甘美な味。
最初こそ驚いたのか、少しの身震いをレトから感じた。僅かな緊張感で肩が上がっていた。だが、それも少しずつ、少しずつ、和らいでいった。
「……美味しいですか……?」
「んん」
「……なら……良かったです……」
……もう啜れない……。逆に気持ち悪くなって来た……。
そして、ようやくテミスが起きた。
やっと、やっとベッドから出ることが出来た。体感的に俺が起きてから一時間ずっとベッドに拘束されていた。
まあ、三人分の血を一気に啜った所為かは分からないが、体が昨日よりも軽い。普通に歩ける程度にはなっている。……まあ、流石に啜り過ぎて気持ち悪いけど……。
「……顔色が優れないな」
司令室のソファーで体を横にしてフラマと会話していた。
「確か、明日にはもう出発するんだろ?」
「ああ、そのつもりだ。体の調子はどうだ?」
「絶好調。すぐにでも戦闘が出来る位には。まあ簡単にフィリップに負ける程度だろうが」
「寄り道をせずに、真っ直ぐ向かえるとすれば……一ヶ月は掛かるかも知れない。その間に体は十二分に回復出来るだろう」
「……ちょっと聞きたいんだが――」
フラマは突然の問い掛けに耳を傾けた。
「あの国王陛下は、信用出来る人物か?」
「……ああ、そうだ。勿論」
「詳しい素性は分かるか?」
「この雪が降る以前の世界で高名な資産家だったらしい。そしてその時代の技術を使い寿命は相当伸びている。もう百年以上はあの姿でいるらしい」
「……そうか」
「どうした? 何か気になることがあるのか?」
「……初対面の時に、少し怖く感じたんだ。それだけだ。あまり気にしないでくれ」
そして次の日。
「……さっっっっぶ!!」
今日は何時もより勢いが強い雪の日。そんな日に俺達は馴鹿が引く橇に乗っていた。
「久し振りに外に出たからだろうけど! 滅茶苦茶寒い!」
レトとモシュネを抱き寄せ暖を取りながらそんなことを叫んでいた。
雪の所為で視界も相当悪い。
「ああ、モシュネは幸せです……!」
「……もう少し……近づきましょうか……?」
抱き寄せているレトとモシュネがそんなことを言っていた。
一応スティとテミスも同行している。そして当たり前だがフラマとフィリップも。ただ――。
「本当に、マスク無しで外に出られるんだね」
……エイミーがいる。
「何で来たんだエイミー?」
エイミーはぼりぼりと保存食を食べながら首を傾げた。
「私がここにいたら駄目?」
「死にたいなら良いと思うぞ」
「あはは、ナイスジョーク。……ジョークだよね?」
エイミーは冷や汗をかきながらフィリップの方に顔を向けた。フィリップは微笑みながら目を逸らした。
「……まあ、まあまあまあ」
「そんなに危険なの!? 外ってそんなに危険なの!?」
「まあまあまあまあ。俺達は毎回生き残ってるからな。俺達からすればギリギリナイスジョーク」
「私からしたらバッドジョークだよ!?」
……本当に何で来たんだこいつ。
「本当に……何で私まで……お父さんに言われたから同行したのに」
「お父さん? お父さんに頼まれて調査に同行してるのか?」
「うん。一応お父さん国王だから命令されたら従うしか無いからねぇ」
……へ?
「ちょっと考えさせてくれ」
「何を?」
「お父さん? 国王陛下が? エイミーの? お父さん。はぁ。……ナイスジョーク」
「あれ? そう言えば言ってなかったっけ?」
すると、抱き寄せているレトが声を出した。
「どうやら……エイミー様の父親は……本当にこの世界の…………国王らしいです……」
「……え、マジ?」
「ええ……マジです」
「……王女だった訳か。……敬語使わないと断首刑にとかされないか?」
エイミーは必死に首をぶんぶんと振っていた。
「まず私娘ではあるけど権力持って無いし! 全部捨ててからメルトスノウに来たし! だから大丈夫!」
「あぁ良かった……」
安堵の息を吐き出すと、何故か横に据わっているテミスが剣を抜こうと柄を握っていた。その手をスティが然りげ無く抑えていた。
流石に王女を殺せば……まあ、国際指名手配犯だろうなぁ……。俺は庇わないからな!
「それで? 陛下になんて言われて同行したんだ?」
「秘密」
「巫山戯るなよ?」
「何で怒るの! だって仕方無いじゃん! お父さんから『誰にも言うな』って言われてるんだから!」
……誰にも言わないで……か。まあ、雪が降る前から生きている人だ。何か知っているが確証には至らない何かがあるのだろう。
太陽が俺の頭上に動いた頃……だと思われる。厚く暗い雲の所為で、太陽が一切見えない。だからこそ持っている懐中時計だけでどうにか時間を確認するしか無い。
ただ、その一秒一秒動き、六十回で一周する針も、吹雪く雪の所為で全く見えない。
短針で見れば、大体……十二時で良いのだろうか。長針は三を指している。
昼と言うのは、気温が高くなるはずだ。にも関わらず、先程よりも雪が強まっている。スティを背中に抱き着かせ、何とか体温を逃さない様にしている。
俺が抱き寄せているレトに、エイミーも擦り寄って体温を保っている。
「寒い! レトちゃん暖かい!!」
「レトは俺のだぞエイミー!」
「良いじゃん少し位! 独占反対! 独占反対!」
「レトだって俺が良いって言ってるんだぞ!」
「あー! それ言ったらもう反論出来ない!!」
レトの体が更に密着した。頬を俺の腕に擦り付け、愛おしそうに、しかし何処か不安そうに俺の顔を覗いていた。
そんなレトの感情を見た後に、エイミーを煽る様に嘲笑った。
「レトちゃーん! 私も好きだよねー?」
「……いえ……そこまで……。私はこの方……だけの……従順な……所有物ですので……」
「うわぁー!! あぁぁー!!」
まるで失恋したかの様に、エイミーは叫んでいた。
「ナナシだけ狡い! 女の子三人も豪華に使って暖を取ってる!」
「良いだろ別に。姉妹達が俺の為に行動してくれている結果なんだから」
「じゃあテミスちゃんにくっつく」
そう言ってエイミーはテミスに両腕を伸ばしたが、力強く引っ叩かれた。
ここまで踏んだり蹴ったりだと流石に可哀想になって来る。
数時間程時間が経った頃、ようやく雪が晴れて来た。とは言っても、まだ微風に揺られてはらはらと雪が降っているが。
「……さて、良い話と悪い話がある」
フラマがそう切り出した。
「洒落た言い回しだな。じゃあ良い話から聞いてやる」
フィリップがそう言った。
「見る限りここで休むことが出来そうだ」
「……悪い話は?」
「迷った」
「は?」
「だから、迷った。更に正直に言うと、ここが何処なのかも分からず先程まで視界不良だった所為で帰り道も分からない」
「……やばくねぇかそれ!?」
「不味い状況だ」
「何でお前はそんなに冷静でいられるんだよ!?」
「もう忘れたのか? レト達は私達が向かう方向を感知出来る。つまりだ。迷っても問題は無い」
「お? ……ああ、そうだったな!」
期待の眼差しがレトに向けられたが、レトは無表情で首を傾げた。
「いえ……不思議なことに何も……感じ取れません……」
「じゃあモシュネは?」
モシュネは首を横に振った。
「スティは?」
「全く」
「テミスは」
テミスは何も答えなかった。
「……どうするフラマ」
「……良し、フィリップ。もっと焦れ」
「どーすんだよフラマ!?」
「煩いぞフィリップ」
「俺はどうすれば良いんだよ!?」
フィリップの叫び声が頭に響いている所為か、頭が痛い。
……いや、フィリップの所為では無い。とにかく頭が痛い。
息を整えながら、この痛みから目を逸らす。
「……どうされました……? 顔色が……優れない……様ですが……。……寒いですか……?」
「……いや……頭が痛い……」
「……血が……必要……ですか……?」
「……欲しい……」
レトの血を啜りながら、この頭痛の正体を探っていた。
……ああ、そうだそうだ。俺が色々思い出した直後の頭痛だ。あの時思い出した出来事は、もう俺の中には残っていないが、激痛が走ったことだけは覚えている。
あの時の痛みに良く似ている。
……つまり、何かを思い出そうとしているのか?
それともモシュネがまた何か不思議な力で俺の記憶を想起させようとしているのか。丁度俺の体に触れているから可能性はあるが……。
いや、それはまず無い。広義的に捉えれば俺がああなったのはモシュネの所為だとも言える。あんなことがあって、またモシュネがする訳が無い。
あの行動も俺の為にしていた。結果的にああなってしまっただけで。
……つまり、これは、俺の頭がこの光景に対して何かを思い出そうとしている。ここは何処だ。俺は何を覚えていた。俺は何を思い出そうとしている。
俺はレトから口を離した。
「……モシュネ」
「何でしょうか」
「……確かお前は、記憶を想起させることが出来るよな?」
「ええ、そうですが……」
「なら、思い出しかけている記憶だけを想起させることは?」
「……可能だとは思いますが」
「じゃあ頼んだ」
「無理です」
モシュネはきっぱりとそう言った。
「何が起こったか忘れてしまわれましたか?」
「あれは多分一気に全部想起させようとしたからだ。もしくは奥にある記憶を無理矢理引き出そうとしたからだ。なら、思い出しかけている記憶を引き出すだけなら、多分きっと恐らく大丈夫だ」
「……それでも、モシュネは貴方が感じる苦痛は徹底的に排除したいと考えております。幾ら貴方様の願いと言えど――」
「命令だ。モシュネ」
「……モシュネの御主人様は卑怯な性格ですね。……貴方様は、モシュネの心労等知らないのでしょう。ええ、知っているのなら、その様な命令を致しません。あの時、モシュネがどれだけ後悔し、悔悟し、悔恨していたのか、貴方様は知らないのでしょう。もう二度とこの力は使わないと心の中にそう決めたことも、貴方様には関係の無いことですからね。ええ、そうでしょう」
つらつらと文句を言われている……。
「……分かりました。使ってみましょう。何か異変があれば即座に力を使うことを止めます」
「ああ、それで良い」
モシュネは俺の手を握り、その掌に自分の頬を擦り付けた。
「なあ――」
「いえ、これは必要な行為です。決して無意味な行為では御座いません」
モシュネの表情は依然として変わらないが、とろけた甘い感情が顔の奥から見える。表情筋をぴくりと動かしながら、更に擦り付けていた。
「なあモシュネ。絶対に必要無いよな?」
「思い出して下さい。貴方様の記憶が一時的に戻り発狂した直前、貴方様はモシュネの頬を撫でておりました」
「ああ、確かに……」
「決してモシュネの欲望のままに頬を擦り付けている訳では無いのです」
やがてモシュネは満足した様な感情を見せると、俺の手を優しく包み込んだ。それから、モシュネは特に妙な動きはしなかった。だが、俺の頭の中の痛みが更に酷く突き刺さった。
僅かに呻く声を出すと、モシュネはすぐに俺の手を離した。
『桜の下には、何が眠ってると思う?』
……誰だ。
『山の上に鯨の化石があるのなら、■■■君はその場所は昔海だと思う?』
……溢れ出す白い桜の花弁。あの光景は何処かで見たことがある。
『私は、昔の鯨は空を飛んでたと思いたいの。だってその方が夢があるでしょ?』
俺に優しく語り掛けるこいつは誰だ。
「……"ルミエール"」
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
いいねや評価をお願いします……ペンギンの自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……




