其の十三 首都シャーレム 一
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
……と言うか文句はペンギンに言って下さい。
スティはそんな気さくな挨拶の様な声を出した後に、素っ気無く顔を背けた後にまた男性を心配しているのか体を押し付けていた。
「……スティが……何だか……冷たい態度ですが……」
「何時もじゃ無いですか?」
「……確かに」
レトとモシュネはそんな会話をしていた。
そんな二人を、テミスはもう一度剣の鞘で小突いた。
「「痛い……」」
すると、しがれた声が小さく聞こえた。
「……重い……何か柔らかい……」
それは、ナナシの声だった。
「……あぁ……!? 何処だこ――げほごっほごふぅがっ!!??」
変な音がする喉から出た咳は、やはり変な咳だった。痛々しくはあるが、変な音の所為か、何処か気の抜ける咳だ。
ナナシは上体を起こそうとしたが、体があまり動かなかった。そんなナナシをスティは支えながら上体を起こしてあげた。
「あぁ……ありがとうスティ……。……んあ? スティ?」
「はい。スティです」
「……あぁ……どうも……。……何で名前を知ってるんだ?」
「それは、記憶する原理の解説を求めているのでしょうか」
「いや、俺が、スティの名前を覚えていること。レトやモシュネの名前も忘れてたからな。……レトとモシュネの姉妹か?」
「ええ、姉妹です」
「ああ良かった。勘違いじゃ無かった。……喉痛い……」
その何時も通りのナナシの姿を見て、レトは歓喜のあまり僅かに震えながら口元を両手で隠しながら涙を流し、モシュネはすぐにナナシの胸に頭から思い切り飛び込んだ。「ごふッ!?」と言うナナシの悲鳴にも近い咽び声が聞こえたが、モシュネはとにかくナナシの胸に頭をぐりぐりと擦り付けていた。
「あぁ……!? あぁ……モシュネか……。まだ体中痛むから飛び込むのは辞めて欲しい……。ああ、それにレトも」
ナナシはそのままぐるりと視線を回し、フラマとフィリップの姿も捉えた。
「えーとえーと、いや待て、分かってるんだよ」
「まさか覚えていないのか?」
フィリップが怪訝そうにそう言った。
「いや、覚えてる。変な例え方をする研究者兼司令官と、脳が筋肉で出来てる大馬鹿者。えーとえーと、そう! フラマ! それにフィリップ! よっし! 覚えてる! ……喉痛い……」
「そんなに大声出すからだろ! 声の大きさを小さくしても聞こえるからな」
「……なら良かった」
そして、ナナシはテミスに視線を合わせた。
「……テミス……で良いよな?」
「ええ。永遠に貴方の隣にいるテミスで御座います。目が覚めて嬉しく思います。最愛の人よ」
「何でこんなにするすると名前が思い出せるんだ?」
「最愛の人よ。それは恐らくモシュネの権能のお陰でしょう」
ナナシは胸に飛び込んだモシュネの頭を撫でながら話し掛けた。
「テミスはそう言ってるが、どうなんだ?」
「……モシュネの権能は、"記憶"で御座います……。大変申し訳御座いません……何も言わず、その権能を貴方様に使ってしまい……! その結果、貴方様がこの様なことになってしまわれて……。ただ、これは確かです。モシュネは一生、貴方様を心から愛しています。モシュネは一生、貴方様をお慕いしております」
すると、レトが口を開いた。
「その力は……本来この方の為に……使うと言うのに……あろうことか……傷付けてしまうとは」
「……煽っているんですかレト」
「……いえ……ただ……事実を列挙したまで……悪意はありません……ええ……全く」
「御主人様に誓って、嘘は吐いていないと?」
レトは沈黙を貫いた。
そんなレトにモシュネは憤りを感じていたが、あくまで表情は変わっていなかった。
すると、テミスの咳払いが聞こえた。
「モシュネ、レト、何か言うべきことがあるのでは?」
「モシュネは謝罪致しましたので」
「……随分と生意気な口を聞く様になりましたね、モシュネ。まあ良いでしょう。それならレト」
レトはナナシのベッドの傍に佇み、頭を下げた。
「大変……申し訳御座いません…………私達が傍にいれば……貴方はこんなに……傷付かなかった……。そして……何よりも……こんな目に合わなかったでしょう…………。……心からの、謝罪を……」
ナナシは微笑みながらレトの頬を左手で撫でた。
「いや、お前は悪く無い。だから頭を下げるのは辞めて欲しい」
すると、テミスが表情を変えずに、しかし若干苛立っている様に声を出した。
「最愛の人よ。彼女達に然るべき罰則を」
「えー、だって本当にこいつら悪く無いし……」
「それでは駄目なのです。確かに彼女達はもう二度とこの様な失態は犯さないでしょう。しかし、犯さない明確な理由と言うのは必要なのです。罰則とは、そう言う物です」
「……本当に俺が決めないと駄目なのか?」
「はい。貴方様にはそれを取り決める権利があります。そして、最愛の人よ、我等は貴方様の御心のままに」
「……あー……じゃあ……一週間添い寝禁止とか……」
その言葉が放たれた直後に、レトは力無く膝から崩れ落ち、モシュネは縋り付く様にナナシの肩を掴んでいた。
「モ、モシュネはそれを許される為に貴方様から離れたと言うのに……それだけは……。……いえ……分かりました……それが貴方様からの罰則だと言うのなら……」
……心が傷付く!!
すっごい悲しそうな顔してる! いやずっと無表情何だが! すっごい悲しそうな顔してる!
レトに至っては、もう言葉を発してない。……泣いてる! やっぱり心が痛む!
「……撤回しても良いか?」
「駄目です」
テミスが食い気味でそう言った。圧が凄い……。
……まあ、うん。一生では無い。一週間だ。きっと二人は耐えられるはず。
……それよりも、ここは何処だ。ここまで来た記憶がごっそり抜け落ちている。
何とか状況を確認しようともう一度辺りを見渡すと、さも当たり前の様に人の死体が積み重なっていた。
「うぉっ。何だこの凄惨な現場」
「ああ、最愛の人よ。貴方様を傷付けようとした哀れな悪魔で御座います。このテミスが、殺害致しました」
「お、おお……そうか。……うん。ありがとう」
ありがとうで良いのか? この場合。いやーまあ……駄目……だろうな。
「……ナナシ」
フラマがそう話し掛けた。
「何だフラマ、俺としては、色々聞きたいんだが」
「ああ、だろうな。それならまずは此方から説明しよう。楽な体勢で聞いてくれ。……ここは少し不衛生だな。場所を変えよう。……とは、言っても、その様子だと動けそうに無いな」
フラマはフィリップに目配せをした。フィリップは一度だけ頷くと、俺の腰を持ち上げる様に腕を回した。
すると、その腕をテミスに叩かれた。
「いってぇ!? 何だお前さっきから!!」
「下賤な手でこの方に触るな男臭い」
「ひっでぇ!?」
「私が運びますので、お前は近付くな。馬鹿が移る」
「何で俺そんなに嫌われてるんだよ! 一応ナナシを助けに来た立場だぞ!?」
「それとこれとは話が違う」
テミスはフィリップと言い争いながらも、俺の体をひょいと持ち上げ、背負った。
この中だと一番背が高いからか、地面が何時もより下にある。僅かな浮遊感が恐ろしい。
フラマとフィリップは先行して扉を出た。その後に続いてテミスに背負われた俺に、レトとモシュネとスティ。
「主よ」
スティがそう話し掛けた。
「何かご不満等が御座いましたら、すぐに私にお申し付け下さい。きっとテミス様や、モシュネや、レトとは違う奉仕ができると思いますので」
「……ま、気が向いたらな」
「分かりました」
こいつもレトやモシュネと同じ髪色に瞳色……瞳色だけは分かり辛いな。偶に髪の毛の隙間から瞳が見えるが、多分銀色だ。
テミスは目隠しを着けている所為で分からないが、まあ銀色だろう。
……駄目だ。体中痛くて熟考なんて出来るはずが無い。出来るのは痛みに呻くだけ。背負われている体勢の所為か、先程より痛みが体に滲む。
それに、先程から渇望が俺の中に渦巻いている。血を、肉を、欲している。
あの人の死体の山、凄惨な現場だと思うと同時に、すぐにでも喰らい尽くしたい欲望が俺の中に蔓延った。もう理解している。俺はきっと人間では無いバケモノなのだろう。
……何でレト達は、そんな俺に従うのか、皆目見当が付かない。恐らく記憶を失う前の俺が何かをしたんだと思うんだが……。
いや、レト達も人間では無いと言われれば、恐らくそうなのだろうと言えるが……。
俺達はこの建造物の中では綺麗に残っていた一室に入った。それでも相当の広さだ。ここを所有している人物の資産力を証明している。
そこにはサラとエイミーもいた。この二人がいると言うことは、メルトスノウでは無いが安全が確保された場所なのだろう。
それにしては、廊下には腐乱死体があったが……。
エイミーは相変わらずの陽気さで俺に話し掛けた。……何だかテミスの視線が恐ろしい気がしたが、まあ気の所為だろう。
「さて、ナナシ、これまでの君に起こった出来事を、我々が知っている範囲で話そう」
フラマがそう切り出した。俺はそれをスティの膝の上に頭を乗せソファーに寝転びながら聞いていた。
フラマから聞いた話は、少なくとも俺の記憶には無い。
「……テミス」
「気軽に呼び捨てで呼ぶな」
「……テミスさん。何処で出会ったのか、どうやってここまで来たのかを、教えて下さいませんか」
不満そうにフラマはそう聞いた。
「まず、あの枯木を知っていますか?」
「ああ、我々はそれを探している」
「あの枯木の傍に、スティと共にこの方が。恐らくその、メルトスノウやらから出た後にそこまで走って来たのでしょう。そして複数の人間達が最愛の人を救うと言うので、それを信じ着いて来てみれば……まあ、こうなった訳です。彼等は大義も無くこの方に対する恐れだけで腹を切ろうとした訳です。この方を隅々まで知りたかったのでしょう」
そんな話を聞いていると、スティは俺の横腹辺りをぽんぽんと優しく叩きながら、頭を優しく撫でていた。恐らく母親がいれば、こんな人物なのだろうと思ってしまった。
……そう言えば、俺に両親はいるのだろうか。いや、いるのは分かっているが、何処にいるのかが分からない。まず生きているのかも分からない。
すると、スティが口を開いた。
「私はただ、主の気配を強く感じ枯木の前へと赴いただけです。偶然にもその場に、我等が主がやって来たのです。これはやはり、運命でしょう。どれだけ離れても、必ず出会える固い絆と深い愛で我等は繋がれているのです」
そのままスティは無表情のまま、しかし何処か恍惚とした眼差しで俺を見詰めた。
「ああ、我等が主よ。我等は貴方を心から愛しております。その髪も、その目も、その瞳孔も、その虹彩も、その睫毛も、その鼻も、その口も、その歯も、その頬も、その唇も、その肌も、全て、余すこと無く、その首も、その鎖骨も、その――」
スティは永遠と、俺の体の部位を隅から隅まで語り始めた。
「――足の指の爪も、愛しております。ああ、愛おしい。何よりも、愛おしい……一生お慕い致します」
……姉妹達は全員こうなのか?
……あー駄目だ。腹減った……。
「……なあスティ」
「言わずとも分かっております。快適な睡眠をお求めなのでしょう?」
「いや違う」
「……命を持ってお詫び致します」
「やり過ぎだ。いやそれよりも、血……」
「……ああ、そう言えば、動けないのでしたね」
スティは俺の体を持ち上げ、その首に口を近付けてくれた。
スティは首筋の包帯を解き、首筋を露出させた。その首筋に俺は牙を突き立てた。溢れる血を俺は啜り、その甘美な味で渇望を満たしていた。
「御心のままに。我等の肉体は主の所有物なのですから」
スティの血は……何だろうか。レトやモシュネとは違うことは分かる。もっとさっぱりとした味わいだ。少し味が薄いと言う言い方も出来るが。
渇望が充分に満たされれば、俺は首筋から口を離した。
スティはそんな俺の体を抱き締めた。
「抱き締めるのは辞めて欲しい……まだ体中痛いんだ……」
「ああ、そうでしたか。それは申し訳御座いません」
何だかモシュネから最早言葉にもならない声を喉から発していた気がするが、まあそれはどうでも良い。
すると、フィリップが妙な挙動を始めた。
「どうしたフィリップ」
フラマがそう聞いた。
「……ああ、何人かの足音が聞こえてな。多分兵士だろ」
すると、テミスは剣を抜き始めた。
「テミス」
「何でしょうか」
「剣を抜かない」
「敵でもですか」
「敵じゃ無いからだ」
「……我々の使命には、貴方様を護る使命もあります」
「それでも来る奴等はきっと敵じゃ無い。威圧的にならないで欲しい」
「……分かりました」
そのまま、俺達は一旦兵士達に保護された。
とは言っても、絶対にテミスは兵士達が俺に触れさせない様に威嚇していた。だが、やはり顔は無表情だ。無表情で威嚇している……。
その後俺は、どう言う訳かベッドにまで運ばれた。何処かは分からない。つい先程まで、疲れからかスティの膝で眠っていたからだろう。
メルトスノウの俺の自室のベッドよりかも高品質なのが、温かさと柔らかさから分かる。
俺が寝ているベッドの横でサラが紙に筆を走らせていた。
「……お。起きたかナナシ。記憶はあるか?」
「……一応」
「それなら良かった。まだ疲れているだろうが、色々聞きたいことがある」
ふと、俺の隣を見た。
「お早う御座います我等が主よ」
スティの顔が眼前にあった。今にも唇が触れそうな距離で、俺の頬を撫でていた。
前髪だけ伸ばしてるのか……。
更に視線を下に向けると、スティの肌を隠していたはずの包帯が全て解かれていた。つまり、スティは俺の横で裸で寝ていると言うことだ。
「……なぁサラ」
「安心しろ。彼女はただ脱いだだけだ」
「本当か?」
「少なくとも、スティがナナシにそう言ってくれと頼まれたのは確かだ」
「……まあ良いか。それで、聞きたいことがあるんだろ?」
サラは筆を止め、話を始めた。
「まず一つ。どうやってテミスとスティの名前を思い出せたのか」
「……さあ? 見れば一瞬で思い出した」
「……そうか。二つ目、何かそれ以外に思い出したことはあるか?」
「……一応、何個か」
目覚めた時からの違和感。前の俺は持っていなかった記憶が混ざっているのに、俺はそれが当たり前のことだと認知していた。
その記憶を、俺は語った。
「まず、この姉妹達。七人いる」
「七人……それなら、残り三人か」
「ああ。俺の記憶が正しければ」
「名前は思い出せるか?」
「テミス、スティ、モシュネ、レト、セレネ、リュノ。顔は思い出せない」
「……一人抜けているぞ?」
「ん? いちにーさんしーごーろく……あれ、本当だ。最後の一人が……と言うか多分長女……駄目だ。思い出せない」
「……そうか。分かった」
……恐らく、俺が、夢で見たあの女性。それが最後の一人だ。
だが、あの女性は……何だろう。レト達とは違う。もっと……俺の心の深い場所に位置する誰か。あの笑みが、あの声が、俺のこころを安らがせる。
……彼女の名前だけが、思い出せない。一番大切な彼女の名前だけが、思い出せない。
彼女の顔だけが、俺の中で黄金に輝いている。黄金の輝きはずっと、俺の体に刻まれている。彼女のことを、思い出したいと願うのは、そんなにおかしな願いでは無いはずだ。
更に部屋をぐるりと見渡せば、テミスが剣先を床に付けながら、仁王立ちで壁際にいた。
「……テミス?」
すると、すぐに駆け寄って来た。
「どうされました最愛の人よ。殺害の命でしょうか」
「色々物騒だな……。……お前も、銀色の目を持ってるのか?」
「ええ。我等七人の聖母は、長女を除いて皆白い髪に銀色の瞳を持っています。その長女も、最愛の人の命ならば髪を白く染め瞳を銀色に輝かせるでしょう」
「見せてくれないか?」
テミスは僅かに不満そうに顔を顰めた。
「……姉妹でも無い方がいるので、それは避けたいのですが……いえ、分かりました。貴方様の命と言うならば」
テミスはその目隠しを外すと、やはり綺麗な銀色の瞳が俺を写していた。
テミスは表情を崩さずに、顔を僅かに紅潮させ視線を僅かに逸らした。
「……あの、そろそろ良いでしょうか……んぅ……」
「ああ、済まない。もう隠しても大丈夫だ」
すると、この部屋の中に誰かが勢い良く入って来た。最初こそレトかモシュネだと思っていたが、男性の愉快そうな声が響いた。
「やぁやぁナナシ君! 起きたかね!」
……誰だこいつ。
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
いいねや評価をお願いします……ペンギンの自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……




