其の十二 首都に眠る彼 二
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
……と言うか文句はペンギンに言って下さい。
死体に外傷が一切無いのだ。
自然死の可能性も勿論ある。だが、それならここに死体を放棄する理由が見当たらないのだ。
死体の放置は酷い悪臭を撒き散らし、感染症の可能性もある。しかもこの国の大臣の邸宅。スラム街や大飢饉が起こった訳でも無く伝染病が首都に蔓延しているはずも無い。
あらゆる状況が、サラの優秀な頭脳を混乱させた。
エイミーは中に入ると、あまりに慣れない光景を見て発狂した。
すぐにフィリップはエイミーの目を手で隠した。
だが、フラマはその死体を慣れた手付きで調べていた。
「死因は分かるか?」
フラマはサラにそう聞いた。
「取り敢えず外傷は無い。事故や殺害の可能性はまず無いだろうな」
「……それなら、何故ここで死んでいる?」
「……さあ? もしかしたらだが……その、テミスとスティと言う姉妹の所為では無いか?」
「あり得るが……それだと、生存者はいないかも知れないな」
六人は、一人を除いて特に心をざわつかせる訳でも無く邸宅を調べていた。
所狭しと、従事の人間だった物が蛆虫と死臭を発しながらそこにあること以外は、何も変わった所は無い。そのたった一つの変わった所だけが、エイミーの気分を悪くしていた。
最後には、エイミーはフィリップに背負われた。
たった一室だけ綺麗なままで残っている部屋で、一旦エイミーを休ませた。
「うっ……吐きそう……。……何で皆大丈夫なの……?」
「慣れてるからな」
フィリップはそう答えた。
「……うっ……ほんとに吐く……。何か袋無い……?」
フラマはその部屋にあった革袋を手渡した。
エイミーはその中に羞恥心も忘れ思い切り吐瀉物を吐き出した。ずっとメルトスノウ内で鉄を打ち、死に向き合うことも決して無かったエイミーにとって、この状況はあまりにも酷な物だった。
「……おえぇぇ……。……おぉぅ……あぁ……ふぅぅ……。……多分……もう大丈夫……いややっぱ無理……もっかい吐く」
エイミーはもう一度思い切り井の中から吐瀉物を吐き出した。
「……あぅ……うぇぇ……ひぐっ……」
涙目でエイミーはもう一度吐瀉物を吐き出した。
「……へあぁぅ。……多分、もう、大丈夫……うん。大丈夫……ちょっと気持ち悪い……」
六人はまた邸宅の中を歩き回った。
結局生存者は何処を見てもいなかった。謎は残り続けるだけだった。
どうにか一番奥まった場所の一番豪華な部屋に行けば、より多くの死体と、机の上に上体を置いて椅子に座っているより豪華な服装をしている死体が目立った。
「……服装から考えるに、ウィリアム大臣か。もう死んでいるな」
「……本当に……何が起こったのでしょうか……」
レトは何時も通り落ち着いた口調で呟いた。
「そう言えば、レト」
フィリップが話し掛けた。
「モシュネとかは、妙な魔法技術を使っていたが、そのテミスやスティにも何か使えるのか? レトやモシュネみたいに氷を出したり。もしかしたらこれがそう言う魔法技術かも知れねぇからな」
「……氷を出すのは……姉妹全員が使えます……。……ただ……皆……それぞれ……特異な力は持っていると…………記憶しています……」
「ほー。例えば」
「……モシュネなら……"記憶"……テミス様なら……"掟"……スティなら……えーと……ああ、"大河"でした……。そして私は……"妊娠"です……」
「……その、何と言うか……記憶、掟、大河は、まあまだ分かる。妊娠って……」
「正確には……子を……妊娠……出産する……役目……だったはずです……。……済みません……記憶が曖昧なので……これ以上は……分かりません……」
フィリップはそう言う物かと思う様に納得した。
だが、やはりフィリップとモシュネ以外の三人はそのレトの発言に疑問を持っていた。
フラマはこんな状況にも関わらず思考を始めた。
まず、モシュネの記憶。これはフィリップから聞いた。ナナシが記憶を一時的に取り戻した影響で発狂、その原因である記憶を一時的に取り戻した要因を作ったのがモシュネだと言う話で納得出来る。
だが、問題はレトだ。
……まあ、普通に考えればナナシとの子だろう。それに間違いは無いはずだ。普段からの態度から考えるに。
ただ、それが役目だとなればまた不思議な話だ。これまでの態度から考えるに、彼女達のナナシに対する接し方は「彼の想うがままに」だと思われる。つまり誰と子を作るかはナナシの想うがままに。
……いや、こうも考えられるか。記憶を失う前のナナシが、それを命じたのだとすれば、納得出来る。
ただ、そうだとするともう子供がいてもおかしく無いと思うのは私だけだろうか。
フラマはサラに耳打ちした。
「サラ、こんなことを聞くのもアレだが……」
「どうしたフラマ。レトには言い辛い話か?」
「ああ。彼女の身体の診察をした時、その……何だ。膜は……あったか?」
サラは一瞬だけ言い淀んだ。
「何故、そんなことを聞くのか、と言うのは後にした方が良いか。ああ、膜はあった。使われた形跡も無かったはずだ。きちんとした診察では無いから確かなことは言えないがな」
「……そうか。感謝する」
と、なると、まだその役目を全うするべき時では無いと言うことか。
彼等の謎は深まるばかりだ。一体何が目的なのかもはっきりと分からない。記憶喪失だから仕方の無いことなのは理解しているつもりだが。
……やはり私はレトにとって最悪なことを聞いたのでは……?
フラマの表情が僅かに青くなった。サラはそれを横目で見ながら嘲笑していた。
すると、モシュネがウィリアム大臣の死体を漁り始めた。
「ちょっとモシュネちゃん!? 流石に死体を漁るのは駄目だよ!!」
エイミーの静止の言葉を聞きもせずに、モシュネは死体の懐から小さな水晶を取り出した。
「これは何ですか?」
「え? えーと、魔法技術での連絡用の水晶だと思うけど……ああ、これでお父さんに連絡出来るかも」
「……成程。モシュネの知らないことはこの世界にはまだ多い様ですね」
エイミーはあまり意味の分からない行動を水晶に向けて行っていた。
「フンギャラミョンララアババババァ」
「何ですかその言葉」
「特に意味は無いよ」
「……ああ、そうですか」
呆れた様な声がモシュネから発せられた。
水晶は僅かに発行すると、エイミーはそれに話し掛けた。
「もーしもーし。聞こえるー?」
『ええ、聞こえますエイミー様』
水晶から女性の声が聞こえた。
「えーと……ちょっと色々びっくりすると思うけど、多分、ウィリアム大臣含めて、全滅してるかなぁ?」
エイミーはフラマに目配せをした。
フラマは一度だけ小さく頷くと、エイミーはまた水晶に声を出した。
「うん、多分全滅。これもウィリアム大臣の水晶だし」
『……分かりました。原因究明の為、一度お帰り下さい』
「どうするフラマ? こう言ってるけど」
フラマは僅かに思考する仕草を見せると、呟いた。
「いや、まずナナシを探す。帰るとしても見付けてからだ」
「だってさ」
水晶から小さなため息を吐いた音が聞こえたが、女性の声がもう一度聞こえた。
『分かりました。ですが、人は送るので』
そして連絡は終わった。
「さて、レト、モシュネ」
フラマがそう切り出した。
「ナナシの場所は分かるか?」
レトとモシュネの二人は同時に下を指差した。
「……地下か。何かを隠すならうってつけの場所だな。フィリップは先行。この中だと一番戦闘に向いている。サラとエイミーは休んでいてくれ。そして、レトとモシュネ。君達は、万が一の為同行して貰う。この惨状がテミスかスティと言う君達の姉妹の所為なら、説得の為に必要だ」
全員フラマの意見に納得した。
そして、フィリップが先行してナナシの捜索を始めた。とは言ってもその捜索はレトとモシュネの感覚が頼りではある。
だが、レトとモシュネはあくまで彼の方向を感じ取れるだけであり、そこに辿り着く道が分かる訳では無いのだ。
だからか、ナナシの捜索は難航した。
まず、フラマの予想通りこの邸宅に地下室等表向きは無かった。隠されていることは自明の理だが、それを見付けることこそが、困難だった。
一階を隈無く探し回り、最終的にはフィリップの勘に頼ることになった。
「……科学的ではねぇな」
「もうお前の勘だけが頼りだ。見付けられないからな」
「……あー……じゃあ、多分警備兵の部屋の床の下とか……」
四人は警備兵の待機所に足を運んだ。
鎧を着けている男性達が軒並み腐敗しており、鎧の中から死臭が立ち込めていた。
その鎧を踏み付けながら前に進んだ。
フラマは足元に違和感を持った。床材を指でとんとんと叩くと、その違和感を更に強めた。
「……フィリップ、どうやらその勘は合っている様だ」
「マジか……」
「ここを思い切り殴れ」
フラマは床を手で叩きながらそう言った。
フィリップは怪訝そうな顔ながらも、今までフラマの言う通りに動いて間違ったことは数える程しか無かったことを思い出し、思い切り床を殴った。
木材で出来た床は、簡単に崩れた。
木の板を交差させ、その上に床を貼っていた。その床が崩れれば、その更に下にある暗闇が見えた。
木の板を壊せば、丁度人が一人入れる程の大きさの穴になった。
その暗闇に入れば、真っ直ぐ前に続く土の壁に囲まれた通路が見えた。
もう消え掛けている蝋燭の心許無い灯りだけが頼りだった。その僅かな灯りを頼りに通路をずっとずっと前に進んだ。
そしてフィリップは、また死臭を感じ取った。
先行して行けば、一つの鉄製の扉が見えた。その前に、人が転がっていた。
正確には人だった物。最早ただの肉塊であり、腐敗を始めている腐肉であった。それが山の様に積み重ねられていた。
だが、邸宅の中にあった死体とは違い、此方の死体には確かに刃物で斬られ、突き刺された外傷の痕が残っていた。つまりこの死体の山は何者かに殺されたのだ。
フィリップはその他の全員を自分の後ろにいる様に伝え、自分は鉄製の扉を開こうとしていた。
この死体の山の原因は、何処からどう考えてもこの鉄製の扉の先にいるとフィリップでも理解出来ていた。自分が開けるしか無いのだと、決心もしていた。死ぬ覚悟の様な物も抱いていた。
フィリップは力強く鉄製の扉を開いた。見えたのは、白色。
瞬間、フィリップの胸に冷たい感触が走った。その冷たさは僅かに熱を帯び始め、痛みへと変わった。
すぐにフィリップは前方に向けて拳を振った。
だが、それは空気を殴る音だけを残しただけだった。
フィリップはその女性を見た。
レトやモシュネと同じ髪色。しかし目は布で隠していた。
レトやモシュネを最初に見付けた時とは違い、きちんと服と言える物を着用していた。だが、その服の下には同じ様に包帯が巻かれているのが見えた。
その女性は左手には糸で釣り合っている銀色の天秤ばかりを、右手には銀色の光沢が眩しい長剣を握っていた。それは、テミスだった。だがフィリップはそのことを知らない。
テミスの右手の銀色の長剣の切っ先が、フィリップの胸に刺さっていた。
幸い常人離れした筋肉密度のお陰で少ししか突き刺さらず、致命傷には至らなかった。
すると、テミスは左手の天秤ばかりを掲げた。すると、左の皿が下がった。
「"罰則""左腕失調"」
テミスはそう呟いた。
すると、フィリップの左腕が唐突に動かなくなった。いや、動かなくなっただけでは無い。まるで左腕が無くなったかの様に、何も感じないのだ。
先程まで感じていた冷たい空気も、左腕だけは感じなくなっていた。
テミスの天秤ばかりの左の皿はまた下がった。
「"罰則""下半身失調"」
左腕と全く同じ様に、フィリップの下半身は唐突に動かなくなった。力を入れることも出来ずに、その場で床に這い蹲った。
テミスはそんなフィリップに向け、剣を振り下ろそうとした。
その刃がフィリップを切り付けると思った瞬間、モシュネが叫んだ。
「テミス様!!」
その声に、テミスはぴたりと手を止めた。
目隠しをした状態でモシュネの方へ視線を動かした。
「……モシュネですか?」
「ええ、モシュネで御座います。剣を降ろして下さい。その男は、あの方の為にここまで来た我等の味方です」
「……モシュネの背後にいるのは誰ですか」
レトはモシュネの背から顔を覗かせた。
「……レト」
「……お久し振りです……テミス様……。……息災そうで……何よりです……」
「一つ聞きたいことがあります。貴方達は、彼と共に行動していたのですか?」
「その……はい……。……私があの人と同行し……モシュネが後から……と言う流れで……」
すると、テミスはずかずかと二人の前に足を進めると、剣を収める鞘で二人の頭を小突いた。
「何故貴方達がいてこの様な事態になっているのですか」
「「……申し訳御座いません……」」
「彼が一人で走り、スティの下に行ったことは知っています。しかし、貴方達が先に傍にいたはずなのに、何故彼が一人でいたのですか」
その口調からは怒りを感じた。
テミスは捲し立てる様に言葉を続けた。
「彼が一人で走ったとは思えせん。つまり、貴方達は彼から離れて長い時間行動していた、そうでしょう?」
「「……はい」」
「その理由は今は聞きません。しかし、この様な事態になった以上、貴方達にも責任があります。彼から離れ、挙げ句にはこの様な……心身共に疲れ果て今も一人で歩くことも出来ない程に傷付いてしまった責任を、負えますか」
「「それは勿論」」
「同じ目に会いますか? 罰則としてはそれが一番簡単でしょう。しかし、それは彼が望んでいないこと。まずは彼に、心からの謝罪を。罰則はその後で彼に考えて貰いましょう」
その説教に割り込む様に、フラマが声を出した。
「失礼、話に割り込んでしまって申し訳無い。ただ、彼女達がナナシから離れ行動する様に頼んだのは私だ。ナナシも頼んでいたが、まあそれはあの様になる前だ。よってその責任は私にある」
「ナナシ……あの方のことですか。その様な名で彼を呼ぶのは辞めて欲しい。穢れてしまう」
テミスはフラマを見下す様に、高圧的に言葉を続けた。
「まず、貴様には関係無い。貴様がその様にモシュネとレトに頼み込んだとしても、最終的にそれを決めるのは二人。それを了承したのは、他でも無く彼女達」
「だが――」
「だが? 何だ、無理矢理同行させたのか? いいや、貴様からは善意を感じる。今では最早珍しい、全人類に自分が思う最大限の恒久的な幸福を成就して欲しいと言う馬鹿正直な善意を感じる。そんな貴様が、無理矢理彼女達を彼から離れさせるとは思えない」
彼女の高圧的な態度に、フラマは言葉を喉の奥に引っ込めた。
テミスはその剣を鞘に収めた。
「それで、ここに来たのは彼を助ける為なのでしょう?」
先程までの高圧的な態度は消え失せ、丁寧な口調へと戻った。
「彼はこの先にいます。今もまだ、眠っているでしょうが」
その先に足を進めると、多量に撒き散らされた赤黒い液体が目に入った。
それは全て血液だ。その血液の主であったであろう人間の死体が扉の外よりも多く積まれており、その格好は何処か医者を思わせる。
数多の医療用の用具と死臭に混じり、彼がそこにいた。
より多くの血に塗れているベッドに寝ている彼がいた。その彼の上に豊満な胸を心配の余り押し付けている女性がいた。
それこそが、スティだった。
スティはレトとモシュネに気付くと、歓喜の声を挙げた。
「ああ、私の姉妹達よ。良くぞ、良くぞ我等が主の下へもう一度馳せ参じてくれました」
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
いいねや評価をお願いします……ペンギンの自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……




