其の十二 首都に眠る彼 一
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
……と言うか文句はペンギンに言って下さい。
彼は、バケモノだった。
彼は、バケモノだった。
彼は、この世界にいてはならなかった。
彼は、この世界にいてはならなかった。
そんな彼を、彼等彼女等は王国から奪おうとしていた。
それがどれだけの罪になるのかさえも、関係は無いのだろう。
特に、彼に心酔し彼に隷属を誓う彼女達にとっては。
レトとモシュネは同じベッドで一つの毛布に包まり眠っていた。互いに互いの手を握りながら、仲睦まじく眠っていた。
「こう見ると、本当に姉妹だねー」
エイミーがそんなことを呟いた。
この場所は首都近くの街。エイミーがある理由で所持している科学技術と魔法技術の相互作用を引き起こしている道具を使い、ここまで来たのだ。
他にもフラマ、フィリップ、サラが同行していた。
「……今更だが――」
フラマはサラに目線を向けた。
「何故、サラまで来たんだ」
「ナナシの解剖結果が――……そのー……。……まあ、首都なら新たな医療技術が開発されているだろうと思ってな」
「……ナナシの解剖に興味があるのか……」
「……そんなことは言ってない。ただ学術的な観点から解剖にも意味があるとは思うが」
「私も好奇心はあるが、人道的に駄目だ」
「分かっている。ああ勿論。存じている」
エイミーはそんな会話をしている二人に、若干の距離を置いていた。
「まーた物騒な話してる……」
今の世界は一つの王国として共同体を築いている。だが、結局貧富の差は生まれてしまう。
人類が繁栄する以上、それは仕方の無いことなのだろう。貧富の差が生まれてもそれが自然の摂理であり、弱者は徹底的に強者に搾取される。
搾取されない様に弱者は強者になろうとする。それが、その無意識的な行動こそが、人に唯一残った自然とも言える。
「それにしても、この道具も不思議だね」
エイミーは呑気そうに、一つの小さな箱を取り出した。
とても細やかに、そして美麗な装飾がされている掌程度の大きさの箱は、鍵が掛けられ開けることが今は出来ない。
「これに電気を貯めると一瞬でここまで来れる魔法が使えるんだから」
「雪が降る以前に作られた科学技術と魔法技術を高次元に両立させた物品だろう」
フラマはそう答えた。いや、そう答えるしか出来なかった。
フラマでさえも、未だに理解の外に存在する物品であり、技術だったからだ。
そして、朝を迎えた。
レトは見慣れたメルトスノウ内よりも多くの人が行き交う街の景色に目を回されていた。
だが、それよりも彼女は自らの御主人様を探し求めていた。まるで自分の子を探す母親の様に、探していた。
「……何処に……あぁ」
「焦らなくても、あの方なら大丈夫でしょう」
モシュネがレトを落ち着かせる様に言った。
「……それでも……。……あの人は……私達が思っている以上に……寂しがりですから…………」
「ええ。理解しております。しかし良く感じなさい。気配を、微かに感じます」
「そして……姉妹の気配も……」
「分かっていましたか」
フラマはその会話を耳に入れながら、思考を無意識的に行った。フラマは科学者であり、あらゆる情報から即座に思考に移るのが癖になっていたからだ。
レトがナナシの居場所を察知出来るのはもう分かっている。だが、メルトスノウでは感じずに首都に近付けば感じる……。
恐らく距離。あまりに遠過ぎると察知が困難になると考えて良さそうだ。それなら調査の時にナナシの動きが掴めなかったのも納得が出来る。
だが……姉妹の気配……。まだ彼女達には姉妹がいるのか。しかもそれがナナシの傍にいるのか?
それなら尚更何処でどうやって大臣はナナシを回収した……。……まるで、最初からナナシのいる場所の予想があった様な印象を受ける。
だが、それは、あり得ないはず……。仮にあの枯木が私の予想通りレトやモシュネ達の姉妹の道標になるのだとしたら、その枯木の場所を正確に把握し、しかも道標になると言う結論を導き出さなければ――。
「――最初から、知っていたのか? いや……だとすると……辻褄は合う……」
「どうしたフラマ。急に変なこと喋って」
「……ああ、済まないフィリップ。少し考え事をしていた」
……私の予想が正しいとすれば……この国自体がきな臭い。国家その物がきな臭く感じてしまうのは……考え過ぎだろうか。
少なからず、大臣は何かを知っている。そうで無くては辻褄が絶妙に合わない。
……一体大臣は何を隠している。
ナナシの正体か?
この雪の理由か?
ナナシの正体は考えられない。それなら調査、解剖の為にわざわざ回収する意味が無い。この回収に全く別の意味があるのなら話は別だが。
と、なると、一番有力なのはこの雪の理由か。それに関係しているからナナシを回収した……。
それも何故かは分からない。動機が不明だ。いや、情報不足と表現しよう。
そして、彼等はようやく首都へと辿り着いた。
首都は30m以上の高さが存在する灰色の外壁で円を作り、その外壁によって中の首都と外にある他の街と隔離されていた。
そこに入る為の唯一の門には大勢の人間が行き来していた。首都に出稼ぎに来た者や、一度だけでも景色を見たい者、ここにしか治せる設備が無い難病を患った息子の為に来た者、様々な思いを巡らせ人々は首都へ足を進めていた。
決してこの門は天国へ行く為の門では無い。そして地獄へ行く為の門でも無い。
人間であれば誰も拒まない門であり、そこにあるのは絶対的な権力が渦巻き圧倒的な正義を横行する素晴らしい人々が住まう人類の半永久的な繁栄の証なのだ。
希望も絶望も皆等しく万人に引き渡す。
その門を潜ると、目の前に水の様な波紋が広がる透明な壁が張られていた。
レトは恐る恐るその壁に触れると、そこから更に波紋が広がった。更に手を奥に触れる様に触ると、その透明な壁を通り抜けた。
その隣で、エイミーは躊躇いも無くその壁を通り抜けた。
「はーやーくー。簡単に抜けられるからー」
エイミーのその言葉を信じて、レトは目を瞑ってその透明な壁の向こう側に足を踏み入れた。
僅かに流動的に襲い掛かってくる冷たさに襲われたが、その感覚はすぐに消え去った。
目を開けば、先程まで降っていた白い雪が視界から消え失せていた。
全員その透明な壁の向こう側に足を踏み入れれば、黒い金属のマスクを外した。
「魔法技術で雪が降れたら溶かす様になってる壁が貼ってあるの」
エイミーが笑い掛けながら解説していた。
「半円形で首都を覆い被さってるんだけど、これを他の街で使える程のエネルギーが足りないらしいんだよね。だから首都だけ。まあ、何時かこれが他の街にでも使える様に研究している人もいっぱいいるみたいだし、将来的にはもしかしたらメルトスノウでも使える様になるかもね」
「……何故……そこまで詳しいのですか……?」
「あれ? 言ってなかったっけ。元々私はこの街で生まれ育ったからね。自分のやりたいことをやる為に頼み込んでメルトスノウに派遣されたけど」
その間にフィリップは大通りを行き交っている馬車に向けて手を挙げていた。
すると、一つの馬車はフィリップの前に止まった。
「六人だが大丈夫か?」
「ええ。何処まで?」
御者がそう聞いた。
「王宮まで頼んだ」
「じゃあ三万」
「いーや高過ぎる。二万三千だ」
「こっちも商売なんでね。出来たとしても二万九千」
「……仕方無い。エイミー?」
すると、エイミーはフィリップと御者の言い合いに割って入った。
エイミーは御者に懐から取り出したネックレスを見せた。そのネックレスには金色に輝いている二つの羽根が交差した飾りが目立っていた。
御者はそれをまじまじと見ると、焦った表情で頭を下げた。
「たいっへん申し訳御座いません! 二万で大丈夫です!」
態度を変えた御者にレトは更なる違和感を抱いたが、気にせずに馬車に乗り込んだ。
馬車で首都の中心に向かった。その間に、レトは人酔いを起こしていた。
モシュネの肩に頭を乗せて、目を瞑っていた。
「大丈夫ですかレト」
「……気持ち悪い……」
「眠っていても大丈夫ですよ」
「はい……」
レトはモシュネの肩に頭を乗せたまま、頭痛を抱えながら眠った。
数十分程馬車に揺らされていると、首都の中心に着いた。モシュネはレトを起こし、馬車から降りた。
そこにはより立派な建造物が聳え立っていた。
白い壁で構築されたその城は、首都の中で最も高く最も立派な建造物であり、ここに立ち入ることは限られた者しか許されないと一目で分かる威圧感を放っていた。
そこに、エイミーは全く怖気ずに足を進めた。
深く息を吸って、そして大声を出した。
「おーとーおーさーんー!!」
腹から出たその大声は、首都を包み込んだ。むしろ傍にいたエイミー以外の五人の鼓膜が破れかけた。
エイミーの声の残響が鳴って後は、僅かな静寂が空気を伸ばしていた。
やがて、城の内部から何かを静止する様な大袈裟な大声が聞こえた。その声が更に近付けば、その会話が聞こえた。
「止めろー!」
「陛下! まだ業務が残ってますよ!」
「力強ッ!」
「怪我人も出たぞー!」
「こいつもう変異体だろ!」
阿鼻叫喚地獄の悲鳴にも捉えられる叫び声が徐々に近付いて来た。
「相変わらずだなあの人は……」
サラがため息混じりに呟いた。
すると、レトの頭上の更に上に、人が飛んでいた。いや、より正確に表すなら、吹き飛ばされていた。
そのまま吹き飛ばされている人はまた一人、二人、更に増えていく。従者の様な格好の者や、騎士の様な格好の者も、続々と吹き飛ばされていた。
やがて人が吹き飛んでいる理由が分かった。王宮から出て来た一人の男性の歩みを止めようとしている人々を軒並み投げ飛ばしていたのだ。
その男性は何処と無くエイミーと顔立ちが似ていた。すると、その男性はエイミーを見付けると、すぐに満面の笑みを浮かべた。
「エイミー!! よーく帰って来たー!!」
その男性はエイミーに向かって抱き着こうと飛び込んで来たが、眼鏡を掛けた女性の平手打ちが男性の横顔に直撃した。
爆発音にも似た音が聞こえたと思えば、その男性の体はとても簡単に倒れた。
「陛下、警備の者も含めて軒並み人を投げ飛ばすのはお辞め下さい。……さて――」
その女性は眼鏡をクイッと人差し指で上げると、鋭い眼光でフラマを睨んだ。
「メルトスノウ司令官フラマ。エイミー様を連れて、一体何の用でしょうか。そして……そこの、見慣れない方々は。怪我でも負っているのですか?」
すると、倒れた男性がすぐに起き上がり、またエイミーを見詰めた。
「えーっと……久し振りお父さん」
「ああ! 本当に久し振りだなエイミーよ!」
彼の名前は"エルマー"。この王国の、国王である。
この雪が降るよりも前から生きている人物であり、数千人規模の集合地帯を作り上げ、人類の復興に最も貢献した英雄でもある。
御年二百歳以上とは思えない程若々しく、見た目だけなら中年の男性にしか見えなかった。
王宮の中に案内され、談話室に案内された。
「さてと、メルトスノウの者達がここまで来たと言うことは、余程切羽詰まった出来事が起こったと思うのだが」
シリルは僅かに偉そうに、しかし親身にフラマの話を聞く姿勢を取っていた。その後ろにシリルに向けて平手打ちをした眼鏡の女性が瀟洒に佇んでいた。
フラマは少しの思考を重ねた後に、重く口を開いた。
「まず、一つだけ。陛下は、彼女達のことを知っていますか」
フラマは目を動かし、レトとモシュネの方へシリルの視線を誘導させた。
シリルはレトとモシュネをじろじろと見ていたが、やがては不思議そうな顔で首を傾げた。
「いや、知らないな。珍しい髪色に瞳の色をしているが……」
「報告していたレトとモシュネです」
「ああ、そう言えばその様な記述があったな。と、なると、ナナシと名付けられた彼もいるのか?」
「そのナナシのことで首都にまで来たのです」
「それは……どう言う意味だ」
シリルは真摯に話を聞く前傾姿勢に変わった。
「単刀直入に言いましょう。ナナシの返還を、そして正式にメルトスノウへの派遣を頼みたいのです」
「……待ってくれ、重要な部分が抜け落ちている。ナナシの返還……とは、何があった」
「ウィリアム大臣がナナシを此方の承諾も得ずに研究調査及び解剖をすると一方的に申し出ました。返還を求めます」
「……此方にも、その様な申し出は一切確認されていない」
シリルは後ろの女性に目配せしたが、その女性は軽く首を振っていた。
「……だが、確かに、ウィリアム大臣がここ最近不審な動きをしていると言う印象はあった。だが……まさかメルトスノウよりも更に奥へ行っているとは……あそこはこの地球上で最後に雪が降った地域、一番雪が降る原因が色濃く残っている可能性があり、一番大勢の人々が亡くなった血に濡れた地域。わざわざそんな場所に……?」
「私達も詳しいことは分かりません。ナナシが錯乱しメルトスノウから行方を晦まし、その時にウィリアム大臣の従者がナナシを回収したのかと思いますが」
「……分かった。ウィリアム大臣に訴え掛けてみよう」
すると、シリルの後ろにいた女性が何時の間にか丸い水晶玉を両手に抱えていた。その水晶玉が僅かに発光すると、それに向けてシリルは声を出した。
「ウィリアム大臣。……ウィリアム大臣?」
何度呼び掛けても、その返答は一切返って来なかった。
そんな状況が数分続くと、水晶の発光は消えた。
「……どう言うことだ。保身にしか目に無いウィリアム大臣が私の連絡を無視するとは思えないが……」
酷評混じりにシリルはそう言ったが、異常をそれ以上に察知していた。
「何かおかしい。フラマ、これからウィリアム大臣の邸宅に向かうのか?」
「一応そのつもりですが」
「そうか。分かった。……何かしらの異常がウィリアム大臣の身に起こっていると思われる。その調査もついでにお願いしたいが……良いだろうか」
「……分かりました」
「それで……エイミーは何時帰ってくれるんだ」
「それは家庭の問題なので」
「エイミー! 帰ってくれー! お父さんは何時でも待ってるからなー!!」
そしてフラマ達は首都の南西に位置するウィリアム大臣の邸宅へ向かった。
先程の城よりかは小さいが、それでもその資産力を証明するには十分過ぎる程の広さと豪華さがそこにはあった。その建造物に、フィリップは圧巻されていた。
見惚れている間に、他の人達は遠慮も知らずに門を開けようとしていた。
「容赦無いなお前等!」
「……フィリップ、これを破壊しろ」
サラが命令口調でそう言った。
「流石に駄目だろ」
「こっちは陛下の命令でここに来たんだ。責任は全て陛下が負ってくれるさ」
「そりゃそうだが……。……あー分かった!」
フィリップは鉄の柵で遮られた門を、殴打だけで拉げさせた。
そして、何事も無かったかの様に六人はその邸宅へ入った。
広い庭には青々しい植物で彩られ、黄色い花が咲き誇っていた。水路に走っている水は庭の中心の噴水に繋がっていた。
視覚的に分かり易い雄大さと豪快さを表す噴水に見惚れることも無く、六人はぐんぐんと前に進んだ。
邸宅に入る両開きの扉の前で、レトとモシュネは足を止めた。
「……下……ですね」
「姉妹達が二人、傍にいる様ですね。あの方の身の安全は心配せずとも大丈夫そうです」
「しかし……誰でしょうか……。この純白な……気配は……」
「テミス様では?」
「ああ……言われてみれば……。……もう一人は……スティでしょうか……」
「何処で出会ったのでしょうか。まず、何故テミス様が? テミス様がいるなら……。……あれ……彼女の名前は……長女の名前が……。レト、覚えていますか?」
「……いえ……テミス様は覚えているのですが…………」
そのレトとモシュネの会話に、フラマは疑問を持った。すぐにその疑問を口に出した。
「テミスとスティと言う姉妹もいるのか?」
レトはその疑問に答えた。
「……ええ。……彼女達も私達と同じ……あの方に仕える者……。……テミス様は……姉妹の次女であり……スティは……私の姉です……」
「テミスだけ様を付けるのか」
「……確かに……おかしな話ですね……」
「……そうか」
すると、フィリップはその扉をまた無理矢理開けようと手摺を掴んだが、鍵が開いていることに気付いた。何か違和感を持ちながらも、フラマはその扉を開けた。
それと同時に、フラマは鼻を抓んだ。
その直後に漂って来るのは、生臭い匂いに混じれた死臭だった。フラマやフィリップやサラにとっては嗅ぎ慣れた匂いだったが、エイミーはすぐに邸宅から距離を取った。
サラは早足でその中に入った。
すぐに死臭の正体が分かった。
玄関の横に、誰かが凭れ掛かっていた。サラはその人の肩を掴んだが、もう助からないことを理解していた。
何故なら、もう死んでいたからだ。
その皮膚は赤黒く変色して、蛆虫が肉から湧き出していた。眼球さえも水分を失い干乾びており、所々に白い骨が見える。
肉は蛆虫によって食い荒らされ、腐食が進んでいる所為で酷い匂いが立ち込めていた。
だが、あり得ないことが一つ。
「……外傷が見当たらない」
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
いいねや評価をお願いします……ペンギンの自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……




