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ホロビタセカイデバケモノノタビ  作者: ウラエヴスト=ナルギウ(のペンギン)
17/51

其の十一 悲嘆

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


……と言うか文句はペンギンに言って下さい。

 フラマとレトは、フィリップとモシュネよりも先にメルトスノウへ帰っていた。


 だが、フラマは一瞬で違和感を察知していた。


 すぐに司令室へ趣き、そこに待機していたサラの表情でその違和感を更に強めた。


「……何があった」

「少し……驚くことだと思うが……。……ナナシがメルトスノウから飛び出した。すぐに捜索隊を出そうと思っていたが、ここ数週間メルトスノウの周辺の雪が強まりそれも難しい。まず変異体に対処出来る人員が全て調査に赴いたからな」

「ナナシが……。何故だ」

「医者としての意見だが、記憶の錯乱による混乱……だと、思いたい」

「……そうか」


 フラマはレトの方を見た。


 何時も通りの無表情を浮かべていたが、レトの心情は荒い物だった。


 何せ最愛である彼が、行方不明になってしまったのだ。


 自分が傍にいれば、止められたのでは無いのかと言う、見当外れの後悔でぐるぐると掻き乱されていた。


「……良いから、今日は休め。調査から帰って疲れただろう。ナナシのことは……心配かも知れないが」


 レトは、サラの声に答えることが出来なかった。


 ただ困惑と絶望に近い感情を混じらせながら、そこで眠っていたはずの男性のベッドの上に飛び込んだ。


 僅かに残っている男性の匂いを感じながら、レトは僅かに涙を滲ませた。


 感情は徐々に錯乱し、表立って感情を出さないレトだが、今回ばかりは唇を噛み締めながら泣いていた。


「……何故……あの人の場所が……分からないのでしょうか……。……何時もは……鮮明に……分かるはず……。何で……嫌だ……。愛が……愛が足りないのですか……」


 どれだけ願っても、その愛が届くことは無かった。


 やがてその感情に落ち着きが見えた頃。レトは目を瞑った。


 彼の温もりを記憶の中から掬い上げると、レトはまた一粒の涙を流した。


 やがてレトは、意識を手放した。


 その睡魔の夢の中で、彼女は金色の光を見詰めていた。


 その金色の光に包まれながら、自分の中に散らばっている破片が集まり、微かながらに記憶を復元していた。


 そして、僅かに思い出した心象風景は、桜色。


 とても綺麗な桜色。とても美麗な桜色。それに、懐かしさを覚えていた。


 それが、不思議で不思議で堪らなかった。


 桜色に染まり、桜の花弁で彩られた砂利道をレトは歩いていた。


 夢の中だとも分からずに、何をするでも無く、歩いていた。


 真っ直ぐ真っ直ぐ続く桜の道を、歩いていた。


 そしてレトは、一つの大きな桜の前に足を止めた。


 そこには、女性が座っていた。


「……()()

「……あれ? 何でここに? ああ、そっか。また厄介な物に絡まれたねぇ」


 それは、レトと同じ白い髪に銀色の瞳を持つ女性だった。


「大丈夫。もうそっちにテミスを行かせたから。それにスティもいるはず。後は流れに身を任せれば、自ずとまた巡り会える」

「……それは……本当ですか?」

「うん。■■■君は、流れの先に何時もいるから」

「……分かりました……姉様……」

「うん。それじゃあバイバイ」


 その女性はレトの額に唇を重ねた。それと同時に、レトは意識を手放した。


 目覚めれば、久方振りに見た天井だった。


 そして何より、首筋が寂しかった。


 何時も傍に感じる温かさと愛情が首筋には無かった。無いものを理解すれば、寂しさを感じる物なのだ。とても人間臭い感情を、レトは持っていた。


 そのまま、不安感に蝕まれながら、彼女はメルトスノウをふらふらと歩き回っていた。


 そんな中、フラマはナナシの居場所を頭脳で導き出そうとしていた。


 そんなフラマにサラはカルテを持ちながら話し掛けた。


「苦労を増やす様で済まないが、ナナシによって発生した被害状況を報告しないとな。死亡者は辛うじて出ていないが、重症者がおよそ七名。軽症者が十二名。備品の一部も破壊されたが、微々たる物だ。修理も即座に済ませてある。まあ、それよりも、出入り口が破壊されたことで雪が入った時のパニックでの怪我人の方が多い。変異した人物はいないがな」

「……そうか。……はぁ……」

「珍しいな。あたしの前でため息なんて」

「出したくもなる。いや、むしろ楽しいな」


 フラマは僅かに口角を歪ませながらそう呟いた。


「ああ、そうだ。むしろ楽しくも感じる。この世界の謎が、ついそこまで、少なくとも昨日よりも確かに近付いていることが分かる。科学者としてどれだけ楽しいのか分かるか? この雪を溶かせば、私の目的も達成出来るはずなんだ……ようやく……悲願を。それが、近付いて来ている。いや、私達が向かっている」


 そしてフラマは地図を広げ、自らの頭脳を極限まで酷使していた。


「……まず、動機が知りたい。此方としては錯乱していたと言っても外に出るまでの行動力が出るとは思えない。その場で発狂や異常行動が多いだろう。実際あの時はそうだった」

「あれに動機があるとは思えないがな。明らかに自我を失っていた」

「混濁した記憶の中で目的を見付けた場合は?」

「……どう言う意味だ」


 サラが怪訝そうな顔で聞いた。


「ナナシには何かの使命がある。それはレト等の発言から良く分かる」

「だがモシュネは使命は果たされたと言っていたぞ」

「その記憶だけ都合良く見えなかったと仮定しよう。錯乱していたのなら、納得出来る」

「なら、使命とは何だ。それが分からなければ何処に行ったか分からないぞ」


 フラマはペンを回しながら答えた。


「予想出来る範囲で思見る」


 二人はソファーに深く腰を下ろしながら話を続けた。


「まず、雪を溶かすことでは無い」

「その力があるならあり得そうだが?」

「いや、あり得ない。それが使命なら果たされたと言う言葉の意味が分からない。私が予想するに、使命とは、レト達の存在だ」

「……どう言う意味だ」

「レトは使命が果たされたことを知らなかった。だが、モシュネは果たされたことを知っていた。もし、モシュネがレトの存在を知ったからこそ、使命が果たされたと無意識の内に判断すれば?」


 サラは困惑の表情を浮かべていたが、その奥にある種の信頼があった。


「もしもの話だ。使命が、レトやモシュネの様な姉妹とナナシの合流だとすれば」

「なら使命が果たされたと言う言葉にも不自然さが出てしまうが」

「モシュネの主観で果たされたと認識するなら自然だ。そして、他の姉妹の生存さえも不明だった場合、レトが、モシュネが、生きていることが分かれば使命は果たされたも当然。そしてその姉妹達にとっての道標の役割も兼ねているのが――」

「あの枯木か」

「あくまで私の予想だがな」

「……モシュネがいた場所は除外するとすれば、向かった先は二つ目か」

「予想が正しいとすれば……だが」

「時間は掛かるな。再度物資を整えるのには時間が掛かる。まずそこにいなければ……もうどうしようも出来ない」

「……まず、フィリップとモシュネの帰りを待とう。捜索はその後にしよう」


 すると、この司令室にエイミーが息を切らして入って来た。


「フラマー! フーラーマー!」

「何だエイミー」

「大臣! 大臣来た!」


 フラマは目を見開いた。


 すると、そのエイミーの体を突き飛ばし、ずかずかと司令室に入って来る男性がいた。


 誰よりも豪盛で上質な服で身形だけを整え、自らが特権階級であると名乗る様に身の丈に合わない宝石で飾っていた。


「ふむ……相変わらず薄汚れている場所だな。おお、フラマ殿。こうやって面と向かって出会うのは初めてかも知れぬな」

「……これはこれは、ウィリアム大臣。こんな所まで良く……」

「あぁ、本来は私が来なくても良いと思っていたのだがな。まあ仕方無い。此度は伝えたいことがあってここまで来たのだ」

「……何でしょうか」


 フラマは嫌悪の感情を押し潰しながら話を続けた。


「いや何。そちらにいた……何だったか。ナナシだったか? まあ良い。今現在そいつは此方で保護し、研究及び解剖をすることが決定した。きちんと此方から司令官殿に伝えなければならないと思ってな」

「……何だと?」


 フラマはその大臣を睨み付けた。


「口の聞き方には気を付けた方が良いぞフラマ殿」

「前にメルトスノウ内でナナシの調査を進めると言う申し出を出し、それが了承されたはずですが」

「メルトスノウはあくまで我等の資金援助があって成り立った物だと言うことを忘れたのか? 大抵のことは自由にしてくれて構わんが、確かにこの雪と関係のある彼、いや、人間の様に扱うことさえも烏滸がましい化け物を研究するのは此方でやること位、快く了承してはくれないか。それに、彼の体は素晴らしい。あの技術を応用すれば、国民はより豊かになるとは思わないか? 政治的にも意味があるのだよ」


 大臣は鼻を鳴らしながらフラマを睨み返していた。


「聞きたいことは無いか?」

「……聞きたいことは、特にありません。ただ、一言だけ。彼は、人間です」

「ふむ。そうか。雪を吸い過ぎた様だなフラマ殿」


 そのまま大臣は去っていった。


「……さて、奇しくもナナシの居場所が分かったが……」


 フラマはそう言ってサラに目線を向けた。


「あまりにも唐突過ぎる。細かい動機も不明。一体何時捕獲したのかも……フラマ、それを聞けば良かったんじゃ無いか?」

「そうだったな。……それにしても、あまりにも横暴だ。何かあるのか?」

「今は分からないが……どうする。相手はお偉いさんだ。迂闊に反発すればメルトスノウ自体の存続が危ぶまれる」

「……一旦異議を申し立てるとしよう。それだけで存続が危ぶまれるとは思えない」

「まあ、恐らく警告文が送られるだけだろうな。必ず断られる。どうするつもりだ?」

「……直談判しか無いだろうな」

「……首都へ向かうのか?」

「ああ」


 フラマは僅かに顔を顰めながら低い声でその言葉を発した。


 サラはそれに、悪い笑顔を向けていた。


「お前のその行動力は大分酔狂だな。一人の人間を助ける為だけに首都に行くとは」

「そうか?」

「あたしから見ればそうさ。……ああ、ナナシのことをレトに言わなくて良いのか?」

「忘れていた……。……いや、私は出来る限り調べておこう。サラが行ってくれ」


 レトは外でたった一人、穴釣りをしていた。


 ただひたすらに心を落ち着かせる為に、ただひたすらに辛いことを忘れる様に、彼女はのんびりとすることも出来ずに焦燥を抱き続けていただけだった。


 ある程度釣り、何時もよりも窶れた顔でメルトスノウへ戻っていた。


 メルトスノウに戻り、何時も通りナナシと呼ばれる男性の部屋に体を投げ落とした。


 前の調査では帰れば御主人様がいると前向きに頑張ることが出来た。だが、今はその御主人様がいないのだ。心まで疲弊してしまって、彼女は疲れ切っていた。


 何をやってもやる気が出ずに、何時もより何倍も疲れが溜まってしまう。


 小さなため息を吐き、レトはもう一度柔らかい感触に体を包み込んだ。


 すると、その部屋にサラが入って来た。


「やあレト。……もう疲れたのか?」

「……いえ……。……あの人が……傍にいないだけで……あぁぁ……」

「そうか。そう言えば、ナナシのことはあの人と表現するんだな。名前では無く」

「……何か……違和感を持つのです……。……あの人を『ナナシ』と呼ぶのが……」

「成程。ああ、こんな雑談をしに来た訳では無かった。朗報だ。ナナシの居場所が分かった」


 その言葉を聞くと、レトは力が抜けた体を勢い良く起き上がらせ、縋る様にサラの手を掴んだ。


「そ、それは……! 何処に……!」

「落ち着け。あくまで居場所が分かっただけだ。状況は面倒臭い方向に向かっている」

「……分かり……ました……。……ですが……あぁ……良かった…………本当に……あぁ……」


 レトは俯きながら、震える唇で息を吐いていた。


「あぁ……どれだけ嬉しい……ことなのでしょう……どれだけ……喜ばしいことなのでしょう…………あの人が生きていると……聞いただけで……胸の高揚が……あぁ…………!」


 レトはたった一粒の涙を落とした。


 歓喜の感情を体の中に抑え込むことがレトの体では出来なかった。


 彼女が求めるのは御主人様から賜る愛でも無く、御主人様の存在その物だからだ。


「……それで、あの人は……何処に……」

「……首都だ。恐らくではあるがな」

「首都……ああ、前に言っていた王国の……」

「その首都だ。今や人類は一つの共同体で無ければ生きていけないからな。一つの王国で存続出来ている状態だ」

「何故……あの人がそんな所に……」

「分からない。だからこそ返却を求める様に直談判をしに行く予定だ」

「……あの人を……物の様に言うのは……お辞め下さい……」

「ん、ああ、済まない。何せ語彙力が無くてな。それに高圧的な態度をついやってしまう癖がある所為でもある。嫌な思いをしたなら済まない」


 そして時間は過ぎ去り、四日後。


 メルトスノウに、フィリップともシュネが帰って来た。


 早速二人は司令室に呼び出された。


「……疲れたんだが。色々こんがらがって頭も使って、疲れたんだが」


 呼び出したフラマに対して、フィリップは文句を垂らしていた。


「そればかりは済まない。少し問題があってな」


 すると、モシュネも文句を垂らし始めた。


「早くあの方に会いたいのですが、それを遮る程の価値があるのですよね?」

「ああ、ある。何故ならそのナナシに関係する話だ」

「……どう言う意味ですか」

「ナナシが行方不明になった」


 淡々と説明するフラマに、フィリップは驚きを隠せなかった。だが、一番感情を体現させたのは、モシュネだった。


 顔の表情を一切変えないまま、眼の前にいるフラマに向けて殴りかかろうと腕を振り上げた。


 その行動をフィリップに力尽くで止められ無ければ、フラマは無抵抗のままモシュネに拳を叩き込まれていただろう。


「何故だ! 答えろ貴様!! モシュネが何故あの方の傍におらずこの男に着いて行ったと思っている!! ここなら我々がおらずともあの方が安全に、それでいて安心して過ごせるはずだと理解していたからだ!! それなのに、それなのに……。……何故……貴様がそんな顔でいられる……!」


 モシュネの感情の起伏は声で良く分かる。だが、それに比べてフラマは一切の感情の起伏を感じさせなかった。


「ナナシが行方不明になった理由は未だに分からない。だが、どうやら首都にいるらしい」


 それにいち早く反応したのがフィリップだった。


「何でそんな所まで!?」

「そして、何故かウィリアム大臣まで介入を始めた」

「はぁ!? 不介入条約があるだろ!? それに何だって大臣がナナシを――」

「……何が起こっているのかは未だに分からない。私達は五日前にメルトスノウに帰還、そしてナナシがメルトスノウ内から飛び出したことを聞いた。その次の日にナナシがウィリアム大臣に引き取られたことを知った。そしてこの四日間、色々調べてみたが、どうにもきな臭い」

「当たり前だ! 大臣が不介入条約を破ってまでナナシに干渉する理由が見当たらない」

「……いや……不介入条約は破られていない」

「それは……つまりどう言うことだ」


 フィリップは当たり前の様に疑問を発した。


「不介入条約は、政治的な意味を持たないメルトスノウに、政治的に国家が介入することを禁止すると言う物だ。この介入の定義だが、簡単に言ってしまえば『メルトスノウに派遣された、もしくはそこで生まれた人物を政治的に利用すること』だ。今回の大臣の介入は、その定義に抵触しない」

「何でだ」

「メルトスノウは政治的な意味を持たない。それはつまり雪を溶かすと言う目的は、政治的な意味を持たないとも言える。政治的な意味を持たない目的の為にメルトスノウにいる人を政治目的で無ければ介入しても良いと、言った方がお前には分かり易いか」

「あぁ!? と言うかそれも横暴だろ!」

「ああそうだ。だからきな臭い。まずこんな前例を作ってしまえば国王が即座に対策に講じる。だが、今の所は反応が無い。ただ……ナナシに対しての解釈によっては、政治的に利用することも可能だからかも知れない」

「何でだ。あいつもメルトスノウの人員だろ」

「『メルトスノウに派遣された、もしくはそこで生まれた人物を政治的に利用すること』を禁止している。だが、ナナシは国からメルトスノウに派遣された訳でも無く、メルトスノウで生まれた訳でも無い。言わば国家の判断としては、ナナシは出自不明の一般人。不介入条約に関しては、我々が思う様な限り無く黒に近い灰色では無く、汚れも一切無い白と言う判断かも知れない」

「……俺達がいない間に色々あったんだな」

「ああ。本当に」

「……良し」


 フィリップは何か決意めいた顔立ちをした。


「フラマ! 行くぞ!」

「何処にだ」

「首都だよ首都! ナナシ取り返すぞ!」

「待て」

「あぁ!? こっちは反逆者になってでもナナシを助けに行くぞ!?」

「お前がいなくなれば辛いのはこっちだ。正攻法でナナシを取り返す」

「……それは、つまり」

「直談判だ。国から直接ナナシをメルトスノウに派遣させる様に申し立てる。こうすれば今後二度とナナシに干渉は不可能になるはずだ」

「おぉ! 確かにそれなら何とかなりそうだ!」

「それをより円滑に進める為に、エイミーも同行させる」


 その発言に、フィリップはまた分かり易い驚愕の表情に変えた。


「……お前、本気だな。使える物は全部使う気か」

「ああ、勿論。全て余すこと無く、全部」


 フラマは僅かに息を吸うと、力強く言葉を吐き出した。


「全ては私の目的の為に」

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


いいねや評価をお願いします……ペンギンの自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

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