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ホロビタセカイデバケモノノタビ  作者: ウラエヴスト=ナルギウ(のペンギン)
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其の十 大河

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


……と言うか文句はペンギンに言って下さい。

 サラはナナシと呼ばれる男性の容態を確認しに来た。


 彼は、僅かな息と鼓動を繰り返しているだけだった。


「……生きている様だな。……さて、血を飲ませても回復の兆しは無し。やはり精神的な物か……」


 ナナシと呼ばれる男性の頬をペンで突いていた。そのままぺしぺしとペンで頬を叩き始めた。


「無理矢理起こせば目覚めるのか? あまりそれはしたく無いが……最終手段として考えておくか。……さて、フラマ達が出発してもう一ヶ月か」


 サラはカルテに筆を走らせると、そのままその部屋を後にした。


 その直後のことだった。ナナシと呼ばれる男性は僅かに瞼を上げた。


 その瞳には、何も映さなかった。その金色の彼の瞳には、銀色の彼女を映さなかった。決して、何も、映さなかった。


 彼は何も抱いていなかった。彼は何も持っていなかった。彼は何も覚えていなかった。


 彼はまるで赤子の様だった。何も分からないまま、世界に放り出されてしまい、心から愛する女性の手助けで歩き始める。


 彼は怯えていた。母親の心が分かって恐ろしかったのだ。彼は怯えていた。彼は狂って踊り狂うしか無かった。


 彼は、目を大きく見開いた。そのまま何か決意めいた表情に変わった。


 その表情は、一瞬で絶望の表情に変わった。


 そして、彼は起き上がった。


 突然、サラの耳に爆音が響き渡った。いや、サラの耳だけでは無い。メルトスノウの中に、隈無く、響き渡った。


 それは、ナナシと呼ばれる男性が走り、目の前の物を全て破壊していたからだった。


 そのまま静止も振り切り、彼は外へ飛び出した。


 彼は雪が降る世界へ飛び出した。


 彼は雪が降る世界へ一人で飛び出した。


 彼は冷たい雪が降る世界へ一人で飛び出した。


 彼は恐ろしくも冷たい雪が降る世界へ一人で飛び出した。


 彼は恐ろしくも冷たい雪が降る白い世界へ一人で飛び出した。


 彼は恐ろしくも冷たい雪が降る白い銀色の世界へ一人で飛び出した。


「……アァァ……ハハオヤノココロ…………ヲシラナイ……タイジハ……オドルコトヲ……ヤメタ……。チチオヤノ……ココロヲシラナイ…………タイジハネムル……コトヲヤメタ…………。ムク……キンイロ……ムクギンイロ……ヒトミニ……モツアカゴハ…………」


 彼はゆっくりと、そして抑揚も全く出鱈目な言葉を発していた。その様子から、この言葉は誰かに伝える為では無く、頭に浮かんだ言葉を赤子の様に拙い舌で発しているだけだと分かる。


「……シロト……クロヲ……ハヤシテイタ…………」


 彼は日が落ちても、白銀の世界に足跡を付けていた。


 雪は強まり、彼は人外じみた速度で走っていた。だが、その体は徐々に凍り付き、冷気が内部に侵食していた。やがて彼の指先は変色を始めた。


 それでも彼は、走り続けた。


 やがて彼は弱々しく倒れた。それでも彼は、這って進み続けた。


 日がもう一度落ちて、天高く昇ると、彼は目を覚ました。僅かな温かみが、彼をもう一度動かした。


 すると、一体の変異体が彼を見付けた。何も考えずに獣は彼に目掛けて鉤爪の様に変形した手を振り下ろした。


 その鉤爪は、彼の右の肩に深く食い込んだ。


 だが、彼はその変異体の腹部に拳を叩き付けた。その衝撃は肉を凹ませ骨を砕いた。


 そのまま彼は獣の様に変異体を地面に叩き付けると、その変異体の肌を掻き毟った。肌が破れ血が滲み肉が露出した。


 彼は自分の手にべったりと付着した血液を舐め取った。すると、その凍傷は治っていった。体力さえも元に戻ったのか、彼は獣の様に変異体の体にその殺傷性を象徴する牙を突き立てた。


 肉を齧り、そこにある血さえも全て啜り尽くし、彼は欲求を満たしていた。渇望は止まず、血を求め、彼はまた肉に齧り付いた。


 やがてその腹部から腸に齧り付き、引き摺り出した。


 渇望を満たすと、彼はまた走り出した。


 走って、走って、走り続けた。


 彼は、倒れ、泣き、絶望し、啜り、喰らい、狂い、目指し、見た。


 一体どれだけの時間が過ぎ去ったのだろうか。それさえも、彼の中には無かった。


 彼の靴は擦り減っており、彼は裸足だった。その足裏にはコンクリート片が突き刺さり傷を負っていた。


 服は血に塗れ生臭く、手の爪先には肉と血が詰まっており、その口からは渇望に苛まれている所為か、涎が垂れていた。


 目の下には隈が出来ており、その眼球にあるはずの水分は冷気によって凍り付いていた。


 数多の傷から血を流し、その出来の良い頭脳は全く回っておらず、何をしているのかさえも分からず、何をしたいのかも分からず、彼はただ人間とは思えない速度で走り続けるだけ。


 やがて彼は、一つの焼け爛れた枯木の前で倒れてしまった。


 そこは、見付けた順で言えば二つ目の枯木の場所だった。未だに金色に、それでいて銀色に輝いている。


 その枯木には、一本の細く心許無い枝の先に、実が付いていた。銀色の皮を持っている無花果の様な果実だった。


 その果実に、誰かが手を伸ばした。


 それは女性だった。真っ白い髪を持ち、その前髪を長く伸ばしていた。


 前髪は女性の口元で二又に別れ、胸元にまで伸びており、それとは別に後ろ髪は短く切られていた。


 偶に見えるその女性の瞳は銀色に輝いており、その身体的特徴はレトとモシュネと同じであった。いや、その容姿さえも、とても似通っていた。


 違いがあるとすれば、胸部はモシュネより僅かに大きく、臀部がレトより小さかった。


 そして、やはり包帯で体を隠しているだけで、服と言う役割はその包帯に全て丸投げしている。


 その女性は銀色の皮を持つ無花果の様な果実を手に取り、その実を齧った。


 溢れ出る赤い果汁さえも啜り尽くし、綺麗に食べ尽くした。


 そしてその女性は、倒れている男性を見付けた。その一瞬で口元は強張り、男性の頭を抱え上げ、見詰めた。


 その銀色の瞳は、僅かに潤んでいた。


「ああ……ようやく……最愛の人よ。そして、従うべき(しゅ)よ」


 男性はその女性の顔を見詰めているだけだった。だが、彼の中には渇望で満たされていた。


 彼は女性の肩を掴み、その首筋に牙を突き立てようと動いていた。


「ああ、少々お待ち下さい我等が主よ。今、(わたくし)の肌を。そこにその鋭利な牙をお突き立て下さい」


 その女性は首筋から包帯を解き、肌を露出させた。


 その肌に、彼は噛み付いた。


 溢れ出す血を、彼は啜っていた。溢れ出す血に、彼女は歓喜していた。


「御心のままに。我等の肉体は主の所有物なのですから」


 その言葉は、彼には届いていない。血を啜り、傷を治し、渇望を満たせば、彼は目を瞑った。


 意識が戻ってから、決して閉じることは無かった目を落とした。そのままその女性に凭れ掛かる様に倒れると、僅かな寝息を立てながら眠り始めた。


 その女性は、彼の頭を自身の膝に置いた。


 雪が降るこの世界で、女性は彼を愛していた。


 女性は安らかに眠っている男性の胸元に、とても綺麗な水仙の花を供えた。


 その水仙の花は一体何処で摘んできたのかは分からない。


 すると、その女性は左手で男性の顔に触れ、右手を天に向けた。すると、その右手に雪が降るこの地でも燃え続ける火が灯っている松明が現れた。


 その松明を使い、自身の周りの雪を溶かしていた。ある程度溶かすと、男性の横に突き立て、体を温めていた。


 だが、その松明の火は雪で簡単に消されてしまった。女性はもう一度出そうと右手を天に向けたが、あの時の様に松明が現れることは無かった。


「ああ、私の子供の火が消えてしまった。私の子供の水仙の花も時期に枯れてしまう。ああ……」


 その女性の唇は震えていた。


 すると、雪がいきなり降り止んだ。それと同時に、白色の羽根が辺りを包んだ。


 ひらひらと、雪の様に舞い落ちる白い羽根は、やがて男性に降り積もった。


 その一瞬、男性の傍には二つの白く淡い光を発している何かがあった。


 その何かは人の形を、より言うのなら女性の形をしていた。だが、肌ものっぺりとした白色で、顔も髪も全てがのっぺりとした白色だった。唯一つ、目に当たる部分だけが銀色に輝いていた。


 一体の何かは、その男性と唇に当たる部分を合わせた。唇を離し、その顔を眺める様に銀色の光を向けていた。まるで愛撫する様に男性の頬を、その手に当たる部分で触れると、男性の顔は次第に穏やかな物に変わっていった。


 まるで男性にとって最愛の人に慰められているかの様だった。


 そして白い何かは、男性の前髪を僅かに整える様に指に当たる部分を動かしていた。


 そして、もう一体の背が高い何かは、その様子をじっと眺めているだけだった。


 一体の白い何かは、もう一体の背が高い何かと顔を合わせている様な素振りを見せた。背の高い何かはもう一体の白い何かに一礼した。


 一体の白い何かはもう一度男性の顔を眺める様に銀色の光を向けていると、その手から葉の間から花茎を長く伸ばし、円錐状の花序に小さな花を多数付けている金色に輝く鼠茅を男性の胸元に供えた。


 それに、意味はあるのだろうか。それを知っているのはきっと、この白い何かと、記憶を失う前のナナシだけなのだろう。


 そして、一体の白い何かはその場から白い羽根だけを残し、白い霧の様に風に吹かれ、霧散し、消えてしまった。


 もう一体の背が高い何かは、より強く光を発した。その光に包まれ、やがて収まったかと思うと、そこには女性が立っていた。


 白色の長い髪、目は布で隠されていた。


 左手には糸で釣り合っている銀色の天秤ばかりを、右手には銀色の光沢が眩しい長剣を握っていた。


 だが、レトやモシュネとは違い、きちんとした服を着ていた。


 その女性はゆっくりと、そして確かに言葉を発した。


「使命は果たされました。運命は、終わりを迎えました」


 その言葉を聞くと、男性の頭を膝に乗せている女性は手で口元を隠し、一粒の涙を流した。


「ああ……! ようやく……!」


 背の高い女性は確かにそう言った。だが、その本人が、使命を、そして終わりを迎えた運命の正体を知らなかった。


 この背の高い女性も同じだ。レトやモシュネ、そして男性の頭を膝に乗せている女性と同じ、記憶を失っているのだ。


 ただ男性を従属し、服従し、隷属し、慕い、愛する。これだけしか、理解していなかった。理解することを許されなかった。


 背の高い女性は、その場に座り込み、目隠しを外した。そこから見える輝きは、やはり銀色だった。


 そして、天秤ばかりを地面に置き、左手で男性の手を握った。


「……もう、離れません。ええ、決して」

「"()()()"様。それは、我々も同じ気持ちです」

「……有り難う。"()()()"」


 二人の女性は一人の男性を愛していた。数多の女性は一人の男性を愛していた。


 理由等、無くても良いのだ。彼女達が彼を愛することに理由が無ければならないこと等あってはならない。それは彼女達に対する冒涜である。


 愛が愛である理由等、愛だけで充分なのだ。


「ああ、なんて愛おしいのでしょうか。主は、こんなにも暖かい。この温かさを守る為なら、河の誓言を背いたとしても主だけは、不問に付してしまうでしょう。」

「不変なる掟がこの方を縛ったとしても、私はそれを変えてしまうでしょう。私は、この方を見ていたい。この見掛けの姿さえも、私は愛している」


 すると、スティと呼ばれた女性は男性から目を離した。その視界の先には、大荷物を抱えている複数の人間が此方に向けて歩みを進めていた。


 黒い金属のマスクを付けているその人間達は、その場で荷物を置いた。


 そして、一人の男性がスティの膝で眠っている男性に触れようと手を伸ばしていた。


 その瞬間、雪が赤色に染まった。同時にその男性の悲鳴が響き渡った。


 テミスと呼ばれた女性は、目を布で隠し銀色に輝く剣を横に振っていた。その銀色の刃には赤い血が付着していた。


 スティの膝で眠っている男性に触れようとした男性の手は、二の腕ごと切断されていた。


 切断された腕は再度降り積もった雪の上に落ちていた。


 テミスは左手に天秤ばかりを再度持ち上げ、その人間達に憎悪を向けた。


 武器を携え自衛の為に襲って来た人間の胸元にその剣を真っ直ぐ突き刺し、振り下ろした。


 後ろにいる人間の首に目掛け剣を振るい、刃が人間の首筋に食い込んだ。


 そのまま蹴り倒し、その頭部に剣を突き刺した。


 テミスは人間達を殺戮した。彼に敵意を向けたからだ。


 後ろに下がった人間には見向きもせずに、殺戮した人間の死体を彼の前に差し出した。


 その血を両手で掬った。


 スティは男性の顔を撫でる様に触れた後に、男性の口を僅かに開かせた。


 テミスはその僅かに空いた口の中に、血を流し込んだ。


 男性は赤子が母乳を飲む様に無意識的に血を喉の奥に流し込んだ。


 その様子を見ながら、残った人間の一人はもう一度彼等に近付いた。


 テミスはその人間に顔を向けたが、その瞬間に人間は跪いた。頭を深く下げ、まるで神に祈りを捧げる様に懇願する声を発していた。


「我々は、その方を助ける為に行動しているのです。無礼だとお思いになったのなら大変申し訳ありません。……その方を、此方で運んでも宜しいでしょうか」


 テミスはその言葉を聞くと、また男性の口に血を流し込んでいた。それを終わらせると、テミスはその場に座り込んだ。


 人間は恐る恐る男性に手を伸ばした。人差指で男性の体に触れても、テミスは剣を振らなかった。


「……さあ、早く運ぶぞ」


 その声と同時に、他の人間も動き始めた。


 未だに眠っている男性を抱え、担架に乗せた。


 そのまま人間達は男性を運んだ。スティとテミスは、その後を着いて行った。

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


いいねや評価をお願いします……ペンギンの自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

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