其の九 第二調査開始 二
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
……と言うか文句はペンギンに言って下さい。
フラマはゆっくりと瞼を開けた。
あれは、フラマの過去だった。この雪を溶かす決意を決めた甘い味がする記憶だった。
「……誰だ……あれは」
フラマは過去に触れようとして来なかった。あまりに辛い過去だからだろう。それが無くとも、雪を溶かすと言う決意は確かだったからだ。
だからこそ気付かなかったあの不審者の姿。
黒髪に、金の瞳を持つあの男性。奇しくもその特徴はナナシと呼ばれる男性と酷似している。
「……レト」
「……何か?」
「ナナシの黒髪金眼には、何か理由があるのか?」
「それの答えは……もう失われてしまいました…………」
「そうか。分かった」
「……似たような方でも……?」
「ああ。助けてくれた恩人が、ナナシと同じ髪色と瞳色だ。何かあると思っているのだが……まあ、特に関係は無いのだろう」
フラマはそう断定した。
未だに分からないことを自己の感覚だけで断定するのは、科学者としては決してあってはならないことだと言うのに。
理論的に断定しなければならないと言うのに、フラマは感情で断定してしまった。
結局それをフラマが理解出来ていなかった。
「……貴方が何を……思い出したのかは…………分かりませんが」
レトはフラマの目をじっと見詰めていた。
「きっと……あの方では……無いでしょう……。……姉妹は……白髪銀眼だけです……」
「ああ、モシュネもそうだったな。つまりあれは……」
「……あの方の……兄弟かも……知れません……。……もしくは……それに……近しい方なのかも知れません……。……そうだとすれば……一度……お会いしたいですが……」
「……いや、あの後何処に行ったのかは覚えていない。まず殆ど忘れかけていた。名前も、結局分からない。ただ薬草のハーブ系の香水の匂いが強く記憶に残っている」
「……香水……。……まさか――」
すると、突然レトは頭を両手で押さえた。
レトはその場で膝を地面に付き、苦しむ様に呻きながら頭を下げていた。
その呻き声に混じりながら、レトは何かを呟いていた。
「勝利……勝利を通じ……彼はその手で平和を連れて来る……うぅぅぁぁ……!」
「レト!? レト! 何を思い出そうとしている!!」
「……未知の、不明の、Nancy……! 誰も……誰もそこにはいなかった……!! うぅあぁぁ…………!!」
フラマの呼び掛けは意味も無かった。
レトは一瞬で天を見上げ、その瞳を無垢銀色に輝かせた。
「そして……いなくなった……誰も……あぁ……。きっと……誰もいなくなる……十人の小さな……小さな……兵士達は……」
レトは疲れ切った様に、瓦礫を背に凭れ掛かった。
僅かに涙を浮かべていたが、それを腕で拭った。
「……はあ……ぁぁぁ……。…………ああ……御主人様が……いない……」
レトはまた俯いた。
フラマはそんなレトを見ずに、先程レトが呟いていた言葉を紙に記していた。
「勝利を通じ彼はその手で平和を連れて来る。未知の、不明の、ナンシー。誰もそこにはいなかった。そしていなくなった。誰も。きっと誰もいなくなる。十人の小さな小さな兵士達は――。……どう言う意味かは分かるか?」
「……いえ……あぁ……」
「だが、あの男性の話をして突然記憶を思い出した。つまり何かしらの接点があるのかも知れない。あの男性のこととは思えないが……ふむ。勝利を通じ彼はその手で平和を連れて来る、か……。果たして何を示しているのか……」
レトはまた天を見上げた。
「……モシュネは……無事でしょうか」
「お得意の神に祈れば良いだろう」
「……神は嫌いですか……?」
「……さあな。いてたまるかとは思っている」
「そうですか……。……科学者とは……そう言う物かも知れませんね…………」
レトとフラマは前へ進んだ。雪が降り続ける冷たい世界をただ歩き続けた。
木を探す旅を、続けていた。
今日は雪が強かった。フラマの服装でも氷の様な冷たさを感じる程だったが、レトはやはり無表情でそんな吹雪いている世界を歩いていた。
やがて、フラマの方に限界が訪れた。
フラマは雪が積もる地面に座り込み、疲れ切った様に息を吐き出した。
「……流石にこれ以上は進めない。済まない」
「……分かりました……今日は近くの……廃墟で休みましょう…………」
天井が残っている廃墟の下で、二人は休んだ。
「雪はやはり止まないか……」
「その為に…………動いているのでは……?」
「そうだ。雪を溶かす為だ」
フラマは壊れている椅子の板材に座り込み、また俯いた。
「……ああ、そうだ。雪を溶かす為に、私達は動いていた。ようやくだ……ようやく見付けたんだ。君達を、見付けたんだ」
フラマは僅かに口角を歪ませた。
「雪を溶かす君達を、見付けた。ナナシも、レトも、モシュネも、雪を溶かす為に必要だ。ずっとずっと、子供の時から探していた野望……それを、君達なら、達成出来る」
フラマの顔には、執念とも言える野望が潜んでいた。
それは、単純に雪を溶かすと言う人類が望んでいる大きな夢とは思えなかった。フラマは、その先をその目で見詰めていた。その先にある眩い光に、焼き焦がれてしまっていた。
「君達は、俺の夢だ」
「……一人称が……変わっていますが……」
「……ああ、そうだったか? 済まない」
レトは、無意識的にフラマを恐れていた。
雪が弱まった頃、二人はまた足を進めた。
二人は凍った河の上を歩いていた。氷が分厚く、今尚流れているはずの水面が一切見えない。
すると、その河の上に、人を見付けた。やはり黒い金属のマスクを着けており、分厚い氷に穴を開けて釣りをしている様だった。
その男性はフラマに気付くと、目を大きく開いた。その隣にいたレトに視線が移ると、悲鳴にも近い声を出した。
「あんた! そこの白い髪のべっぴんさん!」
その男性が叫んだ。
「マスク! 化け物になっちまうよ!」
「……いえ……私は……」
すると、フラマがその間に立った。
「ああ、大丈夫だ。彼女はどう言う訳か汚染を受けない」
「んな訳ねぇ。みーんな化け物になっちまう。まずまず、あんたらは誰なんだ」
「メルトスノウから来た者だ」
その言葉を聞くと、男性はまた驚く様な声を出した。
「はぁーそんな遠い所からわざわざ。そーなると、そこのべっぴんさんが化け物にならないって言うのも本当なんですか」
「ああ。まだ研究中だがな」
「成程」
「それで、ここは何処の集落に近いんだ?」
「ここですかい。ここは"メラン"ですよ」
「メラン……本当に遠い場所まで来たな……何時の間にか海を渡っていたのか」
レトとフラマは、その男性の後を着いて行った。
「いやー小さい集落ですけどね。何とか生きて行けてます。最近は変異体も少ないですからね。それに魔法技術で物資だけは簡単に届くので」
やがてレトとフラマの二人は、木で出来た粗末な柵を超えると、また粗末な布で囲まれた住居がぽつぽつと見える。
広範囲に、その木の柵があり、その中に数百人程の人間が今尚しぶとく生き残っている。
住居の天井に降り積もる雪を降ろしている人が多かった。やはり外にいる全員は黒い金属のマスクを付けていた。
「今日は、ここで休もう。丁度良く集落に着いて良かった」
レトは今は誰も住んでいないらしい住居の中で休んでいた。
その中で、レトは祈る様に手を組んでいた。その祈りは自身の御主人である男性に向けられていた。
その間に、フラマはメランの集落の長と話をしていた。
最早老人としか言えない程衰弱しており、動くことも出来ずに寝ていた。
「……おぉ……ようこそ……雪を溶かす為に足掻く……方々よ……」
「……初めまして。メランの長よ。今日一日、泊めさせて欲しいのですが」
「ええ……構いませんよ……皆了承したでしょう……? ……何故ここまで来たのか……それは分かりませんが……どうせ無意味だと言うのに……」
メランの集落の長は、毛も抜け落ち口を動かす筋力も少ない老体で、フラマを煽る様にそう言い放った。
フラマはその発言に僅かな苛立ちを覚えたが、その苛立ちを疑問として口に出した。
「何故、無意味だと」
「……ははっ……。何……簡単な話ですよ」
そのメランの長は、首を動かし、瞼も開かない顔をフラマに向けた。
「……雪は……神の怒り……人間は……神に近付き過ぎた……」
「神……ですか。私は信じていません」
「それこそ、人間の驕りだと言うのです……。……神へ……近付けば……天罰を食らう……。創世の時代で……一度罰を受けたと言うのに……まだ君達は神へ近付こうと藻掻いている……。……それとも……君達は……神を……味方に付けたとでも言うのか……?」
「……雪を溶かせるであろう人物達を見付けました」
「……ははっ……」
乾いた笑顔を発すると、メランの長は僅かに息を吸った。
「……怪物を、探しているのでしょう。……ここから丸一日北へ歩けば……」
「いえ、そう言う訳では」
「……いや、必要です。……大きな大きな……怪物……そこには……木が生える……無花果の実を実らせる……枯れた木が生える……。……善悪を……知る無花果の実……」
その特徴に、フラマは心当たりがあった。
自分達が探しているあの枯木の特徴であった。このメランの長は、それを理解していた。
それについて問い掛けようとした直後、メランの長は動かなくなった。
傍にいた男性がメランの長に触れると、すぐに首を振った。
とても簡単に死んでしまったのだ。
フラマはそれにさえも、苛立ちを覚えていた。死を悼むよりも、自分の疑問が解消されないことに苛立ちを覚えていた。
そして、簡単に一日は過ぎてしまった。
フラマの体にはまだ疲労が残っていた。休憩を何度も挟んでも、黒い金属のマスクを着けていれば呼吸は制限され、雪で体温も奪われる。
その為か、今や体力が残っているのはフラマよりも体力が無いはずのレトの方だった。
こんな状況で、変異体と戦える訳が無いと理解しているフラマは、体力を出来る限り温存する為に背負っている槍さえも馴鹿が引いている物資に乗せていた。
太陽が頂点に達する頃、雪の勢いが僅かに緩んでいた。
場所が変われば景色も変わる。空高く伸びているビルは少なく、その変わり屋根の角度が急な廃墟が多く存在していた。
フラマはそんな廃墟の中に残っている物資を探していた。
行きだけでこんなに時間が掛かっているのだ。帰りまで物資が持つかは分からない。
その廃墟の中を漁っていれば、人が住んでいた形跡が否が応でも見付かってしまう。もう色褪せてしまい姿は分からないが、確かに人が二人写っている写真は、どれだけ長い時間雪によって苦しめられているのかが分かる。
フラマは、その写真に何も思わなかった。
散らばって虫に食われている服も、子供が使っていたであろう玩具さえも、それは全て過去の遺品であり、今でこそ意味の無い価値の無い物である。
そう、自分に言い聞かせた。
「……近付いています……。そろそろでしょうか……」
レトはそう呟いた。
二人はその先へ、また足を進めた。
太陽が傾き、雪を橙色に染めている頃、レトは突然足を止めた。
「……誰かが……いる様ですが……」
「……そうか」
フラマは物資から槍を取り出し、その槍を両手に構えた。
すると、突然レトの首元から血が流れた。フラマはその部分を凝視すると、首を貫通する一つの穴が空いていた。
レトは痛みも感じず、血が流れていることに気付きその傷を手で抑えた。その手を動かすと、傷跡は簡単に塞がっていた。
そして、もう一度レトの体に何かが貫いた。今度は包帯で隠された胸元だった。その傷さえも即座に塞がった。
フラマはその方向を睨み付けた。一つの廃墟の上、急な角度の天井に積もる雪の上に立ち、今や失われた技術であるはずの銃を向けている男性がそこにはいた。
その銃の先端部分に刃物を取り付け、一瞬でフラマと距離を詰めた。
姿勢を低くし、地面に積もっている雪をフラマの視線に投げ付けた。
それごと、フラマは槍を思い切り振るった。だが、そこにはもう男性がいなかった。
気付けば背後に、男性が銃の先端部分に取り付けられている刃物をフラマに向けて振り下ろしていた。
フラマは右手で槍の柄を握り、背中に回し槍の石突をその銃身にぶつけた。そのまま槍を右手だけで回し、その遠心力を乗せながら体を後ろに回しながら柄で男性の首を叩き付けた。
すると、また男性は消えてしまった。
その次の瞬間に、一発の銃声が響いた。
それと同時にレトの頭部に弾丸が貫いた。とても簡単に、地面に降り積もる雪の上に倒れてしまった。
フラマは即座に倒れているレトの体を持ち上げ、自分の背に落とした。
すると、また銃声が響いた。フラマは即座に姿勢を低くすると、自分の頭上に何かが飛んでいた気配を感じた。それこそが、鉛で出来た弾丸が飛来していた証拠だろう。
すると、フラマの視界の先に男性が現れた。
「……その女……。……ああ、そうか。だからか。通りで死なない訳だ。だが、お前は誰だ」
その問い掛けは、フラマに向けられていた。
「金を持たない者。お前は誰だ。何故銀を持つ者と共に動いている。何故ここへ来た」
「……雪を溶かす為だ」
「だろうな」
男性はその銃を背負い、フラマを見下した。
「今すぐに立ち去れ。この先へ行きたいのなら、金を持つ者と共に行け。例え強行したとしても、我々がそれを止める」
「……何故だ」
「雪を溶かしたいのだろう? この先には確かに怪物が潜む。それを倒してからとでも思っているのかは分からないが、ただ倒すだけでは意味が無い。この雪の意味が無い。溶かす意味が無い」
「それの理由を聞いている。あの女もそうだ。この雪には意味がある、この雪には私達には分からない意味があると言って、その全てを話さない。まるでハシビロコウの様だ。何故、人類の為にこの雪の詳細を話さない」
男性は面倒臭そうにため息を吐くと、軽蔑とも言える目でフラマを凝視した。
「それは、お前に教える義理は無い。言うとすれば金を瞳に持つ者だけだ」
「それの意味は」
「何度も言わせるな」
フラマは小さく舌打ちをした。
未だに倒れているレトの体を持ち上げ、フラマは馴鹿と共に来た道を戻った。
「……この雪を、解明してやる……! 全てだ……全て!」
執念とも言える異常な感情で、フラマは呟いた。
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
いいねや評価をお願いします……ペンギンの自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……




