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ホロビタセカイデバケモノノタビ  作者: ウラエヴスト=ナルギウ(のペンギン)
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其の九 第二調査開始 一

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


……と言うか文句はペンギンに言って下さい。

 男性は、ただ安らかに眠っていた。先程までの痛みに苛まれ狂気に犯され苦痛に苦しんでいたとは思えない程に、安らかに。


 左目には眼帯が着けられていた。刳り抜いた目玉は未だに再生していない。


 レトは、眠っている男性の隣にいた。その手を両手で握り、何時か目覚めると信じて。


「レト」


 その一声に、レトはゆっくりと振り向いた。そこには、水を入れた桶と手拭いを持っていたモシュネがいた。


「もう眠ったらどうですか」

「……目覚める時に……私がいなければ……不安に…………なるかも……知れません……」

「……分かりました。しかし、忘れない様に。モシュネ達は外へ、あの木を探しに行くのです。一時は離れなければなりません。その日が来れば、分かりましたか?」

「……はい。……その間だけは……」


 モシュネは手拭いを水で浸し、男性の体を拭き始めた。


 その様子を、レトは無表情で見ていた。その顔の裏にある感情は、ぐちゃぐちゃに撒き散らされた絵の具が混ざり合った様に、様々な感情が押し寄せていた。


 それを、表現することが出来ないのだ。ある意味において、それは呪いであり、ある意味において、それは祝福でもある。


 レトは感情を落ち着かせることは出来なかった。未だに、夢の中で御主人が苦しんでいるかも知れない。そう考えると、レトの感情に絵の具がもう一つ落とされた。


 僅かに口を開き、必要最低限の空気を吸い込む。


 そして、レトは男性の手を自分の頬に触れさせた。


「冷たい……」


 レトは、息をしている男性を見詰めていた。


 レトは、鼓動を続けている男性を見詰めていた。


 レトは、未だに生命活動を続けている男性を見詰めていた。


「……空腹かも……知れませんね」


 レトは自分の手首を噛み千切った。痛みは元より感じない。


 その傷もやがては塞がる。


 レトは男性の口を開かせ、その口内に自分から溢れ出た血を捧げていた。その口内に満たしていた。


 男性は眠っているが、それでも血を少しずつ飲んでいた。


「……首筋が寂しいですね…………」


 レトは愛おしそうに、男性の頬を撫でた。


「レト、手が邪魔です」

「……分かりました」


 モシュネの言葉に、レトは素直に従った。


 モシュネの行動は、自分が心酔し慕い愛している御主人の為だと言うことを理解しているからだ。


 モシュネは男性の体を拭き終わると、男性を挟んでレトの向かいに座った。


「レトがいるのなら、モシュネもいましょう。この方が寂しい思いをしない様に」

「モシュネは……この方から見れば……突然現れた人……ですが……」

「無意識的にモシュネのことを分かっているのでしょう。ですから大丈夫です」

「……どうでしょうね……」


 レトは左目の眼帯を、撫でる様に触れていた。


「……あの場には……私がいました……。……私がもっと……」

「そんな後悔の言葉を吐くのなら、あの場にいた誰もがそう言えます」

「……貴方は、サラを呼びに……私は……ただ慰めの言葉を……。……この方の苦しみを……受け止めればどれだけ……良いのでしょうか」


 レトの表情は、一切変わらなかった。


 その銀色の瞳は、僅かに湿っていた。


 そして、レトはもう一度自分の顔に男性の手を触れさせた。


 その冷たさに、レトの心情は辛い物になってしまった。それを受け止めなければならない。


 そして、夜は過ぎてゆく。とても簡単に。


 この夜が過ぎなければ、黒い夜に浮かぶ白い月が動かなければ、男性が目覚めない理由の言い訳が出来た。


 それさえも出来なかったレトは、無表情で哀しみと淋しさを表していた。


 モシュネは男性の胸部に頭を乗せ、確かに続いている鼓動を感じながら眠っていた。


 レトはそのモシュネの頭を退かし、代わりにその胸部に耳を当てた。


 とくんとくんと、僅かに鼓動を続けている。その暖かい鼓動を感じ、レトの無表情の裏には僅かな歓喜が溢れていた。


 レトはまた、男性の口を開かせ、自分の手首を噛み千切った。


 その血を、男性の口内に満たした。


 全ての血を飲み干した男性の手を握り、包み込んだ。


「……それでは……行って来ます……。……淋しい思いをするとは……思いますが…………。また……目覚めた時に……会いましょう」


 レトはその手に、唇を合わせた。


 すると、男性の呼吸は少しだけ強まった。


 吐き出す空気は、音を発していた。


「……レ…………」

「……はい。ここにいます……レトは……貴方のレトは……ここにいます……」


 そのレトの声は、男性には届かなかった。僅かな慟哭の様なうめき声を発したと思えば、また穏やかな呼吸を始めた。


 そして、フラマ、フィリップ、レト、モシュネの四人は雪が降る白銀の世界を馴鹿が引く橇で走っていた。


 数日かけて最初に生やした枯木を通り過ぎて、数週間かけて二つ目の枯木の場所を越えた。


 更に進んで、四日後。


「……二つ……感じます」

「……何方がより強いかは?」

「それは……分かりません」

「そうか。あくまで方向が分かるだけか。……いや、それでも満足だ」


 予定通りフラマはレトと、フィリップはモシュネの二人組で行動をする。


「フィリップ。お前が死んでも良い。モシュネを死なせるな」

「俺が死んでも良いのかよ」

「正直に言えば、お前の命よりもモシュネの方が価値がある。お前が死んでも必要な犠牲だ。モシュネを救う為だったらな」


 フィリップは苦い顔をしていたが、それでも納得した様にため息を吐いていた。


「分かった。死んだら死んだって枕元で言ってやる」

「化けて出るな。私の睡眠不足が更に悪化する」


 そして、フラマは馴鹿を一匹連れて、その馴鹿に半分の物資を引いて貰いレトと共に前へ進んだ。


 フラマは、無表情ながらも悲しそうな目をしているレトを案じていた。


「ナナシのことが心配なのか」

「……はい」

「まあ、それもそうだ。私もだ。彼は雪を溶かせる特異な力を持つと、信じているからな」

「……貴方から見れば……そうとしか……見えないのでしょう……」


 レトの歩む速さは一切変わらない。


「私から見れば…………あの方は……最愛の方です。……貴方の様に……何かしてくれるからこそ……気にかけていると……言う訳ではありません…………」

「……そうか」


 そこには、フラマとレトのナナシと名付けられた男性に対する感情の違いが確かにあった。


 野望の為に有効活用出来る存在に対する期待の感情。純粋に慕い隷属し愛する純真無垢で純愛の感情。


 この違いこそが、ナナシに向けられた態度の違いとして現れていた。


 雪が降るこの白銀の世界。その白銀は人々を蝕む汚染である。


 人を人では無い何かへ変え、人では無い何かは人を喰らう獣に成り下がる。いや、成り上がる。


 だが、人類はしぶとかった。生存能力はその知識と叡智で補い、生き残りまた世界を支配しようとしていた。


 事実、限られた地域だけではあるが、変異体を退け集落を作り上げた。そこを基点に広く人類が住める地域は拡大を続けている。


 そして、メルトスノウはそんな国家とも言える集落から全面的な援助を受けている。全ては、この雪を溶かす為。


 フラマは何も分かっていない。レトは全てを失っている。


 白い髪に銀色の瞳を持つレトは全てを失っている。


 日は簡単に落ちてしまう。夜を迎え、フラマとレトは廃墟の中で焚き火を焚いていた。


 あまり美味しくも無い保存食を噛み千切りながら、レトはその火をぼんやりと見詰めていた。


「……"火は暖かく"……"無垢金色に輝く瞳"……"彼は僅かに熱を帯びる"……」

「どうしたレト」

「いえ……少し……思い出しただけです……。……この言葉を」

「そうか。何か意味がありそうだが……。……ナナシは火を作り出す。無垢金色に輝く瞳は正しくナナシの外見だ。催眠療法である程度記憶が引き出しやすくなっているのなら……記憶が完全に戻るのは案外近いかも知れない」

「……そうですね」


 フラマとレトの間には、確かな溝が存在していた。


 そして、レトはその場で横たわり、瞼を閉じた。


 フラマはその間も、思考を続けていた。


「……眠れない」


 まず、記憶喪失の原因。最初こそ、心理的外傷、もしくは身体的外傷の衝撃が原因で記憶を失ったとばかり思っていた。レトは自然に傷を治すことが出来る。その可能性は高いと思っていた。


 だが、その予想は覆る可能性さえも出て来た。モシュネの存在だ。


 レトの姉、それは虚偽とは思えない。つまり、偶然にもレトと同じ様に、記憶喪失になったと言う訳だ。


 モシュネの性格はレトと酷似している。ナナシに従うあの異常なまでの忠誠心さえも。


 だが、モシュネはナナシとレトと共に行動しなかった。異常な忠誠心を持ちながら、むしろ数ヶ月経った頃にようやく現れた。


 そして、偶然にもあの枯木の傍に現れた。つまり何処か遠い場所からやって来たと言うことになってしまう。それは何故だ。


 ナナシは何故記憶喪失になった。レトとモシュネの姉妹は何故記憶喪失になった。


 そして、何よりも、大型の変異体と戦った時の、レトの体の変化。白色の髪は黒くなるあの変化。背中から蝶の羽根を生やし、魔法技術を扱う。


 ……一体、何が起こっているのか。


 ナナシのあの黒い剣は何だ。レトは何故急に魔法技術を扱える様になった。モシュネは何処からやって来た。全てが、謎だ。


 フラマの思考は止まること等出来なかった。そのまま、朝を迎えた。


 レトが起きると、目を擦りながら体を起こした。


 そして、ゆっくりと歩き始め、雪がはらはらと降る外に出た。


 雪が降り積もる地面の上に座り込み、神に祈る様に手を組み顔を下げた。


 拾っていた硝子片を手に取り、その硝子片の鋭い部分を包帯の上から首筋に突き刺した。痛みに顔を顰めることもせずに、その顔に表情は宿っていなかった。


 その首筋から吹き出す鮮血を、もう片手で受け止めた。吹き出す勢いが弱まり、首筋から下に向かって垂れる血さえも両手で受け止め、手で作った皿一杯に、血を溜めた。


 その血を、少しずつ地面に落とした。全て落とし、赤い果実を握り潰した様な真っ赤な果汁に染まった手を、また祈る様に指を組んだ。


 その首筋にある傷は綺麗に治っていた。


「何をやっているんだ?」


 フラマはレトに話し掛けた。


「……祈りを」

「神にか? 馬鹿げているな」


 この世界には神はいない。いるのなら、探求する自分達人間がとても哀れに思えてしまう。それが、フラマの持論であった。


 その持論から溢れ出た、正直な感情だった。


「この世界は残酷だ。神がいるのなら、何故世界はこんなにも残酷なのか。一度聞いてみたい質問だ」

「……何か……勘違いをしている様ですね……」


 レトは立ち上がり、フラマの顔を見詰めた。


「神と言うのは……無条件に人を助ける訳では…………ありません。……そんなことを……思うのは……傲慢でしょう……。……神が残酷と言う……話ではありません……。神は……ただそこにいるだけ……何か行動を起こすと言うのも……全ては神が決めること……。……貴方の言う神は……人間に都合の良い解釈をした…………都合の良い虚像です……。それと……もう一つ……先程祈っていたのは……御主人様に向けてです……」


 フラマは、言葉を何も返さなかった。


 神がいるのなら、探求する自分達人間がとても哀れに思えてしまう。人間はその知恵を使い、世界の法則を探求し、その知恵を技術にして後世に伝える。


 それは、それこそが、神などいない証拠である。神がいるとするなら、その知恵を技術に昇華させ世界を意のままに操れるまでに到達した後世の人間達である。


 フラマの頭の中には、そんな考えがあった。


 そして、二人は更に先へ進んだ。


 全てはこの雪を溶かす為。


 景色は変わった。天高く聳え立つコンクリートで作り上げられた植物の青々しさに包まれた楼閣は遠くの景色に見えるだけ。今はただそれよりも遥かに低く、崩れた住居だけが見える。


 その瓦礫としか言えない上を、馴鹿を連れて歩いていた。


 今日は珍しく雪が全く降らない日。偶に白く小さな雪が一粒だけはらはらと上から落ちるだけだった。


 降り積もった雪は僅かに溶けている。日差しが僅かに差し込み溶かしていた。


 偶に差し込む日差しで、雪はそれ以上積もることは無い。


 進み続ければ、困難はやって来る物。瓦礫の下に潜んでいた変異体が襲って来た。


 蜻蛉の様な羽根を背中から数枚生やし、その変異体の腹部が裂け臓物がはみ出ていた。

 頭部の顔は潰れており、蝿が集っていた。

 その臓物と血を撒き散らしながら、手に持った鉄の棒を振り回し襲って来た。


 フラマは背負っていた槍を手に取り、その長さを生かし変異体の胸部に刃を刺した。


 そのまま左に動かし、変異体の体を倒した。そのまま、頭部に槍を突き刺した。


 その噴き出した血さえも、フラマにとっては研究するべき未知だ。だが、今はそれ以上の野望の為に。


 フラマは、少しだけ思い出していた。自分の過去を、忌むべき過去を、この雪を溶かすと決めたその決意の日を。

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


いいねや評価をお願いします……ペンギンの自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

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