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ホロビタセカイデバケモノノタビ  作者: ウラエヴスト=ナルギウ(のペンギン)
11/51

其の八 想起

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


……と言うか文句はペンギンに言って下さい。

「やぁナナシ。気分はどうだ。……ふむ、モシュネとは寝ていないのか」

「……あ……朝か……」

「ああ、朝だ。そして検査の時間だ」

「……ああ」


 俺は起き上がった。


 何時も通りの検査をレトと一緒に終わらせた。


 その後に、サラは椅子に座りながら話を始めた。


「それで、モシュネとは寝ていないのか」

「『畏れ多くて出来ません』だと」

「ふむ……性格が違うのか」

「レトとモシュネの性格が?」

「ああ。……レトがナナシに向けて抱いている感情は、はっきり言って異常だ。ただ……失礼なのは理解しているが、レトが君に向けて抱いている感情の説明をするなら、人形だ。ナナシにだけ従う人形の様な精神性。まあ、そうなると、()()()()()()()()()()()と言う可能性を私は考案していた」


 ……これは、俺も思っていたことではある。


 記憶を失う前の俺が何をしていたのか分からない以上、それもあり得るのだろうと、覚悟していた。


「だが、その考案は破綻した。モシュネの存在でな。量産するなら、同じ性格の方が都合が良い。まあ、個性を出したかったのかも知れないが、それにしては無感情だ」

「無感情な訳じゃ無いんだがな。無表情なだけだ」

「……ああ、そうだったな。ああ、それともう一つ今さっき気付いた」

「何だ?」

「体が自然に再生する方が良いはずだ。ナナシがレトの様に体を再生させる体を作れるのなら、自らの体を作り変えることも出来るだろう。血を啜ると言うことで何とか体を再生させるならあまりにも非効率だ。もしレトを作る技術力がその頭の中に存在していたとするなら、やはりおかしい」

「ああ、確かに」

「やはり偶然――いや、どうだろうな」


 ……結局分からないことが多い。


 俺は目をはっきりと覚まし、朝食を食べていた。


 メルトスノウ内の朝食はある程度の量が決まっている。食料も無駄に出来ないからだろう。毎日雪が降る。幾ら品種改良を重ねて何とか食料を生産出来ていると言えど、それでもやはり無駄には出来ない。


 ただ、たまーに何時もより多い日がある。


 そう言う日は大抵、「保存食と言えど流石にこれ以上は駄目だろ……」的な食材を使って消費の為に大量に使っている日だ。


 まあつまり、食料は案外余っている。一人が増える程度では問題は無い。それにその一人分以上の食料を収穫出来る仕事をすれば良い。


 ま、ここまでべらべらと語っていたが、俺は普通の人間の食事が出来ない。喉が通らないでは無く、栄養が摂れない。


 そう言う意味では、メルトスノウにとっては食料の掛からない住人の一人なのだろう。


 俺はレトの首筋に噛み付き、血を啜りながらそんなことをだらだらと考えていた。


 何だか今日は空腹だ。幾ら啜っても腹が満たされる感覚がしない。


「……何だか……今日は……長いですね。モシュネの血が……余程不味かったのですか…………?」

「ふぉーゆーふぁへへはないんふぁへほ」

「そうですか……」


 すると、まだ食事中だと言うのに誰かが部屋に入って来た。いや、食事に時間を掛けている所為ではあるが。


 入って来たのはモシュネだった。


「お早う御座います。……食事中でしたか」

「ふぁあ」

「分かりました。何かすることがあればモシュネにお申し付け下さい」

「ふぁあ、めふとふのーのふぁへへふはいへもひへへくれ」

「お申し付け通りに」


 一礼すると、モシュネは何処かへ行ってしまった。


 ……あんなのでも伝わるのか。「じゃあ、メルトスノウの手伝いでもしててくれ」と言ったが良く伝わったな。レトと同じ理由で愛だと答えるのだろうか。


「……モシュネが来たことで……私一人では……手が……足りなかった……ことも…………何とかなるかも知れませんね……。貴方にとっても……それは良いことのはずです……」


 ……駄目だ。本当に渇望が満たされない。どれだけレトの血を啜っても、今日の渇望は満たされない。


「……今日は……本当に長いですね……。もしかしたらですが…今日は……モシュネの方が良いのかも…………知れません」


 俺はレトの首筋から口を離した。


「……大変申し訳……御座いません……レトの血ばかりを飲ませてしまい…………」


 ……あれ……何だか頭がおかしい……。


 レトの声が聞こえ難い……。視界が回る……。


 あの時と同じだ。力の使い過ぎで体を壊した時の感覚に良く似ている。


 俺はベッドの上で寝転んだ。


「……どうされました……?」

「いや……ヤバいこれ……」

「大丈夫ですか……?」

「だいじょばない……」

「……すぐにサラを呼んで来ます…………!」

「頼んだ……」


 レトの声は何時もより張り詰めた物だった。


 レトが小走りで部屋から出て数分程、俺の体は更に重くなった。肺の奥が痛む。その痛みが体に広がる様に、激痛が走った。


 渇望と、空腹と、体中に広がる激痛が、俺の体を苦しめる。何が原因かも分からないまま。


 俺は痛みに強い訳では無い。それ以上のことの為に、その時だけ耐えることが出来るだけ。痛みに襲われたく無いから、レトの血を啜っている。


 すると、俺の横にレトが現れた。


 ……いや、モシュネだろうか。……ああ、モシュネだ。胸が若干レトより大きいからモシュネだ。


「御主人様。まず、心からの謝罪を」


 モシュネは俺の体に跨り、顔を俺の首筋に近付けた。そして、力強く噛み付いた。何度も何度も、肌を突き破ろうと噛み付いた。


「本当に申し訳御座いません……! 御主人様に体に傷を付けてしまい……!」


 ……レトと似ていることを言っている……。ただ、やはり違う。


 やがて俺の首筋から僅かに垂れた血をモシュネは舐め取った。少しこそばゆい。


 すると、俺の体は少しだけ楽になった。痛みが引いていく。


「楽になりましたか?」

「……少し」

「どうやら、短期間に多くの力を受け取り過ぎたのでしょう」

「……何の話だ?」

「……成程。どうやらモシュネには貴方様とレトが失った記憶の一部を持っているらしいです。貴方様には、力があります。その力は血を啜る程に、肉を貪る程に、増していきます。ただ、それを短期間に大量に受け取ってしまえば、体は急激な力の向上に間に合わずより多くの血を求めます。それが出来なければ、体は限界を迎え壊れてしまいます。これが、貴方様が先程苦しんでいた理由です」


 モシュネの話を、薄っすらとした意識で聞いていた。


「今は、その力の一部をモシュネが受け止めました。ゆっくりと体を慣らしていきましょう。そうしなければ、貴方様はもう一度あの様な危篤状態になってしまいます」

「……分かった」


 モシュネは俺の体から離れると、ベッドの横の床に座り込んだ。


「我々は、ただ貴方様の為に生きております。しかし、その苦しみはモシュネが引き受けることは出来ません。その痛みさえもモシュネが引き受けることは出来ません。命じて下さい。『血を捧げよ』と」

「……血を啜らせて欲しい」

「……その様に頼み込む口調で無くとも良いのですが……分かりました」


 モシュネは首筋の包帯を解き、その首筋を俺の口に近付けた。


 その首筋に、渇望のまま噛み付いた。


 溢れ出した血を、余すこと無く啜った。……今だけは、レトが、モシュネが、俺に心から従う理由を考えるのを辞めてしまおう。今の俺は腹が減っている。体を捧げてくれるなら、それを快く受け入れ血を啜ろう。


 すると、部屋の中にサラとその手伝いのアルバートが入って来た。ただ、様子を見るとサラはため息を、アルバートは悲鳴にも近い声を出した。


「ハレンチだー!!」

「煩いアルバート。慣れろ」

「いやいや! だって明らかにヤッてますよアレ!」

「ヤッてはない。食事行為だ」

「あー……カルテに書かれてた」


 ……まだ痛い頭に二人の声が響く……。


「それでナナシ、レトが助けを呼んでいたが……解決したのか?」

「それはモシュネが話しましょう。御主人様は今食事中で御座います」


 俺は、口を離した。もう満足だ。


 モシュネが先程俺に言っていたことをサラに説明していた。その間にレトが戻って来た。


「……あぁ……良かった……。……申し訳ありません……私が無知なばかりに…………」


 レトは俺の手を握りながら震えた声で小さく呟いていた。その頬を撫で、俺は微笑んだ。


「レトが悪い訳じゃ無い。記憶を失ってたからな」


 頬を撫でている手をレトは両手で弱く握り締めた。その白い手も、僅かに震えていた。


 ……そうだ。レトは俺が傷付く姿を何度も見ている。その度に心を傷付けている。


 ……ああ、そうだった。最初はレトを助ける為に俺が傷付いた。その時から、レトはずっと俺の体を気遣っている。俺の体が傷付くことに恐怖している。


 だからレトは……。……俺が笑っても、レトは安心出来ないのだろう。


 レトの血も啜り体の調子は戻って来た。体は何時も通り動く。渇望も今は無い。


 その後は、薪木の回収を手伝った。手斧を抱え、指定された数の木を切り倒す。それが今日の手伝いだ。


 雪が降り続けるこんな世界でも、立派に屈強に木が生えている。良くこんなに幹が太く育つな……。


 俺はその木の根元に向けて手斧を横に振った。木の幹に手斧の刃が打つかると、大きく良い音が響いた。周りから聞こえる音と殆ど同じだ。


 その手斧の一撃で太い幹の半分まで刃が食い込んだ。


「あ、やべ。外れない」


 右に動かして左に動かして、ようやく手斧が抜けた。


「危ない危ない。思ってた以上に簡単に切れるな」


 その反対側からもう一度手斧を撃ち込んだ。やはり半分程刃が食い込んだ。


 そのまま、大木は向こう側に倒れた。


「……やべ。運ぶ方法考えてなかった」


 取り敢えず、持ち運べるであろう大きさに切り分けるか。


 腕を目一杯横に伸ばし、その大きさに木を手斧で切り分けた。


 木材と言うのも重要な物資だ。毎日雪が降るこの世界だと特に。


 熱を生み出すことは魔法技術でも出来るが、限界がある。両方上手く扱い恒久的に凍え死なない程度に熱を生み出すことが重要だ。……と、フラマが言っていた。


 指定された数の木を切り倒し、言われた場所に保管する。外に出していると木が水を吸って火が付きにくいかららしい。


 仕事を終え、フラマから貰った懐中時計で針を見てみると、短針は十七時を差していた。最近ようやく文字が読める様になった。


 部屋に戻ろうとも思ったが、ふとフラマがいる研究室へ向かった。司令室? まあ何方でも良い。


 最近のフラマは、モシュネが来た時から何かを考えている表情が増えていた。


 司令室に来てみると、何故かレトとモシュネがフラマと話していた。


「――と、言うことだ。頼めるか」

「無理です。何故貴方の命令を聞かなければならないのですか」


 モシュネがそう答えていた。


「……そう答えると思っていたが……ああ、ナナシ。丁度良い時に来てくれた」


 フラマに紅茶を出され、俺はそれを飲んでみた。


 ……あまり美味しくは無い。やっぱり啜るならレトの血だ。


 フラマは地図を広げながら、話を始めた。どうやら次の枯木の話らしい。


「まず、良い予想外の事態が起こった。モシュネの存在だ。今までレトにしか出来ないと思っていたあの枯木の探知を、モシュネも出来るらしい」

「そうなのか?」

 モシュネは頷いた。

「つまりだ。より効率的にその枯木の探索が可能だ。いや、確かにその枯木を生やすにはナナシも必要だが、場所を見付けられるだけでも良い。その後ナナシが行けば良いだけだ。そこで、ナナシ、レト、私の三人、フィリップ、モシュネの二人、この二手で別れ探索する。それを先程まで説明していたのだが――」

「嫌です」


 モシュネはまたきっぱりと答えた。


「……説明しても聞いてはくれない。余程君に忠誠を誓っているらしい。隷属心とも言えるが。……ナナシ、もう君はここに来て長い。私が何を頼むのか、分かるはずだ」


 あーはいはい。


 モシュネの心情も尊重はしたい。だが、俺としてはフラマの意見は確かに効率的で、正しいことだと認識している。


 答えはもう出た。


「モシュネ、俺からの頼みだ。フラマの意見も理解して欲しい」


 俺と合わせているモシュネの表情は変わらなかった。だが、レトを見て来たからか、ある程度の感情は読み取れる。


 悲しみに近い感情が無表情の顔の奥に見える。


 つい、レトの所為で付いてしまった癖で右手でモシュネの頬を撫でた。


 レトの頬よりは僅かにハリがあるその頬を撫でると、モシュネはレトと同じ様にその手を握った。


「……分かりました。御主人様のお申し付け通りに。ただ、その褒美としてではありますが――」


 モシュネはその言葉の先を、無表情のまま顔を僅かに紅潮させながら綴った。


「その……この様な褒美を所望するのも、無礼なことだとは思いますが、レトと共に寝床を共にすることは出来ますでしょうか」

「そんなことなら別に良いが……」


 畏れ多いと言っていたのは何だったのか。それとも遠慮があったのか。まあそれはどうでも良い。


 ただ、そのモシュネの隣にいたレトが俺の隣に素早く座った。そのまま左手を握り、頬にまで動かされた。


「……早く……して下さい」

「ん? あーはいはい」


 俺はレトの頬を撫でた。


「……んぅ」


 自分から顔を動かし、俺の手に頬を擦り付けていた。


 ……猫に見える。あ、意識したらもう猫にしか見えない。


 一応メルトスノウ内には猫が数匹いるが、俺はそのどの猫にも懐かれない。懐いた猫はこんな感じに甘えるのだろうか。


 ……こう見ると、レトの瞳を見詰めると何だか懐かしい気持ちになる。この銀色の美しい瞳を見詰めると、とても哀しい気持ちになる。


「……あの……」

「どうした?」

「涙が……」


 レトは俺の目頭に浮かんでいる涙の小さな粒を指で拭った。


 ……分からない。何故だろうか。思い出さないといけない何かが脳裏の奥にある。


 その何かは銀色に輝いている。脳裏の裏にある瞳は銀色に染まっている。無垢銀色に輝いている。


「誰……?」


 呟いた言葉の意味は、俺にも分からなかった。


 無垢銀色に輝く光は誰に宿っている。


『大丈夫』


 俺は何を忘れている。


『貴方は――』


 お前は誰だ。


『胎児は母親の中で糸になった。悪夢が始まったと感じた。胎児は母親の中で粒になった。悪夢はまだ続いていると感じた。胎児は母親の中で二つに増えた。成長したと感じた。悪夢はまだ続いていると感じた。胎児は母親の中で鱗を青くした。群生する方法を感じた。悪夢はまだ続いていると感じた。胎児は母親の中で手足を持った。這い回ることを感じた。悪夢はまだ続いていると感じた』

「あぁぁぁぁぁぁ!!」


 男性は発狂した。


 男性の頭の中には、失われた記憶の最も深く最も根源的な最も重要な最も不自然で最も大罪に分類される記憶を呼び起こされていた。


 レトとモシュネを触れていた手を、無理矢理動かし、自分の頭を押さえた。


 前の机に頭を叩き付け、唇を閉じることも出来ずに涎を口から垂らしていた。レトとモシュネはすぐに男性の身を心配し、モシュネはフラマと一緒にサラを呼びに、レトは男性の背中を擦り、言葉をかけていた。


「大丈夫ですか……!」


 頭の中に響く声の理由は男性には理解など到底出来なかった。


『踊る赤子は恐れていた。慟哭する赤子は笑っていた。無垢金色に輝いた目は、彼女を見た。無垢銀色に輝いた目は、彼を見た』


 催眠療法は成功していた。


 彼は、成功すれば自らが苦しむことになることを分からず、呼び起こしてしまった。


 レトは、その男性が僅かに発している声をきちんと聞き取った。


「十月十日が過ぎた頃……赤子になった…………赤子には……!! あぁぁあぁぁぁぁ……! 母は居らず……!! 父も……!! 罪人……罪人が……罪人の名が記された……!! 記された記された記された……!! 記された神話……!! それは……それは……!! ぁぁぁああ!!」

「大丈夫……大丈夫です……!!」


 表情筋をあまり動かさないレトは、その銀色の瞳から何粒も涙を落としていた。


 目の前には、苦しんでいる御主人がいる。その苦しむ姿を、レトは見たくなかったのだ。その為に心から仕え、その為に傍にいたと言うのに。


 レトは、自分を恨んでいた。自分がこの苦しみを受け止めることが出来ないことを、恨んでいた。


 もしそれが出来たのなら、もう二度と彼が苦しむことは無いと独り善がりの考えを持っていた。


 男性は自分の瞼を掻き毟った。そしてその瞼の裏にある眼球を指先で掴んだ。


 レトはその腕に掴みかかった。だが、レトの腕力では、男性の人間離れした腕力を止めることは出来なかった。


 男性は、自分の左の眼球を手に掴み、思い切り抜き取った。


 眼球の奥にある所と繋がっている赤い糸を無理矢理引き千切り、眼球をその場に投げ捨てた。


 失った眼球の空間には血が溜まり、それは重力に従い血の涙の様に流れ落ちた。


 レトはその男性の空の瞼から溢れ続ける血を何とか手で押さえた。それでもずっと、そんな程度で止められるはずが無い。


「大丈夫です……!! レトが傍にいます…………!! だから……!! ……それ以上……自身の体を……傷付けないで下さい……!!」


 その言葉が届いたのかは、彼にしか分からなかった。ただ、男性はレトの頬を撫でる様に手を伸ばした。


 視界はまだ床に向けられている。ずっと俯き、左の瞼から血を流し、呻きながら、レトの涙を指で拭った。


 そして、ようやくサラがやって来た。


 レトは、また涙を流していた――。


「――……さて、診断結果だが……」


 サラは、フラマとフィリップの前でカルテをぺらぺらと捲っていた。


「……外傷は自分で抜き取った左の眼球だけだ。まあ結局それも血を啜れば回復するのだろうが。ただ、発狂した原因は不明だ。記憶が唐突に、それでいて一瞬で蘇ったことによる衝撃で、そして思い出した記憶の中に心理的外傷にもなる辛い記憶さえも思い出したと、あたしは思っているが……。それにしてはその時の発言がおかしい」

「ナナシは何か言っていたのか?」


 フィリップがそう聞いた。サラはその答えを顔を顰めながら読み上げた。


「十月十日が過ぎた頃赤子になった。赤子には母は居らず父も――。罪人、罪人が、罪人の名が記された神話。……あくまでレトが聞いただけだ。これが正しいのかは分からない」

「それの何がおかしいんだよ。錯乱してるんなら訳の分からない言葉を綴るのも理解出来るだろ」

「ああ。普通ならな。だが、あたしの予想の記憶が蘇ったことによる衝撃が正しいとした場合、あまりにも不自然だ」


 サラはその場に座り込み、傍に置いてあった角砂糖をティーカップの中に入れた。


「記憶が蘇ったのなら、それに関係する言葉を言う。『十月十日が過ぎた頃赤子になった』は、まあ出産のことだろう。『赤子には母は居らず父も』の赤子が誰を示すのか。レトとモシュネの姉妹か、ナナシ自身か。それとも全く関係の無いのか。『罪人、罪人が、罪人の名が記された神話』の神話が何を示すのかは分からないが、神話と言うのは本来神の功績を記す物だ。信者を確保する為には神の功績を記す方が都合が良い。にも関わらず強く記憶に残ったのは罪人の名。一体何故だ」


 その謎に、フィリップは答えることが出来なかった。顔を顰めながら、出来の悪い頭を回しても、結局容量オーバーするだけだ。


「まあ、それもナナシが目覚めれば全部解決出来るだろ」

「……それは難しいかも知れない」


 今まで言葉を発さずに俯きながら聞いていたフラマが呟いた。


「今度はこのショックで記憶を奥に押し込んだ可能性がある。まず、すぐに起きるとは思えない」

「成程……。……まぁ、遠征はまた今度だな」

「いや、予定通りにやる。ナナシは連れて行かないが」

「はぁ!?」


 フィリップは思わず立ち上がった。


「何でだよ!? ナナシの回復を待つ方が――」

「それ以上に我々は雪を溶かすことの方が優先される。それに、先に見付けた方が今後の活動で有利に働く」

「それは……!! 確かにそうだが、だが! レトとモシュネも今の精神状態だと難しいだろ!」

「我慢して貰うしか無い」

「てめぇ……!!」

「……フィリップ、総司令官命令だ。今度の遠征はナナシを除き、予定通り遂行せよ」


 フィリップの表情は怒りに満ち溢れた物だった。もしこれを言っているのがフラマでは無かったら、すぐに握り締めた拳を振り上げた所だった。


 フィリップは足音を強く響かせながらその場を後にした。


「……どうしたフラマ。お前らしくない」

「……分かっている」


 フラマは頭を抱えながら、また俯いた。


「……もうどうすれば良いのか、私にも分からないんだ」

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


いいねや評価をお願いします……ペンギンの自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

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