其の七 記憶
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
……と言うか文句はペンギンに言って下さい。
俺とフラマは、最初に生やしたあの枯木の場所へ戻っていた。
理由は単純だ。最も近辺にある枯木がここだからだ。あの未知の枯木は、新たな技術を開花させる何かになるはずだと信じて。
フィリップは着いて来ていない。別に戦いに行く訳でも遠出する訳でも無いからだ。
「この辺りも変異体が減って来た。物資が整えばここも制圧出来るだろう」
「ここを制圧してどうするんだ」
「有効活用方法は幾らでもある」
少し歩いていると、降る雪の勢いが弱くなり始めた。
ただ、相変わらず寒い。慣れれば大した物では無いのだろうが。
それとも、レトがいないからだろうか。今日は同行を俺から断った。あの木を生やす訳では無いのだ。メルトスノウで待機した方が良いだろう。
すると、フラマが足を止めた。
「……いるな」
「了解」
一応、フラマは俺の上司に当たる。そして俺とレトの恩人でもある。畏まった返事をするのが、普通は当たり前だ。
剣を抜き、白い視界の先にいる変異体を見詰めた。
ただ、少し様子がおかしい。
足が鳥の様になっている人間に見える。いや、それは特段おかしなことでは無いが。違和感を覚えるのは、もう此方を視界に入れているはずなのにも関わらず、襲って来ないことだ。
俺が出会って来た変異体と言う物は、大体は此方を見れば本能のままに襲って来る知性の欠片も無い獣だった。にも関わらずこれは、此方をじっと見詰めるだけで何もしない。
「……どうする」
俺はフラマにそう聞いた。そう聞くしか無かった。
「……捕獲はしておきたい。だが……いや、辞めておこう。今は捕獲用の物資を持って来ていない。また来た時にまだここで蟻の巣に突き刺された棒の様に立っていたのなら改めて捕獲しよう」
「……分かった」
蟻の巣に突き刺された棒の様に……? ちょっと意味は分からないが、まあとにかく、また来てまだいれば捕獲すると言うことは分かった。
俺達は、あの焼け爛れた枯木の前にやって来た。相変わらず金色に、それでいて銀色に輝いている。
「体感的に、この近くは温かい気がする」
「確かにそうだな」
フラマはその木に触れた。焼け爛れている所為か、とても簡単に樹皮が破けた。
ふと、その木を見上げた。そして、目に見えて違和感がある物が写った。
その焼け爛れた様な枝の先、そこに実がなっていた。
銀色に輝くその実を、俺は手に取った。やはり何処かで見たことがある。
「どうしたナナシ。……それは何だ」
「……分からない。分からないが……何処かで見たことがある」
「……そうか」
銀色に輝くその実を見詰めていた。懐かしい感覚になってしまう。
フラマもその実を見詰めていた。
「無花果に似ているが……まあ、そんなはずが無い。こんな銀色の皮をしているはずが無いからな」
「まず無花果がどんな実なのかは分からないが……まあ、フラマが言うのなら違うんだろうな。じゃあこれは無花果の木か?」
「違うはずだ」
まあ、それもそうか。こんな植物があるはずが無い。
俺はそのままその実を半分に割った。中から赤い果肉が出て来た。それが、とても美味に見えた。
レトの肌から滴り落ちる血を見ている時の感覚に近い。ただ、これは血では無い。果肉だ。明らかに違う物のはずなのに、これに食欲が湧いてしまう。
俺はそのまま、欲望のままに口に近付けた。
すると、その手を誰かに止められた。果実を左手で隠され、右手で俺の手を止めていた。
最初はフラマかと思っていた。フラマが何かも分からない果実を口にしない様に止めてくれたと思っていた。だが、俺の手を止めたその右手は、フラマにしては肌の色が白過ぎる。まるで毎日必ず視界に入る雪の様に、白かった。
この白さは、レトの肌の色と同じだ。
視界を前に向けると、女性がいた。
レトと同じ髪色と瞳。
レトと同じ格好。包帯を体に巻いて隠しているだけ。違いと言えば、その包帯の一部が血に塗れていることだろう。
それに、髪の長さもレトよりかは長い。その女性の腰にまで届く長さだった。
「貴方様がこれを食すのはお辞めになった方が宜しいでしょう」
レトよりかは速く口を動かし語っていた。いや、この場合はレトの口の動きが遅いのだろう。
横にいたフラマはその女性に懐疑的な目を向けていた。当たり前だ。突然こんな女性が現れれば警戒もする。それに……マスクを付けていない。
その口で、何時の間にか果肉を食べていた。食べ終わり、口角に付いた果汁をその細い指で拭っていた。
俺がその様子を見詰めていると、その無表情の頭を傾けた。
「どうなされました? 不思議そうな顔をなさっていますが」
「……誰だ?」
「……何者なのでしょうか。貴方様に付き従う者だと言うことは、理解しているのですが。貴方様は覚えていますでしょうか」
「いや……」
「そうで御座いましたか」
その女性は突然俺の前で跪いた。
「名は"モシュネ"と申します。その金色の瞳を持つ貴方様を探し、この身一つでここまで来た所存で御座います」
「……少し待って欲しい」
えーと……つまり? このモシュネとか言う奴は俺を探して来た。それは分かる。
その理由が分からない。……そう言えば、レトもそんなことを言っていた気がする。そうなると……モシュネはレトと同じ様な人間だろうか。
レトと全く同じ白色の髪に、銀色に輝く瞳。そして……あの時夢で見たあの女性と同じ。
共通点は未だに分からない。それが分かる日も気が遠くなる程に長いのだろう。
「空腹に苛まれていませんでしょうか。モシュネが来たからにはそれに悩まされることはありません。夜伽が不足してまいませんでしょうか。モシュネが来たからにはその欲望さえも満たしてみましょう」
声から自信が満ち溢れていることが分かる。相変わらずレトと同じ様な無表情であるにも関わらず、俺の目にはその無表情がとても陽気な物に見える。
と言うか一人称モシュネなのか……。
俺の感覚がおかしいのか、そのモシュネと言う名前さえも少しおかしな物に聞こえる。それを言ってしまえば俺のナナシと言う名前もおかしな物ではあるが、これはあくまで今名乗っている名前だ。本名はまだ分からない。
「……おや……少々、失礼致します」
モシュネは俺の手を掴み、その匂いを嗅いでいた。
「……他の匂いが。……ああ、何方かと出会っていましたのですか。それを先に言って下されば、モシュネも出しゃばったことを言いませんでしたのに」
レトのことだろうか。手の匂いだけで分かるのはちょっと……アレだが。
「あー……モシュネ。多分お前が言っているやつのことはレトだと思うんだが……」
「レト……レートー……ああ、あのゆっくりと語る。モシュネの妹で御座います」
疑問をより大きい疑問で返して来た所為で、俺の頭は混乱の渦に巻き込まれてしまった。
取り敢えず俺はフラマとモシュネに聞こえない程度の声量で話し始めた。
「一応聞いておくが、あの女に見覚えは」
「無い。全く」
「だろうな。記憶喪失なら覚えていないのも当たり前だ。問題は、あのモシュネさえも記憶喪失の可能性があることだ」
「まず何であいつもレトと同じ格好なのか……」
「それは……やはり共通点があるからだろう。包帯だけの格好は何か意味があるのだろう。その何かは予想も付かないが。もしかしたら宗教的な意味かも知れない。最近までレトがどんな服を渡しても一向に着用しようとしなかったからな」
すると、モシュネは俺の手を握った。指を絡めさせ、より掌を密着させた。
「……あぁ……ようやく、触れ合えました。一体この日を、どれだけ待ち侘びたことか……」
その表情は、レトが良くしていた表情だ。特に俺と触れている時に良く見せる表情。
「レトは、何処へいるのですか?」
「レトならメルトスノウにいる」
「メルトスノウ……それは一体どの様な場所なのでしょうか」
……やっぱりメルトスノウは知らないか。俺達もそうだった。
「ナナシ、モシュネを連れて行くのか」
「ああ。少なくとも、俺の味方だ。レトと同じだ」
「……そうか。メルトスノウとしても、謎を解明出来る可能性が増えるのなら喜ばしいことだ」
モシュネの感情はレトより豊かに見える。と言っても結局無表情なのは変わらないが。
あくまでレトの表情を凝視した結果身に付けた観察眼である程度分かる様になっていると言うだけだ。
メルトスノウへ帰る為の橇へ戻ろうと足を進めると、雪が強まって来た。
昼が近付いて来たからだろうか。それにしては何時もより雪が強い様にも思える。ただの気の所為なら良いが。
「モシュネ、お前もレトと同じ様に寒さを感じないのか?」
「はい。お気遣い感謝致します。モシュネも寒さは感じません。暑さも、痛みさえも」
「……そうか」
そうなると……レトの家系的な特徴なのだろうか。そうだとすると明らかに人間から逸脱している。俺が言えることでは無いが。
……科学技術でも無く、魔法技術でも無い全く別の法則をその身で使う家系……レトの謎が更に深まった。それと同時に、そう言うこととは全く関係の無い俺の謎さえも深まった。
レトと同じ家系では無いのは、俺の髪色と瞳の色で良く分かる。同じ家系ならあまりにも異質過ぎる。
確かに、謎を解明出来る可能性は増えたのだろう。それはフラマに同意しよう。だが、それ以上にまた新しい謎が増えただけだ。
そう考えると、あまり良い物では無い様な……いや、確かにレトも、モシュネも、俺の失った記憶を取り戻す為にも必要だ。この二人が俺を知っているのなら、きっと取り戻すことは出来るはずだ。
……記憶を失う前の俺は、一体何をしていたのか。
何故この二人は俺を慕うのか。何故この二人は俺に従うのか。何故この二人は俺を愛しているのか。
その全てが、分からない。分かろうとしても、その解明の為の記憶が軒並み崩れ落ちている。思い出そうとしても、何も思い出せず。
すると、フラマは背負っていた槍を両手に構えた。
「少し、多く来た様だ。私が殲滅する。ナナシはモシュネを守ってくれ」
そのフラマの言葉に答えるよりも先に、モシュネはフラマよりも前に歩いていた。
「おいモシュネ! 一旦下がれ!」
モシュネは俺の言葉が聞こえていないのか、足を進めていた。
すると、モシュネを襲う複数の影が見えた。
狼の頭部を人間の体に乗せた様な変異体だった。
目の部分からは、大きく曲がりくねった角が生えており、もう目は見えていないのだろう。
その手は明らかに人間の物では無かった。一本の腕の肘から先は二つに裂けており、二本の前腕が出来上がっていた。
それと同じ様な姿をした変異体が三体、モシュネを襲った。
モシュネは、両手を叩いた。その音はとても軽やかに雪が降るこの場所に響いた。
それと同時に、変異体の足下に氷が付着した。その氷はあり得ない速度で地面にまで伸び、貼り付いた。そのまま氷は伸び続け、やがては変異体の体は氷に閉ざされた。
「哀れな灰に変える方が、宜しかったでしょうか」
モシュネは俺にそう聞いた。
「いや……充分だ」
魔法技術……だよな。多分。一目で魔法技術だと判断出来る程、俺は魔法技術をその目にしていない。
……そう言えば、レトもあの時氷を生み出していた。それと同じなのだろうか。
……いや、あの時は……理由は分からないが、俺の頼みで姿を変えて使っていた。今の状況とは違う。
もう、何がどうなっているのか。分からないことが正常だとも思えて来る。いや、そうなのだろう。そうであって欲しい。
「モシュネは貴方様のお役に立ちましたでしょうか」
「ああ。役に立った」
「それならば、モシュネは褒美を所望致します」
「……何かして欲しいことがあるのか?」
「はい。モシュネの血を啜って欲しいのです。ただ欲望のままに、ただ渇望のままに」
……モシュネの性格が大体分かって来た。
まあ、丁度腹が減って来た所ではある。帰ってレトに頼もうと思っていたが、まあ良いだろう。
モシュネはもう首筋の包帯を解いていた。その首筋に、俺は牙を突き立てた。
何時ものレトの肌を突き破る時に俺の舌で感じる味とは違う。そこから溢れ出した血の味も、レトとは違う。
いや、これはこれで美味ではある。だが、レトの様な甘美な味では無い。もっとこう……砂糖の様な甘みに僅かな苦みがあり、それが癖になる味だ。
何方かと言えば、俺はレトの味の方が好みだ。偶に啜るのなら楽しめそうな味だ。
……俺は人の血で何を考えているのだろうか。
まあ、これは俺にとっての食事行為だ。こんなことを考えても、別に不思議なことでは無いのだろう。
「ああ……モシュネの血を啜っている……。ああ……必要とされている……!」
……何故だろうか。モシュネの発言に一抹の違和感さえも抱かない。自分で無意識的に分かっているのだろう。失った記憶の中にモシュネとの記憶さえもあると言うことが。
渇望を満たし、俺はモシュネから口を離した。その牙が突き刺さった傷はすぐに塞がっていた。
「もう満足なのですか? 更に求めたとしても、モシュネは喜んで貴方様に身を捧げましょう」
「いや……流石に満腹だ……」
少し啜り過ぎた……腹痛い……。
俺達は橇に乗り、メルトスノウへ帰る為に長い旅路を走っていた。
この橇の揺れは、未だに慣れない。それに強まる雪で、体が冷えて来る。
レトがいない所為だろう。レトは何時も俺の体に抱き着いていたから温かかった。モシュネに頼む……のは何だかあれだ。
案外何事も無く、メルトスノウに帰って来た。
さて……モシュネのことをどう説明しようか。と言うか俺も良く分からないから説明のしようが無いんだが……。「なんかあの木の所にいた!」とでも説明すれば良いのか?
……せめてレトがそう言う記憶を持っていれば良いが……。
そう言えば、モシュネにはレトが妹と言う記憶はある。だとすれば……出会えばレトも気付くだろうか。
メルトスノウの入口は三つの扉に別けられている。一つ目の扉の先でコートを脱ぎ、二つ目の扉の先で体に付着している雪を隅々まで溶かし、ようやく三つ目の扉を開けてメルトスノウの中に入れる。
この中で変異体が発生すればとんでも無いことになる。どうやら今の人類には必ず付けなくてはならない機能らしいが、どうやって動いているかは未だに分からない。恐らく科学技術と魔法技術の併用だとは思うんだが……。
俺はレトを呼んだ。どんな小声でも何故か聞こえてやって来る。本当にどうやって聞こえているのかは分からない。
すぐにレトがやって来た。
最近になって、レトはちゃんと服を着る様になった。ただ、あくまで包帯で隠した服の上からコートを着ているだけだが。
「怪我を……負ってはいない様ですね……。……あぁ……良かった」
レトは俺の手を握っていた。すると、無表情のまま僅かに不思議そうな顔をしていた。
「何やら……血の匂いが……」
レトは俺の頬に触れながら、顔を近付けた。
「……私では無い……他の方の血の匂い……。……私の血は飽きましたか……?」
「そう言う訳じゃ無いんだが……」
レトは、俺の後ろに隠れていたモシュネの存在に気付いた。最初こそ首を傾げていたが、少しすると手で頭を抑えながら、目を見開いた。
「……モシュネ……でしょうか……?」
「お久し振りで御座いますレト」
「……本当に、久し振りですね……。しかし……何故この様な場所に……今まで何処へ行かれていたのですか…………?」
「その記憶はモシュネの中にはありません。恐らく貴方の中にも。ただ、一つの伝言だけは受け取っています」
モシュネは、無表情のまま言葉を発した。
『使命は果たされました』
その言葉を聞くと、レトはまた目を見開いた。そして俯いたかと思うと、すぐに顔を上げた。
その顔は、泣いていた。珍しく感情を表に出していた。
「あぁ……良かった……。……ずっと……思い詰めていたのです…………。……使命を果たさなくとも良いと……私が勝手に決めてしまい……ずっと……御主人様の身を案じていたとは言え……そんな自分勝手な感情を…………優先して……」
そのレトの体を、モシュネはそっと抱き締めた。
「もう、良いのです。全ては果たされたのです。ただ我々は、御主人様の御心のままに過ごすだけで良いのです」
こう見ると、レトとモシュネの顔立ちは良く似ている。少し違う所と言えば、レトよりも身長が僅かに高い所だろうか。それと瞼がレトよりも開いている。
それに……レトより若干胸部が大きい気がする。あくまで気がするだけだ。
その後、レトとモシュネを連れて医務室にまで連れて行った。理由は簡単だ。本当に姉妹なのかどうかを調べられる方法を、もしかしたらサラが知っている可能性があるからだ。
「……理由は分かった。だが、無理だ」
アルバートが出したお茶を飲みながら、サラはそう呟いた。
「まず、姉妹だと鑑定することは可能だ。その機械はここには無いが。まあその問題は後で良い。無理と断言した問題は、今の技術ではそのレトとモシュネの姉妹の鑑定には少なくとも片方の親が必要だからだ」
アルバートはその小さな体で走り、レトとモシュネに皿一杯のお菓子を渡していた。
「確かに雪が降る前の技術なら姉妹だけでも可能だろう。だが、もう技術は失われてしまった。母親からだけ遺伝するミトコンドリアと言う器官があると言う記述は残っているが、それを特定する技術も失われてしまった」
サラはアルバートが持って来ていたお菓子を一摘みして、そのまま口へ放り込んだ。
「……まあ、見た目からして姉妹なのは明白だろう。それにレトはモシュネを見ただけで姉妹だと言うことを思い出したのだろう?」
「それも聞きたかったんだ」
「催眠療法の影響だろう。以前よりも記憶を思い出せる様になったと予想出来る。ナナシも何かを思い出したりはしたか?」
「……不思議な夢は見た。……誰かも思い出せない女性が、俺に話し掛ける夢」
「やはり思い出しやすくなっているのだろう。催眠療法は無意味では無かったと言う訳だ。……まあ、思い出した記憶で姉妹だと言ったのなら、証拠はそれで充分だ」
いきなり現れたモシュネの謎は解消出来そうにも無い。
あの木へ行く為の遠い道程を往復した所為か、今日の疲れは何時もより思い物になってしまった。自室のベッドで寝転んでいるんだが……。
「ここで寝泊まりをしてらっしゃるのですね」
……モシュネがベッドの横の床に座り込んでいる。しかも当たり前の様に。
モシュネは案外あっさりと服を着た。ただしレトと同じ様に包帯の上に、そしてコートだけ。……コートだけなのは、果たして服を着ていると言えるのだろうか。
「……なあモシュネ」
「はい。何なりと」
「……何で当たり前の様にここにいるんだ? 一応自室は与えられただろ?」
「そこはあくまでモシュネの寝泊まりの場所で御座います。モシュネの身も心も貴方様の物。貴方様の言葉を聞く為に、近くにいるのは当たり前のことで御座います」
すると、隣で文字の練習をしていたレトがモシュネに顔も合わせずに呟いた。
「……近くで無ければ……言葉が聞こえないのですね……」
「何か?」
「いえ……特にこれが悪い……あれが悪いと……言う訳ではありませんが……」
……喧嘩してる……んだよな? 何方も言葉に抑揚が無い所為で声から感情が読み取り辛い。
「何処で呼び掛けたとしても……すぐに……駆け付ける…………方が……より優秀だとは……思っただけです……」
「むしろ傍にいて、その場その場で状況を把握し、何を求めているのかを汲み取り用意する方が良いとモシュネは思いますが」
「……先程言った様に……これが悪い……あれが悪いと……言う訳ではありません……。……モシュネにはモシュネの……考え方があるのでしょう……。…………それが……私には受け入れ難いと……言うだけです」
いや、これ喧嘩だな! 声に感情が乗ってないから分かり難いんだよ! いや怒ることじゃ無いんだが!!
よーし、考え事でで気を紛らわせよう。うん。そうしよう。
まず、レトもモシュネのことだ。何故か俺に従うこの二人は……それぞれ記憶を失う前の俺を慕っているのかは良く分からない。
ただ、姉妹で俺に従うと言うのが少しきな臭い。
レトとモシュネの家系が俺に従う家系の可能性もある訳だ。だが、それはそれで理由が分からない。
……そう言えば、白髪と銀の瞳を持つ女性を、俺はもう一人知っている。あの夢で見た女性はレトとモシュネと髪色と瞳の色が同じだ。
だが……あの女性はレトやモシュネとは違う印象を受ける。もっとこう……何かが違う。
同じ家系だと仮定した場合だが、あの女性の印象からレトとモシュネは家系的に俺に従う訳では無いのだろう。
そうなると、結局二人の謎が深まるだけだが。
……あー……もうこれ以上は俺の頭だと難しい。こう言う思考はフラマの方が向いている。
頭を思考で破裂させていると、ベッドで寝転がっている俺の体にレトが抱き着いて来た。
横にいたモシュネは、最早言葉にもならない声を喉から発していた。
取り敢えず、俺はレトを抱き締め、顕にしていた首筋に噛み付いた。
……やはり、モシュネの血とは違う。甘美な味。やはりこの血の方が俺は好みだ。いや、モシュネの血が不味いと言う訳では無いが。毎日飲みたいと思うのはレトの血と言うだけだ。
「……レトの血は……美味しいですか……?」
「ふぁあ」
口はレトの肌に密着している所為で、声は何時もの様に出せない。
モシュネの言葉にもならない声が更に強まっている。煩くは思うが、不快に思えないのは何故だろうか。その答えも、俺の頭の中にはあるのだろう。引き出せないだけで。
……前にモシュネの血を腹一杯にまで啜っていた所為で、あまり多くは飲めなかった。口の中に残っている血が僅かに口から溢れてしまった。
レトから口を離した。
「……美味しいのなら……良かったです……。……貴方の役に立つことが……私の至上の……悦びですから…………」
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
いいねや評価をお願いします……ペンギンの自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……




