序章
どうも吉川です。
アカウントを新たに作り、再スタート致しました^^*
1日~2日に1つ投稿ペースでやって行きたいと思っております。楽しんで頂けたら嬉しいです(°▽°)
どうして。
どうして私はこんなに苦しまなくちゃいけないの。
夜明けの近づく街。大雨に見舞われたここの一角で、私は息を切らしながら、もう残り僅かな力を振り絞り走っていた。
背後からは、けたたましいサイレンの音が聞こえてくる。
このことが「また」両親にバレてしまったら、今度は怒鳴られるどころじゃ済まない。でも、こうするしか無かった。
もっと平凡でいられたら、こんなことで悩むことはないのに。自分を恨んだ。
~♪~
「ん...」
好きな歌手の曲で、今日も俺は目覚めた。
むっくりと身体を起こして外を見ると、梅雨ということもあってか、雨粒がうるさいほどに窓を叩いている。
制服に着替え、俺はダイニングへと向かう。既に母さんは食事を終えてコーヒーをすすっており、リビングのテレビは小さな音で天気予報が流れていた。
「おはよう」
「...」
「...はぁ」
もう母さんの無視は慣れっこだ。
俺は黙ったまま席に着くと、冷めたトーストにかじりついた。
『今日は午後から雷を伴う大雨が降るでしょう』
...折りたたみ持ってくか。
「はよー」
「お、おはよー玲哉」
教室に入るやいなや、伊織が声をかけてきた。
伊織とは小さい頃からの友達で、親友だ。
「悪ぃ玲哉、課題写させて」
「お前何回目だよ」
「今度学食奢るからさあ」
「そんな調子だと浪人するぞ...」
そう言いながらも、俺はリュックからノートを取り出す。
「そういやさあ、玲哉」
「ん?」
「あれ、もう大丈夫なのか」
「ああ」
あれ、というのは、俺が幼い頃から持っている「チカラ」のこと。どうやら俺は時を巻き戻せるらしいのだ。便利そうに聞こえるかもしれないが、そうでも無い。自由に操れるわけではなく、ふとした時に急に戻ってしまうのだ。いつに戻るのかも分からないものだから、むしろ迷惑に近い。
これを知っているのは、親友である伊織のみ。母さんはその頃から黙りこくってしまっていたから、言えるはずもない。
「まあ、普通かな」
「普通ってなんだよ」
「最近は起こってない」
「そうか、そりゃあ良かった」
「でもなあ、なんか逆に怖いわ」
「何がさ」
「今まで散々戻りまくってるわけじゃん。急に止まるのは...そのー、なんかの前兆かなとか」
「世界の破滅、とか言い出すんじゃなかろうな」
「馬鹿か、ほらさっさと写せ」
伊織を急かしながらも、俺は少し考える。
去年一昨年は、月イチペースが当たり前だった。しかしどういう訳か、今年に入ってから1度も巻き戻っていない。
やはりこれは何かの、誰かの陰謀なのか?
いや、落ち着け自分。そんな厨二みたいなこと...
いや、ひょっとして能力者の時点でもう手遅れなのでは...
「席つけー」
思考がおかしな方向に行こうとした時、ガラガラと担任が入ってきた。教室に散らばっていた生徒たちは、そそくさと席に着く。
「いいか。今日は皆に嬉しいニュースがある。なんとこのクラスに新しい仲間が増えるぞ」
どっ、と教室が沸く。担任は「落ち着けー」となだめる。
「転校生か。ちょっと中途半端すぎやしないか」
「それな。今日木曜だぞ」
俺たちはそう言い、顔を見合せ首を傾げる。
「それじゃあ紹介するぞ。入ってきてくれ。」
先生が小さく手招きをすると、扉が開いてその「転校生」が入ってきた。
小柄な女子だ。腰まで伸びた艶やかな髪をなびかせながら、コツ、コツとこちらへ歩いてくる。背後から女子たちのうっとりとしたため息がきこえてくる。
「じゃあ軽くでいいから、自己紹介お願いできるか」
「はい。」
転校生は顔を上げた。
こういうのに疎いのでよくわからないが、女子の反応からしてかなりの美人であることに間違いない。
「羽月瀬菜です。...質問は各自でお願いします」
ほんわりとした声で一言名乗ると、ぺこりと小さくお辞儀をして、後ろに下がっていった。
「羽月は1番後ろの席だ」
担任がゆび指した席に、羽月は静かに歩いていった。
「今日は特に伝えることは無い。課題は必ず出しとけよ。はい、休憩!」
パチン、と担任が手を叩くと、それと連動するように生徒たちは教室の隅々に散っていく。
「おい」
「なんだよ」
「行こーぜ」
「どこへだよ」
「決まってるだろ?セナちゃんとこ」
流石は女たらしで名高い伊織だ。もう名前呼びしてるし。
「来て早々はやばいだろ」
「だからこそだよ。ほら、行くぞ」
「おい、ちょ...」
俺の止めるのも聞かず、伊織はずんずんと羽月の席に向かっていった。...ついて行くしかない。
羽月の周りには既に多くの女子が取り囲んでいて、本人は小さく微笑んでいた。
「みんな、ちょい通るよ」
「あ、伊織くん」
女子は不思議なほどあっさり伊織にその場を譲る。
畜生、クヤシイけどこいつ、顔はいいもんな。
「セナちゃん、だっけ?俺、桜木伊織。よろしく」
「あ、え、うん、よろしく」
羽月はまた小さく微笑んで(正確には苦笑だが)伊織と握手を交わした。
「ほら、玲哉もあいさつ」
「あ、えーと、野上玲哉、です」
「相変わらずお堅いなー、玲哉は」
「うるせえ」
俺らのそんなやり取りを前に、羽月は困ったような、でもって楽しげな笑みを浮かべた。