表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平凡でありたい君と僕  作者: 吉川ゆら
1/1

序章

どうも吉川です。

アカウントを新たに作り、再スタート致しました^^*

1日~2日に1つ投稿ペースでやって行きたいと思っております。楽しんで頂けたら嬉しいです(°▽°)

どうして。

どうして私はこんなに苦しまなくちゃいけないの。


夜明けの近づく街。大雨に見舞われたここの一角で、私は息を切らしながら、もう残り僅かな力を振り絞り走っていた。


背後からは、けたたましいサイレンの音が聞こえてくる。


このことが「また」両親にバレてしまったら、今度は怒鳴られるどころじゃ済まない。でも、こうするしか無かった。


もっと平凡でいられたら、こんなことで悩むことはないのに。自分を恨んだ。





~♪~

「ん...」

好きな歌手の曲で、今日も俺は目覚めた。


むっくりと身体を起こして外を見ると、梅雨ということもあってか、雨粒がうるさいほどに窓を叩いている。


制服に着替え、俺はダイニングへと向かう。既に母さんは食事を終えてコーヒーをすすっており、リビングのテレビは小さな音で天気予報が流れていた。


「おはよう」

「...」

「...はぁ」


もう母さんの無視は慣れっこだ。

俺は黙ったまま席に着くと、冷めたトーストにかじりついた。


『今日は午後から雷を伴う大雨が降るでしょう』

...折りたたみ持ってくか。





「はよー」

「お、おはよー玲哉」


教室に入るやいなや、伊織が声をかけてきた。

伊織とは小さい頃からの友達で、親友だ。


「悪ぃ玲哉、課題写させて」

「お前何回目だよ」

「今度学食奢るからさあ」

「そんな調子だと浪人するぞ...」


そう言いながらも、俺はリュックからノートを取り出す。


「そういやさあ、玲哉」

「ん?」

「あれ、もう大丈夫なのか」

「ああ」


あれ、というのは、俺が幼い頃から持っている「チカラ」のこと。どうやら俺は時を巻き戻せるらしいのだ。便利そうに聞こえるかもしれないが、そうでも無い。自由に操れるわけではなく、ふとした時に急に戻ってしまうのだ。いつに戻るのかも分からないものだから、むしろ迷惑に近い。


これを知っているのは、親友である伊織のみ。母さんはその頃から黙りこくってしまっていたから、言えるはずもない。


「まあ、普通かな」

「普通ってなんだよ」

「最近は起こってない」

「そうか、そりゃあ良かった」

「でもなあ、なんか逆に怖いわ」

「何がさ」

「今まで散々戻りまくってるわけじゃん。急に止まるのは...そのー、なんかの前兆かなとか」

「世界の破滅、とか言い出すんじゃなかろうな」

「馬鹿か、ほらさっさと写せ」


伊織を急かしながらも、俺は少し考える。

去年一昨年は、月イチペースが当たり前だった。しかしどういう訳か、今年に入ってから1度も巻き戻っていない。

やはりこれは何かの、誰かの陰謀なのか?

いや、落ち着け自分。そんな厨二みたいなこと...

いや、ひょっとして能力者の時点でもう手遅れなのでは...


「席つけー」


思考がおかしな方向に行こうとした時、ガラガラと担任が入ってきた。教室に散らばっていた生徒たちは、そそくさと席に着く。


「いいか。今日は皆に嬉しいニュースがある。なんとこのクラスに新しい仲間が増えるぞ」


どっ、と教室が沸く。担任は「落ち着けー」となだめる。


「転校生か。ちょっと中途半端すぎやしないか」

「それな。今日木曜だぞ」


俺たちはそう言い、顔を見合せ首を傾げる。


「それじゃあ紹介するぞ。入ってきてくれ。」


先生が小さく手招きをすると、扉が開いてその「転校生」が入ってきた。


小柄な女子だ。腰まで伸びた艶やかな髪をなびかせながら、コツ、コツとこちらへ歩いてくる。背後から女子たちのうっとりとしたため息がきこえてくる。


「じゃあ軽くでいいから、自己紹介お願いできるか」

「はい。」


転校生は顔を上げた。

こういうのに疎いのでよくわからないが、女子の反応からしてかなりの美人であることに間違いない。


「羽月瀬菜です。...質問は各自でお願いします」


ほんわりとした声で一言名乗ると、ぺこりと小さくお辞儀をして、後ろに下がっていった。


「羽月は1番後ろの席だ」


担任がゆび指した席に、羽月は静かに歩いていった。


「今日は特に伝えることは無い。課題は必ず出しとけよ。はい、休憩!」


パチン、と担任が手を叩くと、それと連動するように生徒たちは教室の隅々に散っていく。


「おい」

「なんだよ」

「行こーぜ」

「どこへだよ」

「決まってるだろ?セナちゃんとこ」


流石は女たらしで名高い伊織だ。もう名前呼びしてるし。


「来て早々はやばいだろ」

「だからこそだよ。ほら、行くぞ」

「おい、ちょ...」


俺の止めるのも聞かず、伊織はずんずんと羽月の席に向かっていった。...ついて行くしかない。


羽月の周りには既に多くの女子が取り囲んでいて、本人は小さく微笑んでいた。


「みんな、ちょい通るよ」

「あ、伊織くん」


女子は不思議なほどあっさり伊織にその場を譲る。

畜生、クヤシイけどこいつ、顔はいいもんな。


「セナちゃん、だっけ?俺、桜木伊織。よろしく」

「あ、え、うん、よろしく」


羽月はまた小さく微笑んで(正確には苦笑だが)伊織と握手を交わした。


「ほら、玲哉もあいさつ」

「あ、えーと、野上玲哉、です」

「相変わらずお堅いなー、玲哉は」

「うるせえ」


俺らのそんなやり取りを前に、羽月は困ったような、でもって楽しげな笑みを浮かべた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ