2話 五月病の憂鬱
5月と言えば新緑の季節。心地よい風が俺の脇を通り抜けて行く。
だが俺は完璧な五月病にかかり、とんでもない気だるさとともにその風を感じていた。
はぁ…なんで俺学校にいんだろ…帰ってゲームしたーい…
「…ねぇ!アンタ結局これでいいの!?」
楓に言われてハッとなる。どうやら結構長い時間ボーッとしていてしまったらしい。
「あぁ悪い… で、何の話だっけ?」
「球技大会の種目!あんたバスケでいいの!?」
「どうせ選択肢ないだろ?いいよそれで」
「よく分かってんじゃん!」
楓は俺の背中をバンッと叩き、ニシシと女子らしからぬ笑みを浮かべた。普通に痛い。
まぁ、透も一緒だし、大エースである雄大も一緒だ。まぁ俺は立ってるだけでいいだろ。
なんなら黒〇のバスケっぽい感じでパス回しに特化した選手になるのも悪くないよな、などと考えていた。
「ところでカエデは何にしたんだ?」
「バレーボール!すずっちもサキちゃんも一緒にね!」
ふと思った疑問を口にすると楓からは予想外の言葉も一緒に帰ってきた。
「涼香ちゃんとサキちゃんがバ、バレーだと…?と、とりあえず2人の勇姿を見届けねば…!ついでにカエデのヤローも…」
と言うと楓にどつかれた。こいつ毎度毎度俺の事どついてくるのなんなの?好きなの?ごめんなさい無理です。
だがこれで球技大会を楽しみにする口実ができた。涼香ちゃんたちの勇姿を見守るというな。
ぶっちゃけ球技大会にはいい思い出がない。というか運動があまり得意ではない俺にとってはただ醜態を晒すだけだ。
去年の球技大会は人数合わせの為にバレーに入れてもらったが、レシーブは上にあがらないし、サーブはネットに阻まれるし、もちろんスパイクなど打たせて貰えないし、と散々だった。まぁその分今年は雄大にパスを回していればきっと勝てるだろうし去年ほど哀れな気持ちにならなくて済むだろう。
パスを回して回して回しまくる…幻のシックスマンに俺はなる! …………まぁチーム5人ジャストなんですけどね。
それからの1ヶ月、体育の時間や週一のLHRの時などを使って球技大会の種目練をしていた。
うちのチームのバランスは結構良く、雄大ともう1人が2人で上がり、あとの3人はディフェンス重視といった感じで成り立っていた。もちろん俺は影になるべく某・加速するパスをやろうと試みたが、ボールの当たりどころが悪く、腕が悲鳴を上げたので仕方なく諦めることにした。その時透だけはやろうとしたことを理解したのか大爆笑していた。アイツアトデシメル。
一方の女子はと言うと咲ちゃん涼香ちゃんは平均的なうまさなのだが、楓のやつがえぐい。スパイクをボコボコ決めてるし、スーパーレシーブ連発してる。なんであいつバレー部じゃないの?というかまずなんであいつ運動部じゃないの?いや確かに吹奏楽部は運動部って言う人いるけどうちの吹奏楽部そこまでアグレッシブじゃないし。
「おいっ!ヒカル!!」
「え?…へぶしっ!」
バレーの方をずっと見ていた俺の顔面へとバスケットボールが炸裂する。いや雄大さん声掛けて頂けるのはすっげぇありがたいんだがそっち向いたせいで俺の顔面にクリティカルヒットしちゃったんだけど。
「何やってんだよヒカル!大丈夫かよ!?」
雄大が駆け寄ってくる。バチくそ痛いけど特に体に異常はないようだ。
「めっちゃ痛い。けど大丈夫っぽい」
「いやいやお前気づいてないのか?鼻血でてるぞ。」
透に声を掛けられ、え?まじで?と声に出そうとした直前、赤い液体が体育館の床に落ちるのを見て察した。
「あっと…すまん、保健室行ってくる。」
「先生には俺から言っとくから、ちゃんと鼻血とめてこいよ?」
雄大がイケメンっぷりを発揮させ、とりあえず透が持っていたティッシュを使い応急処置。そのまま俺は保健室へ直行した。
〜〜
「とりあえず止まるまではそこで鼻抑えててね。多分もうすぐ止まるから」
そう言い残すと保健室の先生は俺を残し保健室から出ていってしまった。
先生が言った通り鼻血はそのあとすぐに止まったが、先生が帰ってこない。この場合体育館に戻っていいのかもうちょい待ってるべきなのか悩むんだよなぁ…
そんなこと考えていると保健室の扉が開く。
が、入ってきたのは先生ではなく咲ちゃんだった。
「あれ?どーした?」
俺が声をかけると咲ちゃんはその時俺に気付いたらしくハッとして、すぐに困ったような笑顔を浮かべた。俺ってそんなに影薄いですか?
「ちょっと足ひねっちゃってね… 先生いる?」
「いや今居ないんだ。俺鼻血止まったんだが戻っていいのか分からなくてさ…」
「あっ、さっき抜けたのヒカルくんだったのか …鼻血って何したの?」
いや俺抜けたの分かってなかったんかい。
まぁ反対側で練習してた咲ちゃんが分かるはずもないか。
「ちょっと顔面でボール受けちゃってね。」
「ふふっ、ヒカルくんって案外ドジっ子さん?」
「運動神経悪いだけだからね?普段そんなドジしないでしょうよ ……というか足、冷やさなきゃ」
俺は保健室の冷蔵庫から氷を取り、ビニール袋と彼女が持っていたハンカチで氷を包み、彼女に手渡した。
「ありがと…」
「いやいや、とりあえず俺は先生探して来るわ」
と言い残し、保健室を出ようとした。そのタイミングで先生が帰ってきた。先生マジでナイスタイミング。
「あれ?確かあなたは…葉山さんよね?どうしたの?」
先生が来たので咲ちゃんは足を捻った経緯を簡単に説明している。とりあえず俺は先生に戻っていいと言われたので体育館へ戻ることにした。
「一ノ瀬くん!」
保健室を出る直前、俺は咲ちゃんに呼び止められ、彼女の方を見る。
「あ、ありがとね…助かっちゃった」
と、照れながら笑う彼女はとても可愛かった。
体育館に戻ってからも俺はなぜかこの時の彼女の笑顔を忘れることが出来なかった。
読んでいただきありがとうございます。
薄荷です。こんにちは。
今回はちょっとあれでしたね。ちょっとラブコメっぽくなってきましたね?なってきたのか?
とりあえずもう少し続くはずですのでよろしくお願いします。