A4 よ、余裕だし〜(チラッと目をそらす)
ゆうちゃんが鈍いなんていつものことだ。
でもちょっとアタシもこの結果にはがっかりした。
……とっておきの秘策が通用しないなんて。
アタシは次の日、ねちょに相談しようと一緒にお昼を食べる約束をした。昨日のゆうちゃんの鈍さ加減をねちょと共有してアドバイスをもらうんだ。アタシは授業終わりのチャイムがなった瞬間ねちょの二の腕を掴んだ。
「ねちょに教えてもらった、視線でバーンってやるやつ、全然ゆうちゃんに効かなかった!」
「マジか! あれをやられて冷静にいられる奴がいるの!?」
アタシは咽び泣きながらねちょに結果を伝える。
以前ねちょに「目を7秒以上合わせると、相手をドキドキさせられる」という技を教えてもらったことがあって、それを昨日やってみたのだ! アタシもそれをねちょから教えられたときはまっさかー! と笑っていたが、ねちょに試しにやってみる? と言われ、目をじっと見られたら女の子同士なのになんだかドキドキしてしまってこれはいける! と勝利を確信していたのだ。
でも、ゆうちゃんにはおっそろしいくらい効かなかった。
ゆうちゃんもアタシの目を見てたけど、あれは虫の個体調査してる時とおんなじ目だった。小学校の時の自由研究の時、ゆうちゃんはいっぱい虫をつかまえて、どこが違うのかを一匹ずつ調べる研究をしていたのだ。さっき視線はその時の様子にそっくりだった。
ただただ、色艶、現在の状況を理論的に観察されただけかよ。アタシは虫と同列か。
あーマジでどうしたら、ゆうちゃんを「ドキドキ」させられるんだろう!
もう全然わっからんっ!
アタシは机にだらりと寄りかかってねちょに泣き言を言う。
そうすると、ねちょはアタシのセットした髪型を崩さない程度にそっと撫でてアタシを励ましてくれた。
「どんまい、どんまい。こればっかりは長期戦を考えな」
「……うん。そうする。
あ! でもね! いいこともあったわ!
今度の中間で赤点回避できたらゆうちゃんがデートに連れてってくれるんだって〜!
いつものお出かけではないの! デートなの!」
「え〜! よかったじゃん!
でも普通のお出かけとデートって何が違うの?」
「理」
「難しいこと言うじゃん」
理の意味はぶっちゃけよくわかってないけど、ゆうちゃんがアタシを説得する時「これがこの世の理だから〜」って言うからなんとなく口に出してみた。
……多分ショギョームジョーの仲間っしょ。よく知らんけど。
「普段のお出かけはただのお出かけなんだもん。でもね、今回のはデートなの! やばくない!」
「それの二つを“ゆうちゃん“がちゃんと分けてるかは謎だけど……」
「わあああ! 第三者からの客観的意見が痛い! 刺さる! ツラいんですけど!」
「でも、まあ。さき以外の女とゆうちゃんが出かけることないんだからいいんじゃない」
__その言葉に、空気が凍った。
アタシの顔からは表情が消え、スッと真顔が出来上がる。その様子を見たねちょの顔色もすぐに変わった
「え? え? え? なに、なに? どうしたん?」
「__フシューーーー………」
「えっ⁉︎ さき? なんか獣が唸るみたいな音が出てるんだけど⁉︎ 人間じゃなくね⁉︎ なに⁉︎ えっ」
「……もしかしたら、ゆうちゃんのクラスにはゆうちゃんに言い寄ってる女がいるのかもしれない……」
アタシは戦慄としていた。
心の中でウキウキとモヤモヤが戦いを起こしている。
“「え!? まさかの飛鳥案!?」“
ゆうちゃんは確かにそう言ったのだ。
………あすかって誰?
「ゆうちゃん“あすか“って言う女と仲がいいらしいんだよね……」
「あちゃー……。よりによって同じクラスにいんのか……」
ねちょの渋い顔を見て、アタシは他の人見てもこの状態は良くないんだな、ってことを実感した。ヤバイ、どうしよ……。どうにかしなきゃ……。アタシはグルグル頭の中で対策をねる。
「とりま、サクッと消してくるか!」
いっぱい考えたけど、頭悪いアタシにはいい方法なんて思いつかない。だから原因を消すのが一番早い、という安直な結論にたどり着いてしまった。
アタシは勢いよく席から立ち上がる。そのままA組に直行するつもりだ。
「え⁉︎ さき? お昼は? お、落ち着いて……」
ねちょは焦ったように止めようとするけど、アタシは止まらない。何せアタシは行動派の女なのだ。
そのまま、ズカズカと機嫌悪そうな顔で廊下を歩いていると、アタシに関わりたくないのか生徒たちが道を開けるように退いていく。
まだ授業終わって時間が経ってないから、きっとゆうちゃんは教室にいないはず。ゆうちゃんはこのくらいの時間にお昼の買い出しに行くはずだもん。
A組の教室をチラリと覗くと、予想通りゆうちゃんはいない。
ガンッと大きな音を立てて教室の引き戸を引いた。
「ねえ、このクラスにあすかっている?」
思いもしない人物の訪れに驚いたのか、A組の奴らが顔を見合わせている。
「お、俺です」
俺? 声の先を見るとそこには爽やか系の男が突っ立っていた。
「うわあああああ‼︎ 憧れのギャル子ちゃんだ!」
「は?」
……何こいつ。アタシはあすかっていう女を探してるんだけど。
「僕が飛鳥ですっ!」
元気よく腕をビシッと上にあげたヤローを検分するように睨む。
「え? 男?」
てっきり女かと思ってた“あすか“はどうやら男だったらしい。え……。ってことはアタシの勘違い⁉︎ やだ! めっちゃはずいんだけど!
アタシは勘違いをしたことがあんまりにも恥ずかしくってあたふたしているとなんだか視線を感じた。
飛鳥がこちらをじっと見ている。
アタシはなんか嫌だったから、なんだよと軽くガンを飛ばすように飛鳥の顔を見た。
飛鳥、と元気よく名乗った男はA組にしてはちゃらそうで、気安い雰囲気があった。
なんか、淳也を頭よくアプデした感じかも。
「おおおお、俺! 瀬下飛鳥って言います! ずっとギャル子ちゃんと話ししてみたいと思ってて……。わあーー‼︎ 本物だあーー‼︎」
急にはあはあいいながらコッチを見てくる飛鳥に変態めいたものを感じて、アタシはつい眉を潜めてしまう。……なにコイツ。うっざ。
あまりの煩さに、やっぱり淳也の同種であるのを確認し、こいつとの心の壁は篤く持つべきである、と認識を改めた。
飛鳥は相変わらずキラキラした瞳でアタシの方を見てくる。どうしよ……、どうやって切り抜けようかな、そんなことを考えているとよく耳になじんだ声が後ろから聞こえてきた。
「え? さきちゃん?」
声がする方向をくるっと見ると、なんでここに? と言う表情をしたゆうちゃんが立っている。
しまった……。ゆうちゃん、帰って来ちゃった! ゆうちゃんがいない隙に女を消して、去ろうと思ってたのに!
「飛鳥。何さきちゃんと話してんの? 許可してない。あっち行って」
「え⁉︎ ひっでえ! もともとといえばギャル子ちゃんが……」
飛鳥は何かをもごもご喋っているが、ゆうちゃんは一刻も早くこの場から立ち去りたい様子だ。なんか怒ってるもん。
「はいはい、さきちゃん。こんなのと話しちゃダメですよー。はい、あっちに一緒に行こうねー」
そのままゆうちゃんはアタシと飛鳥の距離を離すよう背中を押す。飛鳥から十分距離が離れたところで、ゆうちゃんはこちらを向いた。
「どうして、A組にいたのかな?」
何か言い訳しなくちゃと、ゆうちゃんを見ながらあたふたとしているとゆうちゃんの手にはイチゴミルクが握られているのが視界に入った。
それに視線を向けると、ゆうちゃんはしまった! と言う顔になる。
「ゆうちゃん、まさか昼飯それだけ?」
「……エ? ソンナコトナイデスヨ?」
ゆうちゃんの目が見事に泳いでいる。
「だっからこんなにガリガリなんだろおおお‼︎
カロリーをとれ! カロリーを!」
「イチゴミルク結構カロリー高いよ?」
ゆうちゃんはキュルンとした声でごまかすように言い放つ。
「咀嚼をしろっていつも言ってるだろーー‼︎」
そんなこと言ってわちゃわちゃしていると、ゆうちゃんはアタシがここに来た理由が自分のお昼ご飯抜き打ちチェックだと勘違いしてくれたらしい。なんか知らんけど、セーフだった。やったあ!
アタシはお弁当を手に持ちながらA組に来てしまっていたのでそのまま、一緒にお昼を食べることにした。(もちろん、ねちょには連絡を入れて謝っておいてある)
「もうさ、教室入ったらさきちゃんがいるんだもん。びっくりしたあ。
驚きすぎて冷や汗出ちゃった。あードキドキしたあ」
思っていたドキドキとは違うけど、どうやらアタシはゆうちゃんをドキドキさせてしまったらしい。
そんなつもりはなかったんだけどな。
おにぎりをゆうちゃんに分けてあげると、ゆうちゃんは小動物みたいに両手でおにぎりを食べた。
……ここでみんなはさあ、両手でおにぎり食べる男子高校生ってキモくねって思うでしょ?
だけどね! ゆうちゃんがやるとめっちゃ可愛いんだよ! マジ至福! ペットショップで見たチンチラが野菜スティック食べてる様子にマジそっくりなんだけど! はー‼︎ 百点‼︎
はっ! テンションが上がって荒ぶってしまった。ってかアタシはみんなって誰にこれを伝えているんだ。
「ん? さきちゃん。どうしたの?」
「なんでもないよ!」
……これはアタシだけが知っていればいいことだもん。ゆうちゃんの良さはアタシが知っていれば十分なのだ。
A組襲撃から何日かがたつと、あっという間にテスト週間に入ってしまった。
試験期間の記憶は残念なくらい残っていない。
ゆうちゃんに、試験範囲の問題を詰め込むだけ詰め込まれて、アップアップだったことしか覚えていないのだ。
知識を詰め込むだけ、詰め込んだものをテスト用紙に書いて、また詰め込んでの繰り返しだった気がする。途切れ途切れにゆうちゃんの鬼のように冷たい笑顔と、トントンと指で教科書を叩く音が頭に残っていた。あんな恐ろしいもの、アタシは後にも先にも見たことがないかも。
とりあえずやばかった。ヤバすぎてアタシは記憶からそれを抹消したらしい。
__気がついたら、試験が終わっていた。
最後の試験が終わった後アタシは、チャイムが鳴ったのにしばらく宙を見て茫然としていたらしく、ねちょに「大丈夫?」と何回も聞かれてしまった。
はっと気がつくと全部の試験が終わっていてマジでビビった。
「え? テスト終わったの?」
「終わったよー。……てかあんた大丈夫? なんか空中のなんもないとこじいっと見ながらぶつぶつ言ってたんだけど。マジでやばくね?」
「うわっ! ごめん! それめっちゃ怖いね……。てかもっと怖いんだけど、アタシテスト中の記憶がない」
「えーーーー⁉︎ ヤバッ〜!」
「アタシ赤点回避できたのかな⁉︎」
もしかしたら全部白紙で出したか⁉︎ と茫然とするしかなかったけど、机の上を見れば何か書いて消したのだろう、消しカスが転がっている。
……なんか、とりあえず書いたわ。なんか。
アタシは自分を信じて、いつもは信じてもいない神様ってやつにめっちゃ祈った。
試験が終わって一週間立つと、結果が配られる。アタシは担任が一人ずつ名前を読んで結果を返していくのを見て自分の番をじっと待っていた。ちなみにアタシはやっぱりなんかは書いてたらしく、どの教科も点は取れていた。各授業で返された試験結果はどれも散々だったけど、赤点は回避できたんじゃないかな? と思う。自信はないけどさ。
「氷坂〜」
「あいよっ!」
ついにアタシの試験結果の紙が手渡された。配られたテスト結果が書かれた細長い紙をピッと勢いよく摘み、伸ばした。
「よっしゃーーー‼︎ 赤点回避だー!」
やったー! これでアタシにはデートが待っている! 今のアタシは無敵!
「ゆうちゃん! アタシ、赤点取んなかったよ! 褒めて!」
試験結果を告げるべく、A組の教室にダッシュで駆け込むと、満面の笑顔でゆうちゃんが迎え入れくれる。
「すごいねえ! 頑張ったね!」
ゆうちゃんは大型犬を可愛がるみたいにわしゃわしゃとアタシの頭を撫でた。
ゆうちゃんはアタシの髪型が崩れるとかそんなの気にしていないのだ。おかげで早起きして整えた髪はぐっちゃぐちゃだっだけど、ゆうちゃんがあんまりにも安心したように微笑んでいたので、そのかわいさに免じて許してあげた。
アタシはゆうちゃんの笑顔に相当弱いのだ。
お時間開いちゃったけれど、更新しました! この文章纏まらなくて難産だったのです。もしかしたら後で書き換えるかも……。