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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

七夕と病院と私

作者: 白黒

お盆なのでホラーを書いて見ました(_ _*))

7月1日。


「ゆきちゃんも願いを書いてね」


ナースのお姉さんが私に短冊と筆ペンを渡してそう言うと、左お隣の奥野さんというお婆さんや、向かいの渡辺さんっていうお婆さんにも短冊と筆ペンを渡していく。

この部屋には4つのベッドがあるのだが、左向かいの窓際のベッドは空いている状態だった。シーツも付けられていない。


私は立花 ゆき、14歳。交通事故で足を骨折し入院中。


急に願い事と言われても特に思いつかないや........

他の人はどんな願い事を書くのかな?


そう思って隣の奥野さんの短冊を見てみる。



『美味しい物を食べたい』


そう書いてある。


病院食は私はそこまで不味いとは思わなかったけれども、カレーは甘すぎて嫌だった。奥野さんが何が好きかは知らないけれど、可愛い願い事だと思った。


向かいの渡辺さんは何を書くのか聞いてみる。すると、


「『直ちゃんに会いたい』って書いたわ、直ちゃんって言うのは私の旦那さん」


「旦那さんですか、お見舞いに来て下さると良いですね」


「ううん、直ちゃんはもう亡くなっていないの……だから夢でも会えたらなって」


「そう........なんですね........」


願い事なんて聞かなきゃ良かったよ........


こんなに重たい返事が来るとは思わなかった........


非常に気まずいですよ........


結局特に参考にならなかったが、早くここから去りたいと思った為、


『早く退院出来ますように』


私はそう書いておくのだった。





7月2日。


笹が部屋の隅に置かれ、短冊が飾られた。

本来もう1枚書かれる筈だった1人分の短冊かな?

何故か何も書かれていない状態の短冊も飾られている。


夕方頃に奥野さんの家族がお見舞いに来ていた。

奥野さんは寿司が好きだったようで「美味しい、美味しいよ」と言って食べていた。

私は可愛いおばあちゃんだなぁと思いながらその様子をほのぼの見ていた。


しかし、奥野さんが急に苦しみ出した。

寿司が喉に詰まったのだろう。

咳き込もうとしているようだがちゃんと咳込めてない。

声を発しようとしているが、声にならない様子でもがいている。家族はあたふたし、「お医者さんを呼ばなきゃ!」とナースコールを押す、


ナースさんが来て事情を聞くと背中をバンバン力いっぱい叩くが、その時には奥野さんの意識は既に途切れているように見えた。


その後、奥野さんはどこかに運ばれて行ったが、この部屋には戻っては来なかった........





7月3日。


奥野さんの家族が奥野さんの持ち物を持って帰る為に整理していた。


「最後に好きな物を食べれて本望だっただろう」


中にはそんなことを言う人がいた。初めて見る顔だった為、昨日は見舞いに来ていなかった家族、もしくは親戚だろう。


私には自分達が殺したと思わないように、無理矢理ポジティブな捉え方をしているようにしか思えなかった。


奥野さんは凄く苦しそうにして死んだのだ。


本望では決してなかっただろう。少なくとも私は窒息死はしたくないと、昨日の状況を見て思う。





渡辺さんはその日の夜から寝言を言うようになった。


「直ちゃん、待っててくれたのかい。ありがとうねぇ」


夢で旦那さんが出てきたのかな? 良かったね渡辺さん。


その日の私はそう祝福していた。





7月4日。


渡辺さんが寝ている時間が増えた。朝になっても眠そうにしていて、ご飯を食べない。


「殺してくれよ!」


私は渡辺さんの大きな声が聞こえると、ビックリして渡辺さんの方を見る。

しかし、目は開いていないままだったが、その後不穏なことを言うようになった。


渡辺さんは昼になった今も寝ている。寝ていながらも寝言を言っている。


「私を殺しに来たんだろ!? 早く殺せー!」


渡辺さんの寝言は叫ぶようになった。


私は怖くなりナースさんを呼ぶ。


部屋を交換して欲しいと言ったのだが、この部屋以外は何処も満室らしい........


「ひひひひひひ、ひひひ、ひひひ、ひひひひ」


夜になると渡辺さんは変な笑い声をあげる。


不気味な笑い方で私は怖かった、渡辺さんの方を見ると眼を開けて何処か一点を見つめていた。


私は渡辺さんの焦点が合わない目が怖かっから布団を覆いかぶさった。


すると笑い声だけが聞こえて、それはそれで耳に残って眠れなかった。





7月5日。


お昼頃、渡辺さんが私の方を見てこう言った。


「あんたも来るのかい。若いのにねぇ、可哀想にねぇ........」


そう言い号泣しだした。

ただのキチガイのうわ言である。

そう私は私に言い聞かせるのだが、何故か震えが止まらない........



三時のおやつ時、渡辺さんは痙攣しだした。


ヒューヒューと変な呼吸音をしていて、異常な汗をかき、瞳孔が開いている。


私は怖くなり、ナースコールを押した。


1分くらいした後、ナースさんが来て私が渡辺さんの容態を話す。すると渡辺さんが運ばれて行く。


渡辺さんもその後戻って来ることはなかった........


渡辺さんの瞳孔が開いた恐ろしい眼と、「あんたも来るのかい」と言っていた事が頭から離れてくれない。

結局その日も私は眠る事が出来なかった。





7月6日。


私は何度か嘔吐した。ナースさんが心配してくれた。迷惑を掛けて申し訳なかった。


私は恐怖している。七夕で書いたことが実現することを。

奥野さんは『美味しい物が食べたい』と書いて大好きな寿司を食べて死んだ。

渡辺さんは『直ちゃんに会いたい』と書いて旦那さんと夢で会って死んだ。その後渡辺さん自身他界したことで会ったのかもしれない。


じゃあ私は?


「早く退院したい」........そう書いた........。


生・き・て・退院出来るならそれで良い。


死んで退院することで願い事を叶えたとされるとしたら?


私は馬鹿みたいな話だが、何かに殺されると思った。


ナースさんを呼んで短冊と筆ペン貰い、願い事を書き直す。


『生きたい』と。


これで大丈夫だろう。そう思ったのだが、何故かそれでも怖くて、震えが止まる事はなかった。




7月7日。0時。


私は「何か」に足を強く掴まれている感覚を味わう。


「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!」


ついそう私は大きな声で叫ぶ。


私は酷い汗を掻いていた。


ナースさんが「大丈夫ですか!?」と何度も来てくれるが、私の足には何も異常がない。バイタル測定もしてくれたが、特に異常はなかった。


「精神的なものから来る痛みでしょう」


そう言われてしまった。


嘘でしょ!? 私はこんなに痛いのに!


痛みは段々身体の上の方へと上がっていった。


お腹の時は強く殴られているかのようで、私は叫ぶこともできずに泣きながら苦しんだ。


それでま助けを呼ぶ為に何度か叫んだ。何度目か分からないナースさんがまた来てくれたが、「他に寝てる方が起きてしまいますから、静かにしてください」........そう言われてしまった。


私は自分自身が情けないのと、この意味わからない現状が辛くて余計に泣き叫んだ。


「こんなに痛いのに! なんなのよ! もう嫌ぁぁぉぁ!」


死にたい。そう思い、周りのことなど知らないとばかりに叫ぶ。



その時、「何か」はお腹から首に移動した。


「あぁぉ........おぉあぁぁあぉ、あ、あ」


首を締められて私はまともな言葉を発せず、息も出来なくなる。


これで痛み、苦しみ、不安からやっと解放される。そう思った。



私はベッドから落ちそうになり、意識が途絶える瞬間、

笹にかかっている、何も書かれてないようにしか見えなかった短冊の裏側を見ることができた。



『皆さんの願い事が叶いますように。 ナース一同』






結果的に言うと、私の『生きたい』と書いた願い事は叶い、死にはしなかった。


しかし、私は心と身体を遮断してしまった。


私の身体は、私が動けと念じてももう動いてくれない。


その代わり、どんなに恐怖や不安を抱いても痛みは感じなくなった。


ただ生きているだけの存在である。


出来るならば今すぐ死にたい........


殺して欲しいよ........





あなたは七夕の短冊はなんて書きますか?


願い事を書く時は気をつけた方が良いですよ。


私から言えることはそれだけです。


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