19話 おもらし中に水浴びすれば…
「ところで麻衣ちゃんはなんでこんなところにいるの?」
私は室内で麻衣ちゃんを見かけたときからずっと疑問に思っていたことを聞いた。
すると麻衣ちゃんが一呼吸おいてから、詳しく説明を始める。
麻衣ちゃんが言ったことには、麻衣ちゃんの学校もちょうど夏休みの最中らしく、旅館でのお仕事も数日間休みをもらったため、父方の祖父母の家に帰省しに来たようだった。
「一人で来たの?」
「ううん。妹と二人で来たの」
「そうなんだ……」
私は麻衣ちゃんの言葉に相槌を打ちつつ、救護室内を見渡す。
しかし、突然救護室に運ばれてきたためもちろん、麻衣ちゃんん妹らしき姿は見当たらない。
「もしかして、妹をどこかに置いてきたまま?」
私も千香をロッカールームに置いてきたままでこんなことになってしまったのでとても不安だったため、もしかしてと思い麻衣ちゃんにも聞いた。
すると麻衣ちゃんは楽しそうな表情を一転させ、妹を心配した様子を見せる。
「どうしよ。とりあえず救護室から出ないと」
私たちはあたりを見回して救護担当の人を探した。
すると、デパートやプールなどでの施設では当たり前のように流れる音声が聞こえてくる。
四段階で音の高さが変わっていき、次に人の声が聞こえた。
『本日も東波プールにご来場いただきまして誠にありがとうございます。ご来場中のお客様に迷子のお知らせをいたします。水無月千香様、そして小桜春香様がサービスカウンターでお連れ様をお待ちです。お心当たりのお客様はプール入場口付近のサービスカウンターまでお越しください』
いつも通りの丁寧なアナウンスだったが、これほどまでにドキドキとした迷子アナウンスは初めてだった。
「もしかして小桜春香ちゃんっていう子が麻衣ちゃんの妹?」
麻衣ちゃんは妹の名前が迷子アナウンスで呼ばれて驚いたのか、少し呆然としながらもゆっくりとうなづいた。私も千香が迷子アナウンスで呼ばれたことには驚いたが、麻衣さんの苗字が”小桜”だったということにも少し驚いていた。
私たちは急いでベッドから立ち上がり、救護室の担当の女性に事情を話す。
救護室の決まりで検査をして、症状が大丈夫でないと出られないため、私たちは熱中症の検査をされたが、案の定私たちはただ単におもらしをしてしまっていただけなので、何の問題もなく出ることができた。
救護室をでた私たちは急いでサービスカウンターへ向かう。
しかし地面は少し濡れていて、走ると滑ってしまうので、一歩一歩確実にサービスカウンターへと距離を詰めていく。サービスカウンターはロッカールームからも救護室からも近く、すぐにたどり着いた。サービスカウンターの前までやってきた私たちは、そこまで来た勢いのままドアを開ける。
短い茶髪で元気そうにしている千香と、長い黒髪で今にも泣きそうな女の子が私の目に映った。
私のことを見た千香はより元気な表情になり、一目散に私に抱き着いてきた。
「お姉ちゃん! お姉ちゃんが迷子になったんじゃないかって心配だったんだよ?」
「迷子は千香でしょ。それにロッカールームで待っててねって言ったじゃん。お姉ちゃんがいろいろあって遅くなったのも悪かったけど……」
そう言いつつも元気そうな千香が見れて本当にうれしかった私は、思わず千香の頭をなでる。
「おしっこしたくなっちゃったからおトイレに行ってきたら帰り道がわからなかったの。でもね、春香ちゃんっていうお友達ができたの!」
「ほら、迷子は千香でしょ。でもお友達ができてよかったね」
私は少し笑顔をこぼしつつそう言いながら千香の頭を再びなでた。
私は麻衣ちゃんと春香ちゃんの方をちらりと見た。
すると、春香ちゃんは泣きながらぎゅっと麻衣さんに強く抱き着いていた。
そんな春香ちゃんの頭をなでながら微笑む麻衣ちゃんはいいお姉ちゃんそのものである。
春香ちゃんが泣き止み私たちはサービスカウンターを出て、プールに向かった。
それから私たちは一緒にプールで遊び、昼ご飯も一緒に食べて、再びプールで遊んだ。
気が付くと一般的におやつの時間といわれるような時間になっていた。
「お姉ちゃん! パフェ食べたい!」
私たちは3時になった今もプールを漂っていたが、千香の一言でプールを出ることになった。
少し強めの風が水から出た私たちを突然襲い、水を含んだ水着が風にさらされて急に冷たくなった。
私はそこで突然、下腹部に違和感を覚えた。
おしっこしたい……
寒さのせいで急激におしっこがしたくなった私は、無意識にも少し体をかがめてしまう。
それが大きな間違いで、すこし体をかがめたせいでおしっこが余計にしたくなり、おしっこが出てきてしまった。おしっこはゆっくりだったが水着を通り抜けて太ももを伝い流れていく。
この水流が地面に到達して水たまりを作った時には、もう私は隠しきることができない。
麻衣ちゃんもいるし、春香ちゃんもいるし千香もいるのに……
あぁ、とうとう千香にもバレちゃうのかな。
私はそう絶望しながらも少しずつおしっこを漏らしていく。
すると麻衣ちゃんが水着の上から着ていたラッシュガードを脱ぎ、私の太ももにかけるようにして絞った。私の太ももにはおしっことは違う冷たい液体の感触が伝わる。
「少し元気じゃなさそうな里穂ちゃんにみんなで水攻撃だ! ほら春香も、千香ちゃんも里穂ちゃんに水をかけて!」
私には一瞬麻衣ちゃんが何を言っているのか理解できなかったが、私たち以外の周りの人の和んだ表情を見てすぐにわかった。
そうかこうすることで、私のおもらしが隠れて、それを知らない人からすればただただ姉妹が水遊びをしているように見えるんだ。
麻衣ちゃん、ありがとう……
私は最後の力を振り絞ってまでできるだけ水流を弱めていたおしっこを解き放った。
すると一気に水流が強くなり私の太ももには熱い感触が伝わるが、その感触はすぐにぬるく、そして冷たくなっていく。麻衣ちゃんはラッシュガードに水をしみこませて、千香と春香ちゃんは水鉄砲で私を濡らしていく。私のおしっこは出たと同時に、水で薄められてカモフラージュされていく。
おしっこを出し切った私は一度身震いをした。
「はい! そこまで! 里穂ちゃん元気になった?」
麻衣ちゃんは腕を広げて、千香や春香ちゃんが水鉄砲を撃つのも止めさせる。
「うん! とっても元気になったよ!」
私はとびっきりの笑顔を麻衣ちゃんに見せた。
夏の暑さでからからになっていたはずの私の周囲の地面は、水を吸収して本来よりも少し黒い色になっていた。
そのあと私たちは約束通り甘く冷たいパフェを口にした。
肌についた粒上の水が夏の強い日差しに照らされてキラリと輝く。
強く熱い日差しに、もくもくと膨れて大空に高く広がる入道雲、口にあたる冷たく甘い感触、耳を刺激するセミの鳴き声、そしてプール特有の心地よい騒がしさ、このどれもが強く夏を私に感じさせる。
私たちはその後も少しの間プールで遊び、自動販売機で買ったアイスを食べながら帰りのバスを待っていた。暑かった空気も日が沈みかけると同時に、気温が下がっていき過ごしやすい温度になる。
日が暮れてきて少しオレンジがかった空をバックに膨れている入道雲、そしてそんな中でその名を”ひぐらし”と言わんばかりに、日が暮れてから聞こえるその泣き声は、少しの寂しさを私たちに与えた。
ずっとこんなに楽しい日々が続けばいいのに、麻衣ちゃんはいつかは帰ってしまう。
私は思い切って麻衣ちゃんに聞いた。
「麻衣ちゃん、いつまでこっちにいるの……?」
「8月15日にこっちを出ないといけないの。それからは旅館に戻ってお仕事しないといけないから」
まだ7月中旬で梅雨明けまであと少しといったところで、まだ何週間か麻衣ちゃんと一緒に入れると知った私はとてもうれしかった。それともう一つとっても嬉しい理由があった。
「あのさ麻衣ちゃん。8月14日に地域でやる少し大きめの夏祭りがあるんだけど一緒に来てくれない?私、クラスでメイドカフェやるんだけど、見に来てほしいの」
「そうなの!? 絶対行くよ里穂ちゃん!」
そう言ってもらえてとっても嬉しかった。
それから私たちは同じバスに乗って、来るときに乗ってきたバス停で私と千香は降り、別れた。
帰り道に私と麻衣ちゃんがそろっておむつを濡らしてしまっていたのは言うまでもなかった。
あぁ、夏祭り楽しみだなぁ……