18話 あの前でおもらししてる女性は…
ごめんね18話
プールの入場口までたどり着くと、入場券を買うために並んでいる人が大勢いた。
残念ながら私たちもこのように入場券を買うために並ぶ必要があり、”最後尾”と書かれた板を持っているスタッフの近くに並ぶ。比較的列は進んでいるがそれでもなかなか時間がかかる。20分が経ちようやく行列の半分というところだった。
幸運にも、私たちの頭上には屋根があり、直射日光は避けられる。
それに、この時期だけ設置したようなミスト噴霧装置が設置されていて、細かい水の粒が私たちの肌にあたる。
その水はすぐに蒸発して私たちから熱さを奪っていった。
千香が腕についた細かい水滴を触り、顔に笑顔を浮かべている。
「ミスト冷たいね!」
「そうだね!」
千香の元気なその言葉に私も元気をもらい、語調がすこし軽やかになった。
今までの私は、昨晩のことや車内でのおもらしのことをまだ引きずっていたのかもしれない。
もう20分が経ちようやく入場券を購入できた私たちはようやく入場することができた。
普通なら、水着に着替えてからロッカールームに荷物を預けなければいけないのだが、すでに水着を中に着ている私たちは直接ロッカールームに向かう。
そこには私たちと同じ考えの人も多くて、服を脱ぐと水着が見えるような人ばかりだった。
私たちも同じように今着ている服を脱ぎ、水着姿になる。
私も千香もあまり肌を露出させないようなタンキニ水着で、さらに私はその上からラッシュガードを身に着ける。
そして周りの人と同じように浮き輪を使うために膨らまそうとカバン中を探る。
しかし一向に私の手に浮き輪特有の感触が触れることはない。
そこで私はロッカーに貼られていたポスターを見た。
”浮き輪無料貸し出し中”
こんな偶然あるのだろうかと驚きもしたが、浮き輪なしでプールを漂うのは少し寂しい。
「浮き輪忘れちゃったから借りてくるね。動かないでここで待っててね」
「うん!」
私は千香にそう告げて、ポスターの地図に書かれてある場所へ向かう。
その場所には案の定行列ができていた。
しかし、入場券の列の半分ほどの長さで、回転率も速いため、すぐに借りることができそうだった。
並んで5分が経っただろうか、バス停からプールまで歩いて20分、入場券を買うために40分、着替えるのに10分、そしてロッカールームからここまでで数分、バスでおもらししてからほとんど合計で1時間20分が経つ。
その上、暑さのせいで大量に飲み物を飲んでいた私の膀胱はほとんど限界だった。
すると、私の前方から水の音が聞こえてきた。プールはすべて私の後ろ側にあり、シャワーも水道も近くにはない。
私は前の人の体から少しずらして、もう一人前の人を見る。
背が高く、清楚で美人な女性がおもらししてしまっている姿が目に映る。
水着の生地を通り出てくるおしっこは、スカートを通って出てくるおしっこのように勢いが弱められているわけではなく、幾度と水流の向きを変えて地面に音を立てて落ちていく。
その人のおしっこが、夏の暑さでからからになった木製の床を湿らしていく。
突然、もっと近くのところで同じような水の音が聞こえてくる。
私は一瞬だけほかの周りの人がまたおもらししたのかと思ったが、明らかに私の太ももに伝わる感触は異常だった。
二つ前の女性のおもらしに気を取られていたのか、そのおもらしの解放感を羨ましく思ったのかはわからないが、確実に女性のおもらしに触発されて自然におしっこが出てきてしまった。
太ももを伝って流れていくのは勢いが弱い初めのうちだけで、徐々に勢いが強くなりそのまま音を立て地面に落ちていく。二つ前の人のおもらしに驚いていた前の人は私の方を向き再び驚いた。
四方八方から視線を感じて、余計に恥ずかしくなる。
私は恥ずかしさに耐え切れず、おしっこを出しながらもその場にしゃがみ込む。
ふと顔を上げると、前の人の足の間から、私以外におもらしをしてしまった人もしゃがみ込んでいるのが見えた。
すると誰かがその人の背中をたたくのが見え、そのすぐ後に私も背中をたたかれた。
振り向くと、”ライフセーバー”の文字が書かれたTシャツを着た男の人がたっていた。
「大丈夫ですか? 救護室に案内しますね」
おもらしをしてしまった恥ずかしさと、それを見られた恥ずかしさ、そして突然話しかけられた驚きにより私は声を出すことができずに、救護室まで連れていかれた。
それはもう一人の女性も同じだった。
救護室に入り、私たちは室内のベッドに寝かされた。
その後、男性は元の場所に戻り、室内には私とその女性の二人だけになる。
ベッドの横にあるミニテーブルには経口補水液が置かれていた。
「しゃがみ込んだせいで熱中症と間違われたのかな……」
私は一人でボソッとそうつぶやいた。
「熱中症、大丈夫ですか?」
パーテーションの向こうから先ほどの女性から話しかけられたが、ここで熱中症を否定してしまえば私は普通におもらしをしてしまった恥ずかしい人になってしまう。私は一瞬嘘をつくことを考えたが、別のことに気が付いた。
さっきの声どこかで聞いたことがあるような……
私は思い切ってパーテーションを一気に開いた。
「麻衣ちゃん!?」
「里穂ちゃん!?」
目には、あの家族旅行で仲良くなった仲居さんの麻衣ちゃんが映り、私は驚きで目を見開いてしまう。
「もしかして里穂ちゃん、普通におもらししちゃった?」
「うん。麻衣ちゃんは?」
「私もだよ」
結局何の心配もすることなく、熱中症になり意識が朦朧としたせいでおもらししてしまったわけではなかったのだ。
麻衣ちゃんはとても笑顔で、私も自然と口角が上がっていて笑顔になっている気がした。




