10話 麻衣さんとおもらし
私の胸の高鳴りはとどまるところを知らずに、どんどんとその感覚を狭めていく。この心拍数の増加は、おしっこを我慢しているせいでも、温泉に入り体が温まっているせいでもない。
麻衣さんの”一緒にここでしよ”の一言が私の心臓をより激しく動かしているのである。
私はおもらしすることはよくあるが、意図して放尿するようなことは一度もなかった。
私はその行為自体に興奮しているのか、麻衣さんの恥じらったその言い方に可愛さを感じて興奮していたのかもしれない。
「麻衣さん、ほんとにここでするの?」
「だって、私ほんとにおしっこしたい」
麻衣さんが恥ずかしそうに、股間に直接手を当ててもじもじする。水面の向こう側にある麻衣さんの股間は光の屈折のせいで少し歪んで私の目に映る。
しかし、歪んでいても私は麻衣さんのその様子にドキッとした。
「私も、すごくしたい」
私も麻衣さんと同じように前を抑えながら尿意を告白する。
私のその一言で麻衣さんの目が少し輝く。
「じゃあ一緒にしよ!」
「う、うん」
私は仕方なく、麻衣さんの頼みを受けることにした。
はしたないが私たちは露天風呂の縁を形づくる、低い石垣の上に和式トイレでおしっこをするような体勢でしゃがむ。
その恰好はかなり尿道が開くようで、私は今にも漏らしてしまいそうだった。
私たちは一度顔を見合わせて、同時に出すという合図をする。
とうとう私の膀胱にたまった黄色い液体を出すことができる。
でも、この場所は外で今の私は裸である。私は何とも言えない羞恥心で少しおかしくなりそうだった。しかし麻衣さんも私と同じような状態なんだと顔を見合わせたときに分かった。
私達がおしっこを出そうとしたその時、私達の背後で男性の声がした。
「今日は麻衣さんがいないみたいだから、俺が代わりに女湯も掃除しなきゃならないんだな」
その声は脱衣所のドアの向こう側から聞こえていたが、その声のすぐ後に脱衣所のドアが開かれる。声の主は紛れもなく、サウナで私におもらしのことを問いただしてきた少年だった。私は声の主を知っているせいか余計にヒヤッとする。
しかし、それは麻衣さんも同じようで私達は驚きで固まってしまっていた。
「何してるんですか!? もう温泉自体の営業時間は終わっていますよ!」
少年の驚く声が私達の背後で聞こえる。しかし、少年はまだ私の正体に気が付いている様子はなかった。私のその安心もつかの間、徐々に少年の足音が近づいてくる。
温泉の少し濡れたタイルに人の肌が触れてぴちゃぴちゃという音が次第に大きくなり私達により緊張感を持たせる。
すると、麻衣さんが突然立ち上がった。私はそんな麻衣さんに驚きつつも私も立ち上がる。
こんなことしてしまえば、少年に私達二人のお尻は必ず見られてしまうだろう。
こんなことなら2人だけだから大丈夫だと思って、持ってこなかったタオルを持ってきていればよかった……
「私達のことは追わないでください!」
その声はいつもの麻衣さんの声とは違っていたが、かすかに麻衣さんの声の調子が残っていた。麻衣さんはその言葉を少年に告げた後、少年に背を向けたまま脱衣所の方へと向かっていく。私はそれについていくほかないと思い、麻衣さんと時々肌が触れ合うくらいの距離を保ちつつ脱衣所に向かう。
「その声、麻衣さんですか?」
少年が麻衣さんに向けて、そんなドストレートな声を投げかける。
「い、いいえ! 違います!」
麻衣さんの嘘はとても苦しいものだった。麻衣さんは私の手を握り、歩く速度を速めてより早く脱衣所に向かう。私は引っ張られながらも必死でそれについて行った。
濡れた床で足が若干滑りそうになるが、ここでこけてはほぼ確実におもらししてしまうと思ったので、一歩一歩を確実に進める。
そしてようやく私達は脱衣所に到着した。
脱衣所についた私たちは裸を隠すために、すぐ浴衣を羽織った。
「やっぱり麻衣さんじゃないですか。それにあなたはさっきの……」
私はとうとうバレてしまい恥ずかしさのあまり、麻衣さんの手を握る。
麻衣さんの手はまだ少し濡れていた。私は少年を少しにらむような眼で見つめる。
すると、突然私の手が麻衣さんによって強く握り返された。
私は視線を穏やかなものに戻して、麻衣さんの顔に向ける。
麻衣さんは目をぎゅっとつむり、時々苦しそうに息をしていた。
「麻衣さん、トイレ行きましょ。私もしたいので……」
「里穂ちゃんありがとう。一緒にがんばろ」
私達は手と手を取り合い、ゆっくりだが一歩ずつ確実にトイレへと歩いていく。
だが我慢が限界なせいで1分経っても脱衣所を抜け出すことはできなかった。
「大丈夫ですか?」
少年が私達にそう問いかけるが、私はおしっこを我慢していて気がたっているせいか、元から彼に嫌悪感を抱いているせいか、私達を心配しているようには聞き取れなかった。
「ねえ里穂ちゃん、私もう無理かも……」
「麻衣さん頑張って。でも私ももう無理かもしれない……」
私は麻衣さんを励ましておきながら、もうほとんど歩けないほど限界だった。
麻衣さんにその意を伝えようかとも思ったが、もう声も出せないほどでただ我慢の反動で麻衣さんの手を強く握ることぐらいしかできなかった。そして、麻衣さんも私の手を強く握り返すことしかできなかったようだ。
とうとう私は耐えきれなくなり、麻衣さんと手をつないだままおもらしを始めてしまった。
しかし、麻衣さんはそんな私の様子に気がつくこともなく、ただただ俯いているだけだった。私の浴衣の前の部分にはおしっこがしみだしてきて、白い生地を黄色く染色していく。私は麻衣さんの浴衣にも目をやった。
そこには私と同じように、黄色いしみが今も広がり続けていた。
麻衣さんもおもらししたんだ。
私はそう考えてはいるが、私のおもらしはとどまることなく床に落ちて広がっていく。
床に落ちたおしっこは脱衣所の床で冷えた私の足を温める。
しかし、私は足元に違う感覚を感じた。
それは麻衣さんのおしっこのぬくもりだった。
浴衣や太ももを伝い流れ出した私のおしっこは、同じように流れてきた麻衣さんのおしっこと混ざり合い、大きな一つの水たまりを形成する。
私たちはそのまま少年にみられながらもおしっこを出し続けた。
私は今までになかったほどの罪悪感で、二人のおもらしでできた水たまりの上に、ペタリと座り込んでしまう。膝やふくらはぎなど、濡れていなかった部分の浴衣が黄色に染まっていく。
気がつけば麻衣さんも隣で同じように座り込んでいた。
「麻衣さん、いっぱいおもらししちゃったね」
「里穂ちゃんもだよ」
その瞬間私たちの間からおもらしによる罪悪感と絶望感は消え去った。
私達は数分間笑いながら、今のおもらしについて話し合った。
「あの、ここは掃除しておくんで着替えてきたらどうですか?」
少年が今までとは違った優しそうな様子で私達にそう言ってくれた。
すると、麻衣さんは少年の顔を見上げてにっこりとした表情で返事をする。
「相馬君、ありがとう!」
この時の麻衣さんはとてもキラキラして見えた。
麻衣さんはそのキラキラとした表情のまま私の方を見ながら、おしっこで濡れた私の手をぎゅっと握る。すると私の手の上でも二人のおしっこが混ざり合った気がした。
「着替えに行こ! 里穂ちゃん!」
「うん! 麻衣ちゃん!」