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15 試練

「この橋を渡った先が、次の試練の場所だよ」


 そこは、四方を川に囲まれた三角州の小島で、なかなかに広く、大小様々な種類の植物が生えている。


 橋を渡り終え、クーリーが言った。

「次の試練は僕が決める!今回は、かくれんぼ!!

 この小島の外に出るのは禁止。

 僕は隠れる役。アトラとサクラは探す方で、どっち(・・・)かが見つけたら試練クリア!!

 ただし!!結界は禁止だから!!」


 クーリーは子供の姿だが、侮れん相手だ。勝つためには策がいるだろう。

 ……すぐに思いつきはするが、流石にこの手はマズイかもしれん。

「この島は燃やしても良い?」


 ……


「ダメに決まってるでしょ!!」


 それなら

「木はなぎ倒してもい……


「絶対ダメ!!」


「なるほど……一つ確認だけど、心を読むのは禁止だよな?」


「最初からそうしてるよ?

 もう質問は無いね?

 じゃあ時間は1時間!!開始!!」


 10秒数え、ひとまずサクラと相談し、島の両端から丹念に探す事にした。

 しかし、見つからず、サクラとすれ違った。

 2度3度それを繰り返しても、見つからない。


 そこで運良くクーリーの足跡を見つけた。

「アイ、この足跡は追える?」

 《解答、可能です。視覚補助しますか?》

「さすがアイ!!じゃあ、お願い」

 直後、クーリーの足跡が光って見えるようになった。

 ……しかし、行けども行けども、足跡の主には辿り着かない。

 いつのまにかサクラも後ろをついて来ている。

 そしてサクラが衝撃の事実を口にするのだった!!


「どうしてグルグル回っているの?」


 言われて見れば、自分の足跡が4周分ある

 クーリーはわざと足跡を残した後木に登ってどこかに移動したのだろう。


 ……もちろん気づいていたさ!!

 犯人は現場に戻ると言うし、それを確かめていたのさ!!きっとそうだ!!

「……こうしたら見つかるかな?って」

 我ながらおかしな発言だ。

 サクラはクスッと笑って追求はしなかった。優しい子なのだ。


「サクラ、何か考えある?」


「うーん……お菓子で誘うとかは?」

 うむ、なかなかの策士。


 早速試してみたが、やはり来ない。


 あまり気は進まないが、一つ試そう。

 申し訳ないが、時間が無いのだ。


 右腕を銃に変形させてエネルギーを貯める。

 銃口に土を詰め、左腕の『創造の力』で作り出した皮膚膜を貼り付けた。


 空砲だ。

 弾丸は発射しない、大きな音が鳴るだけ。


 豪ッ!!

 と尾を引く爆発音の後、遠くでヒャッと悲鳴が聞こえた。

 そこか!!

 と思ったが、探しには行かない。

 探す必要がない。


 反則負けだ!!


 この言葉のみを思い浮かべるだけで良い!!

 案の定クーリーの方からやって来た。

「心配したのに!!騙された!!」

 そう、大きな爆発音がすれば、驚き、心配にもなる。

 そうなれば、かくれんぼの事など忘れ、心を読んで、情報収集するはずなのだ。

 その反則負けを狙ったのだ。


 クーリーはプイ!!っと少し不機嫌そうな様子だったが、サクラが例のお菓子を差し出すと、途端に笑顔に戻った。


 最後の試練場所は背の高い木が囲む円型の広場。

 広場には地面や木の上にクーリーそっくりの〝クラゲ族〟がたくさん集まっているが、お喋りなどは無く怖いほどの静かさだった。

 みんなで試練を見に来たのだろうか。


 広場の中央には直径約5メートルに盛り上がった土手が作られ、その枠を太縄がぐるっと一周している。


 通常より少し広いが、それは土俵だ。

 次の試練は何か聞かなくても分かる。

「土俵だ」

 サクラがポツリと。

 そう、土俵だ……

 ……じゃなかった相撲だ。


「相撲は分かるよね?足の裏以外の部分が地面に着いたら負け、土俵から出ても負け。

 勝ったら(・・・・)試練クリアで良いよ」


 こんな子供の体躯のクーリーが到底強いとは思えないが、今までの事がある。

 油断は出来ない。

 それに結界は禁止されていない。

 サクラなら間違いなく勝てる筈だが……何か見落としている気がする。

 迷うところだが……


「俺から行こう」

 サクラは絶対有利のはずだが、奥の手があるなら俺の方でそれを引き出せば、対策を取れる。

 それにクーリーの身体能力はサクラ

 を超えている。結界を展開する時間は無いかもしれない。その前に体力を奪えるなら儲けものだ、という打算もある。


 土俵に上がると、クーリーも続いて土俵に上がった。

「さっきの試練、本当は時間ギリギリになったら負けるつもりだったんだ。

 でも、あんなインチキするなら、もう負けてやらない!

 また来年受けてよ」


 来年まで待つ時間など無い。


 審判であり、行司役の青色〝クラゲ族〟が土俵に入った。


 クーリーはすでに地面に手を下ろして、準備万端と言った状況だ。


 俺も手を下ろす。


 相撲に開始の合図は無い。

 両者が勝手に決める事が出来るのが相撲の特徴的なところだ。


 静寂が辺りを包む。


「ヘクシユン!!」

 サクラのくしゃみが合図となって、両者が足を踏み込み、一気に加速した。


 衝突の寸前、クーリーは少し笑っている気がした。


 衝突の瞬間、クーリーの体は波のように体がうねり、ほんの僅かな飛沫とともにアトラの体は素通りした。

 勢いあまり、土俵際に自らの突っ込む形になったが、ギリギリのところで土俵の内側を保った。

 もう少しで負けていた。


 感触は水に飛び込む感覚に似ていた。暖かいプールのような感覚。


 クラゲは体の99%が水なのだ。

 と言っても水のようにサラサラになる訳は無いとは思う。


 おそらくクーリーは限りなく水に近い割合で体が出来ている。そこに細胞膜と水分の違いは無いだろう。

 水そのものと言っても過言では無い。まさに掴み所が無いのだった。


 クーリーは背後から腰と背中あたりを掴んで押して来た。やはり腕力は子供のそれでは無い。

 クーリーの小さな体からは想像出来ないほど力強さだ。

 体制の悪さも伴い、このままでは押し負け兼ねない状況だ。


 しかし、なぜ掴めるのだ!?

 そうか、都合の良い時だけ、結界を張って実体化まがいの事をしているんだ。

 結界を禁止しなかったのもこのためか!!

 俺が『結界術』を使えなかったのも、心を読んで知っていたんだ。

 だが、それならば『不可侵結界』を使えるサクラは勝てる筈だ!!

 次の勝負で、確実に……


 ……いや……ダメだ!!


 今回の試練では、『どっちか(・・・・)が勝ったら』とは言っていなかった。

 サクラが勝っても俺は試練失敗とみなすつもりだ!

 それどころか、連帯責任としてサクラには挑戦の機会すら与えないのかもしれない!!


 勝たなきゃいけない!!なんとしてでも!!


 クルッと転身し、クーリーを押し返そうとするが、すでに結界は解かれ、ズルッと体を素通りする。

 隙を逃さないクーリーはめざとく足をかけてきていた。

 バランスを崩し、顔が地面に着く寸前のところで踏ん張って耐えたが、また後ろから押されたのだった。


 勝つだけなら右腕を高熱にすれば、水を蒸発させてダメージを与えられる。

 しかし、今回は戦いじゃない。

 傷つける事はしたくない。


 何か考えろ!!

 勝つための手段を!!


 不意に背中で押していた力がスッと無くなる。

 クーリーの体を通り過ぎ、尻餅をつきそうになったが、姿勢低く、土俵際で耐えた。


 クーリーはいたずらな笑顔を浮かべて向かってくる。


 何か、何か手は無いか?

 あるはずなんだ!!何か!!


 ——刹那

 止まった時の中、強く真に迫ったその意思に脳が答えを見つけ出した。

 ……理解した。いや思い出したのだ。

 おそらくアイにはアップデートされていない力。

 そしてこの体の元の持ち主は知っていても使いこなかったこの力の使い方……

 時は動きだし、アトラの体はしっかりとクーリーを掴んでいた。


「あれ?結界は解いたはず!!」


 正面同士の押し合いではアトラに分がある。

 二条の轍を地に引き、あっという間にクーリーを押し出した。

 クーリーはポンと優しく地面に降ろされ、軍配は上がる。


 アトラの勝ちだ。


 ギャラリーはやはり声はあげないが皆笑顔だった。

「アトラ!!すごいよ!!まさかまともに勝負して負けるなんて思わなかった!!」

 クーリーは純粋に賞賛している。

「実はさ!!最初の衝突があったでしょ!?

 アレで僕の体の一部が弾かれて地面に落ちたんだ!!

 だから、本当は僕がアトラに勝った後、『本当は立ち合いの時点で負けてました!!』

 ってする予定だったんだけど、すごいよ!!

 大抵の人は氷結魔法とか使うのに、純粋に僕に勝つなんて本当にすごいよ!!」


「いや、本当に危ないところだったよ」

 クーリーのおかげで思い出したこの力、使い所は限られるが、悪くない。

「ありがとう、試練は?」


「文句無しの合格だよ!!

 精霊王のところに案内するね!!」

 とクーリー。


「サクラの試練は?」


「あれ?言ってなかったっけ?どちらかが勝てば試練クリアだよ!」

 クーリーは意地悪な笑顔をして言った。


 今度は逆に騙されたのか。

 いたずらなやつだ。


 試練の全てが終了し、心を読見始めたクーリーは、言った。

「お互い様だよ!!」

 そう言ってクーリーは案内を開始した。

 クーリーとクーリーにそっくりギャラリー達と共に森を奥へ奥へと進むこと1時間。


 太陽は、沈みかけ、静かな夜空に星空が浮かび始めていた。


 クーリーが言った

「精霊王は僕たちの母親であり、僕たちそのものでもある。

 僕たちでは精霊王の心を読めないけど、精霊王は僕たちの心を読むことができる。

 まぁ、特別性の僕は兄弟達の心も読めないのだけどね。

 とにかく!!精霊王はすっごくて!!

 心どころか魂まで読む事ができて、その範囲も僕たちの何十倍も広い。

 とりあえずすっごいんだよ!!

 一つ言っとくけど、精霊王に嘘はつけないし、精霊王から君達を庇う事は出来ないからね!!

 最後に!!

 絶対に失礼の無いようにね!」


 クーリーは最後に静かに言った。

「……僕はまだ生まれて1年くらいしか経ってないから見たこと無いけど、怒ると怖いらしいよ」

 10メートル程先には淡く赤い光を放つ場所があった。

 そこが精霊王がいる場所なのだろう。

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