表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/25

14 クーリー

 翌朝、ぐっすりと眠った清々しい朝だ。

 ボンヤリと朝の雰囲気を楽しんでいると、体の驚くべき変化に気づいた。

 何と、体が直っているのだ。

 右肩から首まであったひび割れが無くなり、左腕も元の大きさに戻って、反応も良好。


 昨日食べた食事から材料を得て回復したのだ。


 同じ鋼鉄魔獣(こうてつまじゅう)であるメルケギア、あいつはデリッターと名乗っていたが、奴を吸収すると、体は更に修復するが、部品をもらえるかは要相談になるだろう。


 5日間寝たきりだったのに起きた翌日には目立った傷も無いのだ。医者や看護師は驚いていた。


 今日は一日休みだ。

 なので、街の散策と精霊王の森への案内人と会う事にした。

 森にはサクラも行くので誘っていた。


 朝食を食べて、サクラと共に病院から出る。


 商店街に来たが、人通りは少なく、およそ活気という物は無い。

 食料品や日用品も品揃えは少ない。


 ここに来た理由は、お土産だ。


 ゲルマはお土産は必要無いと言っていたが、日本人である俺とサクラで相談した結果、買うべきだろうと結論付けた。


 現金はゲルマから借りて、ここに来た。

 借金など一国の君主になればすぐに返せるだろう。


 探しているのはお菓子だ。

 お土産と言えば菓子が定番だろう。


 種類も数も少ないが、珍しい菓子が並ぶ。


 クッキーのような物もあれば、菓子パンのような物、ドライフルーツまである。

 いくつか買って二人で食べた。

 その中で一つお土産に選んだ。


 ヤシの木の実から抽出した油と甘い果実を瓶詰めし、食べる直前に砂糖をかけて食べる『シュガーフルーツ』というお菓子だ。

 甘すぎないか?

 と思ったが、慣れてくると美味しい。

 何よりもサクラが気に入ったようで、

 食べるたびに「美味しい」と言って、自分で食べる用も買っている。


 お土産は決まった。

 ついでだからもう一軒立ち寄る事にした。

 魔道具屋〝コンビニエンス〟だ。

 クローゼから紹介されたこの魔道具屋の名前を聞いたとき、二人とも「え?コンビニ?」

 となったが、考えてみれば、コンビニエンスとは〝便利〟という意味だ。

 確かに、魔道具は便利なのだろう。


 鎖国前のドラグニアでは多くの魔道具屋が点在していたが、鎖国の影響で冒険者が入国出来なくなった事で客は激減し、今ではこの店舗を残すのみ。

 この国唯一の魔道具屋なのだ


 店舗は当時も今もドラグニア最大の広さと品揃えを誇っている。

 店長はドワーフと言われる種族で、背は小さいが筋骨隆々だ。魔道具の仕入れはもちろん、制作から店番を同時に来なしている。


 従業員を雇えなくなったのだろうと思ったが、違うらしい。

 この店は鎖国前から一人で回しているのだ。

 広い店内をどうやって回すのかと思ったが、そもそも客も少ないから続けられるのだ。

 なぜ客が少ないか。


 理由はすぐに分かった。

 店内がめちゃくちゃ暑い。

 もう本当に!

 店内に製鉄工房があって、常に炎の熱が室内を循環しているのだ。


 真夏にサウナの中で厚着してコタツに入り、熱々のお茶を飲みながらグツグツの鍋を食べるような感じだ。


 これでは客も来ないが、従業員も来ないだろう。

 地獄の鬼も真っ青だ。

 鋼鉄の体は汗をかかないし、暑さも感覚を遮断すれば大した事は無いが、サクラは大変だろう。

 と心配して見ると、『不可侵結界』を使って涼しい顔をしていた。


 己に対して不快なもの全て、熱すら遮断するのだから冷房要らずで、便利な術式だ。


 ゆっくりと商品を見ると、店長は熱心に商品の特徴を語ってくれる。


 そう……人柄も熱い、暑苦しいのだ……人柄ばっかりは結界でも防げない。


 正直こう言うグイグイくるタイプは苦手だ……


 気を取り直して魔道具を見ていると、商品棚の隅々まで清掃されていることが分かる。

 その管理の徹底さから、良い物を売っているとは思う。


 エルフの霊薬と呼ばれる体と魔力を同時に再生させる薬が売っていた。

 一度限りだが、開くだけに術式を使える巻物と呼ばれる魔道具が置いている。


『テレポートの巻物』も一本だけ売られているそうだ。

 しかし、展示されているのは実物では無く、レプリカで。どこかに隠しているのだ。

 理由は余りにも高価なため、盗難対策なのだと言う。


『テレポートの巻物』なんかは大量生産すれば物流の概念が根本から変わるんじゃ無いかと思ったが、凶悪な魔物である毒龍の牙毒から作るインクと、植物の巨人であるトレントの心臓を加工して作った紙を素材として使い。

 超一流の術師が百人規模で何十日も交代しながら作る巻物で、ほとんど市場に出回らない上に超高級品らしい。


 クローゼが得意とする魔法『マジックミサイル』の巻物もある。

『マジックミサイル』は強力な魔法だ。にも関わらずその魔法の習得者は少ない。


 理由は3つある。

 一つは誰もが習得出来るほど、簡単では無いこと。大量の魔力を高密度に収束し、敵となる対象を視認、視認した対象の自動追尾と爆発の能力を加え、推進力を与えて放つ。


 視認はともかく、魔力の高密度化と自動追尾のはかなり難しいのだ。

 魔力の操り方を知らない俺には分からないが。


 二つ目の理由は、威力は申し分無いが、消費魔力が大き過ぎて、魔力量が多い者でないと使用後の継戦能力が著しく落ちるためリスクが高すぎるのだ。


 最後の理由は、この『マジックミサイルの巻物』の存在だ。

『マジックミサイルの巻物』は高価ではあるが、一気に形勢を逆転する威力を持ち、かつ魔力を消費する事なく放つ事が出来るのだ。

 命の保険、奥の手となり得る事を考えれば、特段高い物とは言えないだろう。リスク無しでこの威力ならばまだまだ良い買い物と言えるのだ。


『巻物』で使えるならば、この魔法を習得するよりも優先度の高い他の術式を習得した方が良いというものだ。


 なるほど、この店は、高級品から凡用品まで扱っている良い店だろう。


 武器は、妖刀や魔剣、二つ名を持つ武器がゴロゴロとしている。

 今のところはそれを買うお金は無い。

 しかし、おいそれと買える訳では無いそうだ、妖刀や魔剣などは使用者を選び、下手をすれば死ぬそうだ。

 なんと恐ろしい。


 有意義だが、あまりに暑いので早々に切り上げた。

 魔道具についての下調べとしては上々である。


 次に本題だ。


 お土産も買った。魔道具屋にも行った。いよいよ案内人へのあいさつだ。


 案内人の場所には少し距離がある。

 せっかくの機会だ、サクラとは話さなきゃならない事がある。

「サクラ、間違ってたらごめん。もしかしてだけど、この体を返そうとしてる?」


「どうして……分かったの??」


「俺も同じ事を考えたからさ、借りた物は返さなきゃって思うのは、日本人として当然だろ?」


「そう……うん。……私も思ってた、あるべき人へ返すべきじゃないかって」

 サクラは、可愛らしい笑顔を見せて言ったが、ほんの一瞬心配そうな顔を見せたのを見逃さなかった。


「ねぇ、この体を返したらどうなるかな?意識はあるかな?あってほしいな、この世界をもっと見てみたいんだ」

 アトラは言った。


「きっと見れるよ……でもアトラ。

 アトラは返さなくていいんだよ?

 私に付き合ってる見たいで……アトラは悪くないもの……」

 やはり心配そうにサクラは言った。


「……いや、サクラは返したけど、俺が返さないなんてやっぱりおかしいよ」

 と言って笑いかけた。


「本当に無理しなくても良いからね……?でも同じ気持ちをだったら嬉しいな」

 サクラは本当に嬉しそうに花を咲かせた。満面の笑みを、美しさと、純真な心を持って。

 それはまるで満開の桜のように可愛らしく綺麗だった。


 その時気付いた。

 あぁ、俺はサクラが好きなんだ……


 ——


 しばらくが過ぎ、宮殿近くにある高級宿に着いた。

 そこに案内人がいる。

 高級宿といっても、1年の鎖国によって質はかなり落ちているのだが、案内人に監禁した無礼を詫び、精一杯の丁寧な扱いをしているのだ。


 従業員に案内されて連れて来られた部屋に案内人は居た。

 精霊種と呼ばれる海洋生物の見た目をした亜人。

 聞いていた通りの少年の〝クラゲ族〟だ。

 体全体が紅色がかった半透明。

 キノコのような頭部や肘のあたりから水滴のように垂れるプヨプヨの短い触手が垂れている。


「君たちが、アトラとサクラだね?わざわざお土産なんて良いのに……

 まぁせっかく来たならみんなで食べよう、僕も『シュガーフルーツ』は大好きなんだ」

 と笑顔を見せた。


 驚いた。

 あいさつに来ることは知っていたとしても、『シュガーフルーツ』を持ってくるなんて知らないはずだった。

 当てずっぽうという線もあるが……

 それにしては確信めいている。


「別に隠すつもりは無いけど、僕は心が読めるんだ。

 魂があるならね、でも、魂がある鋼鉄魔獣なんて初めてだよ。アトラ君はきっと精霊王が探していた人物に間違い無いと思う」


 サクラと顔を見合わせた。

 心を読めるなんて、ちょっと怖いし驚いているのだが、サクラは笑顔だった。

 何故だろうと思っていると……


 小声で

「かわいいね……!」

 と言って案内人に振り向き、

「一緒に食べよう!」

 と続け、嬉しそうに『シュガーフルーツ』を取り出した。


 天然の対応力とは凄いものである。


「精霊王に会いたいのだけど、案内してくれないか?」

 椅子に座り菓子をつまみながら切り出した。


「明日でしょ?いいよ!」


 心が読めると話が早い。


 サクラが言った

「お名前はなんて言うの?」


「うーん、名前か……僕に名前は無いんだけど……じゃあクーリーって呼んでよ」


「名前が無いってどういうことだ?」

 アトラは聞いた。


 サクラは多分そこらへんは気にしないと思ったからだ。


「例えば、人間にはおおよそ40兆の細胞があるよね?

 その細胞一つ一つに名前は付けて無いよね?

 つまりそう言うことだよ」


「……なるほど……ますますわからんのだが!?」


「う〜ん……僕らは精霊王の細胞から生まれた分身みたいなものなんだ。

 精霊王の名前がクイーンズだからそからもじってクーリーって名乗る事にしたんだ」


「えっと……クーリーは、精霊王から生まれたたくさんいる兄弟の一人ってこと?」


「そんな感じ、けど僕は特別なんだ」

 クーリーは言葉を切り、

「他の兄弟の意思は統合されていて、兄弟みんなで一つの生物みたいになってるけど、僕は違う。僕は兄弟と意思が繋がっていない代わりに、固有の意思をもつんだ!!すごいでしょ!?」


「兄弟はみんなで一つの群体生物で、クーリーは一人って理解で良いかな?」


「まぁそうだよ。まぁ、明日分かるよ!ほら、早く食べよう!!」


 クーリーは、それこそ、くだらない話から真面目な話全て楽しそうに聞いた。

 そして別れ際に聞いた。

 精霊王に会うには試練が与えられらしい。


 ——そして翌朝、


 いよいよ、精霊王の森の入口に立つ。

 サクラとクーリーの3人で森に入った。


 森は生命力が溢れ、生き物の気配に満ちている。

 木漏れ日は優しく降り注ぎ、実に気持ちがいい。

 クーリーは森を何度も曲がりながら案内していた。森の道を覚えさせ無い為の工夫だろうが、念のため一人でも戻れるようにアイに記録してもらった。


 少し先に進むと、円形の広間に出た。

 広間には背の高い植物は生えておらず、太陽の光が降り注ぐ。

 直径は100メートルはある。

 人工的に造られたのだろう。

 クーリーが声をかける。


「試練は全部で3つ、第1の試練はここでするけど、どんなのが良い?」


「……というと?」


「試練だよ!何か希望はある?この広間からでなければ何でも良いよ!!」


「俺たちが決めていいのか?」


「好きに決めて良い事になってるんだ。

 僕は、楽しそうだったら何でも良いよ!

 2対1でもいいけど、僕は手を抜かないからね!」


 適当だな……

 試練と聞いて気構えていたのに、ちょっと拍子抜けだ。

 ん?ちょっと待て。

「それって卑怯すぎないか?

 クーリーは心を読めるんだろう?

 駆け引きなんてあったもんじゃない、後出しジャンケンもいいとこだろう?

 今から試練が全て終わるまで心を読むの禁止にしてくれ」


「ゔ〜ん、この力は別に万能じゃないんだけど……別に良いよ。

 あ、そうだ、一つでも失敗したら終わりだよ。来年まで試練は受けれない。

 だから、慎重に決めてね!」


 まずは良かった。

 サクラと相談した。

 安全かつ、絶対有利な条件だ。

 誰もが知り、誰でもしたことのある遊び。

「鬼ごっこだ!!」


「楽しそう!!

 じゃあ、二人が鬼で、どちらかが僕を捕まえれば勝ちで良いね!?」


「一つ確認だけど、この広場から出たら負けで良いだよな?」


「良いよ!!それじゃあ、開始!!」

 合図と同時にクーリーは疾走した。

 視覚から消え、残るは残像しか見えない。


 めちゃくちゃ早い!!

 大人の全力疾走でも勝てないだろう。

 子供のような見た目をしてあんなに早いとは想定外だった。

 これは追いつけないかもしれん。


 でも残念、範囲を決めた時点でこれは足の速さを競う遊びじゃ無くなったのだ。


 サクラの不可侵結界の最大展開距離は直径300メートルある。

 その広場を覆う広大な結界を張り、徐々に狭め出す。

 手が届くまでそれは止まらないぞ!!


 ……残念だったなクーリーよ!!

 大人は汚いのだ!!

 口車に乗った時点でお前の負けは決定したのだ。

 大人は勝つためには何でもする。一つ勉強になったな!!

 せいぜい足掻くが良い!!

 ハーッハハハハ!!!


 そうやって呆気なく第1の試練を突破した。


 クーリーは怒っているかと思っていたが、随分と楽しそうだった。

「ははは!!まさか、こんな変な結界使えるなんて思わなかった!!楽しいね!!さぁ、次の試練会場に出発だ!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ