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13 戦い

 サクラは結界の維持に必要の魔力が、急激に落ちるのを感じた。


 メルケギアを倒したの?


 アトラが居たはずの場所を手探りで探すが感触は無い。

 目の前は瞼が開いているのか閉じているのか分からない真っ白なまま。


「……アトラ?」

 耳鳴りひどく、本当に自分の声が出ているのか自信が無い。


「アトラ?ゲルマ?」


 無事を確かめるならば結界を解く他ない、たが、それは罠かも知れない。

 頭では分かっていても、解いて確かめたい。

 放っておいても魔力は底をつく。

 今結界を解かなくてもいつか解く。


 決心して、結界を解いた。


 炎は襲って来ない。


 希望は確信に変わる。

 メルケギアを倒したんだ!


 でも……

「みんな、どこにいるの……?アトラ?アトラ!!」

 耳鳴りは止まない。


 ◇


 兵士達は会議室の周りを取り囲んでいた。


 会議内からは数秒おきに目と耳を痛めかねないほど強烈な光と音が漏れている。結界を隔ててこれは脅威だった。


 それから少し経つと、異質で一際大きい爆発音が外へと伝わった。


 あの轟音は何だったのだろうか?


 会議室の外では兵士達が結界を壊そうと躍起になっているが、結界は常識外の硬さで壊れるどころか、欠けらすら剥がれない。


「せーの!!!」

 体当たりで結界を壊そうと全速力で走る兵士。


 その結界が唐突に消え、兵士達が、

 ドテン。

 と、勢い余って倒れながら扉を開いた。


 肺を痛める程の激しい熱風、そして煙が充満し、会議室内に立っている者は居ない。


 大臣達に、エリートであるはずの兵士、敵と思われるフードを被った〝竜人種〟達。


 体中にヒビが入って壊れた人型の鋼鉄魔獣に、誰かの名前を呼ぶ美しい少女。

 しゃがみ込んで寄り添う双子の姉妹


 そして大火傷を負っている売国の君主ゲルマ・オウリュウ。


 そして……現君主メルケギアの姿をした鋼鉄魔獣。


 兵士達は理解が追い付かない。


 彼等は一体なんだ?

 メルケギアは鋼鉄魔獣だったのか?

 敵は?英雄はどちらだ?

 何が起きた?


 分かる事は少ない。

 確かなのはメルケギアの正体とその破壊だけ。


 彼等の取り得る選択肢も少ない。

 彼等はその選択肢の中で、もっとも優しい選択をした。


 ◇


 アトラは宮殿から少し離れた、レンガ造り3階建ての比較的大きな病院、その病室で目覚めた。


 よ、く、寝、た!!


 このフカフカは、ベッドだ!!

 半月ぶりだろうか?

 枯れ草の敷布団も悪く無いけど、やっぱりベッドだ!!

 素晴らしい!!


 いやそれにしても……腹が減った!!


「カカカ!!起きたか!!アトラ!!」


 声のする方向には全身が包帯だらけのゲルマがベッドで横になっている。


「みんな大丈夫だったのか?」


「大丈夫だ、目も耳も治った。俺とお前以外はみんな自由にしている」


「それは良かった!!あの後、どうなったか教えてくれよ」


「そうだな、まずは——


 ——


 メルケギアとの戦闘終了から5日が経っていた。

 その間は病院に治療を受けながら拘束されていたらしい。

 革命というか、反乱か?をしたのだから正しい判断だろう。


 しかし、拘束とは名ばかりで、体調が回復次第、拘束を解いて外出の許可が出るそうだ。

 メルケギアの悪政には国民全員が不満と危機感を持っており、また、メルケギアが鋼鉄魔獣(こうてつまじゅう)と判明した事によって迅速に対応できた。


 サクラや従者達は魔力が枯渇していたが、傷はほとんど無く、翌日には元気に病院内でお茶してるとのことだ。


 ゲルマの部下やマルコも多少傷があったが、すでに完治しているのだ。


 しかし、ゲルマは全身が火傷しており、もう少し治療が必要なのだ。


 俺はと言うと、なにをしたら良いか分からないから、取り敢えず寝かせていたら、ある程度回復したそうだ。


 ふと気になったのは回復魔法的なのは無いのか?と聞いてみると、あるにはあるらしい。しかし、それは気休め程度のものらしい。


 それに、〝竜人種〟は、攻撃系術式の才能がある者は多いが、回復系術式を習得出来る者はほとんどいないのだそうだ。


 そのため、治療と言えば、薬草や魔道具を使って自然治癒力を上げる回復が一般的なのだ。


 体の状態を鏡で確認してみると、右腕は問題ない。と言うか傷一つ付いていない銀色の金属光沢を放っている、新品同様だ。


 しかし、右肩の付け根からはそうはいかない。

 まだ首元までヒビ割れている。

 左腕は一回り小さくなり、反応も鈍い。


 体の確認が終わったところに食事が運ばれて来た。


 ゲルマのは美味そうだ!!

 魚の煮付け、サラダに、そしてステーキ!!


 次に俺のが運ばれてきた。


 料理を見た瞬間の感想は

 ……は?

 である。


 てっきり同じ物が運ばれると思っていたが。


 その料理は、いや料理というか……食べ物ですら無いのだ。


 皿にはネジだったり、鉄くずが皿いっぱいに盛られているのだ。


 ……なんだこれは?


 ステーキに見えるとでも?

 これが病院食だとでも?

 こんなもん消化に悪いわ!!


 俺は騙されんぞ!!

 なんだこの嫌がらせは!!

 断じて許すまじ!!


 と思っていたら、左腕が勝手に反応して吸収していた。


 そうだった、鉄は栄養なのだ。

 何だったらそれの方が回復するんだったわ。


 しかしそれでもステーキは食べたい。


 それにしても、この病院は何故こんなデタラメな食事を出すのか聞いてみると、鋼鉄魔獣は鉄を食べると言われているのだ。


 それにこの世界には鉄を食べる龍なんかも居て、食事の常識というのが広いのだ。


 しかしなるほど、鋼鉄は鉄と少しの炭素などで出来ているのだから鉄を主食にすると思うのは理にかなっている。


 じゃあなぜ俺は他にも色んな物を食べるのだろうか?

 アイ?

 《解答、半分は人間であるため》

 そりゃそうだ。

 そういえば、アイ、無事で良かったね

 《ありがとう》

 感情の無い機械音声だが、それはそれで面白い。

 アイとの会話も久しぶりだ。


 後で、ゲルマがくれたステーキを食べさせてもらったのだが、これが本当に美味かった!!

 肉汁が滴り現代日本にも引けを取らないおいしさだった。


 食事を終えると、サクラが入って来た。


「アトラ、無事で良かった」


「ありがとう、サクラ。

 そういえば、森の案内人は解放できた?」


「そうなの、解放されたんだって。

 近いうちに会わせてもくれるみたい」


「そうか、良かった。じゃあ、それまでゆっくりしよう」


「カカカ!!ゆっくりなんて出来ないぜ?……噂をすれば、ホラな、来たぜ」


「ゲルマ、まだ体は治らないか?残念だ、力仕事をさせたかったのたが……」

 クローゼが室内に入って来たのだ。

 クローゼはブーマンを倒すために、生き埋めになったが、直ぐに救助された。


 生き埋めの時に付いた傷は、治療の必要もない程度のものだったのだが、〝拘束〟という名目で病院内で保護されているのだ。


 ちなみにブーマンは大怪我を負ってこの病院に入院中だ。

 まだ大臣の地位は持っているが、今後取り消されるだろう。


「カカカ!人使いが荒いな!たしかに俺の指示だから、俺が動かなきゃならんとは思うがな。それで、移動(・・)は順調か?サクラも昨日は手伝ったと聞いたが?」


「ああ、病み上がりなのにサクラには無理を言った。

 だが、そのおかげで明日には終わるだろう、だが本当に必要か?」

 クローゼが言った。


「間違いない。

 俺が敵ならそこ(・・)を狙う」


「そうか、まぁお前はこの手の事は鼻が効くからな。従うさ。

 ……アトラ、怪我は大丈夫だな?

 さっそくですまんが、今後の話しをさせてもらうぞ——」


 ——


 クローゼの話しを要約すると、メルケギアが倒された現状、早急に国をまとめて建て直さなけばならないが、その指導者が居ない。


 普段ならば、国の有力者達が集まって決めるのだが、その有力者達は大半がメルケギアに反抗し、殺された。


 正義感の強い者達から順に殺されていったため、今では大臣達など私利私欲に生きる信用出来ない者ばっかりなのだそうだ。


 国民投票で決めようにも、そんな金も時間も無い。

 早急に食料問題を解決しなければ国民は餓死してしまう。


 今は軍の配給でどうにかなってはいるが、来年の食料が確保できるか現時点では厳しい見通しなのだ。

 本来は軍が主導するべきだが、メルケギアを教訓とし、軍は権力の一極集中を防ぐため、別で首領を選ぶべきと決定したのだ。


 そこで俺たち革命軍の出番だ。

 国が、平穏を取り戻し、正式に信頼できる君主を決めるまでの間は、代理で君主を務めて貰えないか?


 という事である。

 その人選はあり得ないだろ!!

 と思ったが、僅かの間で、二回も国がひっくり返ったのだ、無理も無いかもしれん。

 それでもそれは反対する人も多いだろうが、軍の信頼も厚かったクローゼが頑張ったのだろう。


 であれば……


「クローゼが成るべきでは?

 国民から信頼されているのだろう?」


「ダメだ。これは軍の意向だ。

 メルケギアの暴走は権力の一極集中が原因の一つにある。

 首領と軍のトップは対等な立場にならねばいけない。

 私は、国軍軍団長となることになった。

 私に君主は、向いていないと自覚はあるしな。

 首領はお前達から決める以外に無い」


 なるほど、日本で言う三権分立的な考えか。

 今は二権分立だが。


「じゃあゲルマだ、元君主だし、経験もあるだろう?」


「カカカ!!俺はダメだ。前回で俺は向いてないって事が分かった。

 なにより俺はまだ、〝売国の君主〟として知られているからな、無用な混乱は避けたい」


「サクラ達は?」


「私は、日本に帰る方法を探さなきゃ行けないから……」

 サクラが言った。


「じゃあ、ゲルマの部下達は?」


「ゲルマの部下は、ゲルマの上に立つのは嫌なのだと。マルコにさせる訳にも行かないしな」

 クローゼが言った。


「カカカ!そう言う事だ!!アトラ、もう分かっているだろう?

 もう決まっている。悪いが、出来レースだ。お前が君主代理の第一候補だ!!」

 とゲルマ。


 外堀から埋められていたという事だ。しかし……

「待て!!俺はお前達の言う鋼鉄魔獣(こうてつまじゅう)だぞ!?メルケギアと同じだぞ!?」


「その点は大丈夫だ。肌を隠せば分からん。

 精霊王の森にも行かせるしな。

 ドラグニアは建国の時代から精霊王に対して信仰に似た感情を抱いている。

 精霊王が認めれば、お前がどんな種族であろうと君主として受け入れる。

 たとえお前が鋼鉄魔獣であろうともだ。

 メルケギアは革命の後で混乱していたのと〝竜人種〟だと思われてそれが省略されていた。まぁ、それが失敗の始まりだったがな……

 だが、無理にとは言わん。それともお前には何か他にやりたい事があるのか?」

 ゲルマが言った。


 帰ってゲームしたい。

 などとは口が裂けても言えない空気だ。

 それに元の世界に帰れば、死んでいるかも知れないのだ。

 そこまでゲームに未練は無い。

 この体の、アトラの望み〝守りたい〟を叶えるためにも権力が必要になる事もあるだろう。

 ならば……


「……いや、やるよ、毒を食らわば皿までだ」


「カカカ!俺達は毒か!?」


「似たような物じゃないか。それで?いつ精霊王に会いに行くんだ?」

 嫌味を言った。


「そうだな、2日後出発だ、明日は特別に休んでいいぞ!」

 ゲルマが嫌味を無視して言った。


「……たった1日?今さっき、起きたばっかりなんだけど?」


「だから明日は休んで良いと言っただろう?」


「俺、君主だよね?」


「……?、まだ違うだろう」


「……あぁ……そう」

 まるでブラック企業だ。経営者は俺のはずだが。


「精霊王に会うなら試練もあるからしっかり休めよ。あぁ、そうだ。森には鉄を食う龍がいるから気をつけろよ。

 お前を好物だと認識しちゃうぞー!カカカカカカ!!」


「……」


 ハードな生活になりそうだ。


 ……一つ思い出した。

「そうだ、クローゼ、メルケギアの破片、あれを少し貰いたい。

 多分だけど、そうすれば強くなれる」


「……良いだろう、問題無い筈だ、分析のため少し時間はかかるかもしれんが、持ってきてやる」


「ありがとう」


 ◇


 アトラ達の病室に出たクローゼは、隔離病棟で治療を受けているブーマンの病室を訪れた。


「ブーマン。一つ聞きたい事がある。

 お前、屋敷が倒壊するとき私を庇っただろう?

 何故だ?」


「さぁな、間違えたんだろう」


「いや、あり得ないね、〝コウモリ族〟の『反響定位』なら周囲の状況を瞬時に理解していたはずだ」


「買い被りだ……」


「まぁいいさ、礼は言っておく。ありがとう、助かった」


「……ケケケ……真面目すぎるぜ。

 クローゼ。昨日も言ったが、お前が君主に成るのは辞めておけ。

 お前は、正義感と責任感が強すぎる。その点でお前は『普通』じゃない。

 多くの普通の国民はサボりたがりだ。卑怯な事もすれば、楽もしたいし、生きるためなら何でもする。

 お前のように、誰かのために命や人生を捧げるなんて『普通』は出来ない」


 ブーマンは言葉を切った。


「お前は俺に言ったな?

『死など恐れん』、俺のように『腐るのは嫌だ』と。

 〝正しい〟のも〝良い〟のもお前の方だろう。それは俺だってそう思う。

 だがな、多くはそれだけでは生きられん。死ぬのは怖いし、腐るのが分かっていても誘惑に負ける事もある。

 お前はそれを知らない。それがお前を第二のメルケギアにするぜ?」


 クローゼは一瞬言葉に詰まって言った。

「……心に留めておこう。また明日来る」


「来なくていいぜ…………まぁ、なんだ、応援はするぜ……頑張れよ」

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