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10 作戦開始

 ——3日後


 即席で作った木製の棺に横になり、ゲルマ達に運ばれている。

 後ろにはもう一つ棺が運ばれている。


 この体が収まる棺には外からは見えない僅かな隙間がある。


 その隙間から見える街道は、閑散としているが、チラホラと通行人がいる。


 日が真上に達してサンサンと光が照りつけているが、その明るい雰囲気とは対照的な暗い顔をしている。


 先頭で歩くクローゼが一団を案内している。

 向かう先は悪趣味に輝く黄金色の宮殿だ。


 どちらかと言うとこの体は小柄だが、内蔵型人口知能アイによると俺の体重はかなり重い。

 全身が細胞レベルで鋼鉄の機械と融合しているので見た目に反して重いのである。

 だから俺とクローゼ以外の11人で休憩しながら運んでいる。

 街中への馬車の持ち込みは原則禁止なのだ。


 クローゼの権力で多少強引に馬車を使っても良かったが、出来るだけ警戒されることは避けたい。


 本当はゲルマの怪力があれば一人で、持ち運べるはずだ。

 そうでなくとも交代で運ぶなら6人いれば充分だ。

 余った人数は少し目立つだろう。下手すれば、手は足りている筈だと残りは追い返される可能性もある。


 そこで棺はもう一つ準備されている。

 この棺の中身は武器が入っている。武器を隠せて、自然に宮殿に入る人数も増やせる。一石二鳥である。


 宮殿への門前に着いた。

 門番がクローゼに挨拶したが、すぐにその後ろの不審な集団に目を光らせた。

 それもそのはず。

 ほとんどが目深くローブを被り、棺を2つも持った集団だ。

 怪しく無い訳が無い。宮殿の中に入れるかどうかはクローゼの手腕にかかっている。


 クローゼが門番に伝える。

「私の紹介する商人達だ。中へ入れるぞ」


「クローゼ様、商人の数が多くはないでしょうか……?」


「問題無い」


「ですが……」


「私が……クローゼ・ドラストが問題無いと言っている……

 お前は私を知らないのか?」


「……!!失礼しました!であれば、棺の中身の確認をします」


「問題無い。次は二度も言わせるなよ」


「は……!!はい、どうぞお通り下さい!!」


 強引だな!!

 交渉とか賄賂とかやると思った!!


 普通は行われる、顔の確認もクローゼの「そいつらは大丈夫だ」でパスできた。

 出来なければ、その時点で強硬手段に切り替えねばならなくなったはずだ。

 さすが軍団長、権力使いまくり。


 クローゼは会議室に一人で入った。

 しばらくはここで待機だ。

 会議室の前の通路には商品が並べられている。

 通常は兵士が運んで紹介するのだろう。

 そこで作戦を頭で確認しながら時間を過ごした。


 作戦は簡単、出来るだけメルケギアが近づいたところでサクラの固有術式『不可侵結界』発動させるだけ。

 ただ、そのタイミングによって作戦の成功率は大きく変わる。


 プランA

 最接近した状況で結界の展開。

 大臣達をメルケギアと分断し、革命軍全員対メルケギアの状況を作り出すように事が出来る。

 ただあまりに狭くした場合、種族術式『炎の吐息』などの攻撃を避けられ無い場合があるので注意する必要がある。


 プランB

 悪い状況だ。

 会議室内にはいるが、距離か遠い場合での結界の展開。

 会議室内を隔離し、〝獣人種〟〝コウモリ族〟のブーマンとか言う男、大臣達、10人前後の兵士、そしてメルケギアを同時に相手にする事になる。

 この場合は作戦成功率はあまり高くないだろう。


 プランC

 最悪は形だ。

 メルケギアを確実に閉じ込めるために、宮殿ごと結界で封じ、宮殿内の敵を全て相手にしなければならなくなる。

 この場合は成功率は極めて低くなる。


 会議はもう始まっている様子だが、メルケギアがここを通らなかったところをみると、やはり君主専用の裏扉から入ったのだろう。

 都合良くこの扉を通ってくれれば良い状況に持ち込めたかも知れないのだが、仕方ない。


 会議室前の扉が開いた。

 俺(商品)の紹介が始まる。


 ◇


 クローゼは、数本の石柱が天井を支える広い会議室で、直立して待った。

 会議室にいる幹部は彼女を含めて8人。

 兵士はちょうど10人、宮殿内の会議室に配置されている兵士はいずれもエリートだ。

 広い会議室に比べてあまりに大臣の数が少な過ぎる。

 会議室中央の長方形の机。その空席ほぼ全てが売国奴の汚名を着せられて殺されたのだ。


 クローゼの隣に立ったブーマン・ウィドウが興味深げに彼女を眺めている。

 クローゼは思った。

 普段は気にも止めないが、八重歯をチラッと見せるブーマンの癖が、今は目障りで気に入らない。


 この男も、自分の命が惜しいだけで、私腹を肥やそうとは思って無い。どちらかというと悪人では無いタイプなのだろうが、それでもメルケギアに尻尾を振るこの男はやはり好きには成れない。


 ブーマンがクローゼに話しかけた。

「なぁ、クローゼ、お前、今日は〝商品〟を紹介するらしいなぁ」


「それがどうした」


 奇妙な笑い方をしてブーマンが言った。

「ケケケ、いや珍しいと思ってなぁ、今まで一度も紹介したこと無いじゃないか?

 ついに怖くなったのか?次は、お前が殺されるかも知れないからな?」


「ブーマン、私はお前のように死など恐れん。

 怖いのは、お前のように腐り果てる事だけだ」


「は?別に悪いことじゃねぇだろ?死ぬのは怖いだろう?」


「お前はそうかもな、旧君主時代から裏切り続けて生きて来たんだろ?」


「死ぬよりゃマシだろうが!!怖いもの知らずのバカ女!!」


「私がバカなら、お前はクズだ」


「言うじゃかねぇかぁ!!

 お前も商品を紹介するくせによぉ!!

 」

 ブーマンはクローゼの首元を掴みあげた。


「汚い手で触れるな!!ブーマン!!」

 クローゼは一歩も引かずに睨みつける。

 一触即発。クローゼにもはや作戦の事など頭に無い。

 クローゼは「キツイが美人」と形容される。

 その性格も見た目通り、短気な一面があるのだ。


 次の瞬間にペタペタと足音を立てて、メルケギアが入室した。


 ブーマンは手を離し、前に向き直った。

「クローゼ、覚えとけぇ……!」

「くたばれ」

 小声で会話した。


 メルケギアにも二人の争いは聴こえていただろうが、まるで興味無しという様子だ。

 黄金に輝く鱗に覆われた頭部、その十字の瞳にはかつてあったはずの熱い感情は失われている。

 その瞳には一切の感情が無いのだ。

 まるで鋼鉄魔獣(こうてつまじゅう)のように。


 メルケギアが着席した後、会議室の全員が同時に座る。


 メルケギアは珍しく口を開いた。

「目録を見た、クローゼ、お前が紹介するのは人型の鋼鉄魔獣とあった。

 どんなものだ?」

 メルケギアにとってクローゼが初めて商品紹介をする事などはどうだって良いのだろうが、商品は気になってたまらないらしい。


「紹介します」

 クローゼは立ち上がって横目でブーマンを見た。

 ブーマンは苦虫を噛み潰したように顔をしかめている。

 メルケギアが商品紹介を求めるなどそうそう無いのだ。悔しいのだろう。


 クローゼは少し笑った。

 なるほど気分が良い。たまには商品紹介もしてみるものだ。と思った。


 同時に作戦を思い出し、計画に従って行動する。

「私が紹介するのは機械の両足と右腕を宿し。

 胴体、頭部、左腕は人間と見分けが付かないほど精巧に擬態している人型の鋼鉄魔獣です」


 クローゼは続けた。

「すでに壊れて動かないのですが、この世で数体しか確認されていない人型の鋼鉄魔獣です。

 それが二体も用意できました。

 百聞は一見にしかず、持ってきてもよろしいでしょうか?」


 メルケギアは無言で頷いた。


 クローゼが会議室の入口扉の前に立つ兵士に目で合図し、兵士が扉を開けた。


 入って来たのは目深にフードを被った怪しい集団。

 重たそうに簡素な棺を2つ運んでいる。


 その棺の一つの蓋が外され、アトラの姿が明らかになる。


 アトラ、まさしく人型の鋼鉄魔獣、その顔は言われても分からないほど人間と同じ。

 両足も右腕も鎧だと言われればそう信じるだろう。

 しかし、右肩の付け根を見れば、皮膚と機械が融合したような痕が見える。


「いかがでしょうか?メルケギア様、これは髪の毛の一本一本まで繊細に人間に擬態しております、どうぞ近くでご覧下さい」


 メルケギアはやはり無言で近づく。

 一歩一歩、ゆっくりと。

 その顔は何か懐かしい物を見るような、何か思い出すようなそんな顔をしている。


 ◇


 棺が開けられた。

 同時に冷たい液体が頬に垂れた。間違いなくマルコのヨダレである。

 しかし、今は動けない。

 後で拭こう。


 ヨダレが垂れるという全く、本当に予想外なアクシデント以外は順調に計画通りだ。


 目は閉じているので正確な位置までは分からない、しかしペタペタと言う足音が近づいていることが分かる。


 我慢できず、薄目でメルケギアを見てみた。


 まだ遠い。

 もっとだ!

 もっと近づけ!!


 さらにペタペタと近づく。


 よし、その調子だ。

 悪くない。

 だが、もう少しだ。

 もう少しで、プランBの革命軍対メルケギアに持ち込める。

 よし!!入っただろう!

 もう良いか?


 いやまだだ!


 張り詰める静寂の中、誰かが唾を飲み込む音が聞こえる。

 マルコでは無い事は確かだ。

 アイツは口を開けっぱなしだからな。


 メルケギアは警戒していない!

 ゲルマも合図していない、まだいける!


 あと数歩でサクラの間合いだ!!


 もう少し!

 来い!

 来い!来い!来い!!!

 もう一歩のところだと思った矢先だった。


「……アト……ラ……?」


 聞こえてきたのは、メルケギアの疑問を投げかける声。

 時が止まったように思考が加速する。

 名前は言っていない、知らないはずだ。


 クローゼが裏切ったのか?

 いや違う!裏切るならもうとっくに裏切られているはずだ。何よりも短い付き合いだが、クローゼは信用出来る!!

 じゃあ何故だ!何故俺の名前が分かったんだ!?


 時が動き出し、メルケギアは大きく跳び退き、距離をとった。

 その距離は非常にマズイ距離だった。


 ゲルマが合図を出す。

「クソッ!!サクラ!!プランBだ!!」


「はい!!」

 サクラの返事と共に会議室内に結界が天井から展開し始める。


 クローゼは翼を広げた。

「コイツは私がやる!!」

 クローゼは言うと同時に羽ばたき、状況を理解できず、呆然と立ち尽くすブーマンに体当たりし、君主専用の扉を激しく吹き飛ばしながら会議室を飛び出した。


 数瞬遅れてサクラの結界が会議室を覆った。


 棺から勢い良く立ち上がり、頬に垂れたマルコのヨダレを拭きながら、右腕を変形させて剣を作り出し、メルケギアと目を合わせた。


 ゲルマ達ももう一つの棺から武器を取り出している。


 メルケギアは驚き瞳孔を開いている。


 黄金の竜に見覚えがあるはず無い。

 何故俺を、アトラを知っているのだろうか……


「俺を知っているのか!!?」


「アトラ……」

 メルケギアにはもう動揺は無い。


「何故知っている!?」


「何故……だと?お前、壊れているのか??だからこんな小賢しい事をやっているのだな??

 ならば、チャンスがある。お前はここで殺す。死ね、死してなお殺してやる。お前は脅威となり得る」

 メルケギアの殺意が宿る十字の瞳が赤く光った。

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