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1.アトラ

不定期に更新します。

感想コジキなので、是非感想と評価をお願いします。

 

 寒すぎる!!

 トイレに行きたくなって来た!!


 寒い車内、前面の車載モニターに映るアナウンサーが大寒波について解説している。

「近年の寒波とはまた違う、まさに異常気象です。

 沖縄でも氷点下に達しており、雪が積もっているようです。現場の松岡さん——」


「クシュン!!」

 寒っ!!


 自宅に車で帰る途中、渋滞に巻き込まれた。

 交通事故による渋滞なのか?

 この雪なら無理もないが、とにかく寒い。

 列は長くなるばかりで全く動かない。

 愛車は暖房が故障してしまうし、車内は凍り付き、つららが出来そうだ……


 それなりに厚着をしていたが、体の芯まで冷えてしまった。


 あれ!?これは危ない。

 これは凍死してしまうかもしれない!

 羊は絶対に数えちゃいけない!!


 睡魔とその配下である襲い来る羊の群れ対し、たった一人で勇敢に戦っている。俺はさながら勇者だ!


 でも、ダメかも……


 健闘も虚しく眠り落ちる寸前、目の前に光を飲み込む黒い球体が現れた。

 車内に収まる程度の大きさではあるが、これだけ周囲が暗くなったのだ。周囲が気づいておかしくない。

 しかし、まるで時間が止まっているかのように誰一人微動だにしないのだ。

 中心の核は黒く、闇を放ち、その球体はやがて全身を飲み込んだ——


 ◇


 太陽に輝く銀色の髪、幼くも童話に登場人物かのような人間離れした美しい顔立ち、特徴的な真紅の瞳の女性が双子の従者の2人と砂漠を歩いていた。

 女性は膝まで覆う白いワンピースを着て、その上から青白いローブを羽織り、砂嵐から体を守った。

 その時、少女のゆったりとした服がふわりと少し〝浮き〟直後に一瞬の淡い閃光と、遠くから聞こえる微かなドンッと言う衝突音が聞こえて足を止めた。

 双子の従者が肩に手を置いた。

「サクラ様、ここは危険です、急ぎましょう」

「……はい」

 少女の透き通った綺麗な声で、しかし力の無い返事をして再び歩きだした。


 ◇


 黒髪に堀は浅いがさっぱりとした顔立ち、少年とも青年ともつかない容姿の人間が砂漠に落ちた。

 轟音と砂煙が舞い、直径10メートル程のクレーターを作る。

 顔を右向けにうつ伏せで倒れている。

 少年は気絶から目覚ました。


 目の前は砂だらけ、照りつける太陽に地面から登る高熱は大気の揺らぎを発生させていた。

 ハッと思い出した。

 あれ、車で寝てしまったはず……夢か?

 凍死中の夢が砂漠なんて!!

 シャレが効いてる!!


 ツッコミを入れて笑おうとして気付いた。

 本当に夢かこれ?

 夢にしてはあまりにも現実味を帯びているのだ。

 ここまでハッキリと意識があればその区別もできるはずだろう!?

 信じ難いがこれはきっと現実だ!


「ここはどこ!?」と声を出そうとするも……

 声が出せない。

 眼球も動かせない。

 痛みや暑さも感じない。


 ヤバイ……これはヤバイぞ!

 若者風、業界用語風に言うとバイヤーだ!


 こんな危機的状況なのに頭の中では緊張感無く、リアクション芸人の『ヤバイよ』を繰り返すギャグとピザのテレビCMがリピートされるのだ。

 俺と言う奴は……


 ん?


 クレーターの上に緑色バンダナを巻いて背中に刃の小さい斧を背負った人影が見えた。

 20代の男性、男は口を開けて声を出しているようだが音は聞こえない。

 どうやら耳も聞こえないらしい。


 とりあえず芸人は頭から退場してくれた。


 なんだあのコテコテの盗賊は!

 テンプレ盗賊の下っ端じゃないか!

 分かった!ここは有名な鳥取砂丘だ!

 鳥取砂丘でコスプレ大会か何か開いてるんだな。

 まぁなんでも良い、早く助けて!

 自分でも意味が分からない。

 なんでこうなった?何が起きた?


 その盗賊は長身な男?を連れているが……


 ちょっと待て!

 トカゲ?

 ボロの服を見に纏い、顔に傷のある男だが、尻尾が生えている。

 爬虫類を思わせる土色のウロコの生えた太く長い尻尾、コンタクトを入れているのか、瞳は猫か爬虫類のように縦に割れている。

 そして身長は2メートル近い。長い尻尾まで含めると3メートルはある体。

 その手には身長程の大剣を引きずり、砂漠に線を描いていた。


 トカゲ人間だ……クオリティ高いコスプレ大会だ。

 両刃の大剣も大きい、あの大きさはあれだ、怪物ハンターだ、龍を狩るあれ、時間泥棒ゲーム。


 トカゲ男は子分を連れ、クレーターを降りて来る。

 その両足の水かきによって滑る事なく、しっかり砂を掴んでいる。

 盗賊はトカゲ男のすぐ隣をポケっとした表情で付いてくる。

 やがてその二人が目の前に立つ。

 介抱するでも無く何か話し込んでいるようだ。

 声も聞こえず、足元しか見えない状態では何をしているか分からないが……


 少し視界が揺れた、状況的には、動かない俺を見かねて運ぼうとしたのだろう。

 すぐに諦めたようだが……

 確かに最近少し太った、でも別に大人二人で運べない程太ってはいない筈だ。


 そして僅かな痛みが走る——

 斧が視界の端に見える、それが体に命中した事は明白だ。

 同時に体の中でズキリと歯車か何かが噛み合うような音が鳴った。


 えっ!?何?斬られた?死ぬの?

 二回も死ぬの?スパイ映画のタイトルみたいだな。


「ゲルマ様!!コイツ硬ェ!すいやせん!重いから運べねぇし、腕も斬れねぇ!どうしやしょう?」

 と甲高い声が聞こえ、それに対して低い声が答えた。

「こいつはすげぇ!!人型の鋼鉄魔獣(こうてつまじゅう)だ!!もしかすると()()が必要無くなる!!

 ……だが今は時間が無い、後何度か試して、それでダメなら後で解体しに行くぞ」


 声が聞こえる!?

 良し、どうやら耳は治ったらしい。

 ……にしても、もの凄く危険な会話が飛び交わなかったか?

 まさかな?

 気のせいだ!

 平和な日本でそんな事起きない。

 よし!無かった事にしよう!どうせ体は動かないのだし!!

 ……ちょっと待て……あの言葉は……盗賊達が話したのは英語だ!

 外人のコスプレイヤーというなら話は通るし、ここが実は日本では無いと言うならそれも矛盾は無い!

 しかし……自慢じゃないが英語は得意じゃない!

 ハローとか、とっても簡単な挨拶は出来るが、こんなにスラスラと英語は理解出来ない!

 それに一度日本語に訳して理解してる訳では無い、そのまま直接英語として理解出来ている。

 なぜだ!?

 心の中で疑問を投げかける。


 すると——


 《解答不能、聴覚との神経接続が不十分のため解答不可。推測、中耳に内蔵された即時言語通訳機によるもの》

 頭の中で女性の機械音声が流れたのである。日本語で。

 しかし声というよりは思考に似ている。

 もう一つの意識が体の中にあるような感覚。


 なーんだ、なるほど!!わからん!!

 待て!待て待て!待て待て待て!!

 理解が追い付かない、その声はなんだ!?

 するとやはり——


 《解答、初期設定の女性の声。変更しますか?》


 違う、そうじゃ無い!そう聞いたけど!そんな意味じゃない!

 お前は何だ!


 《解答、内蔵型人工知能。通称名、アイ》


 アイってA.IA.I(人工知能)のアイかよ!安直だな!


「おりゃっ!!」

 盗賊の掛け声と共に再び目の前へ斧が振り下ろされた。

 またも体の中からズキリと聞こえる。

「痛ッ!!」声が出た。

 僅かな痛みに驚き、体を跳び上がらせて立ち上がる。

 体も動くようになったようだな。


 盗賊は驚いた様子で斧を構えていた。

 新手の治療法か何かの類いか?

 ショック療法的な……斧を振り下ろす治療法が確立してるなんて現代医学も真っ青だ。


 そんなとき、視界の端に見えた身体に強烈な違和感を覚える。

 四肢を見下ろす。


「えぇ!!」


 淡い青色のシャツに紺の長ズボン、茶色のブーツに黒色ローブ、その服の焼けたような穴から見える両足は銀色の鈍い金属光沢を放つ鎧が取り付けられている。

 右腕も同じく鎧、左腕は生身のようだ。


「コイツ!!生きてますぜ!!どうしやしょう!?」

 盗賊の甲高い声が耳に響いた。

「!!……こいつは……良い()()になるぞマルコ……!!」

 とトカゲ男


 右腕その拳を握って開いてを繰り返す。

 またもや違和感。

 鎧のようだが鎧じゃない。これは機械の義手に見える。

 初めて見るけど、なんかかっこいいな……


「とりゃ!」


 腹に斧が水平に切り込まれた。

 ギィンと高音が響き、3歩後ずさって尻餅をついた。


「ちょっと待って!何だ!どういうことだ!?」

 血の気が引く、この人達は本当の盗賊だ!それともヤクザとか?コスプレヤクザ?

 殺される、いやもう死んだ?今お腹はどうなってるんだ?内臓とか飛び出ちゃった?

 痛みがあまり無いのはそれを振り切ってしまったからなのか?


 《不明、神経接続が不十分のため確認不可。

 推奨、目視確認》


 わかった!わかったから!

 恐る恐る腹部を見ると出血は無いようだ。

 服をめくって見る。

 僅かな擦り傷が出来ているが、それだけ、健康的で柔らか身がある日焼けの無い肌からはほんの僅かな血が滲んでいるだけだ。

 良かったぁぁーー!!


 安堵と共に危機的状況を認識する。

 あの斧は本物だよな?

 それに死ね!って言ったよな?絶対殺そうとした!

 腹に傷は無いけど、体がよろめく程の衝撃を人に加える事は殺意認定しても良いだろう!?


 体の事も、頭に流れるアイの事も何もかも気になるけど、今は目の前の危機に集中しなければ!


 盗賊は斧を持った小柄な男と、大剣を引きづるトカゲ男の二人。


 それに対してこちらは丸腰。

 そうか……こんな言葉がある。

『逃げるが勝ち』である!!

「助けてぇぇーー!!!」

 発声と同時に振り返ろうとするが足がもつれて動かない。

「カカカ!なんだ?逃げるな!!」

 トカゲ男の低い笑い声が聞こえる。

 直後にその尻尾が横薙ぎに払われ、体を跳ね飛ばし、前のめりに倒れた。


 砂のクッションがあるとは言え多少の衝撃が体に響く。

 同時にまたしても体の中でズキリという音が鳴った。


 四度目の衝撃にして唐突に理解した。

 これは体が治る音なのだ。

 不思議な感覚、この体の記憶なのだろう。勝手に頭に流れ込むひとつまみの情報。

 それはこの体の性能の一部を教えてくれた。この手足は鎧では無く、身体そのものだと。

 この体中の細胞は機械と融合している。

 そして、この体は動けるのが不思議なくらい細かい傷があり、全盛期の力とは比べ物にならない程弱っている事が分かった。

 今度は体をしっかりと支配し、足がもつれる事なく——『逃げる』


「カカカ」

 奇妙な笑い方をしながらトカゲ男が大剣を置いて素早く青年の前に回り込み、尻尾をブンと横薙ぎして体を突き返し、吹き飛ばされ、また倒れた。


 衝撃はあるが、もうズキリとは鳴らない。

 先程の記憶が教えてくれた。

 これ以上は治らない。

 体を治すのに必要なのは栄養、というか材料、希少金属(レアメタル)と休息の時間だ。


「砂漠で親分から逃げられもんか!」

 得意顔で言い放つの子分の後ろにトカゲ男が戻る。


 成る程、あの足の水かきは砂漠での機動力を最大限に引き出すのか……

 逃げるのは厳しそうだ、ならば仕方ない。

 大丈夫だ、未知の相手だが、この程度なら問題無い。

 そのはず!頭の中に一瞬流れた記憶が大丈夫だと言っているのだ。

 それにこう何度もやられては……腹が立つ!!

 降りかかる火の粉から逃げるばかりでは行けないのだ!

 だから……


 殴る!


 策も技術も何も無い、ただ真っ直ぐ走って右ストレート!!


「いい加減にしろよ!!」

 鋼鉄の両足は走る毎に短く小さい高音を奏でる。


「どりゃ!」

 盗賊は、勢い良く迫る青年にタイミングを合わせて斧を振り払った。

 それは青年の左肩に直撃し、金属がぶつかり合う異音を鳴らした。

 人間の肌からは聞こえる筈のない音、その音と同時に斧が弾かれた。


 鋼鉄製右腕から繰り出される殴打は盗賊の顔面を捉える。

 微かに盗賊の皮膚を覆う〝何か〟を割った気がする。

 加減して放った右ストレートは、盗賊の口から数本の歯が吹き出す程の威力があり、それでも足りず、盗賊の体は回転しながらトカゲの後方砂地に突き刺さった。


「お前もだ!!」

 青年は体を捻ってトカゲに走る。


「簡単にやられるか!!」

 トカゲは仰け反りなぎら口を大きく膨らませた、そのすぐ後に前のめりに体勢をとる。


 ——種族術式『炎の吐息』


 口から勢い良く炎が飛び出した。

 噴出された炎は一瞬にして成長し、巨大な炎が体を覆い尽くす。

 付近にある砂はその熱によってガラス状に変化し、大気の揺らめきはその激しさを増した。


 目の前は炎しか見えない。

 熱い、熱いはずだが……

 いや!!大丈夫だ!!


 炎を意に返さず、正面に飛ぶ。

 顔の前で腕を十字にして防御しつつ、その目はしっかりと見開き、トカゲと視線が交差する。


「まさか!!」

 とトカゲ男。


 飛び出したそのままの勢いで右ストレートをトカゲに放った。

 トカゲは咄嗟に大剣で押し出して防御するが、大剣ごと吹き飛ばし、トカゲは砂地に突き刺さった。


 着地し、背後で激しく燃える炎を気にせず、四肢を見つめた。

 不思議と熱くはない。おそらく耐性があるのだろう。

 服は無傷。炭素繊維で出来ており、簡単に燃えないし、破れない。

 と、この体が教えてくれる。

 だが、しかし……


「この体は何だ?」


 頭の中で機械音声が流れる。

 《解答、鋼鉄のナノマシンと融合した人体。

 詳細、新式の胴体と左腕、それに旧式の右腕と両足が接続された状態》


「新式と旧式か……ふむ……」


 服の端に付着したオイルのような液体が付着していた。それをパンパンと叩いて振るい落とした。


「……ハァ!!?」


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