第88話 心の叫びと悪意の企み
これで第5章は終わりです。なんとも早いものです(ーー;)
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「ただいま戻りました」
「あら、お帰りなさい。早かったわね」
ユリスが自分の家に帰って来るとクリシュナが察したように微笑みながら少し冗談めかしてそう言った。だが、クリシュナと一緒にいたリズベットとライナリーゼは何も言わなかった。なんせユリスの表情が明らかに明るくないのだ。だから、そんなユリスに対して躊躇せず言えるクリシュナに二人は少し感心した。
そして、ユリスはクリシュナ達と向かい合うようにソファーに座ると大きく息を吸って三人に告げる。
「ダメでした。上手くはいかないものですねー。ですから、こんな私に癒しをください。とびっきり甘い物とか、全身の疲労という疲労が抜けるようなマッサージとか、実際に存在したと言われる大賢者の杖とか」
「「「最後のは無理」」」
ユリスの言葉に三人は同時に首を横に振った。なんせその杖は億万長者となり人生を何度やり直せば手に入るのかというぐらい高価なのだ。いや、高価なんて言葉すらおこがましいほどに高すぎる値段。さすがにそんなものを買ってやれることはできない。だが、ユリスはその反応に不満そうに答えた。
「えー、ケチ。そう求めるのは仕方ないじゃないですか。だって戦いの時に最後の技で壊れてしまったんですし。新しい杖を求めるのは当然の権利です。それに約束は守ったんですから」
「「「......」」」
そう言われると何も言い返せない三人。なんせユリスに大輝へと告白するように促したのは三人なのだから。だから、今度は自分達が今度は約束を守るという事か。.......三人の全財産合わせたら変えたりしないかな......
三人が真面目に買うかどうか悩みだすとユリスは慌てて訂正した。
「何を真面目に捉えてるんですか!?冗談に決まっているじゃないですか!そんな杖にこれまでのお金注ぎこむだったら、もっと他のことに有意義に使いますよ」
「ま、まあ、それはそうだな......」
「真面目に考え過ぎらね」
「ふふふっ、この私を一杯食わせるなんて成長したわね」
ユリスの言葉を聞いて安堵の表情を浮かべる。一方、ユリスは呆れたため息を吐いた。「一体どこまで本気で捉えていたんだ」と。しかし、そうをしようとしてまで自分が果たした約束に対して答えようとしてくれる姿勢はとても嬉しいものだった。やはりこの三人は最高のメンバーである。
そして、なんだかんだこの場の雰囲気が良くなるとユリスは告白について話し始めた。
「先ほども言いましたが、結果から言うとダメでした。もちろん、変にはぐらかさずにストレートに言いましたよ」
「大輝君はなんといって断ったの?」
「『俺には帰るべき場所がある。だから、恋愛することは出来ない』と」
「それは断るための口実のようにも聞こえなくはないな......」
ユリスから大輝の言葉を聞いたリズベットはやや不機嫌のような顔をしながらそう言った。それはそうかもしれない。帰るべき場所があろうとその全ての任務が終わるまでこの世界にいることには変わりない。まあ、それにかまけて勇者業がおろそかになるだったら別だが、大輝は切り替えはちゃんとできるタイプだし、ユリスも(案外流されやすいが)言う事は言えるタイプだ。だから、それはただその場逃れにも聞こえなくはない。
もちろん、ユリスから大輝が二人の女から言い寄られていることは知っている。それもユリスよりとても深い関係性だと。おそらくそれがそういう発言をさせた一端を握っているかもしれないことは知っている。だが、言ってしまえばそれだけだ。大輝の指針はグラグラに揺れていて少し押してしまえばどうとでも傾く可能性がある。故にユリスに言うことはただ一つ。
「ユリス、まだ戦いは終わってないかもしれないぞ」
「らね。これからは数少ないチャンスをらいれくろ(ダイレクト)アピールしないろ」
「ふふふっ、あなた達もそう思うのね」
「え、え!?人の話聞いてました!?振られたって言ったんですよ!?」
ユリスは三人の思わぬ発言に目を白黒させる。それは仕方ない。ユリスが言ったことをちゃんと聞いているにも関わらず、もう一度告白して来いと言っているようなものなのだから。まさか一度振られておいてまだチャンスがあるというのか?あのエミュと香蓮がいるのにも関わらずに!?
するとクリシュナがユリスの隣に座り、そっと胸元に引き寄せた。ユリスはその豊満な胸を押し当てられイラッとしながらも、頭から感じる優しい手の感触に思わず怒りと疲れが抜かれていくような感じがした。
「ユリス、ごめんなさい。無理ばかり言って。あなたが先ほどから辛い気持ちを抱えながらも、必死におどけた表情をしながら明るくなった場を維持しようとしていたことはわかっていたわ。だから、もう堪えなくてもいいじゃない。私達は女同士よ。それに仲間でもある。なら、私達の約束を守ってくれたユリスの涙くらい受け止めてあげるのは当然だと思うわよ」
「私は、泣いたりなんてぇ.......しませんよぉ」
クリシュナの温かい言葉が触れたのかユリスは否定しながらもその目に涙を浮かべた。そして、決壊した。溢れんばかりの涙が自分の意思に関わらずとめどなく流れてくる。そして、泣きながらユリスは愚痴のように言い放った。
「エミュさんも!香蓮さんも!ずるいですよ!私だってずっとそばで支えられたらと思っていたのに!私に出来ないことをして仲良くなっ、仲良くなってどんどん距離を縮めていくんですから!どうして私はもっと早くから出会ってなかったんですか!どうしてもっと早くから勇気をだせなかったんですか!言えるタイミングはいくらでもあった!なのに.......なのにどうして私はこうも憶病なんですか!」
ユリスの言葉は段々と不甲斐ない自分に対する叱責のような言葉に変わっていった。泣き過ぎて呼吸が間に合わなくなったのか嗚咽混じりにもなっていった。そんなユリスをただ優しく抱きしめながら、頭を撫でるクリシュナ。リズベットとライナリーゼもやっと本音を吐き出したかと少し喜ばしい笑みを浮かべている。
そして、クリシュナがそっとユリスに告げる。母親が赤子に語り掛けるように。
「ユリス、あなたは憶病なんかじゃないわ。こうして大輝君に思いを伝えた。それだけ勇気があるじゃない。さすが、勇者に恋した女の子ね。......確かに、時間の差というのはあまりにも大きいわ。それだけ伝えられる言葉が、思いが多いという事なのだから。時には距離を縮めるような出来事だって起こる。でもね、だからといって必ずダメとは限らないわ。その時間は時には距離を離すことだってあるんだから」
「うぅ.......グスン......うぅああ.....」
「ユリスが諦めなければ願いはきっと叶うわ。希望的観測だと思う?確かにそう思うかもしれないけど、そんなの誰だって同じよ。誰だって自分の声を一番に聞いて欲しい、一番長く一緒に過ごしたい、一番多く思いを伝えて欲しいとふわふわした希望を抱きながら、前を向いている者よ。時には悲しい時も、苦しいことも、辛い時もある。けど、そればかり数えていない?本当はもっと多くの幸せがあなたを包み込んでいるはずよ。それにあなたは気づいてないだけ。当たり前が故にスルーしてしまうだけ。あなたは大輝君とどれだけ一緒の幸せを共有したの?」
「わ、私は......」
その時、走馬灯のように蘇る記憶。あの村での他愛もない会話や一緒にクエストをこなしたこと、修行を教えたこと、弱った大輝を立ち直らせたこと、私の気持ちを慮ってくれたこと、私のわがままを聞いてくれたこと、私を助けに来てくれたこと、私が師匠に思いを伝えることを手伝ってくれたこと、師匠が亡くなった後も私の気持ちが立ち直るまでそばにいてくれたこと。数えればきりがないほど細かいことまで思い出した。それだけ幸せを感じてきた。一緒にいれたことが嬉しかった。
好きになったのも必然だ。だって、それだけの幸せを感じてきたのだから。なら、欲張りにだってなる。もっと一緒になりたい、好きになりたいと思う事だってある。だから、たった一度きりで諦めたくなんてない。貪欲にアピールして自分の存在を主張したい。ここにもあなたを特別に思っているがいるよって。こんなにも大好きなんだよって。
自分をアピールして何が悪い。自分を見てもらいたいんだから仕方ないじゃないか。そうしないと勝てそうにないんだから。私は勝ちたい。勝って幸せを掴み取りたい。.......私も一流冒険者だ。だから、様々な依頼があってそれをこなさなくてはならない。自分だけ幸せを掴むために勝手な行動は出来ない。だから、大輝さんについていくことは出来ない。きっとここで決定的な勝敗が決してしまうかもしれない。けど、だからなんだ。それがどうした。それを超えるぐらいアピールすればいい話なだけだ。だから......だから、私は......
「諦めたくない!」
「ふふっ、よく言ったわ」
「それでこそ私が知っているユリスだな」
「良かっら、良かっら~」
ユリスの堂々とした宣言に三人は明るく笑って見せた。その表情に涙でぐちゃぐちゃになりながらもユリスは最高の笑みを見せる。
「さて。今日は食べるわよ~!」
「ユリス、この後の宴はアピールタイムだぞ」
「気張って行こう」
「気が早いですよ」
そう言いながらもユリスは笑顔を絶やさなかった。
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「大輝さん、もうお帰りになるのですね」
「まあな。確かにこれまでの災悪が現れる時期はそれなりに長ったけど、不意に連続で来られても困るしな。だから、いつでも対応できるように聖霊国にいた方がいいと思うんだ」
「さすがです。なら、またどこかで会えるかもしれませんね」
「そうだな」
大輝は内心驚いていた。大輝とて人生で初好意を持ってくれている人を振った。そして、それなりに関係性があるだけにとても顔が合わせずらかった。それはユリスも同じはずだ。だが、思っていたよりもユリスの顔が晴れやかでそれはこちらとしてもありがたいのだが、なんだか変に心配になってくる。
「そういえば、弟子に褒美をしませんとね」
「褒美?」
「弟子が頑張ってくれたのならそれを褒めるのが良き師の在り方です」
そう言って大輝に輝かしい笑顔を向けるユリスに大輝は不意にドキッとする。だが一方、ユリスのが浮かべた笑顔は大輝に向けたものではなかった。どちらかと言うとその後ろにいるエミュと香蓮の方。その笑顔に香蓮は気づいてない様子だが、エミュは何かを感じ取ったかのように笑顔で返した。そんな二人の間にはバチバチと火花が散っていた。
そして、大輝が顔を近づけてくるように手招きするとその顔にそっと手で触れて......
「ふぁ!?」
「褒美ですよ。ほ・う・び」
その頬にキスをした。大輝は思わず飛び跳ねった。顔を熟れたリンゴのように真っ赤にしながら。そんな大輝にユリスは照れながらも最高の笑みを見せる。またユリスの仲間三人はそれを見てガッツポーズ。それからこの行動は大輝の後ろにいる仲間達にも影響を与えた。エミュは獲物を狙うような目をしながら笑い、香蓮は突然のことに呆然とし、セレネは呆れたようなため息を吐き、俊哉は羨ましそうに大輝を睨み、茉莉は面白そうに笑った。
それから「さあ、早くいってください」と背中を押され、まるで村から追い出されるかのように歩くことを急かされた。大輝は上手く思考が巡らず押されるがままに歩いていった。
―――――――村を出立後
日も暮れ始めた頃、大輝達は近くの森で野宿を始めていた。そして、俊哉が周囲を見渡しているとなにかの存在に気づいた。
「誰だ?俺達を見てるのは?」
「あら?バレちゃったかしら」
俊哉がとある木に向かって声をかけるとそこに黒いドレスを身に纏った一人の女性が現れた。その女性は実に妖艶で大人の雰囲気がある。このタイプは俊哉にとってストライクゾーンであるが、俊哉は警戒心を緩めることはなく、むしろ睨むように高めていた。そんな俊哉に対して、その女性は軽快に笑う。
「ふふふっ、そんなに警戒しなくてもいいじゃない。それで、どうして私に気づいたのかしら?勇者にも気づかせないローブを着ていたのに」
「あいつのスキルは気配が気づけるだけであって、悪意には気づかないんだよ。俺が気づけたのはそれに敏感な精霊がいたからだ。そして、あんたからはその悪意を感じた。あいつらには余計なことをさせるわけにはいかないからな。俺達に何をするつもりだ?その言葉次第ではたとえ女であっても容赦はしないつもりだ」
俊哉がその女性にそう聞くと女性は大きく笑った。それはもう何がおかしいのかというぐらいに。
「いいわ!いいわその目、表情、態度、言葉!その全てが私好みだわ!気に入ったわ!それはもうとてもね!」
「あんたに気に入られても悪意がある以上嬉しくないんだがな」
「大丈夫よ。予言してあげるわ、あなたは必ず私のもとに来ると」
「勝手に言ってろ.......!」
俊哉が捨て台詞のように言葉を吐くと女性は俊哉に向かって突撃してきた。俊哉は苦虫を潰したような顔をしながらも一気に抜刀。その女性を切った。だがその瞬間、その女性はまるで蜃気楼の如く揺らめいて消えた。周囲にも悪意はない。そのことを確認すると俊哉は大輝達のもとへ戻っていった。
だが、これが後々大事件を起こすことを俊哉はまだ知らない。
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